uno

※ギャグ
※一般人、というか平和系ヒロイン
※ペッシくん夢だと言い張る。





「……」


「……」



あるファミリーレストランにて。

私の隣には最近付き合い始めたペッシくんが、困惑した表情で前を見つめている。


そして、その視線の先には――





「で? テメーが……ペッシの女か?」




鬼の形相をした男前がいます。




優しいには
とんだ防犯措置が付いていました。







「あ、兄貴、紹介しやすね! オレの恋人の名前っす」


「こ……こんにちは」


「……」



気まずいムードの中、ぺこりと頭を下げれば、ソファに踏ん反りがえっている男――兄貴ってことはお兄さん?――から鋭い視線が突き刺さる。


なんでだろう。

今にも拳銃で撃たれるのではないか、と危惧してしまうのは。



「それで、名前……こちらがプロシュート兄貴っす」


「う、うん。教えてくれてありがとう」


「……チッ」


「(ひいいいっ)あ、ありがとうございます?」



ため口か? ため口がダメなのか?

慌てて敬語に言い直せば、再び黙り込むお兄さん。



それにしても、全然似てないなあ。




「別に敬語にしなくていいのに……」


「はあ、ペッシペッシペッシペッシよお。女がそうしたいって思ってんだろ……好きにさせてやれ」


「(貴方が舌打ちするからでしょうが……ッ)そうだよ……じゃなかった、そうですよ!」


「兄貴、女じゃなくて名前ですってば。そもそも、どうしてここへ?」



何度も私の名前をお兄さんへ紹介してくれるペッシくん(やっぱり優しい人……好き!)。

そう。そんな彼と私は今日久しぶりにデートをしていたのだ。



お互いに仕事の都合でなかなか会えなくて、今日という日を柄にもなく楽しみにしてたんだけどなあ。


まさか、ファミレスで肩を寄せ合っているところを目撃されるなんて。



「ハン、たまたまだ。たまたま」


「そ、そうなんだ……」


「それより、この名前ってやつとのなれ初めは?」


偶然にしては、本当にタイミングが悪すぎる。

あのときのお兄さんの顔……眉間にしわが寄りすぎてすごく怖かったし。


足を組み、煙草をふかしながら淡々と言葉を紡ぐ彼をちらりと見て、ため息をこぼす。



「えっと、アジトの朝食で出すパンあるじゃないっすか……そこのお店で名前は働いてて、ね?」


「(アジト……?)あ、うん! ペッシくんがパンを運ぶ私を手伝ってくれたことが始まりなん、です」


「ほー……で? どっちから告白したんだ?」


「!」



いつの間にか、質問が拷問に変わっている。

誰かの言葉じゃないけど、その質問は明らかにヤバい。



だってそれは――



「わ……私からです」


心の中で倍増する嫌な予感。

案の定、お兄さんの眉がピクリと動く。



「……テメーから? ほー……それでペッシ、お前はなんて返したんだ」


「え? オレも名前のこと気になってたから、もちろんだよって――」





ダンッ





「「!?」」


「ペッシ、ペッシペッシペッシよ〜」



水の入ったグラス。

それをテーブルへと乱暴に置いた彼は、先程と同じようにペッシくんの名前を連呼する。


唯一違うのは、彼の目が笑っていないこと。




「な、なんだい兄貴」


「この……マンモーニがッ!!」


「!(ひいっ)」


「一丁前に恋愛楽しみやがって。大体、お前に女はまだ早え、早すぎる。一人でシニョリーナも口説けねえ男が、気になったから付き合っただァ? 甘えるのもほどほどにしやがれ! あと、テメーも!」


「!? わ、私ですか?」



マシンガントークに動揺していると、ふとお兄さんの目がこちらを向き、心臓が跳ねる。

もちろん、嫌な意味で。


「どうせ、ペッシの優しさにやられたんだろ?」


「は、はい」


「それはこいつの人柄の中にあるほんの一握りだ。そこしか見えてねえのに、付き合えとか言うもんじゃあねえぜ。テメーは今、恋に恋しただけのバンビーナだッ!」


「! 恋に、恋した……」



彼の言葉に、思わず俯いてしまう。

ペッシくんの誕生日、好きなもの、仕事――私は何も知らないんだ。

徐々に知っていけばいいって、考えてた。


「……」


お兄さんの言うことは正論だ。

≪好き≫って気持ちだけで突き動かされて、私――





ガタッ



「あ……兄貴ッ!」


「……なんだ、ペッシ」


「名前は悪くなんかない……名前を責めるのはやめてくれよ!」


「ッ!」


聞いたことのない怒声にそろりと顔を上げれば、隣のペッシくんが席から立ち上がって叫んでいた。

一方、弟分の反応に少しばかり目を丸くするプロシュート。


「ペッシ。オレの言うことがわかんねえわけじゃあ、ねえんだろ?」


「わかってる、わかってるっすよ! 兄貴の言葉は正しいかもしれない、でも――」




「恋に正しさばかり求めちゃいけないって、教えてくれたのも兄貴じゃないか!」





ざわざわ。

レストランに広がるざわめき。

でも、そんなことが気にならないほど、私はペッシくんの言葉にときめいていた。




しかし。





「大体、兄貴は過保護すぎるんすよ」


「ぺ……ペッシ?」



いつの間にか、彼の話はお兄さんへの愚痴になってしまっている。

ちょ、お兄さん涙目だから……!



「ぺ、ペッシくん! もうその辺にしよ? ね?」


「……名前。でも――」


「こうやって真剣に怒ってくれる人なんて、なかなかいないでしょ? ペッシくんのことをちゃんと考えてくれてる証拠だよ……素敵なお兄さんだね」



感謝の意味を込めて、必死にお兄さんを擁護する私。

ちょっと――ううん、かなり最初から怖かったけど、勇気をもらえた気がする。


ペッシくんのこと、これからちゃんと知っていこう!



「……お前」


「! あ、ごごごごめんなさい、勝手にお兄さんって呼んじゃって……!」



ダメだ。むしろ、火に油だったかもしれない。

どうか穏便に済みますように――と、笑顔を取り繕いながら心の中で願っていると――




「ほ……」


「……ほ?」


「……褒めても何も出ねえぞ(ふいっ)」


「え」



小さく呟いて、そっぽを向いてしまったお兄さん。

その動作によって見える、少しだけ赤い耳。



何、この人。

意外に可愛いかも。



「名前……」


「ペッシくん、またデートしてくれる? ペッシくんのこと……ゆっくりでいいから私に教えて?」


「! オレも、名前のこと知りたいな」



にこにこ。

今日は、デートと言うより三者面談って感じだったけど、たまにはいいのかも。


照れ臭そうに笑う隣の彼に、私も自然と笑みがこぼれる。


「あ。そうだ、名前……手、つないでもいいっすか?」


「え?」


「あ、いや! 嫌だったらいいんすけど……!」


「……ふふ、嫌なんて思うわけないよ」



はい。そう言って、ソファに置かれている彼の左手に、自分の右手をそっと近付けた、が。




「ちょっと待ちやがれッ!」


「わっ」


「兄貴!?」








「手えつなぐのは付き合って一か月! キスは三か月! それ以上は半年過ぎてからだろうが……!」


「「……はあ」」



ペッシくんのセーフティーはいまだ健在のようです。








はい、初ペッシ夢……ですが、なんだろう。
この嫁と姑な感じは(笑)。
おそらくこれからも二人に干渉するんでしょうね、兄貴は。


感想&ツッコミなど、ございましたらどうぞ!
読んでいただき、ありがとうございました!
polka





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