ピンポーン
毎週火曜日と金曜日の夕方。
≪あいつ≫はやってくる。
「はい」
「こっんにっちはー! 毎度お世話になってます(ハート)私、思春期の味方メロ――」
「うち、パッショーネ新聞しか取ってないんで。他を当たってください」
バタン
アシンメトリーな髪型をしたブロンド変態男と、できる限り同じ空気を吸いたくなくて、すぐさま玄関の扉を閉じた。
すると、ドンドンと彼がドアを叩いてくる。
「ちょっと! ≪先生≫にナニすんの……ハアハア、ナニ……!」
しかも息を切らしながら。
そんな状態で家の前にいたら、それこそこちらの迷惑だ。
「はあ……先生ならもっと先生らしくしてくださいよ」
ガチャ
「グラッツェ! いやー、ほんと凍えるかと思ったぜ! 責任とって、君のその身体で温めtグエッ」
「黙れ変態。こっちは受験前なんですから」
かますアッパー。
この人――メローネ先生は、某有名大学の2年生だ。
そして私の家庭教師。
相変わらずハアハアと息を乱したままの彼を部屋へ招いた途端、私は勢いよく≪数学≫の教科書を開いた。
ちゃんと教えてもらわないと。
「さあ先生! 今日は……今日こそ! 微分・積分を教えてください! わからなくて参ってるんです、ほんと」
「……いいよ。やろう、微分積分」
「? はい」
珍しい。
いつもみたいに、「オレは数学より保健体育を教えたい! いや、君とヤりたいうんぬんかんぬん」って言いながら服を脱ぎ出すと思っていたから構えていたのに、今日はとても素直。
おもむろにメガネをかけ始めた先生から視線をそらしつつ(見た目だけはカッコいいんだよな)、机の前の椅子に腰をかける。
「先生、この解き方がよくわからないんですけど……」
「うん。あー、これはね」
至って真面目な返答。
――よかった。今日は本当に教えてくれるみたい。
安心した私は、隣に座る彼へ解法を聞くために近付いた、が。
「……」
「……」
「……あの」
「ん? なあに?」
「どこ、触ってるんですか?」
ジワリジワリ――とだが、太腿あたりに置かれた手のひら。
さらに言えば、ゆっくり撫で回されている。
あくまでノートを見つめたままの翡翠の瞳を横から凝視すれば、不意に彼がこちらへ視線を向けた。
「え? どこって、制服のスカートとニーハイに挟まれた、君のむちむちな太も――」
「黙らっしゃい!」
「グアッハ!?」
次の瞬間、絨毯の上で伸びるメローネ先生。
パンパンと手の埃を払いながら、私は彼を見下ろす。
よかった。
今日の体育の授業――≪痴漢対策も含めた柔道≫を真面目に受けておいて。
「う……ッ愛情の裏返し……ディモールト・ベネ……!」
「何が愛情の裏返しなんですか」
「いやー……だって、ねえ? オレと同じ大学に、行きたいんでしょ?」
「なッ!?」
秘密にしていたはずの事実に、カッと顔が赤くなるのを感じた。
そんな自分を見上げてにやにやしている彼によれば、どうやらお母さんからその事実を聞いたらしい。
「〜〜っ////」
――お母さん……絶対に言わないでって言ったのに……!
「あはっ、嬉しいなあ……ベリッシモ嬉しい」
「(ふいっ)」
「だってさあ……2年も、一緒に通えるんだぜ?」
「!」
慌てていまだ寝転んだままの先生へ視線を移す。
すると、彼は普段の変態チックな笑顔ではなく、本当に心の底から笑っているように思えた。
「……」
なんだか。
なんだか――絆されたというか言い負かされた気分。
でも――
「メローネ先生……紅茶とケーキ、要ります?」
「えっ? どうしたのさ! いつもは≪さっさと勉強教えて帰れ≫って言うのに」
「……今日だけです。今日だけ! 食べたら、ちゃんと≪数学を≫教えてくださいね」
「ふふふ……Va bene(もちろん)!」
メローネ先生と一緒にいる時間が、なんだかんだ言って楽しいからいいんだけどね。
暗殺チーム×アルバイト
第四弾:メローネ×家庭教師
「あ! 言わなきゃいけないことを思い出した」
「……どうしたんですか?」
「今日のパンティ最高に可愛かっryグハッ」
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