※童話『赤ずきん』パロ
※改変あり
赤ずきん→連載ヒロイン
お母さん→ホルマジオ
おばあさん→プロシュート
狩人→メローネ
狼→リゾット
ナレーション→ペッシ
むかしむかし、あるところに≪赤ずきん≫という女の子がいました。
赤ずきんから黒髪を覗かせるこの少女は、とても温厚でしとやかな性格にもかかわらず夜しか外へ顔を出さなかったので、「吸血鬼なのでは」とも騒がれたりしていますが、優しい(けれどもちょっぴり酒飲みな)お母さんと二人仲良く小さな家で暮らしていました。
「赤ずきん、ちょっと頼みてェことがあるんだが、いいか?」
「? どうしたんですか、お母さん」
そんなある日のことです。
彼女の母が、おもむろに可愛らしい編みカゴと日焼け対策道具一式を差し出してきました。
「いやな、あのじじい……じゃなかった、ばあさんがお前の顔を久々に見せろとか言ってよォ。ったく、しょーがねェな〜〜!」
「おばあさまが、ですか?」
「おう。だから、ばあさんの見舞いがてら行ってきてくんねェか?」
おばあさんが以前から病気で寝込んでいると聞き、とても心配していた赤ずきん。
申し訳なさそうに放たれたそのお願いに、二つ返事で頷きます。
そして、言いつけ通りしっかりと日焼けクリームを塗った彼女は、ポンポンとエプロンドレスの埃を払いながら立ち上がりました、が。
「あ! ちょい待て赤ずきん!」
「はい」
「ばあさんの家までに森があるだろ? そこを通るのは構わねェが……寄り道はするなよ。人を食うオオカミが出るらしいからな」
「オオカミさん……えっと、わかりました。寄り道はしません」
母の厳しくも心配を交えた表情に、すぐさま首を縦へ振ります。
このとき、赤ずきんはお母さんから聞かされたその≪オオカミの噂≫が自分の身に降りかかるとは、思いもしなかったのでした。
「気ィつけて行ってこいよ〜!」
「はい! いってきます!」
見送りの声を背に受けつつ、歩き出す赤ずきん。
できるだけ影のところを進み、おばあさんの家を目指します。
風でそよぐ木々。
上機嫌なステップ。
彼女の動きで揺れる編みカゴ。
そこから覗くお見舞い品――≪高級ワインとタバコ≫にはツッコミを入れてはいけません。
「ふふ、おばあさま元気になるといいなあ」
ぽつりと呟かれた言葉。
時折自分の肩や頭上で羽を休める小鳥たちに、≪外へ出られることが嬉しい≫少女は、にこりと微笑みかけます。
「……」
そんな赤ずきんの姿を、大木の裏から長身の≪影≫が見つめていました。
「……ッ(なんて奥ゆかしげで可憐なんだ)」
特有の耳に尻尾を生やした――オオカミです。
透き通るような銀髪と黒目がちの瞳に光る赤。
彼は確かに、主食ではないにせよ人を食べることもあります。
けれども今回ばかりは、様子が違うようでした。
「(どうにかして、あの少女と親交を深めたい……何か、何か話を……、ふむ)」
一方、オオカミからの熱い視線に気付かぬまま、赤ずきんは足を進ませ続けます。
「よし……あともう少しでおばあさまの家に着きそう」
――どんなお話をしようかな……あ、この前お母さんが猫さんに顔を引っかかれた話も面白いかも。
一つ一つの思い出を振り返り、少女が微かな笑みをこぼした、そのときでした。
目の前にこちらを凝視するオオカミが現れたのは。
「!? っ、きゃ――」
「お、落ち着いてくれ! オレはオオカミだが、君を食べるつもりはない(別の意味ではぜひ食べたいが)」
今にも轟きそうな悲鳴。
しかし、彼のあまりの慌て様に、まさか性的な思惑を抱えられているとは知らない彼女はそそくさと口を噤みます。
「ご……ごめんなさい。食べられないのなら、よかったです(ホッ)」
「いや、こちらこそ突然飛び出してすまない(笑顔も可愛いが、眉尻を下げた表情も愛らしい……ゴホン。)ところで、君はどこへ向かっているんだ?」
「あ、えと……(食べないって言ってくれたし、優しそうなオオカミさんだし……いい、よね?)実は、病気を患っているおばあさまの家へ行くところなんです」
「……お見舞いか。それならば、近くにある花畑で花を摘んでやったらどうだろうか」
≪花畑≫という単語に、少なからず反応する赤ずきん。
ですが、少女にはどうしても破ってはならない約束がありました。
「オオカミさん、教えてくださってありがとうございます。でも私、≪寄り道をしてはいけない≫ってお母さんから言われていて……」
「む……だが、あの場所は(計画遂行のためにも)ぜひ君に見てもらいたい。オレが案内しよう」
グイッ
「え!? お、オオカミさん、あのっ」
突然引っ張られ、彼女はされるがまま。
少々強引なオオカミの行動に目をぱちくりとさせたものの、流されやすい性格の赤ずきんは抵抗することなく彼についていくことにしました。
そしてその判断は、ある意味間違っていなかったのです。
「わあ……!」
視界に広がる色とりどりの花。
美しいそれらに少女はすぐ夢中になりました。
「ふふ、いい香り……おばあさま、喜ぶかも」
花畑に囲まれた彼女の背後にいたはずのオオカミが、いつの間にか消えているとも知らずに。
「ふう……」
その頃、ベッドの上で可愛い孫を今か今かと待ちわびている兄貴……ではなくおばあさんは、お気に入りのタバコを悠々と吹かしていました。
漂う紫煙。
体調が悪く眠っているのかと思われましたが、かなり元気そうです。
それもそのはず、病の名は――≪仮病≫。
おばあさんは毎週仮病を使ってしまうほど、赤ずきんを愛していました。
「……遅え」
やはり自分が迎えに行くべきだろうか、と逡巡するおばあさん。
本末転倒とは気付いていません。
「チッ、最近はここらへんでオオカミが出てるらしいしな」
行こう。自分にはこれ≪拳銃≫がある。
布団をそっと持ち、起き上がろうとした――ちょうどそのとき。
コンコン
「こんにちはおばあさま、赤ずきんです」
「!」
見開かれる蒼い瞳。
板越しの声は少し低いような気もしますが、孫が来て嬉しいおばあさんは彼女も風邪なのだろうと大して気に留めていません。
「入っていいぜ」
今日はどんな話をしてくれるのだろうか。
上機嫌のおばあさんは、ただただ扉が開かれるのを待ちました、が。
「メタリカ」
「グッ……!?」
次の瞬間、なぜか視界がブラックアウト。
妙な金属音を遠くで聞きながら、おばあさんの意識は霞んでいくのでした。
「おばあさま、こんにちは。赤ずきんです」
「! 入っていいぞ」
それから数十分後、倒れたおばあさんをクローゼットへ押し込めたオオカミは、ふと届いた赤ずきんの凛とした声に瞳を輝かせます。
ガチャリ
「あれ? おばあさま、今日はお布団をちゃんと被っているんですね」
「(≪今日は?≫いつもどんな風に待っているんだ、あのばあさんは)……少し体調が悪いんだ」
心配そうな声色。
トコトコと寄ってくる足音。
身内だと油断した少女が今、自分の近くにいる――そう考えるだけで、彼の胸はときめきました。
「んー……声も少し低めのような」
「喉も調子が悪くてな」
「? お耳が大きくないですか……?」
「赤ずきん。君の声をもっと聞きたいから大きくなってしまった」
繰り返される問答。
どこまで行っても怪しい反応に小さく首をかしげた彼女は、おずおずと口を開きます。
「あの、おばあさま。どうして手とお口が大きいんですか?」
「……、それは」
「それは……?」
「君を食べるためだ」
「えっ……、ひゃあ!?」
赤ずきんがベッドに向かって一歩足を進めた瞬間、なんということでしょう。
おばあさんに化けていた(?)オオカミが顔を出したかと思えば、赤ずきんを布団の中へ引っ張り込んでしまったのです。
少女の目の前には彼の顔と天井。
唯一わかるのは、≪危ない≫ということだけ。
「あ、う、えと……」
「……」
「〜〜っわ、私を食べても、美味しくありませんよ?」
二人の間にある≪食べる≫という感覚の違い。
涙目の彼女を真顔(を装っている状態)で見下ろしながら、オオカミはおもむろに顔を寄せました。
ところが。
バンッ
「お待たせ赤ずきん! 愛の狩人・偶然通りかかった猟師さんの登場だぜ? オオカミ、あんたの好きにはさせない……ッ!」
「!」
ドアを蹴破って現れたのは、ウィンクを飛ばす猟師。
男は、赤ずきんを組み敷くオオカミが抵抗する暇も与えずに、持っていた縄でぐるぐる巻きにしてしまいました。
「ハン、怪我はねえか赤ずきん」
「あ、おばあさま。無事だったんですね」
「(もっと鋭いモノを吐かせればよかった……)」
自由を奪われ、仏頂面をするオオカミの前にはずっと一緒にいてほしい少女と人間二人。
支配する不穏な空気。
彼のぎらつく眼光を一瞥したおばあさんは、舌打ちをしてから言葉を紡ぎ出します。
「で? 孫に手ェ出そうとしたこの変態オオカミはどうすんだよ。簀巻きにして近くの川にでも捨てっか?」
「え……っ」
「あー、いいね。オレに任せてよ、色々知ってるからさ」
「ちょ、お二人共……!?」
ハハハ、と怖いことを話す大人二人に、これではいけないと赤ずきん。
「オオカミさんも悪気があったわけではありませんし……、ね?」
と静かに話し、どこまでも寡黙なオオカミの前にしゃがみこみました。
「……」
「?」
かち合う瞳。
理由がわからず少女がきょとんとしていると、不意にオオカミが縄から抜け出させた手で彼女の両手を取ったのです。
そして――
「……結婚しよう」
「! え?」
「テメッ! 赤ずきん、そいつから離れろ! つーか、赤ずきんはオレと結婚するって決めてんだ! 諦めやがれこのケダモノ!」
「だが断る」
思いがけずに、散る火花。
当然ながらおばあさんとオオカミを交互に見て、動揺する赤ずきん。
そんな彼らに対して、ブロンドをたなびかせた猟師が呆れたと言うかのように肩を竦めました。
「おいおい。あんたらじゃどっちにしろ、近親○姦か獣○って言われるのがオチだぜ? というわけで……赤ずきん、どうだい?」
「な、何がですか?」
「猟師という名の赤の他人であり、生物学的にも≪ヒト≫であるオレと激しく濃厚な子作りを――」
「「させるかッ!」」
二人を落ち着かせてくれるのかと思えば、残念。
猟師も、赤ずきんを狙って今回助太刀に現れた一人だったのです。
三人の間で漂う暗雲。
瞬きをした刹那、戦場と化してしまいそうな部屋。
このままではいけない――1歩後退りつつそう悟った赤ずきんは、困惑した表情で叫びます。
「ぺ、ペッシさん! 少し強引ですが、締めのナレーションをお願いします……!」
え!?
あ、了解っす。
こうして口論を続けたオオカミ、おばあさん、猟師はなぜか少女が母と暮らす家に住み着き、彼女の家はいつからか≪アジト≫と呼ばれるようになるのでした。
めでたしめでたし。
連載×童話
Cappuccetto Rosso
〜赤ずきん〜
>
※改変あり
赤ずきん→連載ヒロイン
お母さん→ホルマジオ
おばあさん→プロシュート
狩人→メローネ
狼→リゾット
ナレーション→ペッシ
むかしむかし、あるところに≪赤ずきん≫という女の子がいました。
赤ずきんから黒髪を覗かせるこの少女は、とても温厚でしとやかな性格にもかかわらず夜しか外へ顔を出さなかったので、「吸血鬼なのでは」とも騒がれたりしていますが、優しい(けれどもちょっぴり酒飲みな)お母さんと二人仲良く小さな家で暮らしていました。
「赤ずきん、ちょっと頼みてェことがあるんだが、いいか?」
「? どうしたんですか、お母さん」
そんなある日のことです。
彼女の母が、おもむろに可愛らしい編みカゴと日焼け対策道具一式を差し出してきました。
「いやな、あのじじい……じゃなかった、ばあさんがお前の顔を久々に見せろとか言ってよォ。ったく、しょーがねェな〜〜!」
「おばあさまが、ですか?」
「おう。だから、ばあさんの見舞いがてら行ってきてくんねェか?」
おばあさんが以前から病気で寝込んでいると聞き、とても心配していた赤ずきん。
申し訳なさそうに放たれたそのお願いに、二つ返事で頷きます。
そして、言いつけ通りしっかりと日焼けクリームを塗った彼女は、ポンポンとエプロンドレスの埃を払いながら立ち上がりました、が。
「あ! ちょい待て赤ずきん!」
「はい」
「ばあさんの家までに森があるだろ? そこを通るのは構わねェが……寄り道はするなよ。人を食うオオカミが出るらしいからな」
「オオカミさん……えっと、わかりました。寄り道はしません」
母の厳しくも心配を交えた表情に、すぐさま首を縦へ振ります。
このとき、赤ずきんはお母さんから聞かされたその≪オオカミの噂≫が自分の身に降りかかるとは、思いもしなかったのでした。
「気ィつけて行ってこいよ〜!」
「はい! いってきます!」
見送りの声を背に受けつつ、歩き出す赤ずきん。
できるだけ影のところを進み、おばあさんの家を目指します。
風でそよぐ木々。
上機嫌なステップ。
彼女の動きで揺れる編みカゴ。
そこから覗くお見舞い品――≪高級ワインとタバコ≫にはツッコミを入れてはいけません。
「ふふ、おばあさま元気になるといいなあ」
ぽつりと呟かれた言葉。
時折自分の肩や頭上で羽を休める小鳥たちに、≪外へ出られることが嬉しい≫少女は、にこりと微笑みかけます。
「……」
そんな赤ずきんの姿を、大木の裏から長身の≪影≫が見つめていました。
「……ッ(なんて奥ゆかしげで可憐なんだ)」
特有の耳に尻尾を生やした――オオカミです。
透き通るような銀髪と黒目がちの瞳に光る赤。
彼は確かに、主食ではないにせよ人を食べることもあります。
けれども今回ばかりは、様子が違うようでした。
「(どうにかして、あの少女と親交を深めたい……何か、何か話を……、ふむ)」
一方、オオカミからの熱い視線に気付かぬまま、赤ずきんは足を進ませ続けます。
「よし……あともう少しでおばあさまの家に着きそう」
――どんなお話をしようかな……あ、この前お母さんが猫さんに顔を引っかかれた話も面白いかも。
一つ一つの思い出を振り返り、少女が微かな笑みをこぼした、そのときでした。
目の前にこちらを凝視するオオカミが現れたのは。
「!? っ、きゃ――」
「お、落ち着いてくれ! オレはオオカミだが、君を食べるつもりはない(別の意味ではぜひ食べたいが)」
今にも轟きそうな悲鳴。
しかし、彼のあまりの慌て様に、まさか性的な思惑を抱えられているとは知らない彼女はそそくさと口を噤みます。
「ご……ごめんなさい。食べられないのなら、よかったです(ホッ)」
「いや、こちらこそ突然飛び出してすまない(笑顔も可愛いが、眉尻を下げた表情も愛らしい……ゴホン。)ところで、君はどこへ向かっているんだ?」
「あ、えと……(食べないって言ってくれたし、優しそうなオオカミさんだし……いい、よね?)実は、病気を患っているおばあさまの家へ行くところなんです」
「……お見舞いか。それならば、近くにある花畑で花を摘んでやったらどうだろうか」
≪花畑≫という単語に、少なからず反応する赤ずきん。
ですが、少女にはどうしても破ってはならない約束がありました。
「オオカミさん、教えてくださってありがとうございます。でも私、≪寄り道をしてはいけない≫ってお母さんから言われていて……」
「む……だが、あの場所は(計画遂行のためにも)ぜひ君に見てもらいたい。オレが案内しよう」
グイッ
「え!? お、オオカミさん、あのっ」
突然引っ張られ、彼女はされるがまま。
少々強引なオオカミの行動に目をぱちくりとさせたものの、流されやすい性格の赤ずきんは抵抗することなく彼についていくことにしました。
そしてその判断は、ある意味間違っていなかったのです。
「わあ……!」
視界に広がる色とりどりの花。
美しいそれらに少女はすぐ夢中になりました。
「ふふ、いい香り……おばあさま、喜ぶかも」
花畑に囲まれた彼女の背後にいたはずのオオカミが、いつの間にか消えているとも知らずに。
「ふう……」
その頃、ベッドの上で可愛い孫を今か今かと待ちわびている兄貴……ではなくおばあさんは、お気に入りのタバコを悠々と吹かしていました。
漂う紫煙。
体調が悪く眠っているのかと思われましたが、かなり元気そうです。
それもそのはず、病の名は――≪仮病≫。
おばあさんは毎週仮病を使ってしまうほど、赤ずきんを愛していました。
「……遅え」
やはり自分が迎えに行くべきだろうか、と逡巡するおばあさん。
本末転倒とは気付いていません。
「チッ、最近はここらへんでオオカミが出てるらしいしな」
行こう。自分にはこれ≪拳銃≫がある。
布団をそっと持ち、起き上がろうとした――ちょうどそのとき。
コンコン
「こんにちはおばあさま、赤ずきんです」
「!」
見開かれる蒼い瞳。
板越しの声は少し低いような気もしますが、孫が来て嬉しいおばあさんは彼女も風邪なのだろうと大して気に留めていません。
「入っていいぜ」
今日はどんな話をしてくれるのだろうか。
上機嫌のおばあさんは、ただただ扉が開かれるのを待ちました、が。
「メタリカ」
「グッ……!?」
次の瞬間、なぜか視界がブラックアウト。
妙な金属音を遠くで聞きながら、おばあさんの意識は霞んでいくのでした。
「おばあさま、こんにちは。赤ずきんです」
「! 入っていいぞ」
それから数十分後、倒れたおばあさんをクローゼットへ押し込めたオオカミは、ふと届いた赤ずきんの凛とした声に瞳を輝かせます。
ガチャリ
「あれ? おばあさま、今日はお布団をちゃんと被っているんですね」
「(≪今日は?≫いつもどんな風に待っているんだ、あのばあさんは)……少し体調が悪いんだ」
心配そうな声色。
トコトコと寄ってくる足音。
身内だと油断した少女が今、自分の近くにいる――そう考えるだけで、彼の胸はときめきました。
「んー……声も少し低めのような」
「喉も調子が悪くてな」
「? お耳が大きくないですか……?」
「赤ずきん。君の声をもっと聞きたいから大きくなってしまった」
繰り返される問答。
どこまで行っても怪しい反応に小さく首をかしげた彼女は、おずおずと口を開きます。
「あの、おばあさま。どうして手とお口が大きいんですか?」
「……、それは」
「それは……?」
「君を食べるためだ」
「えっ……、ひゃあ!?」
赤ずきんがベッドに向かって一歩足を進めた瞬間、なんということでしょう。
おばあさんに化けていた(?)オオカミが顔を出したかと思えば、赤ずきんを布団の中へ引っ張り込んでしまったのです。
少女の目の前には彼の顔と天井。
唯一わかるのは、≪危ない≫ということだけ。
「あ、う、えと……」
「……」
「〜〜っわ、私を食べても、美味しくありませんよ?」
二人の間にある≪食べる≫という感覚の違い。
涙目の彼女を真顔(を装っている状態)で見下ろしながら、オオカミはおもむろに顔を寄せました。
ところが。
バンッ
「お待たせ赤ずきん! 愛の狩人・偶然通りかかった猟師さんの登場だぜ? オオカミ、あんたの好きにはさせない……ッ!」
「!」
ドアを蹴破って現れたのは、ウィンクを飛ばす猟師。
男は、赤ずきんを組み敷くオオカミが抵抗する暇も与えずに、持っていた縄でぐるぐる巻きにしてしまいました。
「ハン、怪我はねえか赤ずきん」
「あ、おばあさま。無事だったんですね」
「(もっと鋭いモノを吐かせればよかった……)」
自由を奪われ、仏頂面をするオオカミの前にはずっと一緒にいてほしい少女と人間二人。
支配する不穏な空気。
彼のぎらつく眼光を一瞥したおばあさんは、舌打ちをしてから言葉を紡ぎ出します。
「で? 孫に手ェ出そうとしたこの変態オオカミはどうすんだよ。簀巻きにして近くの川にでも捨てっか?」
「え……っ」
「あー、いいね。オレに任せてよ、色々知ってるからさ」
「ちょ、お二人共……!?」
ハハハ、と怖いことを話す大人二人に、これではいけないと赤ずきん。
「オオカミさんも悪気があったわけではありませんし……、ね?」
と静かに話し、どこまでも寡黙なオオカミの前にしゃがみこみました。
「……」
「?」
かち合う瞳。
理由がわからず少女がきょとんとしていると、不意にオオカミが縄から抜け出させた手で彼女の両手を取ったのです。
そして――
「……結婚しよう」
「! え?」
「テメッ! 赤ずきん、そいつから離れろ! つーか、赤ずきんはオレと結婚するって決めてんだ! 諦めやがれこのケダモノ!」
「だが断る」
思いがけずに、散る火花。
当然ながらおばあさんとオオカミを交互に見て、動揺する赤ずきん。
そんな彼らに対して、ブロンドをたなびかせた猟師が呆れたと言うかのように肩を竦めました。
「おいおい。あんたらじゃどっちにしろ、近親○姦か獣○って言われるのがオチだぜ? というわけで……赤ずきん、どうだい?」
「な、何がですか?」
「猟師という名の赤の他人であり、生物学的にも≪ヒト≫であるオレと激しく濃厚な子作りを――」
「「させるかッ!」」
二人を落ち着かせてくれるのかと思えば、残念。
猟師も、赤ずきんを狙って今回助太刀に現れた一人だったのです。
三人の間で漂う暗雲。
瞬きをした刹那、戦場と化してしまいそうな部屋。
このままではいけない――1歩後退りつつそう悟った赤ずきんは、困惑した表情で叫びます。
「ぺ、ペッシさん! 少し強引ですが、締めのナレーションをお願いします……!」
え!?
あ、了解っす。
こうして口論を続けたオオカミ、おばあさん、猟師はなぜか少女が母と暮らす家に住み着き、彼女の家はいつからか≪アジト≫と呼ばれるようになるのでした。
めでたしめでたし。
連載×童話
Cappuccetto Rosso
〜赤ずきん〜
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