01

とあるコンビニにて。

「あれ? ええっ?」


学校の制服を着た少女は、変な音を立てて止まってしまったコピー機の前に佇んでいた。

「も、もしかして……壊した?」


自分の後ろで待つ人はいないが――やばい。

それは、今コピーしていたものが友達から借りた、明日の宿題だからではない(もちろんそれもあるが)。



「(ど、どどどうしよう!)」


かなり慌てながら、少女は店のカウンターをちらりと一瞥した。


そして、すぐ目をそらす。

「(あの人しかいないなんて!)」



銀髪に黒目が大きめの人。
かなりかっこいい部類には入るのだが――なんと言っても怖い。

あの威圧感に青の縦ボーダーというのが、ミスマッチすぎるのだ。

「(でも……このままってわけにも行かないし)」

がんばれ、自分! 負けるな、自分!


「あ、あのっ」

気が付けば、少女はあの男の前に立っていた。


「……どうかしましたか」


「(ひぃいいいっ)……えっと、すみません。コピー機が」


「ん?」


「!! ご、ごめんなさい! コピー機を壊しちゃいましたッ!」

自爆、完全に自爆。

大声で叫び、頭を下げながら後悔の念に押しつぶされそうになっていると――



「そうか……わかった」


「……へっ?」


「コピー機がどういう状況なのか、教えてくれないか」


な、なんていい人なんだろう。

少女は、別の意味で泣きそうになりつつも、現場へと足を進めた。


「(なんだか、こうして見ると青ボーダーもピンクのチャックも愛しく思えてきた!)……えっと、普通にコピーしていたはずなんですけど、変な音とともに止まってしまったんです」


「変な音か……ふむ」


「あ、あの?」


「ん?」

声をかけると、聞き返してくれる店員さん。

言うべきか迷うが、どうしても言わなくてはならない。


「その、コピー機から離れすぎてません?」


「……オレは、お前に近付かない」


「(どんな宣言!?)え? でも、近づいてもらわないと、直せませんし……」


「……いいのか?」

コピー機の前に立つ自分との距離、約1.5メートル。

これを許可せずして、何を許可する。


「もちろんです! だから――」


「わかった」


「あ、よかった、わかってもらえ……ええッ!?」

視界を覆う特徴的な制服。

そして、優しい香りが鼻を掠め、少女は即座に後ろへ飛び退いた。


「せ、せめて適度な距離を保てないんですかーっ!?」










その後、変な音の原因は紙詰まりだったことがわかった。

「あ、ありがとうございました!(もう、絶対来ない!)」


「いや、気にするな。……あ」

帰ろうと、ドアノブに手をかけた少女の後ろから届く声。

まだ何かあるのかと、渋々振り返れば――



「……またのお越しを」


「!」

少しだけ緩められた店員の口元。

一瞬、その笑みに見とれていた彼女はハッと我に返り、男の名札を一瞥してから店を去った。




「……≪ネエロさん≫か」

もう来ない。
少女のその決意は、すでに崩れ始めていた。






しかし、上機嫌になっていた彼女は≪コピー≫という一番大切なことを忘れており、あの店員の宣言通り、すぐさま店へ逆戻りすることになったのは言うまでもない。





暗殺チーム×アルバイト
第一弾:リゾット・ネエロ×コンビニ
「いらっしゃいませ……ん?」
「あは、は、また来ちゃいました(……気まずい)」



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