uno

※ヒロインがメローネと入れ替わってしまったようです
※ギアッチョと恋人同士のヒロイン
※ギャグ微甘







出会い頭に、メローネとぶつかってしまった。



「え? ちょっ……え?」


「あ、起きた?」



そのまま名前はクラクラッとなってしまい、次に目が覚めたときには――眼前にはこちらを覗き込む≪自分≫がいたのである。

異様な笑みを浮かべる己に対して、ソファから上体を起こした彼女はおずおずと口を開く。



「……誰?」


「え、本気で言ってる? 名前〜、オレと一つ屋根の下で超濃密な時間を過ごしてるのに、誰だかわかんないワケ?」


「その気持ち悪い発言……もしかして、メローネ?」



≪あったりー!≫と両手を挙げ、ひどくテンションの高い自分(※メローネ)に彼女が引いていると、不意に鏡が差し出された。

どうやら、自分の顔を確認してみろ、ということらしい。


それを両手で受け取った名前が、おもむろに己と照らし合わせれば――



「はい?」


なぜだろう。そこには、メローネがいた。

つまり、二人は入れ替わってしまったのだ。



「えええええええ!? ど、どうなってるの!? 私が、メローネ……?」


「あははは! ほんと、名前の反応はディ・モールト飽きないなあ」



いや、笑い事じゃないでしょ――そう叫べば、仰々しく考える仕草を見せる自分自身(※メローネ)。

正直違和感ばかりなのだが、これは堪えるしか道はなさそうだ。


グッとメローネ(※名前)が押し黙っていると、突然名前(※メローネ)が言葉を紡ぎ始めた。



「んー……とりあえず、もう一度ぶつかってみる?」


彼の提案に、自然と引きつる頬。

意識がなくなる直前も、かなり痛かったのだ。

そのせいか、自分(※メローネ)の額は少し赤くなっている。


とは言え、このままぶつけたくないと駄々をこねれば、堂々巡りとなるに違いない。



「……そうだね。そうしよう」


「りょーかい! じゃ、名前はそのままじっとしておいてくれよ?」



ペラペラと話す名前(※メローネ)に相槌を打ちつつ、大人しく動向を見守るメローネ(※名前)。

すると――



「えいっ!」


「へ!?」


突如動いた細い腕によって勢いよく肩を押され、背後へ倒れこむ身体。


ガンッ


さらに、後頭部を襲った痛みと衝撃。

なんで――視界でしたり顔をしている己へ理由を問いかける暇もなく、彼女の意識は闇へと堕ちてしまった。



「(きゅー)」


一方、目を回す自分(※名前)を見下ろして、静かにほくそ笑む名前(※メローネ)。

入れ替わった――そう悟った瞬間から、目論んでいることが彼にはあった。



「名前? どうしたんだ」


「! リーダー……!」



なんというタイミングだろう。

ちょうどリビングへ足を踏み込んできたリゾットに、胸の内だけで浮かべる笑み。


そして、少し眉を下げてみせた名前(※メローネ)は計画遂行のために、ありもしないことを彼へ訴え始める。



「あのね、メローネが迫ってきたから思わず反撃しちゃって……きっと頭ぶつけてるから、メローネがちゃんと起きるまで看病頼んでいい?」


「は? 待て名前。オレはまだ仕事が残っ――」


「じゃっ、よっろしくー! オr……私はギアッチョのところに行ってくるから!」


「……(酔っ払っているのか……?)」



だが、相手はあのリゾットだ。

しばらく話を続ければ、勘付かれるかもしれない――なんだかんだ言って冷静に物事を分析するメローネは、そそくさと部屋を後にすることにした。









数分後、彼が向かったのは行き慣れた(侵入し慣れた)名前の部屋。

そこで、何をしているのかと言うと――



「うっわ、小ぶりだけど超柔らけえ……ディ・モールト、ベネ!」


彼女の服の上から、流れるような手つきで胸部の膨らみ二つを鷲掴みにしていた。

名前一人だけでは初心で隙だらけだが、彼女の恋人が邪魔をしてきたせいで触れることができなかった分、喜びも一入だと綻ぶ顔。


しかし、メローネの目的はセルフセクハラではない。



「って、楽しんでる場合じゃなかったぜ……名前が起きちゃうかもしんないし、早くしなくちゃあな」


反省反省――どこまでも飄々と呟いた彼は何を思ったのか、おもむろに服を脱ぎ始める。

そして次の瞬間、部屋にあるシンプルな姿見の前に立ったかと思えば、にやりと満足げに笑ったのだ。



「そうそう! こんぐらいしなきゃ、いくら名前が可愛くってもあのギアッチョは攻略できないだろ!」


目の前には、キャミソールに短パンの少女。

名前の真っ直ぐに伸びる生足と透き通った白い柔肌が、男という性の情欲をそそらせるだろう。


実は、「恋人であるギアッチョが自分に手を出してくれない」やら、「キスもしたことないし……私って魅力がないのかな」やらと彼女が世界の兄貴ことプロシュートに相談していたことを、メローネは盗聴器によって熟知していた。



「よっし! 思い立ったら即実行だッ!」


これを放っておけば、自分の中の≪世話焼き≫が泣く(いや、実際は楽しんでいるだけ)。

今の格好に改めてベネと口癖を紡ぎ出した彼は、脱ぎ散らかした上着などに構うことなく、ドアノブに手をかけた。





コンコンコン



「ギアッチョ……入っていい?」


「あ? ……チッ、入れよ」



舌打ちと共に返ってきた反応。

名前が来て絶対嬉しいくせに……素直じゃないなあ、ほんと――思わずにやにやと緩んでしまいそうな口元をなんとか引き締め、少女(※メローネ)は颯爽と扉を開ける。


刹那、ギアッチョの眼鏡越しの瞳が見る見るうちに大きくなった。



「ぶッ……!? おま、その格好!」


「? その格好って?」



あくまで素知らぬフリ。紅潮し、しどろもどろになる目の前の男を正直からかいたくて仕方がないが、我慢だ。

内心でゲラゲラと笑っているメローネは、軽い彼女の身体を使って自然な流れでベッドに座っていたギアッチョの隣に腰を下ろす。



「〜〜ッ」


「……ねえ、ギアッチョ」


「な、なんだよ……って! ンな格好で近付くんじゃねえエエエ!」



あはは、ほんとうるさいなあ。

まさか恋人に対しても叫んでるなんて。


今にも震え出しそうな喉と腹筋にグッと力を入れて、男のそばに寄る名前(※メローネ)。

計画は順調だった。



「あのね?」


「……クソッ、さっさと言いやがれ! どうせテメーあれだろ。あんのジジイに、どこか行こうぜとかなんとか誘われて――」


「キス、してほしいな」


「ぜってーにダメだかんな。いいか? アイツはお前を狙って…………は!? きッ……き、き、キス、だアアアアアア!?」



予想通りの(面白い)反応。

さらに耳を赤くしたギアッチョに対して、彼女(※メローネ)ははにかんだように微笑み、頷いてみせる。



「うん。私……ギアッチョがしてくれるの、ずっと待ってたんだよ?(たぶんだけど)」



だからさ、名前のこの桜色でぷるっぷるな唇に≪ぶっちゅー≫と行っちゃいなよ!

もう少しで生まれそうな既成事実。


恋人の可愛い頼みを断ることができるほど、自分は廃っちゃあいない、と彼の中の≪男≫が掻き立てられたのだろう。ギリッと歯ぎしりをしたギアッチョが、彼女の華奢な肩を掴んだ――そのときだった。




「だ、ダメぇぇええええ!」



突然乱入してきた変態(※名前)。

もちろん、恋人との時間を阻まれた彼が激怒しないはずもなく。



「テメッ、メローネ! 勝手に入ってくんじゃねえよ……!」


「ええ!? ちょ、私はメローネじゃなくて、ギアッチョの恋び――」


「いいから出てけッ!」



あっという間に、退場させられてしまった。


「そ、そんな……」



どうしよう――

これからの出来事を想像して、青ざめるメローネ(※名前)の顔。

起きるや否や、「メローネ。名前へのセクハラは控えるように」とおもむろに口を開いたリゾットの説教から必死に逃れてきた彼女は、押し寄せた嫌な予感にギアッチョの部屋へと急いだ。


すると案の定、自分(※メローネ)が思わぬことを持ちかけていたのである。



「(そりゃギアッチョとは恋人だし……き、キスしたかったけど……でも、でも……!)」


まさか初めてのキスが、≪感動や動揺なし≫に終わってしまおうとは。

なんとか雰囲気を壊したくとも、こうも追い出されてしまえば手段がない。


こうなったら、殴られるのを覚悟でもう一度乗り込むしかない――小さく頷き、少女が再びドアノブに手を置いた瞬間。









瞳の映す光景が、変わった。

視界に広がった恋人のドアップに、名前はただただ目を見張る。



「!? あ、あのギアッチョ。これは……」


「クソ……いいから黙ってろ」


「え? 待っ……んん!」



刹那、唇を覆った柔らかいモノ。

今起きていること――それを脳内が理解したと同時に、ドクドクと刻み始める鼓動。


しばらく押し当てるかのように彼女の口を塞いでいたギアッチョは、ぽかんとする恋人から不意に顔をそらした。



「チッ……これで満足かよ」


「……」


互いの赤い耳。

甘酸っぱい空間。

いまだに残る感触。


だが、どうやらキスの直前に自分は元へ戻ったらしいと襲い来る羞恥と共に認識した名前は、なんとしてでも彼に確認したいことがあった。



「あのさ……私に、さっきと比べてどこか変わったところとか、ない……?」


何を言い出すのかと思えば――いつもらしからぬ彼女の反応に男があしらおうと振り向けば、真剣な眼差しがこちらを射抜いていることから本気のようだ。

変わったところ、変わったところ。もちろん、服装がずいぶん誘惑的だ、とは己の口からは言いたくないので、深くため息をついたギアッチョは投げやり気味に言い放つ。



「……別にどこも」




しかし、それが少女の逆鱗に触れてしまった。



「〜〜っギアッチョのバカ! 大バカ! 知らない!」


「はア!? キスしろってテメーが珍しく強請ったかと思ったら今度はなんだ……ってオイ! 待ちやがれ……!」








数分後。

自室へ帰ろうとする名前を強引に捕まえ、これまでの過程を問い質してみると、思いもしなかった出来事が彼女とメローネに間に起きていたことがぽつりぽつりと打ち明けられた。



「なんかよくわかんねーけど、テメーとアイツが入れ替わってたっつーことは?」


「だから、さっきの私の中身はメローネだったの!」


「……なるほど、なア」



そう言われてみれば、そうかもしんねえ。

つまり、先程までの名前(※メローネ)は自分をからかっていたのか。正直、イライラが襲って仕方がないが、同時に納得もできる。


ま、アイツは何発か殴らねえとな――指の関節を鳴らしたまま呟くと、少女が唇を尖らせながら自分をじとりと睨んできた。



「ふーん、信じるんだ……さっきメローネとして私が来たときは、相手にすらしてくれなかったクセに」


淡々と紡がれた言葉。

いつものクセであの男を追い返してしまった自分を思い出し、ギアッチョが珍しく狼狽える。



「! そ、そりゃ見た目がメローネだしよ…………、……ワリィ」


「ん」



確かに、あと一秒入れ替わるのが遅ければ――

そう考え直した上でゾワリとしたのか、彼がこれまた珍しく謝罪を口にした。


項垂れる恋人。

なんだか可愛く見えてきてしまった名前は、当然「いいよ」の意味を込めて笑顔で頷く。


と、やおらこちらを見上げてきたギアッチョ。



「つーか、あの≪キスの話≫も嘘かよ」


「! それは……」


「それは?」


「〜〜っ」



ずっとしてほしかった、よ?

彼女が赤らんだ顔でおずおずと呟いた刹那、ピンと張り詰めた部屋の空気。


そして、少女の目の前には再び男のドアップが迫っていた。



「え!? ぎあ、ちょ――んっ///」


二度目の口付け。

それは、一回目を彷彿とさせるかのようにひどく甘く――長く感じたキスから解放されたと同時に、名前は恥ずかしさで悪態を付く。



「〜〜いきなりしなくても……っギアッチョの横暴!」


「ケッ、今更何言ってやがる」


「て、天パ! メガネ! 低体温!」


「……いちいち攻撃が幼稚だな、テメーは(そこもまあ、か……可愛いんだけどよオ……)」



次々と連ねられていく短所。

他の輩に言われれば一瞬でその相手を凍らせているが、恋人なら別だ。あまり気にならない――というより気にしていないように装いたい。


だが次の瞬間、どこまでも余裕そうなギアッチョの耳元に唇をグッと近付けて、彼女は囁くのだった。



「でも……キレやすいところも、すぐに物壊しちゃうところも、暴力的なところも、ぜーんぶ好き!」


「! バッ……!」









変態初心の交錯
とある男が目論んだ、二人の≪進展≫。




〜おまけ〜



「あ、名前。やっほー」


「メローネ……」



名前からもたらさられる冷ややかな視線。

もちろん、それを気に留めていないメローネはヘラヘラと笑い続ける。


「ちょっとちょっと、そんな怒った顔しないでくれよ。名前のディ・モールト可愛い顔が台無しだ! それにさ、最終的には名前がギアッチョとキスできたんだし、結果オーライじゃあないか!」



平然と話し始めた彼に、当然ながら彼女はボンッと勢いよく顔を真っ赤にした。


「! そう、だけど……/////」



改めて言われると照れてしまう。


しかし、少女のその初心な反応が男に別のからかいの種を与えてしまったらしい。

にたにたと笑いつつ、動揺した名前へ迫るメローネ。


「んんッ? もしかしてもしかして……雰囲気がベリッシモ良くなって、そのまま続きもヤっちゃった感じ?」


「つ……続き、って?」


「あはは、そんなの決まってるだろ? セッ――」



ドカッ

刹那、視界を長い脚が横切り、隣にいたはずの彼が吹っ飛んでいった。


そして、その影は彼女を背に守りながら、いつものごとく声を張り上げる。


「メェエエロォオオネェェエエエ! テメー、余計なことばっかほざいてんじゃねえぞ、ボケがッ!」



目を吊り上げて、ゼーハーと息を切らしている少女の恋人、ギアッチョ。

そんな必死にならなくても――眼鏡越しに瞳を怒りでぎらつかせる彼に対して、緩やかに起き上がったメローネはやれやれと肩を竦めた。



「あーあ、ほんとうちのメンバーはみんな愛が痛いぜ……でもさギアッチョ。ディ・モールト可愛い名前を大事にするのもいいけど……あんまり次のステップに尻込みしすぎてると、誰かに奪われるぜ? そうだねえ、たとえば――」



――オレとかに、な。


冗談の中にちらついた本気。

次の瞬間、仕事続きで仮眠を取っていたリーダーが飛び起きるほどの、ギアッチョの怒声がアジトに響き渡ったんだとか。











メローネと入れ替わったら(いろいろ)大変だろうなあ……。
という発想から書かせていただきました!
ギアッチョとヒロインには、これからもさまざまな受難が待ってる、かもしれません(笑)。


感想などございましたら、お願いいたします。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
polka





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