uno

※妹分ヒロイン
※ギャグ甘?
※微々裏



それは、プロシュートが自室でワインを楽しんでいたときのことだった。



バンッ


「兄貴! 私に、料理教えて!」


「……はあ?」



何冊もの料理本を片手に抱えて、妹分の名前が顔を出したのは。








Let's cooking!!
兄貴の、楽しい(?)料理教室









「ったくよお……オレの優雅なひと時を邪魔しやがって」


「うっ……ご、ごめんね? でもっ、ペッシ先輩に料理は兄貴が一番上手って聞いたから……!」


「……」



キッチンのテーブルに本を置き、小さく項垂れる名前。

そんな彼女に、プロシュートはグレーのエプロンを身に着け、服の裾を捲りながらため息をついた。


頼られるのが、嫌いなわけではない。

特に、この大切にしている妹分からご指名を受けるのは、正直喜ばしいぐらいだ。



「チッ……わーったわーった。へこんでねえで、お前もエプロン着けろ」


「! うん!」



しかし、問題は別にある。




「……おい、名前」


「んー?」


「一応聞くが……なんで服を脱ごうとしてんだ? え?」


「えっ? エプロンって……≪下着以外何も着ないで着ける≫ってメローネとホルマジオが……」



名前のドの付く天然さと、要らないものまで覚えてしまう異常な吸収力だ。



「(あいつら……後でぶっ○す)……それはただのマニアックなプレイだろうが。普通はそのまま上に着んだよ」


「そうなの!? わあああ、恥ずかしい……!」



わたわたと捲し上げていた上着を戻す少女。

まず、目の前に自分――兄貴と言えども≪男≫がいながら着替えようとするのは、おかしいとなぜ気付かない。



――男として見てねえってか? ふざけんじゃあねえぞ。



据え膳食わぬはなんとやら。

そんな場面に今まで何度遭遇してきたか――わざとじゃないからこそ、余計に性質が悪い。


――普通に抱きつくわ、オレの前で下着は散らかすわ、オレの部屋で無防備に腹出して寝るわ……数え出したらキリがねえぞ。



「よし! 兄貴、エプロン着たよ……って、ひょわああっ」


「! どうした!?」


「あ、兄貴のエプロン姿、すっごく! すごーくカッコいい……!」


「……はあ」



こぼれるため息。

褒められてもなぜか切ない。



彼女にとって、自分は恋愛対象ではないとわかっているからなのか。

それとも、たとえそうであっても名前のことが好きな自分に呆れているからなのか。


それは、プロシュート自身にしかわからない。









「次は塩振れ、塩……って、それは砂糖だろうが!!」


「え? きゃーっ!?」


鍋に蠢くダークマター。

予想通りと言えば予想通りだが、名前の料理センスは皆無に近かった。


プスプスと立つ嫌な音が、より彼女の表情を曇らせる。



「ううう……変な匂いぃぃぃっ!」


「こりゃあ、食への冒涜だな」


「! そんなあ……」


「大体、お前キッチンに入ったことすらねえんだろ? 思いつきで物事をしようとすんじゃねえよ」



実は、今までキッチンに立たせてもらえることがなかった名前。

それは、仕事以外で危ない目には遭わせない――とプロシュートが裏で手を回していたからなのだが、彼女がそんな事実を知っているはずもなく。



「ちっ……違うもん!」


「あ?」


「思いつきじゃない! 兄貴には秘密にしてたけど……私、ずっと前からお嫁さんになる修行してるんだから!!」


「…………は?」



お よ め さ ん?

ピクリと頬を引きつらせた彼に気付かぬまま、少女は言葉を並べ続ける。



「リーダーからは裁縫、イルーゾォからは洗濯の仕方、ギアッチョと一緒にお姑さんとの会話方法も勉強したし……メローネには、しょ……初夜の雰囲気も教えてもらったもん!」


「初夜、だと……?」



当然、脳内を掠めるのは悪い予感ばかり。

まさか、あの変態に食べられたのだろうか。

想像したくもない状況を思い浮かべ、わなわなと震えるプロシュート。



しかし、返ってきたのは――



「うん! なぜか押し倒してきたメローネにアッパーかましちゃって、いまいちわからなかったんだけどね!」


意外とバイオレンスな結末。

それに内心でホッと安堵の息をつきながら、男がポーカーフェイスで口を開く。



「で? 料理はオレってか?」


「うんうん!」


「……名前、心して聞けよ?」


「ん?」


「お前に、料理は向いてねえ」



刹那、笑みが消える名前の顔。

それを見て、ちくりと罪悪感が心に広がるが、訂正するつもりもない。

エプロンの紐を外しながら、プロシュートが彼女から視線をそらした、そのとき。



「……っいいよ、練習して兄貴にぎゃふんと言わせてやる」


「(それを本人の目の前で言うかよ)勝手にしろ……って」


「うん、勝手にする!」


「……おい、何して――」



心配になり振り返れば、包丁を手にした少女が野菜を切り始めている。

その危なっかしい手つきに、ただただまな板を見つめていた、ら。



「いたっ」


「!」



左の人差し指から溢れる赤。

痛みに眉をひそめる名前。

傷口を洗おうとしているのか、包丁を置き蛇口の栓に右手を添えた彼女の左手首をプロシュートはひったくり――


「ったく、言わんこっちゃねえ!」


「あっ……え!?」



ぱくりっ

患部を口の中に含んでしまったのである。


「あに、きっ……何、して……ん!」


「消毒だ、消毒……ん、ふ」


「ひぅっ」



温かい指先。

ざらざらと鮮明に感じられる彼の舌。

念入りに舐めとられる傷口。



ビクリ、と跳ねた少女を視界に入れて、ほくそ笑んだ男はようやく人差し指を己の口内から解放した。



「〜〜っ/////」


「ハン、どうした? 顔真っ赤だぜ?」


「!」


林檎のよう、いやそれ以上に顔を真っ赤にした名前の頬をゆるりとなで、プロシュートがおもむろに言葉を紡ぎ出す。



「名前。誰にでも向き不向きがあるんだ、無理に料理しようとすんな」


「……でも、お嫁さんには必要なステータス、でしょ?」


「そりゃあな。料理できた方がいいだろうよ……つまり、お前の貰い手は人より少ないってこった」


「ッ!」


「けど――」




コツン


「安心しろ。オレがちゃんと、名前のことはもらってやるから」


「!?」



重なった額と至近距離の蒼い瞳。

優しさに満ち溢れたテノール。

そのすべてに、≪嘘偽り≫がないと悟ってしまった名前は、自然と小さく頷いてしまうのだった。







〜おまけ〜



「ふんふふーん(上機嫌)」


「あれ? 名前、もう花嫁修業はいいの?」



鼻歌を歌いながら本を段ボールに詰めていく少女に、不思議に思ったイルーゾォが声をかける。

そして、プロシュートは広げた新聞の影からその様子を見守っていた。



「うん! もういいの!」


「へえ……あんなに焦ってたのに、どうして?」


彼女の指先に巻かれた絆創膏を一瞥して、手伝うよとイルーゾォが隣にしゃがむ。

一方兄貴は、目の前の印字を読むふりをして、耳はそちらへ傾けるという凄技を繰り広げている真っ最中。


――あいつ……どうりで全体的に慌ててると思ったぜ。


だが、なぜ焦る必要があったのだろう。

首をかしげていると、不意に名前が少し頬を赤らめているのがちらりと見えた。




「えへへ……兄貴には、秘密だよ?」


「うん、わかった(たぶん聞かれてるけど……)」


「ありがとう! あのねあのね? 兄貴が……大好きな人が、≪お嫁さんにもらってやる≫って言ってくれたから、もう花嫁修業はいいんだ!」


「!?(ガタッ)」


「そうなんだ、よかったね(うわあ……プロシュート、すげえ動揺してる……)」



その日、珍しく挙動不審なプロシュートが目撃されたらしい。








プロシュートと妹分ヒロインでした。
天然ちゃんに振り回されてる兄貴を書きたかったんですが……また挑戦したいです。
とりあえず、両想いということで、兄貴よかったね!


感想などございましたら、お願いします!
お読みいただき、ありがとうございました!
polka





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