気温が下がったのは気のせいかな
怖そうな人なんて、たくさん接待してきたつもりだ。
でも……でも、ね?
「すまない」
「あ、い……いいえ!」
この人――暗殺チームリーダーのリゾット・ネエロさんの圧だけはどうも慣れない。
「……これは?」
「っ、こ、これは! クッキーです! お、お口に合えばどうぞ!」
「……いただく」
というか、怖い。
仲間想いで優しいのだろうなあ――とは思っているんだけど、いかんせん笑顔を見たことがない。
やはり諍いがなくなったとは言えど、私が護衛チームの一員であったことも関係するのだろうか。
「ところで」
「は、はい!?」
「……ボスは、いつ戻る?」
少しだけ寂しいな――なんて思っていたら、彼の言葉を聞き逃しかけた。
危ない危ない。
仮に無理矢理決められた≪秘書≫という仕事でも、今の私の仕事だ。
しっかりしなきゃ。
「はい! ボスはですね……えーっと……え!?」
「どうかしたのか」
スケジュールを確認して驚愕した。
ジョルノ……今日夜まで帰ってこないの!?
「(ど、どうしよう! いったんお帰りいただくのもアレだし……でも、あと数時間どうすれば)」
「……出直した方がよさそうだな」
「えっ!? そんな……」
そんな――申し訳なさすぎる。
おもむろにソファから立ち上がったリゾットさんに、慌てて駆け寄れば――
ポン
「へっ?」
「気にするな」
私の頭に乗っかっている温かな手。
勢いよくそちらを見上げれば、少しだけ微笑んでいる彼。
それが、とても優しくて――
「……っ///」
思わず赤面しちゃうのでした。
「それでね! リゾットさん、最後になんて言ってくれたと思う?」
「……さあ?」
「≪クッキーも美味かった。グラッツェ、名前≫だよ!? もう、かっこよすぎるー!」
「ふーん」
「しかも私の名前まで知っててくれたなんて……今度、アジトにクッキー持っていこうかな? ジョルノ、場所知ってるんでしょ?」
「……知りませんよ。というか、知ってても名前には教えない」
「……、……あのさ、ジョルノ?」
一つ聞いてもいい?
「気温が下がったのは気のせいかな」
気のせいなわけ――ないでしょう?
〜おまけ〜
「なあ、リーダー……って、何、その書類の量!? 明らかに押し付けられただろ!」
「……ボスの恋人に手を出したのが、いけなかったらしい」
「は? 普段、女に見向きもしないあんたが?」
「小動物のように可愛らしくて……つい、な」
「ふーん……(今度ちょっかい出しにいこっと)」
「メローネ、変な気は起こさない方がいい。またヘビに噛まれたくなければ」
「…………りょーかい」
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