quattro





「……≪ソコ≫とはどこのことだ?」


「っ」


「言わなければわからないぞ」


ハッと息をのむ音が響いたかと思えば、漂う沈黙。

とはいえ、それに耐えられるほど名前の理性に余裕は残されてない。



「ん、っはぁ、はぁ……りぞ、とさん……っふ、ぅ……しきゅ、のいりぐち……ついちゃ、らめなの、っぉ」


「……ふ、そうだな」


「!」


「名前のココは、こうして突き上げるたびにもっともっとと吸い付いてくる」


いやらしい場所だ――柔くなぞるため下腹部へ添えられた大きな手のひら。

わざと嘲るようにリゾットが放った単語に、慌てて彼女は否定を示そうとするが、もう遅い。


ますます乱れるカラスの濡れ羽色をした髪。



「ひぁ、っ……あん、っは、っはぁ……そう、じゃな、っ……」


「ではこちらか? キツく締め付けてくるが」


「〜〜っ!」



熱を持つ鈴口が掠めたのは、恋人に発見され、快感を植え付けられた恥骨側の弱点。その柔肉を揉みほぐすように数回撫で上げれば、電流が胎内からうなじを駆け巡る。


「安心してくれ、名前。オレは知っている」


「ぁっぁっ、ぁっ……ふ、っぅ……、へ?」



君はどちらも好きだからな――鼓膜を揺るがした低音に対し、すぐさま少女が紡ぐ否定の言葉。

だが、ズプズプと決して止まることはない細腰の蠱惑的な動きに、彼は今度こそはっきりと口元を歪めた。



「雄の陰茎欲しさに白い臀部を晒した挙句、懸命に腰を上下前後と揺らして……名前は本当に淫らな子だ」


奥ゆかしい外見からは想像もつかないほど、時折大胆で悩ましげな自分の可愛い恋人。


もはや剥き出しになった白い肩を隠すことも忘れ、口端から唾液を伝わらせながら一心不乱に骨盤を揺蕩わせる名前。

鳴り渡る官能的な嬌声と後ろ姿に頬を緩ませている、と。



「はっ、はぁ……らって、っぁ……こ、れはっ、んん、っ……はぁっ……りぞ、とさんが、ぁっ」



切羽詰まった吐息交じりの声音。


刹那、ぴたりと攻め立てることをやめる男。

彼女もまた自身の失言に気付いたのか、しまったと顔色を変える。

もちろんそれを、なんだかんだ言って勘のいいリゾットが見過ごすはずがない。



「あ、今のは……ちが――」


「オレが、なんだ?」


「……っ」


「名前?」



交わったまま微動だにしない視線。しばらく浅い呼吸を数回繰り返して、おずおずと少女が口を開いた。


「わ……わた、しがこうな、ちゃったのは……りぞっとさんが……いっ、いろいろ≪じょうず≫だから……」


「!」


「なんだと……思い、ますっ」



本当に≪上手≫なのか。それは、彼以外との経験がないため確証はない。

だが、この少々心配性だが優しい恋人の手によって、自分の性的感覚に変化が生じたことだけは確かだ――そんな照れ隠しと抗議に似た想いを胸に、下唇を噛んだ名前は小さく背後の男を睨みつけた、が。



「――ひゃん!?」


残念ながら、打ち明けることをほぼ強いられた告白は、別の方向で発揮されてしまったらしい。



「ぁっ、ぁっ、あっ……や、やら……っりぞ、とさ……はぁっ、はふ、ン……なん、れおっきくなっ、ぁっあっ……ん、ぅ!」


「わかっていないのか? まったく……名前が可愛いことを言うからだ」


「っはふ、ぅ……やっ、ぁっあっ、あん! っは、ぁ……っや、っぁ……はげし、の、らめぇっ」


「名前……ッ」



悲鳴に近い喘ぎ声をこぼした彼女は、さらに質量と硬度が増した性器に混乱するばかり。


粘膜が打ち付け合う生々しい音と、二人の息遣い。

グッと男根が恥肉の最奥へ進めば進むほど、左右に拡がった小陰唇から覗く敏感なクリトリスを掠める。


「ひぁああ!? あんっ、ぁんっ、はぁ……っはぁ……んん……りぞ、とさっ、ぁ!」


「ッ、は……名前、名前」


「やらっ、ぁ……っぁっぁ、っぁ……やら、っ……おく……ぱんぱんしちゃ、っやぁあ」



耐えるためシーツをクシャリと強く掴むが、ただただ快感に翻弄される少女。


それでも、止まることはない互いを求める仕草。


苦悶に奥歯を噛み締めたリゾットの欲求、願望――もっと本能を、胸中を自分に曝け出してほしい。

グプリ、グプリと淫靡な水音が増していく。



「名前……ッ!」


行為の激しさを物語るかのごとく、名前の蜜壷には男女の体液が泡立っていた。

それを見とめて少なからず落ち着きを取り戻した独占欲に、彼が自嘲しつつも艶然と笑む。



「はッ、ク、名前……一番奥に出すからな」


「ん、っぁっあ……っは、い……ぁっぁっ、ン……りぞっと、さんの、っ……はぁっ、あん、ッん……おくに、くだひゃ……っ」



到達する寸前まで昇りゆく頂点。


白くモヤがかかった脳髄。

男の言葉に小さく頷いた彼女の膣内が、悦びを伝えるように収縮した、瞬間。



「ッ」


「はぁっ、はっ、ン……っぁっぁ、っあ……らめ……あついの、きちゃ……ぁっ、ぁああん!」


「く……ッ」


「――っ」



達すると同時に肉壁へ焚き付けられる熱を持った子種。

張り詰めた筋肉。烈々たる絶頂をただただ受け止めていたそれが、ゆるゆると弛緩していく。



「んん……っはぁ、っは……りぞ、とさん……」


「! 名前……(まったく、そう煽らないでくれ)」



さすがに、くたりと両腕の力が抜け、腰を突き上げた状態の少女に無理をさせるわけにはいかないし、そんなつもりもない。

≪しばらくの間は≫休ませてあげたいと平然を装いながら、男性器が早くも反応を示さないようリゾットはひたすら息を殺していた。


すると、潤んだ双眸を湛えたままこちらを見つめてくる名前。



「あ、あのっ……りぞっと、さん?」


「どうした、名前」


「っ」



そう、彼は内心己を律しているはずだ。≪無理をさせたくない≫と。

ところが、なぜか行動が伴っていない――つまり、首を傾けた男はいまだ彼女の背後から数センチたりとも離れていないのである。


「えと……〜〜ぬ、抜かないんですか?」


「何をだ?」


「へっ!? 何をって……その……、ううっ」


「ふっ、すまない。意地悪が過ぎたな」



慌てふためいた恋人。一方、決意と動きが合わない張本人は少女に対して、≪愛らしい≫と心穏やかになるばかり。

相変わらず微動だにしない頑丈な身体。


肌蹴ていた襟をいそいそと引き寄せつつ、後ろを一瞥する名前の不安げな視線。



「?」


「……?」



ちらり、ちらり。

眉を下げる彼女の様子にようやく胸の内を悟ったのだろう。リゾットが淡々とテノールを響かせた。



「言っておくが、抜かないぞ」


「! ど、どうして……(この状態、すごく恥ずかしいのに)」


「名前の膣口から子種が溢れ出ないようにしているからだ」



待ちわびていた回答、のはずが言うまでもなく呆然とする少女。

――リゾットさんのバカっ!

と、いつもの効かない単語を繰り出そうとした名前だったが、≪それと≫と言葉を続ける彼に思わず口を噤んだ。


しかし、彼女は即座に後悔することになる。



「本来、キモノというモノは≪脱がす≫ためにあるらしい。それは正直もったいないのでしないが、フリソデを着て乱れた名前がいつもとはまた違った意味で妖艶なだけでなく、今回は年に一度の≪ヒメハジメ≫でもある。つまり――」









「まだ性交を終えるつもりがないからだ」


「へ? っきゃあ!?」




微かな悲鳴が上がって間もなく。二人は再び、先程と同じ体位で本能の赴くまま互いを求め合っていた。


「ぁっ、ふぅ……あんっ、ぁっ……りぞ、とさ……はぁっ、はっ、あの……!」


「ん?」


「っはぁ、っは……ぁ、っぁ、っぁ……わた、しっ……〜〜りぞっ、とさんの……かお、っ、見た……い、っです、ぁ……ひゃっ、あん!」


「! ……そうだな、ッ」


少しばかり目を丸くする男。

だが次の瞬間、グチュンという激しい粘着音と共に、膣奥へ挿入したまま少女を自分の方を向かせ、膝上に乗せる。


いわゆる対面座位。さらに鋭く結合する肉棒と膣肉。当然、そのガタイのいい肩へ両手を添えつつも、名前は驚愕と恍惚が相まってより甲高い喘ぎ声を漏らした。



「ッは、名前、名前……!」


「ひぁっ、ぁあ!? ふ、ぁっ、ぁっ……あん、おねが……っおく、っぁっぁ……ぐり、てしちゃやら、っ……や、ぁあっ!」


「くッ……やはりオレも、できる限り君と見つめ合いながらシたい」



脈打ち、穿たれ――大きく跳ねる身体。

情愛にのぼせた男女の営みがいつ幕を閉じたかは、当事者である二人とアジトに残っていた面々のみが知る。













l'anno nuovoにつき
また1年、彼女/彼と過ごせることを願いながら。




〜おまけ〜



「そ、そういえば!」



それは日が傾き始めた頃のこと。陽射しをカーテンでしっかり遮る部屋には、相変わらず性交時独特の空気が広がっていた。


だがふと密室を切り裂く、かなりの疲労感が入り交じった少女の声。

≪これ以上行為を続けさせまい≫。そんな思惑を胸に、男性器が自身の熱を外気へほとばしらせた直後の状況――いわゆる不応期を狙って、名前は向き合う彼の気を少しでも別のことに逸らそうとしたのである。

ゆっくりと交差したのは、いまだ深い劣情を孕んだ赤と、快感に蕩けた胸中を必死に覆い隠している紅。



「ん?」


一方、ヒクリヒクリと艶かしく絡み付いてやまない恥肉に己の一物を収めたまま、静かに首をかしげる男。

そして、壊れ物を扱うようにそっと頬を撫でてくるリゾットに、彼女は擽ったそうに小柄な身を縮こませながら桜色の唇を震わせた。



「リゾットさんは、どんな初夢を見られたんですか?」


「初夢?」



さらにはてなマークが飛び交う彼の頭上。


どういうことだ?

そう言いたげな眼の奥をじっと見据えた少女は、微笑と共に大きく頷く。



「はいっ! 1月1日、もしくは2日の夜に見た夢のことを初夢と呼ぶんですよ?」


「なるほど……その年の始めに見た夢、か」


「≪一富士二鷹三茄子≫。日本ではその3つを初夢で見たら、縁起がいいと言われてるんです」


「……」








「見た覚えはある」



不意に鼓膜を揺らした一言。それが脳内に達した瞬間、名前は深紅の双眸をぱちくりとさせてから、自分が今恋人の膝の上にいるという恥ずかしさも忘れてグッと顔を男に近付けた。

その距離、約15センチ。



「え! ど、どれを見たんですか?(リゾットさん、富士山はきっとご存知ないから、ナスか鷹かな。それとも……全部?)」


「確か――」


「(ドキドキ)」












「名前だ」


「えっ? 私、ですか?」



しばらくして返ってきたのは、思いの外ズレた回答。≪一体何を言い出すのだ、この人は≫。


すると、訝しがる彼女に応えるように、整え直された着物の襟からちらりと覗く鎖骨へ、細い脈が通う首筋へキスを落としていき――最後に色めいた唇へと、少しだけ乾いた自身のそれを寄せるリゾット。

彼の唐突すぎる行動に「んっ」と甘美な声を漏らしつつ、少女は身体を慌てて捩るが、当然そんな抵抗はお構いなしである。



「ああ。オレにとって縁起がいいのは、先程の言葉を借りると≪一名前二名前三名前≫だからな」


「……(唖然)」


「それに普段通り――いや、まるでチームとしての誇りや名誉、すべてを取り戻したあとであるかのようにあいつらと、そして名前とのどかに過ごしていた。……おそらくあの夢はオレの願望なんだろう」


「! リゾットさん……っ」



ふわりと重なる額。眼前で閉じられた瞼。苦笑を帯びた声音。


切実に思う。この人の願いを叶えられたら――



ううん、叶えたい。


男に察知されぬよう胸の中で決意を新たにした名前は、言葉では表しきれない感情を示すかのごとくぎゅうと逞しい首へ両腕を回した。

刹那、視界でふわりと美しく舞う勿忘草の袖。彼女を全身で受け止めたリゾットはその予想だにしなかった仕草に驚くばかり。



「名前? どうしたんだ、突然」


「な、なんでもありません!」


「(なんでもないようには思えないんだが……)」



筋張った頸部に少女が顔を埋める。

そして、あまり口には出せないものの≪大好き≫な恋人を見上げ、柔らかな笑みをこぼした。



「リゾットさん、今年もよろしくお願いしま――」







「待て。君はなぜオレの上から退こうとしている」


「……あ」



ピシリ

次の瞬間、言うまでもなく硬直する名前。険しさを滲ませた黒目がちの瞳が、小さな躯体を射竦める。


裾から露わになっている婀娜やかな太腿と腰元、それぞれにしっかりと這わされた彼の大きな手のひら。



「言っただろう。≪まだ終えるつもりはない≫と」


「そ、そんな……っリゾットさんので、お腹いっぱいになっちゃ――」


「……。無自覚に人を煽る子にはお仕置きだな」


「え? やっ、ぁ、っぁああ……!」



不応期、終了のお知らせ。自分を抱き込む男の不応期時間は、平均(ある統計曰く約30分)と比べてかなり短い。


彼女が発言の意図を問う間もなく、膣内でムクムクと首をもたげ始めた男根。

柔肉を制する圧迫感と甘い刺激に再びしなる細腰。一瞬にして空気を変えた女の淫靡な嬌声。充満する経過音。


それから数時間、逃亡のための身動ぎすら許されない名前は、ただただ欲情を掻き立てられ、リゾットからもたらされる強烈な快感に翻弄されていたらしい。






終わり














連載番外編で、着物裏でした。
姫始めは1月2日の行事らしく……できれば当日にアップしたかったのですが、かなりの時間がかかってしまいました。
日本人ということでやっぱり着物はいいなあ、としみじみ感じつつ。
(ちなみに。連載ヒロインちゃんはトリップ前、≪着物を着る機会が時々あった≫という設定が存在したり、しなかったりします)。


ご感想などございましたら、ぜひよろしくお願いいたします!
ご閲覧ありがとうございました!
polka



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