uno

※連載「Uno croce nera...」の番外編
※体操服withブルマーのコスプレ、というより二人が体育教師と生徒です(裏寄りの微裏)
※いつも以上にリーダーが変態……かも









とある高校の体育教師、リゾット・ネエロ。28歳。

真面目な上に厳しいことで有名だが、時折穏やかになる表情(と、突然発揮される天然っぷり)が彼の人気を確固たるものにしていた。


一方、基本のほほんとした性格の名字名前は、あと数ヶ月で卒業を控えたごく普通の高校生である。



体育の授業以外では接点がない――ように思える二人。


だが、彼女の≪とある事情≫が彼らの距離を近付けていた。

その事情とは――



「名字」


「あ……こんにちは、ネエロ先生」



日陰のある廊下。


そこで偶然鉢合わせたリゾットに、少女はそっとはにかみながら微笑む。

黒ジャージに銀縁メガネと、かなりミスマッチと言える姿の彼を前に胸が訴えるのは憧れ以上の、もはや恋慕に近い感情。



「(ネエロ先生、メガネ姿も……かっこいい、なあ)」



しかし、名前は≪その想いを叶えること≫を一切考えていない。

相手は既婚すら噂される先生だ。女子生徒からの人気も高い。


彼女たちが彼のことで盛り上がっているのを目撃するたびに、もやもやと言い知れぬ感情が心臓を抉りながらも、少女はこの恋心を淡い初恋として一つの思い出にするつもりでいる。

そんな諦念を、自分と相当身長差のある彼女が持ち合わせているとは知らずに、リゾットは己の手にある次の授業の出席簿を一瞥してからおもむろに口を開いた。



「今日、放課後に≪補習≫をしようと思うんだが」


「えっ……あ、えと……今日、ですか?」


「ああ。会議や部活動などの影響でなかなか調整が難しくてな……テスト中の今しか体育館が借りられないんだ」



≪補習≫。

それが名前のとある事情である。


と言っても、少女の成績がすこぶる悪いからではなく――太陽の下に長時間いることができない、という理由が館内限定の体育科補習へと導いていた。


通常ならば他に体育教師がいるにも関わらず、なぜか一年生の頃から空いている時間を見つけては、甲斐甲斐しく授業をしてくれる彼の提案を断るはずがない。

でも今日は――不安で揺れる視線を上げては落とす彼女に、一つの不安が男の脳内を過ぎる。



「名字……何か用事でもあるのか?」



元々難しい顔をしているリゾットの額で、ますます寄せられた眉根。

――……まさか。……まさか、でッ、デートじゃあないだろうな……!?



そう。リゾット・ネエロもまた、名前に対してある感情、いわゆる≪抱いてはならない想い≫を心に宿していた。




「い、いえっ……用事はないんです、けど……」


「(ホッ)ではなぜ……(と聞いてよかったのだろうか)」


「……それは、その」



いつもなら二つ返事で頷くはずの少女。

ところが、頬を柔らかな薄紅色に染めた彼女には、今日に限ってただならぬ事情があったのである。







「――ひゃあ!?」


「「「あ」」」



昼休みのこと。

ふざけて花壇のホースで遊んでいた男子三人組。


その水が、偶然通りかかっていた名前のスカートを濡らしてしまった。



「あーあーあー……ったく、あいつらマジでしょォがねェな〜〜! 名字、あのバカ3人は俺がこってり説教しといてやるから、保健室で乾かしてもらって来い」


「は、はい……」



担任、ホルマジオ先生の深いため息。

ちょうど5限目が彼の授業であったこともあり、重たくなったスカートを手に少女は保健室へと向かった、が。



「あの……失礼、します」


「ん!? 君は……! 名字名前ちゃんじゃあないか! どうしたんだい? お熱? 熱があるのかい!?」


「(ふ、フルネーム……メローネ先生はもしかして全生徒の名前をちゃんと覚えてるのかな? すごい……)えと、体温は特に変わらず平熱です、よ? 実はスカートが水で濡れてしまって……」


「なんだって!? ディ・モールト、ベネ!」



べね?

いったい何語で、どういった意味なのだろう――思わずコテンと小首をかしげていると、保健医のメローネが一つのベッドのカーテンを開けた。


そこで着替えろということらしい。



「あ、お借りします……えっと」


「(ハアハア……今までめったにここへ来なかった名前ちゃんがカーテン越しに……!)さあ、スカートを貸してごらん? 乾かしてあげるからさ……あ、しばらくこれを着てね」


「すみません……ありがとうございます」



類稀なる変態という噂もあるが、とても優しい先生だ。

自然と浮かぶ微笑み。

そして、ベッドへ腰を下ろした彼女は布越しの彼へ制服を渡すと同時に、タオルに包まれた何かを受け取った。


刹那、その≪下着≫をボトリと床へ落とす。



「え? ええ!?」


「んー? なんだい? 名前ちゃん、何かあっt――」


「ひっ! メローネ先生ッ、今開けないでくださいいい!」


「あはっ、バレちゃったか」



肩をすくめる影。

しかし、それどころではない。


一見普通の下着だった。ピンクに黒レースと、ずいぶん誘惑的な雰囲気と腰の左右が≪紐≫であること以外は。



「先生! あの、私下着は……それに、はっ……恥ずかしいで、す……////」


「はは、遠慮しなくていいって! スカートびっちゃびちゃだし、この感じから見ると下着も濡れちゃってるんでしょ? でしょッ? 今着ているそれをオレに預けて、そのするりと取れちゃう≪紐パン≫着けなよ……ハアハア!(取れるか取れないかでハラハラする名前ちゃん、ベリッシモイイ……!)」



尻すぼみになってしまった言葉を、息切れ気味の声が遮った――





というわけで、押し切られてしまった下着としては頼りないそれを泣く泣く身に付け、現在に至るのである。

だが、発生した事情を、今も顔をしかめているリゾットに一から説明するわけにも行かない。

割り切ろう。しばらく逡巡した名前はおずおずと彼を見上げた。



「だ、大丈夫です。放課後お願いします……!」


「……名字はそうやって無理をする癖があるが、本当に大丈夫なのか?」


「っ(き、気付かれてたなんて。どうしよう……嬉しい、な……でも、)はい! 本当に大丈夫ですから」



いまだに不安は残る。でも――紐がほどけてしまわないよう、授業の中で時々気にすればいい。


そう、安易に考えていた。



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