※なんだかんだ言って、愛されヒロイン。
「ねえねえ、ホルマジオジさん」
「おじッ……なんだよ、名前」
「あのさ、ずっと気になってたことがあるんだけど」
すべての元凶は、この新入りである少女が口にした素朴な疑問だった。
「リーダーって、どうして仕事時は革靴に素足なの?」
「……は?」
ホルマジオは思った。
神妙な顔をして言うから何事かと思ったが、心配して損した、と。
「一緒に任務をしたときにね、目撃して……気になって夜も眠れない」
「……よっぽどだな」
「だから、最近は鏡の国のイルーゾォに、夜は付き合ってもらってるの」
なるほど。近頃、イルーゾォがげっそりしているかと思えば、そういう理由があったのか。
正直、同情してしまう。
この男の目があるにもかかわらず、ソファでぐうたらしている彼女――名前は、外見だけはグンバツだ。
中身は――ぶっ飛んでいると言ってもバチは当たらない、はず。
「でね! リーダーと長い付き合いであろう、マジオジさんなら知ってるかなって思って!」
「……なあ」
「ん?(キラキラ)」
「部屋、戻っていいか?」
早く猫と戯れたい。
その意味を込めて、じっと彼女を見下ろせばすぐさま首を横に振られてしまった。
――なんで、こんな目に。
「ダメに決まってるでしょ! 何か、ヒントぐらい教えてよ」
「ヒントってそんな大層な……というか、本人に聞けよ」
おそらくだが、真面目に答えてくれるだろう。
突拍子もないことを言い出す名前の基本的な被害者は、リゾットだ。
以前も、淡々と言葉を紡いでいたのを見たので、大丈夫――そう思いソファから立ち上がった、が。
「……え!? そ、そんなの無理無理!」
「グッ!? おい、名前! 急に引っ張んなって!」
「だって……! リーダーの革靴に、素足に、どんな真実が隠されてるかわからないじゃない!」
それに、誰にも話したくない秘密を抱えているかもしれないし。
――秘密って、なんだよ。秘密って。
あくまで、真顔で考え込んでいる少女に腕を引っ張られながら、ホルマジオが頬を引きつらせたそのとき。
「ベネ! いいところに気が付いたね、名前!」
「ゲゲッ、変態だ!」
「……よォ、メローネ」
よかった。これで解放される。
唐突に現れた変態に、彼は心置きなく名前のお守りをバトンタッチしようとしたが、メローネが放った次の言葉でそれは叶わなくなる。
「実は……リーダーには、とんでもない≪性癖≫があるんだッ!」
「……は?」
「せーへき?」
きょとん。
首をかしげる二人に、男は嬉々として説明を続ける。
「そう、性癖! リーダーはね……自分の靴の強烈な匂いを人に嗅がせるのがディモールト・好きなんだッ!」
「……えーッ!?」
「そして、ファブ○ーズの香りと混ざった、妙な匂いを生み出そうと、日々努力しているに違いない……!」
――うわー、とんでもねェこと言われてんぞ、リーダー。
こんな会話、聞かれた瞬間メタリカだ。
どうにかして立ち去りたい――遠い目をしながら、ホルマジオが抜け出せる隙を狙っていると――興奮した様子で手を挙げている名前が、視界に映った。
「でっ、でも! ≪オレはお前に近付かない≫って言ってたよね!? それって、むしろ配慮してるんじゃ……」
「チッチッ、その逆だよ。よく言うじゃん。触るなって言われれば言われるほど、触りたくなる! つまり、近付かないって言えば言うほど、相手は気になって近付きたくなるってことだ」
「……おお、確かに!」
「いや、名前も納得してんじゃねェよ!」
すかさずツッコミを入れるホルマジオ。
しかし、発覚したリゾットの思わぬ秘密(仮)に、彼らは盛り上がることをやめない。
「でもさでもさ! もう一つ、考えてる答えがあるんだよね!」
「なんだッ? この≪性≫義の味方であるメローネお兄さんに言ってごらん!」
「うん! あのね……そもそも、インナーすら着ていないリーダーに、≪靴下≫という概念はあるのかなって!」
「……おいおい。さすがに、それは失礼だry」
「なん……だと!? イイ……ベリッシモ良好な発想だよ、名前ッ!」
「ほんと!?」
ダメだ、こいつら……もう放っておこう。
そうしなければ、自分にまでとばっちりが飛んできかねない――意気投合する彼らに、ホルマジオはひっそりため息をつき、その場を去ろうとした。
ゴゴゴゴゴゴ
「……あ」
だが、もう遅かったのである。
数分後、リビングには正座をする名前とメローネ、そしてなぜかホルマジオがいた。
ちなみに、床にはカミソリなどが転がっている。
項垂れる彼らを見下ろすように、仁王立ちをしたリゾットが、おもむろに口を開いた。
「まったく……お前たちは」
「……うう」
「最初に言っておく。オレはメローネの言うような性癖は持っていない。それに、愛用しているのはファ○リーズではなくリセッ○ュだ」
「「え!?」」
ギロリ。思わず意外そうに声を上げれば、鋭く睨まれてしまう。
だが、もう一つの真実が気になって仕方がない名前はおずおずと口を開いた。
「じゃ、じゃあ……リーダー、一つ質問!」
「……許可しよう」
「リーダーは、靴下という存在自体を知らないの?」
・・・・・・。
しばらくの間が開き、リビングを支配したのは深いため息。
「……知らないわけがないだろう。クリスマスイブの夜、名前がサンタさんからプレゼントをもらうために、置いているモノはなんだ?」
「リーダーが見繕ってくれた靴下……ハッ!」
「そこからわかるはずだ……つまり、オレは靴下の存在を把握している。わかったなら、もう変な質問はするな」
「えーッ!?」
唇を尖らせる少女に対し、ダメだと言い張るリゾット。
けれども、それで諦めていたら、暗殺チームのメンバーは務まらない。
男から視線をそらした彼女は、その後ろでくつろぐプロシュートに向かって声をかけた。
「うわーん、マードレ! パードレが発想の自由を許可してくれないよー!」
「ハン! 名前……オレはお前みたいなじゃじゃ馬娘、産んだ覚えはねえな」
「!? そ、そんな……っ」
あっさり。
本当にあっけなく躱されてしまった。
ショックでよろめき、絶望のポーズを取る名前。
全員が、彼女の次の動向に注目していると――
「いいもん! こうなったら、前に話しかけてきた≪カビのおじさん≫のとこに嫁いでやる!」
「「……は?」」
やけくそなのか、彼女が叫ぶ。
しかし、その≪カビ≫という言葉に、男たちは即座に反応した。
「カビって……」
「お、オイッ! ソイツの髪、まさかピンクとか言わねえだろうなアアア!?」
「おお、すごい! 当たってるよギアッチョ! ≪一緒に時を再始動してみないか≫とか、なかなか面白い口説き文句を言う人だったんだよねえ……でも、どうしてわかったの? もしかしてエスパー?」
「……お前たち、行くぞ」
「「「「「「おう」」」」」」
リーダーの一言とともに、アジトから出て行ってしまったみんな。
その後、なぜか服を真っ赤に染めて帰ってきたけど……理由は聞かないことにした。
問い:革靴に隠された真実を述べよ
答え:今度は私が、リーダーに靴下編んであげよっと。
![](http://img.mobilerz.net/sozai/1609_w.gif)
そう言えばリーダーって、素足だよな――という発想から出た話でした。
結果、まさかのボスにとばっちり。
ごめんね、ボス! なんだかんだ言って、嫌いじゃないよ!(弄りがいがあって)
感想などございましたら、clapにお願いします!
読んでいただき、ありがとうございました。
polka
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