※季節ネタ
※ギャグ(?)
※食べ物は大切に!
23:59から0:00へ。
毎日24時間ごとに切り替わるそれが、その日だけは特別な意味を持っていた。
「あけましておめでとうございます、リゾットさん……今年もよろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼む」
ベッドに二人、包まりながら年を越す。
一昨年も去年も仕事の遂行中に年明けを終えたリゾットにとっては、今目の前ではにかむ名前と挨拶を交わし合う時が新鮮だった。
もちろん、それは彼の胸にしっかりと抱き込まれている少女も同じ気持ちである。
「えへへ……誰かと一緒に年を越せたのは久しぶりなので、とても嬉しいです」
「ふ……オレもだ。おそらく昨年のオレは、今の自分がこんなにも奥ゆかしくて可愛らしい名前の傍で横になっているとは、思いもしないだろう」
「もう、そんなお世辞は……んっ、ちょ、リゾットさん……そこはくすぐったいです……、ふふ」
心を満たしてやまない≪幸せ≫に口元を緩めれば、こちらを見上げる彼女の頬をゆるりと撫でる。
すると、その壊れ物を扱うような優しい手つきが皮膚を刺激するのか、眉尻を下げてさらに小さく身を縮こめた名前。
そんな可愛らしい反応を示す恋人を大きな手のひらで執拗に追いかけつつ、ふと男は脳内に過ぎった疑問を口にした。
「そういえば」
「っ、ん……ど、どうかしましたか?」
「いや、日本では新年をどのように迎えるんだ?」
「日本で、ですか?」
紡ぎ出された音と共に停止した手からすかさず距離を置きながら、きょとんと首をかしげる。
一方、あどけない表情に跳ねる心音を真顔のまま抑え、おもむろに頷くリゾット。
「少し気になってな……名前がどう過ごしたか教えてくれないか?」
「え、っと……そんなに大したことはしていないんですけど……お雑煮を食べたり初詣に行ったり」
「ふむ。≪おぞうに≫……≪はつもうで≫……」
呪文のように唱えられる単語。
あくまでも真面目に覚えようとする彼に、「可愛い」と少女は小さく微笑んでから、その桜色の唇を開いた。
「あとは、そうですね……基本は年末にするらしいんですけど、≪お餅つき≫も一つの行事です」
「もち?」
「はい! 色々な食べ方があるんですよ?」
「そうか……」
放たれた情報を聞き、男は何かを考え込む仕草を見せる。
どうしたのだろうか。
この彼女の疑問は、その日の朝――日本で言うなれば元旦に解決されることになる。
「ん……、皆さんおはよう、ございま……す?」
朝、リビングに足を踏み入れた途端、目の前を何か白いものが横切っていった。
大きいものではない。
まるで雪合戦の雪玉のような――
「名前! こっち!」
「え? あ、ペッシさ……わっ」
何が起こっているんですか?
そう尋ねしようとした矢先に、ソファの背を影にしているギアッチョによって腕を引っ張られてしまう。
当然、狼狽える名前。
すると、彼の隣に並んだペッシが申し訳なさそうに口を開いた。
「ごめんね? 急がないと名前にまで被害が及んじゃうから……」
「あ、あの、被害ってなんですか?」
「チッ。これをよく見ろ!」
これ――いつも以上に苛立っている男が指で示すのは、己の頭。
そこには、何やら白いもっちりとしたモノがこびり付いていた。
明らかに一筋縄では取ることが不可能であろうそれは、まるで――
「……えと、なんだか≪お餅≫みたいです、ね…………、あれ?」
「……」
「……」
「〜〜テメーかアアアアッ! この≪モチ≫とか言う奴教えやがったのは!」
「ご、ごめんなさい……!」
思わずのほほんと呟いてしまったが、≪お餅みたい≫ではない。
完全に餅だ。
しかも完成には程遠い、べちょべちょとした。
怒り心頭のギアッチョに涙目で謝ると、彼がなぜかグッと押し黙る。
それを見計らって、ペッシが声を上げた。
「避難したオレたち以外は、このモチ合戦を続けてるんすけど――」
ダンッ
壁に貼り付く小餅。
ゆっくりと伝い落ちる様は、まさに透明感のないスライム。
さらに聞こえてきたのは、
「お前たち。食べ物を粗末にするんじゃあないと何度言えばわかる」
「ハハッ、ほどほどにしろよ〜」
呆れを露わにしているリゾットと、楽しげなホルマジオの声。
名前がソファからひょこりと顔を出せば、まったくと言っていいほど無傷な二人が見え、どうやら彼らだけは(まともそうな)餅を精製しているらしい。
つまり、この絶え間なく宙を舞う餅を、繰り出しているのは――
「あははは! これ、すげえ楽しい!」
「ちょ、餅は許可しな――ヘブッ」
「ハン! そうはさせるかよ」
呑気に代物を投げ、素早く避けるメローネ。
リビングの鏡から上半身のみを出し、防衛に重点を置くイルーゾォ。
そんな彼の口元へと、野球選手並みの俊敏さで白いそれを直撃させるプロシュート。
想像はしていたが、やはりこの三人だった。
「どう、しましょう……っ」
放っておけば髪自体引きちぎってしまいそうなギアッチョを止め、彼の頭をお湯で濡らしたタオルで拭いながら、時折少女は家具越しのバトルロワイヤルを一瞥する。
もちろん、彼女の母親のような柔らかな手つきに、彼が沸騰しているのではと疑うほど真っ赤だったのは言うまでもない。
「……オレ、止めてきます!」
「えっ、ちょ、ペッシさん……!」
飛んできた餅によって時計の針は止まり、壁は餅の展覧会へと化している。
さすがに≪止めなければ≫という使命感を覚えたのか(決して掃除が面倒くさいと思ったからではない)、男ペッシはやおら立ち上がった、が。
「うわッ!?」
「あ、ワリー」
「ペッシさん!?」
「クソッ! お前までやられんじゃねえよ!」
いつの間にか、ホルマジオまで参戦していたようだ。
服の所々が白く染まっていることから、誰かに触発されたのだろう。
しかし同時に、彼の参戦はこのモチ合戦がますます収拾がつかないことを意味していた。
「ペッシさん、大丈夫ですかっ?」
「う、うん……ごめん、早速負けちゃって」
「……テメーらは、ここで待ってろ」
ゆらり。
ついに堪忍袋の緒が切れたのか、ホワイト・アルバムを身に纏い始めるギアッチョ。
≪本気≫だ。
そう理解していても、心配は胸を広がっていく。
「そんな……ギアッチョさん! まだ髪の毛のモノも取れてな――」
「いいから待ってろッ! ……名前」
「? はい?」
「……、拭いてくれてありがとよ」
まるで捨て台詞。
そして、名前が慌てて手を伸ばすより先に、(白猫)スーツを着た彼はリビングという名の≪戦場≫へと飛び出した。
「オイ! いい加減にしろよ、テメーらアアアア! リゾットも、のんびりモチ作ってねえでこっち止めやがれエエエエッ」
「……ギアッチョ」
「あア?」
「危ないぞ」
何が――床でさえも凍らせそうな勢いで、男がコネコネと一つ一つ丁寧に丸めるリーダーを鋭く睨みつけると――
「すっきアリー!」
「ぎゃあアアアア!?」
突如、スーツ越しに塞がれる視界。
声からして、先程も自分へ投げつけてきたメローネだろう。
だが、スタンドの能力によってますます餅が離れることはない。
「テメッ、メェェエロォォォオオネェェエエエエエエ!」
「あはっ! そんなとこにいるお前が悪いんだって!」
「(ブチッ)」
次の瞬間、キレたギアッチョは当初の目的も忘れ、手で捉えた白いモノをあらゆる場所へと投げ飛ばす。
「ガッ」
「ちょ……!?」
「ぎ、ギアッチョさん……っ」
「落ち着けって!」
響くさまざまな悲鳴。
一方、迫り来るすべてを避けていたメローネは、ニンマリと口を上げた。
それから、ドロンと溶けた餅を持つ両手を振り回し――
「……おい、お前たちそろそろいい加減に――」
「くっらえ――――ッ!!!」
ベチャッ
「「「「「あ」」」」」
すべてが偶然だった。
メローネが投げた方向。
ギアッチョが身体をそらした隙間。
≪リゾット≫が顔を前方へと上げた刹那。
「り……リゾット、さん……」
無惨にも、長い間手のひらの体温で温められた餅は、アジトを管理するリーダーの顔面にへばりついてしまった。
一瞬にして、静まる部屋。
蒸されたそれらでやけに高い室温
ゴゴゴゴゴと背後から鳴り渡る地響き。
ゆっくりと口周りの代物を手首で取り去ったリゾットは、静かに喉を震わせる。
「…………いつも仕事ばかりだからな。たまにはこうして≪はしゃぐ≫のもいいだろう、と後の(掃除など面倒な)ことを抜きにして、先程までは放っておいたが……」
「新年早々、メタリカを食らいたいらしいな……お前らは」
刹那、掲げられる片手。
告げられる≪死刑宣告≫。
当然ながら、暗殺チームが受けた最初の任務が、≪長い説教≫と≪アジトの掃除≫だったのは言うまでもない。
Buon anno!!
笑い合える一年を願って。
![](http://img.mobilerz.net/sozai/1609_w.gif)
皆様、あけましておめでとうございます!
不束者ですが、今年もどうぞよろしくお願いいたします……!
そして皆様にとって、2014年が良い年でありますように。
というわけで、連載の番外編で新年特有の話を書かせていただきました(かなり和風ですが)。
感想などがございましたら、ぜひ!
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
polka
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