uno

※長編「Uno croce nera...」の番外編
※単品でも読めます。
※ギャグ?




それは、本当に突然の出来事だった。



カタン


「? あ、リトル・フィートさん……ふふ、こんにちは」



キッチンで一人料理に励んでいた名前は、ふと背後から聞こえた物音にそちらを振り返る。

すると、そこには少しだけ凶暴な顔のリトル・フィートが一人(?)で立っていたのである。


ホルマジオの姿は、なぜかない。


その事実に首をかしげながらも、少女は包丁をまな板へ置き、彼の元へ近寄った。



「あの……ホルマジオさんはこちらにはいらっしゃっていませんけど、どうされたんです――」


か。

最後の言葉を告げようとした瞬間、なぜか右手首を掴まれ――




「!」


人差し指の先を通り過ぎる鋭い刃。

痛みより驚きの方が先行し、目をぱちくりさせることしかできない名前。


「え……えっと?」


特に敵意が感じられるわけでもなく、遊びたいだけなのだろうか。

己の手から滴る赤を一瞥してから、彼の顔をまじまじと見つめていたそのとき。




「あああああッ! 名前、まさか傷できちまったのか!?」


「あ、ホルマジオさん……」



慌てた様子でキッチンに入ってきたホルマジオ。

男は、きょとんとする少女と自分のスタンドというめったにない組み合わせを目にして、ため息をつく。


リトル・フィートが作った傷は、特別性だ。



「名前……ほんっと悪ィ! こいつには、俺からちゃんと言い聞かせとくからよォ!」


「……(しゅん)」


「え? あの、ホルマジオさん。リトル・フィートさんはたぶん、遊びたかっただけなんですよ……だから、怒らないであげてください」



彼の後ろで項垂れるスタンド。

それを見た彼女がすかさず口を開けば、ホルマジオは困ったように後頭部を掻く。



「遊ぶっつってもなァ……」


「確か、小さくなるんでしたよね? 私が小さくなっても支障はありませんから……ね?」



実は、この能力は今すぐにでも解除が可能だ。

しかし、名前が日本のリ○ちゃん人形のようになるのも、興味深くはあった。

いろいろ、着てほしいものもある。


――だからって、こいつだけで動くとは思わなかったけどよォ……ったく、しょーがねェな〜〜。



「……わかった。こいつのことは怒らねェ」


「! よかったですね、リトル・フィートさん!」


「(コクコク)」


「ただし。能力はもう少しで効き始める……とりあえず、俺の部屋に来てもらうぜ」



スタンドの手を握りにこにこと微笑む少女に、自分まで温かい気持ちになるのを感じつつ、一つの条件を出す。



「ホルマジオさんの、部屋ですか? でも……」


「おいおい、遠慮や言いつけを守ってる場合じゃあねェだろ。小っちゃくなんのは結構危険でもあるんだぜ? それに、もしその状態でリーダーやプロシュート、メローネに出くわしたら何されるかわかんねェしよォ」



戸惑う彼女に対して、起こり得そうなことを口にするホルマジオ。


要注意人物トップ3。

アジト内では、これが(名前以外のところで)常識になり始めていた。



「ほら、名前。行くぞ」


「う……はい」


歩き出す彼の背を、申し訳なさそうにしながら追う少女。

ちなみに、誰が1位であるかは、その時と場合による。









その後、ホルマジオの部屋に辿り着いた途端、名前は見る見るうちに小さくなってしまった。

めまぐるしく変わる景色。

苦笑する彼の大きな顔を精一杯見上げ、楽しそうに少女が微笑む。



「わあ……! すごい、ホルマジオさんはこの世界といつもの世界を行き来しているんですね!」


「あー……まあ、そういう考え方もあるか……(やべェ、小さい名前も可愛い)」



まさにリ○ちゃん。

修道服の裾を揺らし、ひょこひょこと周りを見渡す彼女に、せっかくだとホルマジオはクローゼットを漁り始めた。


「にゃーん」


「あ! こんにちは、猫さん! とても大きいですね……!」


「にゃーにゃー」


「え? 乗ってもいいんですか?」



その間も、自分にはなぜかあまり懐こうとしない猫の背に乗り、今の状況を思いきり堪能している名前。


――こんな可愛いとこ、俺が独占してるってリーダーが知ったら……想像もしたくねェな。



きっと、メタリカでは済まない――かもしれない。

刹那、特に寒いわけでもないが、思わずぶるりと身震いした彼は、それを振り切るようにある小さな服を彼女の元へ持ち寄る。



「なあ、名前。これ、着てみねェか?」


「? それは……ドレスですか?」



男の大きな手に収まっているふわふわのドレス。

まるでお姫様が身に纏うようなそれに、少女は自分には似合わないと首を横へ振る。


しかし、似合うと信じて疑わないホルマジオが、そう簡単に頷くはずもなく。


「ははっ、まあ何事も経験って言うだろ? なッ?」


「あ、う…………すぐ、脱ぎますからね?」



猫の上から彼の手へと移り、机に運ばれる身体。

視界いっぱいに広がる木目に新鮮さを感じつつ、薄いピンクのドレスを受け取る。


――似合わないと思うんだけどなあ……。



机にずらりと立てられている本の裏に隠れた名前は、唇を少しだけ尖らせながらいそいそと黒の修道服を脱ぎ始めた。




数分後。


「えと……ホルマジオさん」


「お? お姫様のご登場か……って」



本の端からひょこりと赤らめた顔を出す少女。

修道服では決して見えない、細く扇情的な首や鎖骨。

際立つ上半身のライン。

ふわりとなびく何重にも重ねられたスカート。

その裾から時折覗く、白い足首。



想像していた以上に――可憐だった。



「……」


「〜〜っ、き、着替えてもいいですか!?」


黙り込むホルマジオに、嫌な意味で反応を受け取ったのだろう。

頭上から湯気が出ているのではないかと心配になってしまうほど、真っ赤になった名前は、すぐさま本の影へ戻ろうとした、が。




コンコンコン


「!?」


「ッ、ちょっと待ってくれよォ〜?」



誰であろうと、見つかればヤバい。

ピシリと固まる少女をさっと拾い、もっとも安全な場所――自分の胸ポケットへ隠す。


そして、不安そうに見上げてくる彼女ににっと笑いかけたホルマジオは、扉のドアノブを引いた。



「悪ィ悪ィ……って。青ざめてどうしたんだよ、リーダー」


「!」


「ホルマジオ……名前を、知らないか?」



げんなりとしたリゾットの口から出た名前に、ポケットの中で名前がビクッと反応する。

一方、さすが策略家なだけはある。

動揺を一切見せない男は、少し考えるそぶりをしてから、眉尻を下げた。



「いやァ、知らねェなあ……どうかしたのか?」


「……オレも料理を手伝おう(あと、あわよくば抱きしめてキスをして、それ以上のことをしよう)と思い、キッチンへ行ったら……名前の姿がなかったんだ。切りかけのジャガイモと、茹でに茹ったパスタを残して」


「(心の声が駄々漏れだぜ、リーダー)……へェ……誰かの部屋じゃねェのかよ」


「ああ、オレもそう考えて、プロシュートの部屋の扉を壊し、メローネの部屋は鍵がかかっていたので窓を破り、家中の鏡も砕いてみたが……いない」


「……ご乱心だな、オイ。まあ、名前だって、リーダーから離れて羽を伸ばしたいときもあるだろうから、そんな気にすんなって! つーか、それ修理すんのもアジトの金から出んのか!?」



また節約シーズンか――と目を剥く彼に対し、リゾットは沈みっぱなしだ。

――心配性だか依存だか、それは本人にしかわかんねェけどよォ……名前も苦労してんなあ。


苦笑しているであろう少女に自分まで苦笑しながら、とにかくこの目の前の男をどうにかしよう、と口を開いた矢先のことだった。



「にゃーおにゃーお!」


「おわッ!? おいおい、どうしたんだよ。そんな飛びついてきてよォ……」



胸元に――おそらく名前が目的で飛び込んできた猫に、ホルマジオは驚きつつ相手をする。

それをただただ凝視するリゾット。


「……珍しいな」


「ん?」


「いや、邪魔してすまなかったな」


「? おう! 健闘を祈るぜ!」



バタン

閉まるドアの音。

それが部屋に響いた途端、男が顔から笑みを消してため息をこぼす。


「はあ……」


だが、なんとか隠し通せてよかった。

いまだ暴れている猫の脇腹をがっしりと両手で掴みながら、自分の胸元を覗き込んだ次の瞬間。


「にゃあ! にゃあああ!」


「ね、猫さん! 今は、ダメで……きゃあ!?」


「!? ヤベッ、名前……!」



偶然、猫の手がポケットを掠め、そこから少女が落ちていく。


身体に叩きつけられる風。

徐々に近付く床。

来るであろう衝撃。


ある種の覚悟を決め、名前はきゅうと強く目を瞑った、が。




ボフン


「!」


「はああああ……危なかった」


「ほ、ホルマジオ、さん……?」



感じたのは、冷たく固いものではなく、温かく引き締まった何か。

ゆっくりと瞼を上げた少女の視界に映るのは、自分と同じ大きさのホルマジオ。


どういうことだろうか。



「名前、悪ィ……能力を解除するよりこっちの方が早くてな……抱えさせてもらってるぜ」


つまり、お互いに小さい状態。

自分の横を通るいまだ大きい猫をちらりと一瞥してから、男を見上げる。


そして、目をぱちくりさせている名前を安堵させるように、ホルマジオは口元を緩め、



「ははっ、なんかこの状況、姫さんを助けた王子みてェだよな!」


と、ジョークを言い放った。

ドレスを着た自分と、横抱きしている男。


彼の笑声を耳にしながら、自分たちの様子を彼女も客観的に想像し――



「ふふ……ちょっと、気恥ずかしいですけど……新鮮ですね」


「だろッ? クク、俺が王子とか……ふっ、ははははは!」



一見、ふわあと欠伸をした猫以外はいないように思える部屋。

しかし、簡素なその場を、今日は珍しく楽しげな二つの笑い声が包むのだった。









愛玩聖女
小さくなるのも、たまになら悪くない?



〜おまけ〜



しばらく笑い続けていた二人。

だが、突如そんな彼らを覆う黒い影。



「……やはり、そういうことか」


「! リーダー……!」


ふぁさっ、と自分たちに襲いかかる虫用の網。

その柄を握り、こちらを恐ろしい形相で見下ろすのは、言わずもがなリゾットである。



「猫がお前にあんな風に懐くはずがないと思い、戻ってきてみたら……」


「り、リゾットさん! これは、そのっ……ひゃ!?」


ホルマジオの腕から引き離され、男の大きな手のひらに乗せられてしまう名前。

彼は、彼女のドレス姿をまじまじと見つめてから、相変わらず網に捕まったままのホルマジオへ容赦ない一言を呟く。




「……『メタリカ』」


「うぐッ!」


「お前が再起不能になったら、名前も戻ってしまうからな……制裁はここまでだ。名前、部屋へ戻ろう……いろいろ、≪試したいこと≫があるんだ」


「えっ!? あの、せめて元の大きさに戻し――きゃああッ!」



一時間後、元に戻ったホルマジオの部屋では、同じく大きくなった少女の修道服とぐったりした男が見つかったらしい。

そして、名前がリゾットにナニをされたのか――それは本人たちにしかわからない。











ホルマジオさん、初ですが……なんか損な役回りで申し訳ない(笑)。
彼はアジトの中では、ほどほどにまともなイメージ。
そして、ヒロインちゃんにとっては良き相談相手でお兄さん。
マジオ兄さん、マジお兄さん。


と、管理人のひどいダジャレは置いておいて、感想などがあればぜひお願いします!
お読みいただきありがとうございました!
polka





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