とあるコンビニにて。
「あれ? ええっ?」
学校の制服を着た少女は、変な音を立てて止まってしまったコピー機の前に佇んでいた。
「も、もしかして……壊した?」
自分の後ろで待つ人はいないが――やばい。
それは、今コピーしていたものが友達から借りた、明日の宿題だからではない(もちろんそれもあるが)。
「(ど、どどどうしよう!)」
かなり慌てながら、少女は店のカウンターをちらりと一瞥した。
そして、すぐ目をそらす。
「(あの人しかいないなんて!)」
銀髪に黒目が大きめの人。
かなりかっこいい部類には入るのだが――なんと言っても怖い。
あの威圧感に青の縦ボーダーというのが、ミスマッチすぎるのだ。
「(でも……このままってわけにも行かないし)」
がんばれ、自分! 負けるな、自分!
「あ、あのっ」
気が付けば、少女はあの男の前に立っていた。
「……どうかしましたか」
「(ひぃいいいっ)……えっと、すみません。コピー機が」
「ん?」
「!! ご、ごめんなさい! コピー機を壊しちゃいましたッ!」
自爆、完全に自爆。
大声で叫び、頭を下げながら後悔の念に押しつぶされそうになっていると――
「そうか……わかった」
「……へっ?」
「コピー機がどういう状況なのか、教えてくれないか」
な、なんていい人なんだろう。
少女は、別の意味で泣きそうになりつつも、現場へと足を進めた。
「(なんだか、こうして見ると青ボーダーもピンクのチャックも愛しく思えてきた!)……えっと、普通にコピーしていたはずなんですけど、変な音とともに止まってしまったんです」
「変な音か……ふむ」
「あ、あの?」
「ん?」
声をかけると、聞き返してくれる店員さん。
言うべきか迷うが、どうしても言わなくてはならない。
「その、コピー機から離れすぎてません?」
「……オレは、お前に近付かない」
「(どんな宣言!?)え? でも、近づいてもらわないと、直せませんし……」
「……いいのか?」
コピー機の前に立つ自分との距離、約1.5メートル。
これを許可せずして、何を許可する。
「もちろんです! だから――」
「わかった」
「あ、よかった、わかってもらえ……ええッ!?」
視界を覆う特徴的な制服。
そして、優しい香りが鼻を掠め、少女は即座に後ろへ飛び退いた。
「せ、せめて適度な距離を保てないんですかーっ!?」
その後、変な音の原因は紙詰まりだったことがわかった。
「あ、ありがとうございました!(もう、絶対来ない!)」
「いや、気にするな。……あ」
帰ろうと、ドアノブに手をかけた少女の後ろから届く声。
まだ何かあるのかと、渋々振り返れば――
「……またのお越しを」
「!」
少しだけ緩められた店員の口元。
一瞬、その笑みに見とれていた彼女はハッと我に返り、男の名札を一瞥してから店を去った。
「……≪ネエロさん≫か」
もう来ない。
少女のその決意は、すでに崩れ始めていた。
しかし、上機嫌になっていた彼女は≪コピー≫という一番大切なことを忘れており、あの店員の宣言通り、すぐさま店へ逆戻りすることになったのは言うまでもない。
暗殺チーム×アルバイト
第一弾:リゾット・ネエロ×コンビニ
「いらっしゃいませ……ん?」
「あは、は、また来ちゃいました(……気まずい)」
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