throw,the Last Name
※give&get『The gloomy,gloomy snare』続編
※承太郎姉ヒロイン
※甘裏






カイロへと続く道中。

しばらくの間手紙らしきモノを凝視していたジョセフは、徐々にその顔に深刻さを滲ませていった。


するとそれを目ざとく見つけ、帽子のツバへ指先を添えた承太郎が淡々と呼び止める。



「ジジイ」


「……」



互いを射抜くエメラルドグリーンの双眸。

孫が自分に問いたいことを把握したのだろう。年老いた男が、おもむろに口を開いた。



「名前のことじゃ。まだ、見つからんらしい」


「……」


「承太郎。わしらはDIOを倒すためカイロに向かっておる。一刻も早くホリィを救いたい。じゃが、今こうしている間にもわしの可愛い可愛い孫娘に何かあったら、と思うとわしは――」


「オイ。心配すんのは構わねーが、子煩悩ならぬ孫煩悩は大概にしな、うっとうしい」




――それと、あいつがどこにいるか……いやどこに拐かされたか、察しはついてる。


刹那、呟かれた言葉に目をカッと見開いたジョセフ。だがそちらを向くことはしない。

星のアザが自分の心を急かすのだ。それに促され、視線がただまっすぐ貫くのは、言わずもがな目的地。

まさか。いや、≪やはり≫。DIOが、関与しているというのだろうか。



「ふふー、承太郎みっけ!」


ホリィが倒れ、彼らが旅立った日から間もなく知らされた≪拉致≫。明らかに偶然とは言えない。

ふと蘇った姉の声に、承太郎の胸中には自ずと情愛が募る。



「おかえり! お風呂にする? お母さん特製のハンバーグにする? それともわ・た――痛いっ! 冗談だから頭鷲掴みしないで……!」


「じょ、承太郎! どうして最近、私のこと名前で呼ぶの? ちっちゃい頃は≪お姉ちゃん≫って呼んでくれてたのに……! せめて姉貴にしてほしいな。だって……この前も、バイトの人に彼氏って誤解されたんだよ?」


「お母さんは任せて。だから……絶対、みんな揃って無事に帰ってきてね」



屋敷といっても過言ではない家でよくしたかくれんぼ。

突拍子もない場所に隠れる自分を見つけるのは、いつも名前の役目だった。


あまり似ていない姉弟。売られた喧嘩は必ず買っていた己と比べ、敵意や憎悪といったモノとは無縁の彼女が今DIOに囚われている――そう考えただけで、ふつふつと湧き上がってやまない怒りを、青年は静かに抑え込む。



「……今度はオレが、あんたを見つけるぜ。姉貴」



唇が紡いだ想い。

激情を瞳に宿した男の決意は、誰かの耳へ伝わるより先に、突如吹き抜けた風によって掻き消えた。









「!」



その頃、聞き覚えのある声が鼓膜を揺らしたような気がして、不意に顔を上げた名前は少しばかり鳶色の瞳をぱちくりとさせる。

たくさんの蝋燭に火を灯して明るくしたキッチン。その中できょろきょろと周りを見渡すが、特に変わったことはない。

依然として続く沈黙。自身に対する呆れゆえのため息を空気へ滲ませてから、白いワンピースを着る彼女は、放っておけば自ずと憂いに向かう気を紛らわすために作っていた和菓子――みたらし団子に向き直った。


しかし改めて作業に取り掛かろうとしても、なぜかざわつく心。



「(大丈夫、承太郎たちは無事。もう少ししたらここに来て、それで……)」



――それで?

唐突に浮上する疑問。だが頭はわかっているはずだ。DIOは倒されなければならない、と。


倒す――その単語と当然のごとく結びついた彼の≪死≫。刹那、心臓がバクバクと自己主張を始める。



「(ど……どうして≪心配≫なんてしてるの、私。DIOはただ興味を持ったからって、人のことを簡単に攫って辱める奴なんだよ? 私だけじゃない。おじいちゃんのおじいちゃんは、あの人に殺されて身体を奪われたんだよ? お母さんだって……それに)」



鼻腔を突き刺す砂糖醤油の独特の香り。

カタンと胸に音を伝える、熱せられた小鍋。



「(私はスタンドも見えないただの一般人で。……ジョースターという血統と関係がなかったら、きっと目もくれられなかったんだから)」



わかりきった答えが脳内を過ぎったとき、ありありと表情に切なさが入り交じった。ところが少女が己の変化に気付くことはない。


確かに、自分は彼がもたらす快感によって絆されている。

あの男の持つカリスマには、恐ろしいほど人を惹きつける甘さがあるのだ。


それでも――



「(身体はあの人に囚われても、たとえ心が少しずつ傾いても、その奥深くまでは――)」










「何をしている」


「きゃ!?」



ふと鼓膜を揺らしたテノール。悲鳴を上げつつ振り返れば、背後に立ちはだかっていたのは半裸の男。

なんの前触れもなく現れた彼に、あっという間に心中を警戒で埋め尽くした名前はすぐさま一歩だけ距離を取った。


一方、彼女の様子に瞳を細めたDIOはにやりと余裕を唇に浮かべるばかり。



「な、何……?」


「貴様に尋ねたのは私が先だ。さっさと質問に答えろ」


「っ……暇だったからお菓子を作っているだけ」



視線を外しながら呟いた言葉。すると、手元にあったはずのみたらし団子が一つ、忽然と消える。

疑問と驚愕を宿した双眸で少女がそそくさと軌跡を辿れば、砂糖醤油を纏った団子は男の口の中へ。



「あっ、ちょ」


「ん」



何勝手に食べてるの。

口に合わないかもしれないのに。


ハラハラと焦燥を露わにしたまま、音に変えることなく飲み込んだ言葉。だが、不味いと怒られるかもしれないという予想は、あっさり裏切られた。彼が咀嚼を終えた途端、再びこちらに手を伸ばしたのだ。

一つ、二つと吸い込まれていくみたらし団子。想像すらしなかった光景に目を白黒させる名前。



「ヌウ、これが醤油か。……名はなんという?」


「え? えっと、あの、みたらし団子……」


「≪みたらし≫。ふむ……このDIOが生まれた時代にはなかった代物だな」


「……(確かにイギリスではなかったと思うけど……それより)」



――こんなに無防備で無邪気なDIOを、今まで見たことがあっただろうか。

軽くなっていく皿。自分が制止をかけない限り、団子をつまみ食いする手を止めそうにない男。


結構可愛いところもあるんだ――胸中をふわりと占めた柔らかな想いに、気が付けば彼女のほころんだ口からは思わず笑みがこぼれていた。



「ふふっ」


しかし次の瞬間。己が≪誰と対峙しているか≫を自覚した少女は勢いよく顔を上げる。



「!」



すると、背中をも貫かんばかりに名前の身体に絡みつく彼の眼光。


おもむろに寄せられた眉根。冷気を帯びた紅い瞳に潜むのは、怪訝となぜか喜心。

当然、彼が持ち合わせた二つの感情を悟れども、首をかしげる猶予は彼女には残されていない。



「名前。貴様、今何故笑った」


「えっ、あ、いや……なんでもない! 本当になんでもないの」


「ほう……」



意味深に吊り上がる口端。

念写越しに見た、娘のいかにも人間らしい笑顔。それを約30日以上共に過ごしてきた中で、DIOは今日初めて直接目にしたのだ。少しの間、自身の中で燻った気持ちをありえないと一蹴しつつ、彼は小さな手に収まる皿を顎先で指し示した。



「まあいい。そのみたらしとやらをもっと私に寄越せ。一人で食すわけじゃあないのだろう」


「……あと少しだけ、だよ?」



そう言葉を紡ぎ、ごそごそとフォークの在処を探していると、頭上から降りかかってくる男の嘲笑。

ムッと唇を尖らせる名前。今度は一体、何が気に食わないというのだ。


不満げにこちらを見上げた彼女に対し、彼はますます揶揄の色を濃くする。



「フン、その顔……貴様わかっていないな。誰がフォークを使用していいと言った」


「?」


「指を使え。そしてそのまま私の口に入れろ」


「……はい!?」



聞き間違えか、と一瞬だけ自分の耳を疑ったものの、残念ながらそうではないらしい。

一方DIOはただただ狼狽える少女に早くしろと促すばかり。

自然と上昇していく体温。ふに、といまだ温かい団子を掬う人差し指と親指。


ついに意を決したのか、名前は震える手でそれを男の唇へ近付けるが、どうしてもその先へ進むことができない。



「(わからない。DIOはどうしてこんなこと……!)」


「ククッ、早くしなければ蜜が垂れるぞ」


「〜〜っ」



――もう、どうとでもなれ。


胸の奥底へ押し退けた葛藤。肌から離れていった餅の感触に彼女が隠すことなくホッと息をこぼす、が。

その刹那だった。突然手首を掴まれると同時に、唾液に濡れた舌がねっとりと細い指先をなぞり始めたのは。



「ひぁ……っ」


「なるほど。名前、貴様の指もなかなか美味ではないか」


「な、な、何……! いや……離し、っん!」


「……ふ」



顔を覗かせる快楽。微かに色めいた悲鳴が漏れる。

心を占めていく恥辱から脱しようと、見る見るうちに頬を朱に染めた少女は必死に身をよじった。



「いい加減にして! っ、ぁ……人の指舐めて楽しいの? 変態吸血鬼! 露出魔! 万年発情――へ?」


「!」



ツルン

次の瞬間、後ろに向かって傾く躯体。そう、逃亡を図ることに意識が集中してしまったため、脳は大理石の滑りやすさを完全に忘れていたのである。


思わず目を強く瞑る名前。

広がった静寂。手から取り払われた皿。ところが、どれほど時間が経っても予測していた痛みは一向に押し寄せてこない。



「っ……?」



衝撃の代わりに捉えたのは、何か、一瞬だけ時が抜け落ちた感覚と、ワンピース越しに伝わってくるひやりとした人ならざる体温。

密かに喉を上下させた彼女が、恐る恐る瞼を持ち上げれば。



「窮地に陥ると、まず第一に逃走を考える。それを実行するかせぬかは場合によるようだが……人間が持つ愚かな特性の一つだな」


「あっ、え、う……でぃ、DIO?」


「どうした? 名前よ。よもや驚きのあまり声が出せなくなったわけではあるまい」



何が起因したのか知る由もないが、彼が自分を助けた。


その真実を目の当たりにして、あどけない面持ちに加わる困惑。ありが、と――おずおずと紡いだ感謝。

耐えられそうにない状況。否応でも速いテンポを刻む心臓。鍛え抜かれた素肌に萎縮しつつ、娘がDIOと離れることを試みた矢先。



「え」



小柄な名前は、グッとキッチンに背中を押し付けられてしまった。

相変わらず捕らえられたままの手首。黒髪に男の甘やかな吐息を感じ、慌てて肩を揺らしてしまうほど密着した身体。


≪どうして≫。そんな疑問詞が無意識のうちにこぼれる。

一方、彼女を拘束する檻と化した彼は、三日月を描く口角でただただ笑った。



「わからぬか。このDIOが貴様に欲情したと言っているのだ」


「よっ!?」



そっと耳元に囁かれたのは、推測の斜め上を行く回答。

白く光る尖った八重歯。瞠目した少女が慌てふためいたのも束の間、ほくそ笑んだDIOはその無防備な頸部を唇で食む。



「フッ、ベッド以外もたまになら悪くないだろう」


「ぁ……っん、ふぅ……そ、いう問題じゃ、っや……ひ、っ、あんっ」


「戯言はいい。抵抗も無駄だ。貴様が私のもたらす快感に弱いことは熟知している。いい加減……、……」


「はぁっ、はっ……ん……ディ、オ?」



ふと途切れた音に少しだけかしげられる、今にも折れそうなほど細い首。すると、




「――≪気に食わん≫」


「? なに言っ、ひゃう!」



その声が再び三半規管を揺さぶった途端、鋭い歯が皮膚に食い込み、快楽と苦痛の狭間に追い込まれた名前はしなやかな背中を仰け反らせた。

一方、表情から色を消した男は執拗にその箇所へ紅い華を咲かせる。


まるで、星のアザを己の痕で塗り潰すかのように。



「(因縁、か。我が身にもある、このなんの変哲もないアザが承太郎やジョセフ、そしてジョナサンと繋がっているのだ)」


「いや……っおねが、やめ、てぇ! っは、ぁ……んんっ……噛んじゃ、っぁ、っあん」


「(理解に苦しむ。私は今、何故苛立っている?)」



生を刻むことすら忘れた胸に迫る焦燥感。

――≪ジョースター≫はどこまで自分を邪魔する気なのか。


切れ長の目を今度は不快ゆえに細めた彼は、不意にひどく潤んだ鳶色の瞳とかち合った。


やおら歪む口端。離れぬよう細腰に腕を回したまま、緩やかな山を作る胸元へ手のひらを這わせていく。



「……」


「ひぁっ、ん……はぁ、っはぁ……やん……!」



そして、数枚の服に守られるだけの乳房をやわやわと揉みしだき始めた。

当然ながら、首筋に気を取られていた彼女は慌てて身動ぎするが、性感はひたすら女体を攻め立てるばかり。



「っぁ、っあ、だめ……んっ、ぁ……でぃ、お……っ、ぁあ!」



頬に帯びた熱。ジクジクと疼く子宮。落ち着くことのない心拍数。それらに、少女は自然と上擦った声を上げてしまう。



「ふ、っぅ……ぁ、ッあ……いや、ぁっ……」


「ほう……ならば」


「ひゃう!?」


「貴様の好む先端を摘む。これで文句はないだろう」



クツクツと喉を鳴らしたDIOは、集中的に乳頭を布へ擦りつけるかのような愛撫に変えた。


容赦のない刺激に翻弄され、小刻みに震える名前の柔肌。もはや抵抗を見せる力はないだろう。そう判断した男が空いた手でおもむろにスカートの裾を捲り上げる。

同時に、たわやかな内腿の奥に潜む秘境へ指先を忍ばせ――不意にぴくりと動いた眉。



「ん……?」


「!」



下着の湿った感触。彼女もそれに気付いたのだろう。

居た堪れなさそうに俯く姿を見とめて、彼がショーツを剥ぎ取りつつさらに笑みを深めた。



「クク、これは……貴様も期待していたということか」


「ちがっ、ぁっ、ぁっ……はぁ、っは……っん、ちが、っのぉ!」


「……フン」



ふるふると首を左右に振る少女。

しかし、DIOにはすべてお見通しのようだ。


キッチンに響き渡る官能的な嬌声。

クチュリ。蜜がぬめりとなって陰核への愛撫を強めていく。



「っ、ん……ふっ、ぁ、やら……ッひぁ、っぁ……ああっ」



果肉を荒々しく掻き混ぜられ、身体を支配する焦熱。

乱れた吐息。自ずと霞む意識。


そして、弱点である粘膜を指の腹が幾度も押し上げ、撫ぜたとき、名前は白く婀娜やかに喉を晒していた。



「はぁっ、はぁ……っんん……そこやら、ぁっ、ぁ……い、っちゃ……でぃおっ……や、っぁぁあん!」



とめどない快楽をただただ享受する肢体。

だが休む暇もなく、右の太腿を掴み上げられ――視界の端に見えた生々しい一物に彼女がハッと息をのむ。


「ぁっ」



鳶色の双眸には動揺。何度身体を重ねても狼狽する少女の、紅潮した耳たぶを食む男。



「その顔……≪これで終わり≫とでも考えていたのか? 名前よ」


「っひ、あん……や……はぁ、っはぁ……ディオ、ま、って……待――っひゃああ!?」


「ッ……その答えは却下と言わざるをえないな」



強烈な熱と共に圧迫されていく膣内。

脊髄を鋭く伝い、全身を覆う苛烈な痺れ。

グチュグチュと無防備な襞を抉られ、もはや耐えられそうにない。


断続的に甲高い喘ぎ声を漏らした名前は、眼前の屈強な肉体に縋り付こうとして――



「――っ!」



ぴたり。ところがその刹那、脳内を通り過ぎた肉親の姿が、彼女の動きを阻んだ。

生理的な涙で潤んだ眼に生まれた躊躇い。それを、眉を吊り上げた男は見逃さなかった。



「ぁっ、ぁ、っん……や、っぁああ!?」



激しさを増した律動。否応なく女体をDIOに寄せた少女はただその呪縛を受け入れることしかできない。



「……」


「やら……っぁっぁ、だめ……らめぇ! かきまぜちゃ……ひぁ、っあ、ん……揺すらな、っで、ぇ……!」


「(わからぬ。何が貴様をそこまで頑なにする?)」



いや違う。男の中で、すでにその答えは見つかっているのだ。


どこまでも頭を過ぎり霧散することのない面影――ジョジョ、祖父、母、そして弟。

この自分が≪因縁≫を終わらせなければならない。張り詰めた亀頭で子宮口を突き上げながら、彼は名前の奥底まで浸透させるように蠱惑に満ちたテノールを響かせる。



「ジョースター一行を滅ぼすとき。それが貴様からジョースターという名の宿命を断ち切るときだ」



驚愕し、すかさず自分を見上げる鳶色。

これで彼女が自責に心を揺らす必要もない。何より。



「言ったはずだ名前。お前のすべては私――いや、オレのモノだとな」


「!」



そっと撫でられる頬。少女は、自身を包んだ感情が到底信じられなかった。

横暴で、攻撃的で、本来ならば今すぐにでも離れなければならない仇の男に、愛されたいと心の底から願ってしまうなんて――


≪ああ、私は≫。

自覚してしまった情愛。一粒、涙をこぼした名前は物怖じしつつも、筋骨隆々とした背中に両腕を回す。



「はぁ、っぁ、っぁっあ……でぃお……ん、っふ」


「クク……そうだ。名を呼べ」


「ぁ……ン、はぁっ、はぁ……っでぃ、お……ぁっぁっ、あん……ディオ……!」



純粋なる喜び。気が付けば、DIOは口角を歪ませていた。


「脆弱なる貴様の精神を支配するのは、このDIO一人で十分。私のことだけを考えろ」


「っひゃん! あっ……ぁっ、ぁああ!」


「フ……ようやく自覚が芽生えてきたようだな」


「んっ」


おもむろに重ねる唇。

するりと舌が口内へ侵入すると同時に、クチュリ、クチュリと彼女の耳を直接突き刺す水音。


酸素を共有するたび蕩けていった瞳。しばらくして離れた影。見つめ合う男と女を淫靡に繋ぐ銀の糸。



「あ、っはぁ、はぁ……」


「はッ」


「! らめ、っ……でぃおっ……ぁっぁっ、はげしく、しちゃ……や、ぁあッ」



名前はジョースターの一人。その血は驚くほどこの身体になじむだろう――≪吸血≫という二文字が過ぎったことは幾度もある。

しかしあえてそうしなかったのは、情が湧いたからではない。



「……」



一行は、すでにこの館に向かっていると報告が来ている。


もし奴らがここへ辿り着いたのなら、その瞬間こそが、彼女を自分と同じ種族にしてやるときなのだ。

憎い敵に囚われた愛しい人の姿を目の当たりにして、ジョセフや承太郎が顔に宿すであろう絶望など、もはやどうでもいい。己にいまだ残っていた、≪人間らしさ≫に思わず笑いが漏れた。

紅い視線が捉える、悩ましげな表情。収縮を繰り返す膣肉に、彼は少なからず苦悶を滲ませながら、泣き喘ぐ娘の小さな身体を抱きすくめ――



「ッ出すぞ、名前。この私の子種を……」


「ん……ふ、っぅ……ぁ、っ……はぁ、は……っひ、ぁ……んん……っだし、てぇ」


「……ク、ッ」


「でぃおっ……やんっ……ぁっぁっ、あっ、も……いっ、ちゃ……ぁっ、ぁっ、ひぁああんっ!」



ピンと緊張したかと思えば、弛緩した筋肉。蠢いてやまない胎内を焚きつけていく白濁液。

嬌声を上げたばかりに掠れ気味の声。朦朧とした意識の中、名前はDIOの冷やかな肌に額を預けた。


こぼれ落ち続ける、二人の荒い吐息。



「っはぁ、はぁ、っは……っんん」




自分自身が、侵略されていく。


抗うことができない、彼への想いに。



「……」


「でぃ、お……っ、ぁ」



強烈な快楽によって育まれたナカを、焦熱が刺激するたびに漏れ出た彼女の妖艶な悲鳴。

ふと娘の霞む視界に映り込んだ男の首筋――そこには自分のモノより少しだけ色を失った星のアザ。


その印が端的に表すのは罪悪感と慕情。まさに≪禁断≫。だが、この気持ちを止めることも掻き消すことも、今更できはしない。ゆっくりと切なげに目を伏せた名前に、DIOはこれ以上考えさせまいと、もう一度脈の通う細い頸部へひやりとした唇を宛てがうのだった。










throw,the Last Name
名を捨てろ――まるである戯曲の一節を謳うかのように、男は女に囁いた。












すみません、大変長らくお待たせいたしました!
DIOで『The gloomy,gloomy snare』の続編甘裏でした。
リクエストありがとうございました!
脳内にDIOさんの最期がちらついたこともあって、少しばかり切なさも交じってしまいましたが、いかがでしたでしょうか。二人のこれからについては、皆様のご想像にお任せいたします。


感想&手直しのご希望がございましたら、お願いいたします!
Grazie mille!!
polka



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