uno

※長編「Uno croce nera...」のもしもシリーズ
※もしも、連ヒロが承太郎たちに保護されていたら
※だがしかし、リーダー夢
※ギャグ甘?







1999年。

とある日本の空港にて。


白いコートと帽子を身に着けた日本人の男、重力に逆らった髪型をしたフランス人の男、そして黒い修道服を着た小柄な少女が対峙していた。



「……名前、本当に行く気なのか」


「はい、ポルナレフさんと一緒に≪イタリア≫へ行きます」


「承太郎! 名前のことは、このナイスガイなオレに任せとけって!!」



男――豪快に笑うポルナレフが、名前の肩を抱き寄せる。

その行動にピクリと眉を動かしつつ、承太郎は帽子のつばを指で摘まみ、鼻で笑う。



「テメーが任せ≪られる≫んじゃなくて、テメーを任せ≪る≫んだろうが」


「は? ……、なにをゥッ!?」


「ぽ、ポルナレフさん、落ち着いて! 承太郎さんも……奥様と徐倫ちゃんにちゃんと連絡取ってくださいね?」


「……フン」



言われなくてもそうする。

そう告げるかのように、彼は碧眼を見上げてくる少女からついとそらした。

しかし、口数は少なくとも≪夜にしか外を出歩けない≫名前を心配してはいるのだ。


本音を言えば、とてつもなく心配している。



「んじゃ、報告は随時……はめんどくせェから気分でするぜ。お前も、≪こっち≫の調査頼んだからな!」


「≪年下の叔父様≫の件、今度ぜひ教えてくださいね! いってきます!」



本当に、大丈夫だろうか。

搭乗口へ向かうデコボココンビを見て、嫌でもため息が漏れる。



「……やれやれだぜ」


だが、自分にも欠かすことのできない仕事がある。

杜王町への道のりを確かめながら、承太郎は纏わりつくような周りからの視線を気に留めることなく、白いコートを翻して歩き始めた。










「チャーオ!! ボンジョルノ、ボンジョルノー!」


「あの……明らかに引かれているようなんですが」



その後、二人は無事イタリアへと辿り着き、弓と矢の調査を開始していた、が。

美女に出会えば、ポルナレフがなりふり構わず投げキッスを放ちまくる、という問題に名前が早速直面したのは言うまでもない。



「まあまあ! 固ェこと言うなって! 名前もイタリアを楽しめよ!」


「楽しみたいのは山々なんですが……私、夜しか出られませんし」



そう。朝と昼の調査をなんだかんだ言って頼れる彼に任せている分、少女は夜に働こうと飛行機に乗る前から決めていた。

しかし、名前を絶対に危険な目に合わすなと、承太郎から圧力をかけられていたポルナレフは、それを幾度となく防止している。


「いいんだよ! 今以上に詳細が掴めたら、お前にも協力してもらうから……なッ?」


「……」



ガシガシと頭をなでてくる彼の心うちを悟り、唇を尖らせつつもコクンと頷く。

一件落着かと思われた話。


だが、相手は一度決めたらなかなか曲げない、ある種頑固の名前だ。

もちろん、男の説得に彼女がそう簡単に納得するはずもなく――




「……ぐがーッ……ぐがーッ」


「いってきます……!」



ある夜、それは起こった。

ベッドに大の字で眠り、いびきを掻くポルナレフ。

そんな彼にバレないよう、こっそりと名前はホテルを抜け出した。



――まずは、スタンドが傍に居る人を探さないと……!



街灯が照らす夜道をまっすぐ駆け抜けていく。


久しぶりの(一人で行く)外。

自然と綻ぶ顔。

調査と言えど、晴れやかになる気分。








だから、まさか数十分後の自分がどのような状況に立たされるかなんて、このとき少女は考えもしなかったのである。



「〜〜、〜〜〜〜?」


「え? あ、あの……っ」


「〜〜〜〜!」



細い路地裏の入り口。

周りを取り囲む男五人。

その腰や上着の裏には、禍々しく黒光りする拳銃。


これを可愛いナンパだと思うほど、名前も能天気ではないのだ。


――どうしよう……!


耳を貫いていく怒声。


補足しておくと、何をしたわけでもない。

ただ、突如彼らのうちの一人に引き込まれてしまったのである。


ちなみに、イタリア語の勉強は以前から始めていたが、さすがに本場の会話にはついていけない。



「〜〜〜〜、〜〜!」


「〜〜!」


「っ……痛っ」



ドン――と薄暗さを纏う壁に、勢いよく押し付けられる。

肩や背中へ走る激痛に顔を上げれば、視界に広がるのはにたりと笑っている男たち。



――ッ……血は、吸いたくないけど……。


目的はわからないが、伸ばされるいくつもの手。

下唇をそっと鋭い八重歯で噛み、名前が深紅の瞳を揺らしていたそのときだった。




「うッ!?」


「!? ガハ……ッ!」


「……え?」



地面にバラバラと落ちていく、カミソリの刃。

自分の目の前で倒れた五人の男。

どこかで――正確に言えば原作で見たその攻撃に、目を丸くしつつきょろきょろと首を動かす。


すると――



「!」


「……」


黒を基調としたコートに頭巾。

月明かりを背に浴びた男――リゾット・ネエロが、路地裏と道の境目からただただこちらを見下ろしていた。



「……Non c'è danno?」


「! ッ……(コクコク)」


ひどくゆっくりと紡がれるイタリア語。

おそらく、心配してくれている――とできれば信じたい。

彼の闇を纏った姿をしばらくの間凝視していた名前は、ハッと我に返って大きく頷く。


「……」


かち合う瞳。

そして、ふっと彼女から視線をそらしたリゾットは、少女の前を――すでに息が絶えているであろう死体の上を無表情のまま通り過ぎた、が。



「ま、待ってください!」


クイッと控えめに袖が引っ張られる感覚。

何かあるのだろうか――そろりと振り返れば、何かを言いよどんだ様子のアジア系少女。


一方、右の親指と人差し指でしっかりと男の服を掴みながら、名前はおもむろに口を開き――







「ぐ……っグラッ、ツェ……ミッレ」


今の自分にできる、精一杯の感謝を伝えた。


「! Prego」


ズキュウウウンッ

小さな唇から紡がれた拙い母国語。



だがそれは、リゾットの心を射止めるには十分すぎるほどだった。



「……Come ti chiami?」


「え? あ……コメティキアーミだから、名前……み、ミキアーモ、名前」


「名前……Vieni con me」


「? ……きゃっ!?」



抱き寄せられる身体。

目をぱちくりさせている間に、名前はリゾットと共に路地裏の奥へと消えてしまった。







Prrrrrr...Prrrrrr...



「……もしもし」


『あ、あの……もしもし、承太郎さん?』


「!? 名前ッ、今どこにいやがる!?」


『それは……言えません。でも、イタリアにはいます!』


「テメー……」



名前、そしてポルナレフとも連絡の取れない状況が一ヶ月続いていた。

ようやく少女の声が聞けたかと思えば、返ってきたのはとんでもない反応。



『(怒っていらっしゃる……)と、とりあえず! 私は無事なので……ポルナレフさんのところへ行ってください!』


「は? オイ、どういう意味――」


『あ、もう切らなきゃ……承太郎さん、またかけますね』



プツッ



「…………」


国際電話が切れると同時に、承太郎の堪忍袋も当然のごとく切れたのは言うまでもない。


だが、彼が怒りのあまりイタリアへ赴いたことで、ポルナレフは孤立無援にならず、どこかのギャング組織のボスは彼らによって命を落とした――らしい。









Per il fato
人はそれを、≪運命≫と呼ぶ。



〜おまけ〜



暗殺チームのアジトに異彩を放つ大男。

少女を迎えにきた承太郎はゴゴゴゴと背後に音を立てながら、目の前のソファに座る黒い男――リゾットと向き合っていた。

一方、腕を組む彼の隣には、困ったように縮こまる名前の姿が。


「……帰るぞ、名前」


「え、あ、でも……」


「年下の叔父、紹介してやる」


「!」



興味ゆえか、きらりと輝く紅い瞳。

しかし、それに気付かないほど彼女を連行(誘拐)した男も甘くない。



「名前……帰るのか?」


「ッ、リゾットさん……」


「死が二人を別つまで。そう、約束しただろう?」


「っ////は、い」


「!?(ガタッ)」



なんだそれは。

まるでプロポーズのような言葉を交わしていたことに、勢いよく立ち上がり、二人を見下ろす承太郎。




「……テメーはオレを怒らせた」


「……オレはお前に近付かない」


テーブル越しに繰り広げられる、互いの特徴的なポーズ。

それを傍観していた皆の心が一致した。




とんでもない戦いが起こりそうだ、と。











初めてのif。
いかがでしたでしょうか?
時折、こういった話も書いていきたいと考えています。

ちなみに、
Non c'è danno?→怪我はありませんか?
Prego→どういたしまして
Vieni con me→一緒に来てください
だそうです(間違っていたらすみません)。


お読みいただきありがとうございました!
感想などございましたら、ぜひお願いします。
polka





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