「うーん……どっちにしよう」
給料も入ったことだし――そう思って私が学校の帰りにやってきたのは、とあるゲームショップ。
「いらっしゃいませー」と常套句を聞きながら、きょろきょろと周りを見渡す。
「あ、あった!」
視界に映った目的のモノ。
このRPG、ゲームはもちろんだけど、なんと言ってもキャラの声が豪華なんだよねえ。
よし、これを買おう。
財布の中を確認して、レジへと一歩踏み出した――が。
「ああっ! こ、この格ゲー続き出てたんだ……!」
なんということでしょう。
以前かなり夢中になったときの思い出が蘇り、当然ながら足は止まってしまう。
二つとも買えるほどお金はない。
「うーん……どちらも捨てがたい……」
「……オイ」
「はあ、あと一人! あと一人でもいいから野口さんが財布に入ってたらっ、今こうして迷わずに――」
「オイッ!!」
「ひ!?」
右手には新参者、けれども魅力的に思えるRPG。
左手には私の中で伝説を残した、格ゲーの二作目。
ゲームを二つとも持ったまま、悩みに悩んでいると――突如耳を劈く怒声。
慌ててそちらに顔を向ければ、口をへの字にした赤いメガネで天然パーマ(?)のお兄さん。
その首からは紺色のエプロン――店員である証がかけられていた。
それにしても、かなり怒っていらっしゃるようだ。
「あ、あの」
「テメエ……いつまでそこに突っ立ってるつもりだ? あア?」
「(怖い! 睨まないでください……!)えっと、そんなに長居していたつもりは……って、え!?」
こちらを突き刺す鋭い眼光に怯えながら、弁明の言葉を紡ぎ出せば――店員さん越しに見えた薄暗い外。
私がここへ来たときには、まだ空は赤かったのに……!
「二時間。テメーがスキップしながら店に入って来たかと思えば、そのゲームを手に動かなくなってから経った時間だ。……これが何を意味すんのか、わかるよなア?」
「すっ、すみませんでした――――ッ!」
ゲーム二本を安全な場所に置いてから、スライディング土下座。
……膝、すごくひりひりする。
じくじくと押し寄せる痛みに思わず涙を浮かべていると、上から深いため息が聞こえた。
「……で? どっちにすんのか決まったのかよ」
「まだ……です」
「チッ」
「! ううっ…………あ、そうだ! 店員さん! 店員さんは、どちらがオススメですか?」
そうだ、最初からそうすればよかったのだ。
膝と手を床に着けつつ、指をトントンと鳴らしている店員さん――もとい名札によればギアッチョさんと仰る方を見上げれば、ますます眉間にしわが寄っていた。
「……それは人によって違えだろ。得意不得意もあるしよオ」
「そこは客観的視点でお願いします!」
「……、めんどくせえなア、オイ」
再び店内に響くため息。
だが、選んでは頂けるようだ。
私の横を通り過ぎたギアッチョさんは、おもむろに棚へと手を伸ばし――
「ほらよ」
「え?」
渡されたのは、カーレースゲーム。
どちらがいいか、と尋ねたような気がするのだが――首をかしげていると、彼はおもむろに私の前にしゃがみ込んだ。
「このRPGは確かにキャラは面白えが、ストーリーにオリジナリティーがねえぞ。こっちも、一作目に比べりゃあ、正直大したことがないレベルだ」
「そうなんですか……」
先程とは異なる、少しだけ楽しそうな弾んだ声。
ゲームへの愛が伝わってくる。
しかし、ここで問題が発生。
「あの……お気持ちはすごく、本当にすごく嬉しいんですけど……私、実はこういうゲームはしたこと、なくて」
「面白そう」とは思っていたが、一度も遊んだことはない。
すると――
「水曜と金曜」
「へ?」
「この時間には基本いっから……遊び方ぐらいは教えてやる」
「!」
思いがけない言葉に、勢いよく顔を上げる。
そして、気恥ずかしいのかここを立ち去ろうとするギアッチョさんの背中に、嬉しさいっぱいの私は口を開いた。
「来ます! 毎週来ます! ご指導、よろしくお願いします!」
「……おう」
「あ……むしろ、私の家で一緒に遊びましょう!」
「は?」
「ここから歩いて五分だし、一人暮らしですから、いつでも――」
「てっ、テメエ! そう簡単に、男を家に招き入れんじゃねエエエエエッ!」
「ええ!?」
その後、なぜかメガネと同じぐらい顔が真っ赤なギアッチョさんに説教を受けながら、私は彼と次に会える日を楽しみにするのでした。
「聞いてんのか!?」
「き、聞いてますとも!」
暗殺チーム×アルバイト
第三弾:ギアッチョ×ゲームショップ
「オイ! ガソリン給与すっからコックピットに……って、あああ! そうじゃねエエエッ!」
「ご、ごめんなさいぃ!(予想以上にスパルタ……!)」
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