※長編「Uno croce nera...」の番外編
※微裏
※リーダーが、何かを仕込まれたようです。
「……っ」
おかしい。
明らかに身体がおかしい。
夕飯後、ソファでくつろいでいたリゾットは、自分の身体に違和感を覚えていた。
「っ、はぁ……」
乱れ始める息。
逸る鼓動。
そして――熱を帯びる全身。
「……くっ」
リビングに誰もいなくてよかったと、本気で思う。
このような姿を知られれば、ネタとして弄られるか部屋へ送られるのがオチだ。
――だが、今日は早く寝るべきかもしれない。
ふらりと立ち上がった彼は、残った仕事をいつ片づけるか考えながら、静かに歩き出した。
「は、ぁ……はあッ、は……」
覚束ない足で廊下を進む。
ようやく見えた自分の部屋の扉に、長かったといつもは思い至らないようなことを頭に浮かべ、苦笑を漏らすリゾット。
そして、ドアノブをそっと押せば――
「あ、リゾットさん、こちらに……え?」
「名前……っ」
ベッドにちょこんと座る少女の姿が。
一方、明らかに様子のおかしい男を見て、名前は慌てて彼のそばへ駆け寄った。
「ど、どうしたんですか?」
「……なんでも、ない」
「なんでもないわけありません! 顔もすごく赤いですし……」
そう呟き彼の顔を覗き込んだ名前は、すぐさま右手を伸ばし――
「ッ!?」
ビクッ
「きゃ……っ、リゾットさん!?」
額に白い手が触れた刹那、屈んでしまったリゾットに対し、大きく目を見開く少女。
「っ、だいじょう、ぶだ……はあッ、寝れば……治る」
「い……いいえ、寝るだけじゃダメです! 病院には行けなくても、こんな熱じゃ……お薬探してきます!」
「名前……!」
彼の制止も聞かず、彼女が部屋を飛び出す。
しかし、これはこれで助かったのかもしれない。
――名前に触れられた瞬間、何が起こったのかわからなかった……。
一瞬にして駆け巡った、甘い痺れ。
この正体が何かわからないほど、リゾットも幼くはない。
――いったい誰が、何のために……。
ぼんやりとし始めた頭では、目的すら想像することができない。
一つわかるのは、このまま起きていれば――名前を襲ってしまいかねないということ。
鉄壁ともいえる彼の理性も、今や簡単に崩れてしまうだろう。
おそらく、もう一度彼女に触れられれば――
――寝よう。深く眠ってしまえば……過ちは起こらないはずだ。
屈んだ状態で結論を出した男は、少女が戻らないうちに熟睡状態でいようと、焦りを抱きつつベッドへ身を投じた。
それが≪仇≫になるとは知らずに――
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