04



ピンポーン


毎週火曜日と金曜日の夕方。

≪あいつ≫はやってくる。



「はい」


「こっんにっちはー! 毎度お世話になってます(ハート)私、思春期の味方メロ――」


「うち、パッショーネ新聞しか取ってないんで。他を当たってください」



バタン

アシンメトリーな髪型をしたブロンド変態男と、できる限り同じ空気を吸いたくなくて、すぐさま玄関の扉を閉じた。


すると、ドンドンと彼がドアを叩いてくる。


「ちょっと! ≪先生≫にナニすんの……ハアハア、ナニ……!」


しかも息を切らしながら。

そんな状態で家の前にいたら、それこそこちらの迷惑だ。


「はあ……先生ならもっと先生らしくしてくださいよ」



ガチャ


「グラッツェ! いやー、ほんと凍えるかと思ったぜ! 責任とって、君のその身体で温めtグエッ」


「黙れ変態。こっちは受験前なんですから」



かますアッパー。

この人――メローネ先生は、某有名大学の2年生だ。


そして私の家庭教師。

相変わらずハアハアと息を乱したままの彼を部屋へ招いた途端、私は勢いよく≪数学≫の教科書を開いた。


ちゃんと教えてもらわないと。


「さあ先生! 今日は……今日こそ! 微分・積分を教えてください! わからなくて参ってるんです、ほんと」


「……いいよ。やろう、微分積分」


「? はい」



珍しい。

いつもみたいに、「オレは数学より保健体育を教えたい! いや、君とヤりたいうんぬんかんぬん」って言いながら服を脱ぎ出すと思っていたから構えていたのに、今日はとても素直。


おもむろにメガネをかけ始めた先生から視線をそらしつつ(見た目だけはカッコいいんだよな)、机の前の椅子に腰をかける。


「先生、この解き方がよくわからないんですけど……」


「うん。あー、これはね」



至って真面目な返答。


――よかった。今日は本当に教えてくれるみたい。

安心した私は、隣に座る彼へ解法を聞くために近付いた、が。



「……」


「……」




「……あの」


「ん? なあに?」


「どこ、触ってるんですか?」


ジワリジワリ――とだが、太腿あたりに置かれた手のひら。

さらに言えば、ゆっくり撫で回されている。


あくまでノートを見つめたままの翡翠の瞳を横から凝視すれば、不意に彼がこちらへ視線を向けた。


「え? どこって、制服のスカートとニーハイに挟まれた、君のむちむちな太も――」


「黙らっしゃい!」


「グアッハ!?」



次の瞬間、絨毯の上で伸びるメローネ先生。

パンパンと手の埃を払いながら、私は彼を見下ろす。


よかった。

今日の体育の授業――≪痴漢対策も含めた柔道≫を真面目に受けておいて。


「う……ッ愛情の裏返し……ディモールト・ベネ……!」


「何が愛情の裏返しなんですか」


「いやー……だって、ねえ? オレと同じ大学に、行きたいんでしょ?」


「なッ!?」



秘密にしていたはずの事実に、カッと顔が赤くなるのを感じた。

そんな自分を見上げてにやにやしている彼によれば、どうやらお母さんからその事実を聞いたらしい。


「〜〜っ////」


――お母さん……絶対に言わないでって言ったのに……!



「あはっ、嬉しいなあ……ベリッシモ嬉しい」


「(ふいっ)」


「だってさあ……2年も、一緒に通えるんだぜ?」


「!」



慌てていまだ寝転んだままの先生へ視線を移す。

すると、彼は普段の変態チックな笑顔ではなく、本当に心の底から笑っているように思えた。


「……」


なんだか。

なんだか――絆されたというか言い負かされた気分。




でも――



「メローネ先生……紅茶とケーキ、要ります?」


「えっ? どうしたのさ! いつもは≪さっさと勉強教えて帰れ≫って言うのに」


「……今日だけです。今日だけ! 食べたら、ちゃんと≪数学を≫教えてくださいね」


「ふふふ……Va bene(もちろん)!」



メローネ先生と一緒にいる時間が、なんだかんだ言って楽しいからいいんだけどね。





暗殺チーム×アルバイト
第四弾:メローネ×家庭教師
「あ! 言わなきゃいけないことを思い出した」
「……どうしたんですか?」
「今日のパンティ最高に可愛かっryグハッ」



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