ひたむきヴァレンティーノ

〜イルーゾォ〜





なんとか騒ぎが落ち着いた頃、どことなくイルーゾォはそわそわしていた。


「名前、オレも渡していいかな?」


「な、なんだかすみません……まさか皆さんから頂けるなんて思わなくて」


「謝る必要はないよ! オレたちは名前が……大切、だからさ……うん」



あまり口に出すことのできない本音。

それを呟きながら、顔を赤くした彼がおもむろに手のひらで収まるぐらいの縦長の小箱を名前の前に掲げる。



「イルーゾォさん……?」


「これ。オレの気持ちだから」



開けてみて――そう優しく言われ、彼女が迷いつつも包装紙を丁寧に剥がしていく。

すると、紙の下に見えたのは、透明なプラスチックのケースに入ったキーホルダーだった。


刹那、はにかむ少女。


その可愛らしさに男は呆然と見惚れてしまう。



「ふふ、可愛いです……どこに付けようかな」


「! き、気に入ってくれた!?」


「もちろんですっ」


「〜〜っ」



よし!

そう心の中でガッツポーズをするイルーゾォ。


しかし、次の瞬間名前の手に包まれているプレゼントを見たメローネが、ある単語を囁いた。



「なんだか……≪ゆるい≫ね」


「えっ」


「はあ!?」



彼の視線にあるのは、当然ながら自分の贈ったプレゼント。

たとえメローネ恒例の≪からかい≫であっても、さすがに聞き捨てならない。



「なんだよ! じっくり時間をかけて選んだって言うのに……人のプレゼントにイチャモン付けるな! それと、絶対ロクなモノを選んでなさそうなメローネ、お前にだけは言われたくない……!」


「あはっ、どうせ店員に声をかけるのに時間がかかっただけでしょ? あんたはかなり内弁慶だからねえ」



意味深に笑みを湛えれば、イルーゾォがグッとたじろぐ。

やはり図星か――ますます口元を歪めた彼は、ギアッチョの次に弄りやすい男をからかい続けた。


もちろん、その手は少女の腰に回っている。



「め、メローネさん……あの、少し顔が近いような……」


「んー? 気のせい気のせい。で、ようやく話しかけることはできたけど、そこからもベリッシモ時間がかかったんじゃない?」


「!」


図星に図星。

唾をのんだことで上下する喉。

だが、イルーゾォとて一方的に言われ続けていられるほど、寛容でもない。


ついに我慢の限界を超えた――あと名前を変態の手から守りたい――彼は、おもむろに手鏡を取り出した。



「あれっ、まさか――」


「メローネだけを、許可する!」



声が放たれた瞬間、消えるメローネ。

ふう、と息を吐いたイルーゾォは、その手鏡をソファに放り投げ、いまだきょとんとしている目の前の彼女に微笑みかける。



「(変態駆除成功)……名前」


「! はいっ」


「メローネの言った通り、そのキーホルダーゆるいかもしれないけど……」


受け取ってもらえるかな?

今更事実を隠しても仕方がないと諦めた男が、眉尻を下げて言葉を連ねた。


すると、


「受け取らないわけないです! それに、私は可愛いと思いますよ?」


「そ、そうだよな!」



笑顔で首を大きく縦に振ってくれた少女に、イルーゾォの表情も途端に明るくなる。

そして、「あっ」と口を開いた名前が取り出した小包を目にして、彼の心はさらに鮮やかなものになった。


「イルーゾォさん。私からも、バレンタインです」


「!!! ありがとう! じっくり味わわせてもらうよ……!」


「ふふ、できれば早く食べた方が、お腹を壊さないで済むと思います」



くすくすと笑う彼女を見つめながら、幸せ絶頂期の男はデレデレとした表情で一人思う。

――今なら誘えるんじゃないか? と。


この優しい少女の前にいる自分も、今だけは≪ネガティブ≫でも≪内弁慶≫でもない。



「名前ッ、リーダーがいない時でいいから、オレとデート――」


「イルーゾォ! まずこの変態をどうにかしろ!」


「……え」



しかし刹那、ギアッチョの苛立った声に振り返れば、別の鏡から「出せ〜」と言いたげなメローネが。


さらに。


「なあ名前、今日の晩飯の付け合わせだが、生ハムがいいよな?」


「おいおいおい。ここはチーズだろうがよォ」



ここぞとばかりに名前の周りを囲む年長組。

明らかに邪魔されている。


そう悟った瞬間、当然肩を怒りで震わせるイルーゾォ。



「(こ、こいつら……ハッ! 最初っから名前を鏡の中に連れてけばよかった……!)」


だが、彼女を連れ込めば連れ込んだで別の危険が潜んでいることを、今回の策について反省している彼は知る由もなかった。










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