酔いどれヴァレンティーノ

〜ホルマジオ〜






「よし、次は俺だな!」



メローネの氷像が出来上がる頃、名乗り出たのは自信ありげに笑みを見せるホルマジオだった。


すると、スタンドを解除したギアッチョが、胡散臭そうな眼差しを彼へ向ける。



「……親父臭えモンはやめろよな」


「おいおい。俺をなんだと思ってんだよ」




疑わしげな視線に肩を竦めながら、何かを椅子の影から取り出す男。


その手には、上質な焦げ茶色の紙袋。



仲間の誰もがそれが≪酒のツマミ≫などではないと確信し、ホッと安堵の息をこぼした、が。



「へっへっへっ、俺からは美味い酒だぜ?」


「お……お酒、ですか?」


「結局、親父臭いじゃねえか!」



反射的に、イルーゾォが叫ぶ。

当然、周りの男たちも目を剥くばかり。



名前は酒があまり得意ではない。

彼女の歓迎会でそれなりのハプニングが起きて以来、それは周知の事実となっていた。



「ちょっ、ホルマジオ! まさかそれで名前をまたグデングデンに酔わせて、理性を失った名前のトロ顔を拝むつもりじゃ――グエッ」


「相変わらずゴで始まり、リで終わる生物みたいな精神しやがって……立ち直りが一々はえーんだよ、変態が」



当然、目をカッと見開いて妄想を語るメローネには、プロシュートのゲンコツが飛んだ。


ところが、彼の発言は思わぬところで波紋を呼ぶ。



「とろ……?」


「た、たぶん名前は知らない方がいい言葉だと思うよ?(お、オレも知らねえし……)」


「ペッシさん……そう、ですか?(リゾットさんに、聞いてみようかな)」



かなり気になるのか、難しい顔で首をかしげている少女。

その様子に、どうか名前が自らリーダーに襲われる可能性のある道へと進まないように――と隣に並ぶペッシはただ祈るしかない。


一方で、仲間からオススメの酒を反対され、ホルマジオは片眉を吊り上げていた。



「ったく、しょーがねェなァ〜! オメーらがわかってねえみたいだから教えてやるが、これは名前が飲みやすそうなモノの中から厳選した代物なんだぜ? ゆっくり味わいながら飲めば、そんな酔わねえよ(多分だが)」


「飲みやすい……」



せっかくのプレゼントだ、飲める飲めないは別としてぜひ頂きたい。

ぽつりと呟いた少女はソファから立ち上がり、男の元へと向かう。


すると、白い歯を見せて笑ったホルマジオ。

いまだ背後では反対の声が轟きつつも、その紙袋が差し出された。



「ありがとうございます! ゆっくり嗜んでみますね」


「おう! これは口当たりも抜群だから、ぜひ試してみてくれよな!」


「はい!」



花が咲き誇ったかのように綻ぶ、名前の顔。

大事そうに、自分の贈り物を両腕で抱えてくれる彼女の小さな頭をガシガシと撫でながら、彼は続けて言葉を紡ぐ。



「それでなんだがよォ」


「? はい」








「名前が酒も飲めるようになったら、バーにでも飲みに行こうぜ? カクテルとか、な」


「目的はやっぱ下心ありかよ!」



再び鋭いツッコミを浴びせるイルーゾォ。



「このチーズ野郎……そういう魂胆があったのか」


「あ、兄貴(ヒィッ、ターゲット相手によく向けてる眼光だ……!)」


「リーダーもそうだけど、独り占めは許可しない! 許可しないィィイ!」


「カクテルかー、いいよね。名前がトロンとした瞳で≪帰りたくないです≫って言ったり、フラフラの名前とそのままいかがわしいホテルに行っちゃったりしてさ――」


「テメーは黙ってろ!」



刹那、「させるかッ」と少女の保護を試みる輩。


何か一つでも≪議題≫を放てば、すぐ騒ぎ出す外野に、≪二人きりとは言ってねェのによ……こいつら、ほんとしょォがねーな〜〜≫とため息をつきつつも、その顔はひどく楽しそうに口角が上げられているのであった。









酔いどれヴァレンティーノ




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