uno

※切微甘
※グロ(?)表現あり












――ブスリ


「うぐ、ぁァアッ」


「……」



この、刃が皮膚を突き刺す感覚が、一番嫌いだ。


轟く断末魔。


それをどこか遠くで聞きながら、名前は手に持つナイフの血を振り落した。



「……これでセキュリティーが万全だなんて、呆れちゃう」


鳴りもしない警報に、思わず彼女は嘲笑する。


もちろん、それを鳴らないようにしたのは、自分なのだが。


「……≪裏切り者≫はどっちなんだか」


人間から肉塊へと変わり果てたターゲットを見下ろしつつ、ふと彼が叫んだ最期の言葉を思い出す。


歪みに歪んだ顔。


こちらを嘲るような言葉。


「気に入らない」


グシャリ


音とともにブーツを染める血飛沫。


それすら気に留めずに、名前はただただ≪肉塊≫を踏み続けた。










ピリリ ピリリ  ピッ




『……んだよ』


携帯を開き、≪1≫のボタンを押せばつながる電話。


ちょうど触ってでもいたのか、意外にも早く無機質な呼び出し音から馴染みのある声へと切り替わった。



「終わった」


『チッ……裏で待ってろ』


「うん。ありがと、ギアッチョ」


そう呟けば、もう一度彼の舌打ちが耳に届いて、名前は小さく笑ってしまう。


――なんだかんだ言って、優しいんだよね。



ギアッチョと名前が暗殺チームに配属されたのは、ほぼ同時に近かった。



そのこともあってか、二人で組まされることも多く、どちらがこうだなどと言い争った日も少なくない。


もっとも殺し合いにまで発展しそうになったのは、「どちらがリーダーと組むか」という論題だった。


当然、リゾットからは制裁という名のメタリカを二人して食らったのだが。



――そう言えば、私がしくじったときもあったな。


ターゲットは始末した。だが、動けないほどの痛手を負ったのだ。


このときの相棒はギアッチョ。当然、このようなヘマをする自分なんか放っておくと、腹をくくっていたのだが――


「オイ。テメー、何してんだ」


「……え、っと。足やられちゃってさ、あはは」


「……」


「だから、あんたは先帰りなよ。私は、後で行くからさ」


きっと追いつくことはできずに、失血で倒れる。


わかっていながらも、にへらと笑い、名前は小さく右手を彼に向かって振った。


「チッ」


「? ねえ、早く行ってくれないと――」


「ッうるっせエエエエエ!!!」


「!」


耳を劈く彼の大声。


こんなときに限って何を――そう呆れた瞬間、浮き上がる身体。


「え、っ!? ちょっと! 何して……ッ」


「片足が使いもんにならねえクセしてよオ、よく追いつくとか言ったなアアアア?」


「ッだからって、あんたの肩は借りな――痛!」


「クソッ! 血の気ねえんだろうが……もう黙りやがれッッ!」



――結局、私を助けてくれたんだから。



あの後、無事アジトへは辿りついたが、リーダーからはこっぴどく怒られた。


だが、今ではいい思い出……にはさすがにならない。


――だってすごく怖かったし……仕方ないじゃない。



そして、名前はその日を境に、ある≪誓い≫を心の中で立てた。


それは――――






「ッ……あれは」


突如、暗闇から現れたヘッドライト。


――私も、年とったなあ。



昔の思い出に浸っていたという事実に、名前は自嘲の笑みを浮かべる。
そして、迫る光に眉をひそめながらも携帯をポケットへ押し込み、車へと近づいた。




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