「っは、はあ……は、ぁッ」
誰もが眠りについているであろう、真夜中。
静まり返った街中を、名前はただひたすらに走り抜けていた。
「ぁ、はっ、はあッ、っ!」
逃げなきゃ。
逃げなきゃ。
逃げなきゃ――
何も履いていない足が悲鳴を上げる。
だがそれでも、少女には走らなければならない理由があったのである。
息切れも、疲労感も、気にする余裕なんてない。
――どこか……どこでもいいの! 隠れるところさえあれば……!
コンビニ。アパート。最悪、路地裏でもいい。
まさに≪必死≫の二文字を表情に浮かべて、周囲を見回していたそのとき。
ドンッ
「ッ……!」
地面から腰や手へと伝わる、痛みの入り交った衝撃。
小さく顔を歪めていた名前は、今≪何≫にぶつかったのだと思い至り――勢いよく顔を上げた。
「わ、悪い! 大丈夫か?」
「……」
夜に紛れない服。
虫ですら殺めたことがないような、優しい笑み。
こちらへ伸ばされる傷一つない手。
「……ダ、メ……」
「え? って君、どうして裸足で……」
――違う、この人は≪ただの通りすがり≫……!
「ダメ、ダメッ!」
「!? お、落ち着けって……!」
――お願い! お願いだから……逃げて!!!
そうじゃないと、彼が――――
ザシュッ
「!?」
刹那、目の前の男がゆっくりと崩れ落ちていく。
数秒前に自分へと降りかかった温かい何か。
それを確かめようとした名前の耳に、カツンと靴音が届く。
「……!」
その、想像以上に近くで響いたそれに、≪絶望≫を抱きながら少女が顔を上げれば――
「まったく。名前は、本当にかくれんぼが好きだな」
「……ぁ、あ……っ!」
夜に紛れる服。
何人もの人を殺めてきた、深い深い笑み。
こちらへ伸ばされる傷だらけの手。
「今度は、この男の後ろにでも隠れるつもりだったのか?」
「っ、ち……ちが……」
「だが、その前にオレが見つけてしまったな」
あくまで優しく自分を立ち上がらせ、引き寄せる男。
抵抗なんて、できない。
だからこそ――≪逃げること≫だけが、名前にとって唯一の抵抗だったのに――
「安心しろ。名前が何度、どこへ、いつ隠れたとしても……オレが必ず見つけ出してやるから」
それすらも、彼――リゾットは完璧に覆してしまうのだ。
男は少女を安心させるためか、終始口元を緩めている。
しかし、名前はわかっていた。
彼の美しくも暗さを湛えた赤い瞳が、一切笑っていないことを。
「ぁ……ごめ、なさ……っ」
「……わかってくれればいい。さ、名前……オレたちの家に帰ろう」
不意に、横抱きにされる己の身体。
「名前、ご飯をちゃんと食べるんだ。オレが抱き上げるたび、軽くなっているじゃないか」
「帰ったらお風呂に入ろうな。いろいろな≪モノ≫に触れたんだ……丹念に洗ってやるから」
「髪も少し切らないといけないか? 名前のこの長い黒髪も好きだが、たまには思い切って短くしてみるのもいいかもしれないな」
「夜は……思う存分、愛し合おう。お前の震える肢体、嬌声、瞳……すべてが愛しい」
一人話し続ける彼の視界に、肉塊と成り果てたあの男はきっともういない。
ふと、連ねていた言葉を止めたリゾットは、少女の顔を覗き込み――今度こそ本当に≪笑った≫。
「……名前? ああ、泣いているのか。まったく、可愛い奴だ」
彼にとっては≪嬉し涙≫に見えるそれを、名前はただ流し続けることしかできなかった。
隠れたがりの私と、闇を纏った鬼
――見つかれば、ジ・エンド。
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リーダー初が、ヤンデレ(仮)……だと!?
管理人がヤンデレが好きなばかりに……わざとじゃないんです。むしろ、愛ゆえです。
いろいろ精進しなくてはなりませんが、ヤンデレも研究していけたらと思います!
お読みいただき、ありがとうございました!
polka
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