02
※童話『シンデレラ』パロ
※改変あり

シンデレラ:連載ヒロイン
継母:プロシュート
姉1:メローネ
姉2:ギアッチョ
魔法使い:イルーゾォ
王子:リゾット
国王:ホルマジオ
従者:ペッシ





昔むかしのことです。


森に囲まれた美しい池のほとりに、≪シンデレラ≫と呼ばれる女の子の住む家がありました。

そこには、お父さんとお母さんと彼女の三人で暮らしていましたが、お母さんが病気で亡くなり、さらにはお父さんも亡くなってしまったことで、シンデレラは義理の母親とその娘二人で四人暮らしをしていました。



「えっと……次は」


「シンデレラ! 洗い物は済んだのか?」


「! はいっ、ただいま……!」


しかし、彼女たちとの暮らしは少女にとって心苦しいものでした。

三人は血の繋がっていないシンデレラを、ひどくいじめるのです(そのうち約二名が何事にも懸命なシンデレラの姿を見て、いじらしさ故にニヤニヤしているとは、まさか少女も想像していないでしょう)。


特に――



「ン!? シンデレラッ!」


「ひゃっ! お、お姉さま……あの」



年が離れた方の姉によるいじめ(という名のセクハラ)には、かなり悩まされていました。

彼女は毎日と言っていいほど、家の掃除をするシンデレラを後ろから羽交い締めにした上で、ボロボロになった服越しの柔肌を弄ろうと手をじわじわ這わせてきます。


「あ……どうして、んっ」


「ハア……身体検査だよ、身体検査。それより、ハアハア……また胸が大きくなって……どうせオレたちに隠れて食べ物でもくすねたんでしょ? 正直に答えなよ、シンデレラ」


「そ、そんなっ……違います!」



荒い息を耳で捉え、必死に身を捩るシンデレラ。

ですが、そのような抵抗は残念ながら変態には通じません。


強いて言うなら、姉の加虐欲をより煽るだけでした。



「ふーん……姉であるオレに嘘も付くなんて、シンデレラはディ・モールト悪い子だねえ。ほら、部屋においで……ハアッ、オレが直々に君を調教してあげるからさあ!」


「ひっ」


凄まじい力で腕を引き寄せられ、まさに絶体絶命の事態。

引きずったような靴跡を床に残しながら、シンデレラが恐怖に目を瞑った――そのときでした。


「おい、何やってんだ」


「お義母様……!」


「シンデレラ、オメーはさっさと洗濯に行ってこい。一つでも取りこぼしがあったら承知しねえからな」


「……、ちぇー」



ようやく解放された身体。

刹那、弾かれたように少女は、継母の言いつけ通り洗濯をしなければと駆け出します。





ところが、彼女の苦難はこれで終わりではありません。



「ったく……まだ終わってねえのか」


「ご、ごめんなさい……」



今度は義母によるお小言です。

その上、



「いつもやってるってのに、どうしてこう遅いんだ。……こりゃあ最初っからしつけ直してやる必要がありそうだな」


「! ぁ……っ」


「ククッ、怯えた顔しやがって……怖えか?」



この母あって、あの娘あり。

逃げようとした少女の細い腰を、お義母さんはすかさず抱いてしまいます。


二人によるシンデレラへの≪性的なちょっかい≫は、もはや日常茶飯事と化していました。


当然、≪怖がらなくていい≫――そう言いたげに、にやりと笑いながら顔を近付けてくる美しい母に対し、シンデレラが恐れをなさないはずがありません。



「〜〜あ、あのっ、私夕食の準備をしてきます……!」


「ッ、おい! 話はまだ…………チッ」








たとえ、蝶よ花よと生みの両親に育てられたとしても、一般常識は持ち合わせているシンデレラ。

さすがに母と姉の態度がどこかおかしいことはわかります(その理由はわかっていませんが)。


むしろ年の近い姉によるいびりが、まともなものに見えてしまうほどです。



「オイ、ここ汚れてっぞ」


「あ……ごめんなさい、お姉さま。今すぐ拭きます!」


「……おう。って、そこまでやれとは言ってねえだろうが! 余計なことはすんなッ、ボケが!」


「は、はいっ」


「チッ(まア、こんだけコイツに仕事を押しつけときゃ、あの変態とババアも近付けねえだろ……って、どーして俺がンなこと心配しなきゃならねえんだよッ! これって納得いくかアアアアア!?)」




このままでは、なんとか守り抜いていた貞操はいつか奪われてしまう――シンデレラの胸中で無意識のうちに育まれた危機感。


そんなときでした。











「舞踏会、ですか……?」


「うん、あのおっきな城でやるんだよ。どうも、結婚にまったく興味のない王子様を見かねた王様が、息子のベリッシモイイ奥さんを探すために開くんだってさ」


「そ、そうなんですか」


奥さん候補に名乗りを上げるつもりは皆無ですが、舞踏会という言葉に湧き上がる興味。

自分と年の近い姉が面倒くさそうに持つ、一枚の手紙を見つめたシンデレラは深紅の瞳をキラキラと輝かせます。


しかしそれを一瞥したお義母さんは、少女に対して無慈悲な命令を吐き出しました。



「シンデレラ。自分の仕事を忘れてねえか? それがすべて終わるまで、オレは舞踏会の参加を許さねえからな」


「! ……わかりました」




しょんぼり。

がくりと肩を落とした娘を視界に入れて、微かな良心が痛みます。

ですが、シンデレラをどこぞの貴族に嫁入りさせるつもりはまったくありません。


実はそんな想いが、継母と姉たちそれぞれの心に渦巻いていたのです。


とは言え、妹の意気消沈する姿に見かねたのか、年の離れた方の姉が慰めるように彼女を抱き寄せました。



「だいじょーぶ。お土産話ならちゃんとしてあげるから……オレの部屋でね」


「え? お姉さま、あの、少し近いです……っ」


「テメーなアアア……いちいちコイツに近付いてんじゃねえぞ! クソがッ!」



自分の左右で言い争う姉二人。

それに狼狽えながら、シンデレラはそっと誓います。


「(お仕事を全部終わらせたら、行ってもいいんだよね……頑張って終わらせよう、うん!)」









そして、舞踏会当日。


掃除に洗濯、さらに料理。

ほぼ押し付けられたに等しい仕事すべてを、少女は一生懸命進めました――が。



「もう10時……」



いつも以上に仕事の量が多かったことで、徐々に彼女の心は再び沈んでいきます。


おそらく、今からお城に向かっても、参加はできないでしょう。


「(……それに)」



よくよく考えれば、ドレスも靴も自分にはありません。



「行きたかった、なあ」


池のそばで作業を続けるシンデレラ。

ぽつりと呟かれた想い。


今頃、お義母様とお姉さまは――三人が帰ってきたらお話を聞かせてもらおう。

水面が揺れる池をじっと見つめたまま、少女が静かに目を伏せた、そのときでした。



「シンデレラ?」


「……えっ?」


「そんなところで、何してるんだよ」




突然耳を掠めた声に慌てて振り返れば、闇色のケープに不思議な三角帽子を被った人物がいました。

知らない奴はまず疑え、と継母にきつく言われているシンデレラは、後退りつつ少しばかりの警戒を示します。



「あ、あの……貴方は?」


「オレ? オレは魔法使いだよ。世界で一番優秀な、ね……って、それより早く行かなきゃダメだろ!」



行く?

どこへ?


きょとんとする彼女の腕を、魔法使いと名乗る人は焦った様子で引き寄せました。



「どこってお城だよ、お城! 舞踏会に間に合わなくなるって……!」


「! い、今からじゃ無理ですよ……っそれに、私の服はボロボロですし」


「ボロボロ? そっか、確かにドレスがいるよな……、わかった。オレに任せてよ!」



そう言って、魔法使いは何かをケープの中から取り出しました。



「これを持って、今欲しいものを≪許可する≫って唱えて!」



簡単すぎる説明に、何か――装飾の施された手鏡を小さな手に押し付けられながら、不思議そうな顔をする少女。

ですが、時間は待ってくれません。



「さあ、早く!」


「ええっ、えっと……ど、ドレスを……≪キョカ≫、します……?」






次の瞬間でした。


「え、えっ……ええ!?」



使いすぎてかなり汚れてしまっていた服が、あっという間にスカイブルーの美しいプリンセスドレスへと変わったのです。

シンデレラが己の身なりにひどく動揺する一方で、魔法使いは嬉しそうにその姿を見つめています。



「うん。すげえ可愛い。……今度は靴だね」


「(これは……夢、なのかな……)あ、はい。えと、ドレスに合う靴をキョカします……、っわあ!」



刹那、自分の足を纏うガラスの靴。

彼女の紅い瞳はさらに丸くなるばかりです。


すると、その様子を窺うように、魔法使いが少女の顔を覗き込んできました。



「どう? 気に入った?」


「はいっ! ま、魔法が本当にあるなんて思わなくて……すごいです!」


「だろ?」



目の前には、得意そうな顔。

これほどドヤ顔の似合う魔法使いは、世の中にそういないでしょう。


それから、シンデレラに褒められて嬉しい彼は彼女が持ってきたカボチャを馬車に、さらに友人の元から連れてきたというネズミを、馬と馬車を操る御者に変えてしまいました。


めくるめく変化に驚く中、少女は――



「楽しんでおいで!」


馬車へ乗るよう促され、城へと向かうそれにただただ身を委ねるのでした。

しかし、シンデレラを見送っていた魔法使いは、ハッとある約束事を思い出します。



「あ、忘れるところだった……! シンデレラッ、12時になったら魔法は解けるからな!」


「12時……はい、わかりましたっ! 色々とありがとうございました……!」



離れていく馬車。


「……うまくいけばいいけど」



小さくなったそれから目を離すことなく、願いに近い言葉をこぼす魔法使い。

しばらく馬車を凝視していた彼は、「さーて、帰ろ」と呟きながら仄暗い闇夜へと姿を消しました。









一方その頃。



「……」


城の王子は近付いてくる人々を真顔でやり過ごしつつ、王様との会話を思い出していました。



「なァ、王子。頼むって」


「……何がだ」



淡々とした返答。

密かにため息をこぼした王は、苦笑と共に言葉を紡ぎます。



「頼むから、早く俺の……父ちゃんの後を継いでくれよ」


「なぜ」


「≪なぜ≫ってなァ……大体、俺には王様なんてモン性に合わねェし、公務なんか忘れて可愛い猫と一日中戯れていたいんだって」



どうせ本音は後者だろう――心の中で毒付いた王子は、すぐさま首を小さく横へ振りました。



「断る」


「……ハッ、だと思ったぜ」



浮かぶ乾いた笑い。

どこまでも結婚に興味のない王子。



だからと言って、国王もずっとこのままのつもりはありません。



「つーわけで、舞踏会開くから」


「は?」


「いや前々からな、開こうとは思っててよォ……まッ、ついでに王子も別嬪な奥さんを探せるしいいよな!」


「……」







「はあ……」


身を包む喧騒。

自然と、深いため息を吐いてしまいます。

適当に躱して、さっさと部屋に戻ろう――そう固く決心し、顔を上げたその瞬間でした。



目の前に、愛らしい≪妖精≫が横切ったのは。



「!」


「(すごい……! なんて煌びやかなんだろう……)」


その正体は、見違えたように美しいシンデレラでした。

ですが、元々玉の輿に興味があるわけでもない彼女は、まったく王子の存在に気付いていません。


黒目がちの瞳を大きく見開いていた王子は、慌ててその腕を掴みました。



「ひゃっ」


「すまない。一曲、踊ってもらえないだろうか」


「? あの、え?」



少女の目の前には白銀の髪を揺らし、深い色の双眸を持つ男性が。

ただ、瞬きをしている間にも、意外に強引な王子はシンデレラを引き寄せてしまいます。


「!?!? わ、私……ごめんなさい、ダンスができなくて……っ」


「構わない、オレがフォローする」



一体自分の身に何が起こっているのでしょう。

なんとか動かす足。


時折否応なしに捉えてしまう体温と鼓動に、彼女は顔を真っ赤にしていました。



「……(ちらっ)」


「(じー)」


「ッ! えっと……ダンス、お上手ですね(うう、これぐらいしか話題が思い浮かばない……)」


「そう、だろうか。……まあ、ずいぶん幼い頃から習わされていたからな(この子、気付いていないのか?)」



初対面ということもあり特に決まった話題もなく、言葉数も少ない男性(王子)。

とは言え、名も知らぬ彼からもたらされる優しく心穏やかな雰囲気は、いつの間にか少女にとって居心地の良いモノとなっていました。






ところが、時間というのは無情にも過ぎてしまうものです。



「! あっ!」



鳴り響いた、12時を知らせ始める鐘の音。

魔法使いとの≪約束≫を思い出したシンデレラは、慌てて王子から離れ外へと駆け出します。



「〜〜ごめんなさいっ」


「!? ま、待ってくれ! せめて、君の名前を……!」


必死の叫び。

けれども、残念ながらその声は彼女の耳に届きません。


一方、ひどく重いドレスを抱えつつ階段を下りた少女が、視界に馬車を捉えた刹那。




「きゃっ!?」


カラン、という音と共に消えたガラスの感触。

とは言え自分の元に戻った姿は彼に見せたくないと、シンデレラはそのまま足を動かし続けました。




「……行って、しまったか…………、ん? これは」


まさか残していったガラスの靴が、自分の将来に関わることになるとは知らずに。










それから数日後。



「(あの人のお名前、聞いておけばよかったな……って、聞いても会いに行けるわけじゃないし、意味がないよね)……あれ?」


いつも通り、家の掃除をしていたシンデレラは、ふと外から聞こえた口論に首をかしげます。

お姉さま二人が喧嘩しているのだろうか。そんなことを考えながら、出来ていたドアの隙間を覗いてみると、そこには――



「もう一人は絶対に呼ばねえからな! 諦めてこいつらのどっちかを、その王子様とやらのとこに連れてけ! なんなら、オレが直々に赴いて、そいつをボッコボコにしてやってもいいぜ?」


「ヒィッ……け、けどよお兄貴、ピッタリ合う人が見つかるまで全員に履かせろって言われてるし、そもそも絵面的に無茶っすよ! 三人共明らかに女性じゃ――グエッ」


「俺らが、なんだってエエエエ?」


「あははは、ねえ≪従者≫さん。それは言わない約束だよね? ん?」



不思議な髪型をした男性が、継母と姉に囲まれていました。

どうやら、自分を出す出さないで揉めているようです。



居ても立ってもいられなくなった少女は、そっと扉を開け、外へと一歩踏み出します。



「……あの」


「「「「!」」」」


突き刺す全員からの視線。

それに萎縮しつつ、彼女はおずおずと四人の元へ歩み寄りました。



「シンデレラ!?」


「ッ、こンのバカ……!」


「あ……お、お嬢さんにもぜひこの靴を履いてみてほしいっす」


差し出されたガラスの靴。

シンデレラはわけもわからぬまま、今履いている靴を脱ぎ、足を近付けた――次の瞬間のことです。


家の近くに置かれていた後ろの馬車から、一人の人物が出てきました。



「え……」


その姿に、彼女の唇から思わずこぼれる音。



「うっわ、すっげえムキムキ。あれってまさか――」


「王子……!」



焦燥を交えた従者の声。


屈強な身体。

端整な顔、姿。

溢れんばかりの気品。


そう、現れたのはあの夜、シンデレラとダンスを踊った相手――王子です。




「降りてきちゃダメっすよ!」


「なぜダメなんだ。というより、まどろっこしい方法ではなく、実際自分で見た方が早いだろう」


「「「(まあ確かに……)」」」



継母と姉が同意する中、不意に男と目が合ってしまった少女は、急いで家へ踵を返そうとします。

ところが。



「待ってくれないか」


「ッ、あ、あの……私お仕事があるので……!」


「……その声。やはりあのとき、オレの前に突如現れたのは……君だな?」


「!?」



すかさず掴まれた肩。

再びかち合う瞳。


暴れ出す鼓動。

きっかけは外見や雰囲気であっても――今、王子は彼女の今の姿も服も身分すらも憚らず、ただその美しい眼の奥に映る≪心≫を見つめていました。



「一目見た時から君に夢中になっていた。……結婚してくれ」


「!」



視線をそらすことは、できません。

シンデレラもまた、たとえ今の状況が夢であっても、目覚めたくなかったのです。


嬉しさと照れ臭さではにかんだ彼女が、応えようと静かに口を開いた――そのときでした。




「ちょォ――っと待ちやがれ!」


「! お義母様……」



二人の間に入ったお義母さん。

突然出てきた王子とやらに(実は愛してやまない)娘を奪われるなど、許せるはずがありません。



「おい。こいつを連れてくって言うなら、オレらも城に住まわせろ! このムッツリ王子!」


「ちょっ、王子に対してその言葉は――」


「いいだろう」


「え、いいんすか!?」






「ただし、娘さんとの結婚は認めてもらうぞ」


「あは、それはあんた次第かもね。こっちは三人なんだからさ」


「コイツとの結婚、納得させてみろよ! ボケがッ!」




それからと言うもの、なぜか継母や姉と王子との間に発生した≪いがみ合い≫は続いていき――



「ど、どうしてこんなことに……でも、楽しいからいっか(にこっ)」


「よくないぞ。オレは早く君と結婚――」


「「「まだ認めてねえ!」」」



と、なかなか騒がしくも充実した日々を過ごしましたとさ。

めでたしめでたし。









連載×童話
La Cenerentola
〜シンデレラ〜



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