ヒヤリ。
突如、額へと感じた冷たさに、リゾットはゆっくりと瞼を開けた。
「あっ……ごめんなさい、起こしてしまいましたか?」
「……名前……?」
申し訳なさそうに眉尻を下げつつも、ホッとした表情を見せる少女に、彼は一瞬戸惑う。
――オレは、いったい、何を……。
「熱は……少しだけ下がったみたいですけど、まだ寝ていてくださいね」
「……」
視線だけをそろりと動かせば、天井。
そうだ、自分は媚薬を誰かに仕込まれて――
「今、何時だ?」
「へっ? えっと……十二時は過ぎたと思いますけど……」
「十二、時……?」
リゾットが眠りについたのは、確か九時前。
おそらく、名前は今までずっと自分を看病してくれていたのだ。
「ッ……」
ボトリ。額にあった白いタオルが布団へと落ちる。
「ちょ、リゾットさん!? ダメですよ、まだ起きたら……!」
慌てて、起き上がろうとする男の肩を押す少女。
いまだ本調子ではないことを悟り、引き留めてくれているのだろう。
「名前……オレは大丈夫だ。だから、ここへおいで」
「私は気にしなくていいんです! ほら、ベッドへ戻ってください!」
「……だが」
「早くしないと、強引にでも寝かせちゃいますよ!?」
かなり頑固である。
それを意外と感じるとともに、彼女の口にした≪強引に寝かす方法≫が気になったのも否めない。
静まる部屋で、しばらく対峙する二人。
「…………わかった」
一分後――鋭くこちらを見上げ続ける名前に、根負けしたリゾットは小さく首を縦に振った。
「だがその前に、汗を拭くためのタオルを貸してくれないか?」
「はいっ」
安心したのか、嬉々として彼女がタオルを絞りなおす。
そして、その受け渡しのために二人の手と手が重なり合った瞬間だった。
「ッ……!?」
また、だ。
どうやら、かなり継続性のある≪代物≫だったらしい。
目を見開き、ピシリと固まってしまった男。
「え? あの、リゾットさん? どうされ――」
たんですか?
不思議に思った名前が彼の隣へ――運の悪いことに枕側へ――近づいたそのとき。
ドサッ
「……ぁ、え?」
「クッ……名前、っは……はぁ、はぁ」
後頭部が捉える、布特有の柔らかさ。
少女の視界には、こちらを見下ろす少し眉がひそめられた端整な顔と、見慣れた天井。
そこでようやく悟る。
自分が今、置かれている状態というものを。
「ッ……名前、名前……」
「リゾッ、トさん……これはいったい――――ひあっ!?」
彼の熱が、服越しでも伝わってくる。
どうにかして解放してもらおうと、名前が思案を巡らせていた刹那、突如首筋へと落ちてきた柔らかく湿った感触に、思わず身体が震えた。
「なっ、なに、して……っぁ」
「はぁッ……っく、すまな、い……、止まりそうに、ない……んん」
「や、ぁあっ!」
彼女の、この白い肌が美味しそうで、たまらない。
いや、きっと極上に違いない。
うっすらと脈の浮かぶそこを食み、舐め、吸い、そして甘く噛み――少女の顔へ視線を戻せば、雫が零れ落ちそうなほど潤む深紅の瞳が見える。
――ああ、ダメだ。もっと……もっと、名前が欲しい。
「名前……オレは、ッ」
「んっ、ぁ、リゾット、さ……ッ」
熱に浮かされた顔が、互いの瞳に映っている。
小さく首を振りつつも彼女が本気で抵抗しないのは、リゾットだからこそなのだろう。
――私、自覚してるんだ……リゾットさんになら、≪いい≫って……。
再び吐息交りの男の唇が、首元へと近付く。
そして、次に来るであろう快感に耐え忍ぶため、名前は強く目を瞑った、が。
「……」
「? ……リゾット、さん……?」
「……すー」
「えっ」
耳に届いた寝息。
その瞬間、緊張などすべてが抜け去り、思わずため息を吐き出してしまう少女。
――少しだけ複雑……なんて、思っちゃいけないよね。
苦笑を漏らしながら、ごそごそと男との間に挟まれていた手を取り出す。
そのままリゾットの額へそれを合わせれば、かなり熱は下がったらしい。
顔も、もう赤くない。
「とりあえず……よかった、かな」
後はこの≪状態≫だけだ。
――リゾットさん、寝相悪くないから……一晩、このままだろうなあ。
いつも抱き込まれてはいるが、それとは別問題である。
胸を占める気恥ずかしさに、今度は違う意味で赤面しつつも、どうしようもない名前は静かに瞳を閉じた。
Philtrumに溶ける
甘い毒は、いかが?
〜翌日〜
「あ、名前、おはよう! ね、ね! リーダー、どうだった? 優しく……はできなかっただろうなあ。腰、痛くない?」
「……? あの、メローネさん? 話がよくわからないんですけど……」
「おっと、しらばっくれるのはなしだぜ! 二人があまりにもじれったいからさ、リーダーの夕飯に即効性の媚薬を――」
「……なるほど、な」
「「あ。リゾットさん(リーダー)」」
その後、メローネは少女の知らぬところで、相応の制裁を受けた――らしい。
![](http://img.mobilerz.net/sozai/1609_w.gif)
リーダーと連載ヒロインちゃんでした!
Philtrumとは、イタリア語で媚薬だそうです。
あの二人は確かにじれったい……管理人自身そう思っております(笑)。
≪きっかけ≫はいつか連載でも出すつもりなので、見守っていただけたらと思います。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
polka
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