正夢スフィダーレ
※連載「Uno croce nera...」の番外編
※奉仕裏





甘く激しく互いを求め合った、情事の後。

シーツの上で疲労を宿しつつも微笑んでくれる恋人に、名前がおずおずと身体を寄せる。



「リゾットさん……」


自身の名を口遊む、熟れた桜色の唇。

胸の内を射抜く熱っぽい視線。

ゴクリと生唾をのんだリゾットは、そっと距離を縮め、紅潮した耳に囁きかけた。



「ん? どうしたんだ?」


「いえ。……ただ」



――リゾットさんのこと、大好きだなあって。


「! まったく……名前はオレを誘惑するのが上手いな」



今しがた口にした告白が恥ずかしかったのだろう。彼女は彼を見上げたまま、はにかんでいる。

次の瞬間、元から一つだったかのように、自ずと重なった額。


至近距離で鼻先を添わせ、しばらく見つめ合った二人は、徐々に唇を近付け――









そこで、意識が覚醒した。



「……夢か」


天井をじっと凝視しながら、ぽつりとひどく名残惜しそうに呟く。


昨日、いや今日も長かった二人の夜。むしろ満たされていると言っても過言ではないのに、足りないのだ。

≪欲張りになってしまうのが怖い≫と、以前名前は困り顔で話してくれたが、貪欲なのは自分の方だろう。


あらゆる形で彼女の心、声、姿、笑顔――すべてを確かめなければ、不安で――



「名前?」


ぽっかりと空いた隣。普段は穏やかな寝顔を浮かべているはずの恋人が、≪いない≫。刹那、少なからず焦燥を赤い眼に宿した男がこじんまりとした部屋を見渡している、と。


ガチャリ



「あ、おはようございます。リゾットさん」


「……」


「? どうかされましたか?」


「いや……、気にしないでくれ。おはよう、名前」



なんの気なしに交わした挨拶。少女がここにいることに安堵すると同時に、出逢うまで冷え切っていた心が改めて溶かされていく。

太陽の下を歩くことは叶わないが、名前の笑みはひだまりのように温かい。


喜びゆえに双眸を微かに細めたリゾットは、ふと自分が先程噤んだ言葉を思い返していた。



「(こんなにも≪幸せ≫を感じて、いいのだろうか)」



常に彼を苛む疑問。


かと言って、彼女以外と過ごす中で幸福感を覚えることは一切考えられない。

もはや考えるつもりもないのだから、恋情や情愛という名の感情とは融通が利かないモノのようである。


自身を嘲るように口元を緩めたかと思えば、パジャマ姿の少女からグラスを受け取り、水を一口含んだ恋人。そんな男の銀髪にひょこりと跳ねる寝癖を見とめて、名前は小さく微笑んでから近付いた。



「えへへ、今日はリゾットさんより早く目覚めちゃいました。早起きっていいですね! 水を取りにリビングに行ったら、ホルマジオさんの猫さんと会えたんですが――」


「……どうした?」


「●※□#▲@〜〜!?」



前触れもなく音が途切れた瞬間、記号でしか表現できないほど、彼女が声にならない声を上げる。

不思議そうに首をかしげたリゾットが、あらぬ方へ移りつつも一点へ向かう視線をおもむろに辿っていった、ら。



「あ」



一言で示そう。

≪勃っている≫。筋骨隆々の裸体を覆う薄い布団が、見事にテントを張っているのだ。


しかし言い訳をするわけでもないが、これは男性にとって、避けることのできない現象であり――



「え、あっ、えと……っごめんなさい!」


「名前!?」



勢いよく部屋を飛び出してしまう少女。だが、さすがに立ち去るのは心苦しく思ったのか、申し訳程度に扉からひょこっと顔を覗かせている。

なんて可愛いんだ。抱きしめたい――いつも育まれる衝動と、後退られた事実ゆえの切なさに彼が駆られていると、眉を八の字にした名前がおずおずと唇を開いた。



「そっ、そそそそれが男の人の生理現象であることはわかってるんですけど……少し驚いちゃって……!」


「い……一応、知っているんだな? そうだ、これは生理現象だ。断じて睡眠中にそういったモノを見たわけじゃあないぞ……!?」


「はい。(よかった……)」



女性と身体を重ねるような、官能的な夢を見たわけではないのだ――ホッと息をこぼした彼女はまさか自分の泣き喘ぐ姿が、今恋人の脳内で再生されているとは予想もしていないのだろう。

一方リゾットも天然や鈍感と周りに言われども、ここぞという時は心の機敏を察する≪リーダー≫である。詳細を正直に打ち明けると、状況がさらに悪化しかねないと口には出さなかった。



「君がわかってくれて安心した。……が、それならなぜ部屋に入ってこないんだ? 戻っておいで」


「それは、その」



表情に現れる躊躇いの色。二年以上、彼と文字通り寝食を共にしている彼女だが、今までこの光景を目撃したことがない。大抵、男より遅く起きるのだ。

それゆえ、昼頃あくびを噛み締めながらリビングへやってくる少女に、チームの面々が≪ねぼすけ≫とからかうことも多い。

そして揶揄と同時にプロシュートによく額を小突かれ、照れ臭そうに目を伏せるものの、眠気には勝てないのかソファで昼寝もよくする。当然、どこまでも無防備な名前へ伸びてくるブロンド二人の魔の手は、セ〇ムがきちんとメタリカで防御しているが。


二人の間に張り詰める、爽やかとは決して呼べない空気。盛り上がった箇所を隠すことすらせぬまま、リゾットが念を押すように「おいで」と繰り返すも、彼女は尻込みした様子を見せるばかり。



「うう……」


「名前」


「も、もうちょっとだけここから話しても、いいですか?」


「……。仕方がない」








「力ずくで連れ込みたくはなかったんだが」


「へ? あ、あのっ、とにかく服を着てくださ――きゃっ!?」



迫り来る裸に瞠目した次の瞬間、あっという間に引き寄せられた身体。


就寝時と同じく、胸板へ逆戻りした現状に鈴を張ったような瞳をぱちくりとさせつつ、自分を膝に乗せた彼を見上げると、突如右の耳たぶを食まれてしまった。



「ぁ……りぞ、とさん……な、にを」


「逃亡を図ったお仕置きだ」


「んっ、おしおきだな、て……そん、な……っひぁ、ん」



柔肉に歯を立てるたびに、ぴくりと震える肩。


少女の中に潜む情欲を掻き立てるように、布越しの肌をやんわりとなでていく男。

そして、生理的なナミダを浮かべた恋人にテノールで問う。



「……いいか?」


「!」



本人以上に名前のことを知り尽くしているリゾット。だからこそ、答えは最初からわかっているはずなのに――それでも投げかけてくるこの人は、優しいのか意地悪なのか。羞恥と悔しさに下唇を噛んだ彼女は返事の代わりに一度だけ、こくりと頷いた。











自身が了承を示した途端、シーツの上に組み敷かれると信じて疑わなかった少女。

ところが、その予想は裏切られ二人で眠るにはかなり狭いベッドの脇に座らされたかと思えば、瞬く間にパジャマのズボンだけを抜き取られてしまう。



「え? えっ?」


加えて、俗に女の子座りやぺたん座りと呼ばれる体勢を促され、きょとんとしながらも従う名前。


頭上を占めるクエスチョンマーク。

一つ、二つと外された襟近くのボタンに、白くきめ細かい谷間がより鮮明に浮き上がった。



「あ、あの……どうしてズボンを……?」


「ふむ。訳はさまざまだが、なんと言っても今の君の姿は視覚的に良好だからな」


「!? 〜〜リゾットさんの、変態! 見ちゃダメですっ」


「こら、隠してどうする。それと、≪見るな≫と赤らんだ顔で言われて見ない奴はいない。(本音としては、名前の恥ずかしがる姿が見たいという理由もあるんだが……素直に告げればこの子はさらに怒るに違いない……)」



無意識のうちに吊り上がる口角。今更ではあるが、この男重症だ。

また、変態という点でも否定はしないらしい。

ぽかぽかと逞しい胸部を軽めに叩いてくる彼女の両手を、彼は真顔で(心中はにやにやしっぱなしである)するりと掴み、


二人の間を埋めるように桜色の唇を己のそれで塞いだ。



「ん! っふ……ぁ……りぞ、とさっ……ン、っは」


「名前……」



甘い吐息交じりに紡がれる己の名前。深い感情を込めて呼ばれるそれにリゾットの想いをひしひしと感じ、少女の胸中には喜びと愛しさが広がっていく。


しかし、喜心を吐露するのはひどく擽ったい。

そもそも、名前はこれでもかと言うほど恥ずかしがり屋のため、そんなことは口が裂けても言えないのだが。



「はぁ、はぁっ、んん……っぅ、ふ」


「ッは……逃げても無駄だ」


「ンんっ!? っはぁ、っは……ッ、ん……っぁ」


「……ふ」



喉の方へと隠れようとした舌はまんまと絡め取られ、部屋全体を支配した淫らな音。

弱々しく胸元に拳をぶつけたことでようやく窒息寸前から解放される少女。そして、呼吸を整えつつ慌てて唇を閉じようとするが、突然指を口内に差し込まれると同時に顎が固定されてしまった。



「っふ、ぅ……んん……、?」


「動くな」


「〜〜っぁ、っひぁ」



ぽたりぽたりとこぼれ落ちる唾液。

せめて、あらぬ方を向いてくれたらいいのに、彼は一瞬たりとも深い色の眼を名前からそらすことはない。


押し迫る恥ずかしさに耐え切れず、彼女がついと目線をそらせば。



「(……そういえば)」



視界の端に映り込んだ、ずれ落ちた布団から顔を覗かせる膨らみ。


心の中で湧き上がる疑問――これまで、恋人は昂ぶりをどのように対処してきたのだろうか。

もちろん寝起きのイタズラは何度かされた覚えがあるが、なんだかんだ言って少女が本当に嫌がることは決してしない。


それは、リゾットが自分を大切に想ってくれている確かな証拠で。



「(ど、どうしよう)」


「ん? どうした、難しい顔をして」


「……(まだ慣れないけど……リゾットさんに喜んでもらえるなら)」


「名前?」



次の瞬間、彼の手を離れたかと思えば、ふと名前がベッドに這うように躯体をずらしたのだ。

気付いていないのか、突き出す形になる丸みを帯びた双丘。パジャマの裾からちらちらと垣間見えるパステルカラーのショーツと太腿に、知らず知らずのうちに釘付けになっている――と。



「ん……っ」



ぺろっ。濡れた赤が頂きを掠め、快感という名の電流が男の神経を駆け抜ける。当然、リゾットはギョッとした顔で愛撫を始めた彼女を見下ろした。



「!? 名前、突然何を――」


「ふ、ぁっ……ぁ、うごいちゃ、だめです」


「ッく」



先程伝った唾液も影響するのか、ジュブリピチャリとよく鳴り響く水音。


彼のために何かしたい――その想いに急き立てられ、髪がかからないよう右手を耳に添えつつ、少女はチロチロと赤黒く腫れた鈴口を舐めていく。

男性器に舌を添わせているという羞恥が蓄積される一方で、名前は己の唇から吐息が溢れるたびに小刻みに反応する彼の自身がなぜか少しだけ可愛くも思えた。




「……は、ッ」


「んっ、ぅ……?(これが気持ちいい、の……かな?)」



恐る恐る亀頭に口付け、微かに吸い上げたままかしげる首。

一方、彼女の表情と背徳的な状況に喉を鳴らした男。小さな口腔が肥大した陰茎に占領されたことで息苦しいのか、潤んだ双眸をひっそりと向けてくるところがまた、たまらない。



「はぁっ、はっ……んん」



懸命に少女が成す仕草一つ一つが、ひどく扇情的である。



「名前」


「っ、ん……ふ」


「そろそろ……はぁ、は……うッ」


「!」



脈打つ男根に何かしらの傾向を悟ったのだろう。息を吸おうと、不意に一物から口を離した瞬間。

せり上がる止めどない快楽。


そして数時間前、すべて植え付けるように胎内へ注がれたはずの白濁液が再び――



「ク、ッ」


「きゃ……!?」



今度は可愛い恋人の肌に飛び散った。


耳を劈く己の苦悶と官能に満ちた呼吸。一方名前はしばらく呆然としていたものの、状況を察知し狼狽に紅を潤ませ、自分をおろおろと見つめる姿はひどく淫靡だ。

と、征服感に浸っている場合ではない。


ハッと我に返ったリゾットが慌てて手に取ったのは、偶然にも枕元に置いてあったスポーツタオル。



「ッ名前」


瞳の奥に密に浮かべるわけでもなく、ありありと焦りを眼前に滲ませた彼は、彼女の顔をゴシゴシと拭っていく。

それから、困惑が宿った視線と目を交わらせた。



「ほ、本当にすまない。(オレはいつからこんなにも堪え性がなくなったんだ……)」


「っあ、えと……んっ……私は大丈夫です、よ? リゾットさんに、感じてもらえて嬉しいんです」


「……」



えへへ、と眉尻を下げてから、気にしないでほしいと首を横に振る少女。


どうやら朴念仁と言われ続けていた自分は、この子と身体を重ねて以来、理性の箍が常に緩んでしまっているらしい。

気を遣わせていたという後悔の念も確かに存在するが、それ以上に胸の内を溢れ行く≪慈愛≫に男が微笑む。柔らかな頬に添えられた無骨な手のひら。



「あとでシャワーを浴びよう」


「はい。できればそうしたいで――≪あとで≫?」



消えた布の感触に瞼を開いた名前は、はたと気付いた。彼女を包み込む眼差しはいまだに劣情を孕んでいるのだ。



「リゾットさん……?」


「今度は名前の番だ」


「ひゃ!?」



刹那、背中全体を襲うベッドの感触と共に、≪押し倒されたのだ≫と自覚する少女。

それはつまり――リゾットが果てたため終わりだと思っていたのか、名前はこれでもかと言うほど驚愕し、ジクジクと疼く身体を抑え付けながら彼を止めようとする。



「ぁっ、んん……わ、私はべつに、っだいじょうぶです! だから、っ、ぁ……やっ、ぁあん!」


「む? オレのみが快感を得るつもりは一切ないんだが」



うっすらと浮き出る脈を辿っていくように這わされた舌先。

その行為が性交の始まりを彷彿とさせるのか、ピクピクと揺蕩う産毛。


彼女の甘やかな嬌声に薄い笑みをこぼした男は、ふと白い肌を行き来していた唇を止め、おもむろに歯を鎖骨に押し当てた。


「ん」


「! な、っで……噛んじゃ……ひぅっ、ん、ッ……ダメ、ぇ!」


「ふっ……噛まれて感じているのか? オレは他の輩が君を狙わないよう、痕を付けているだけだと言うのに」


「っはぁ、っぁ、はぁ……りぞ、とさっ……だめなの……ぁ、や、っんん……!」



肩口、首筋に広がった赤い輪と点。

皮膚を何度も啄まれ快感に震えている姿、それが何よりもリゾットの欲を煽り立てるのだ。



「や……!?」



次の瞬間、下着を付けていない膨らみが布越しにぐにぐにと揉みしだかれ始める。

そして、通常ではありえない触感に口端を吊り上げてみせた。


指先に翻弄される硬くなった乳頭。



「もう勃たせているのか。……目の前でこんなにも揺れて、男を誘惑するいやらしい胸だ」


「ぁっ、ん……あっ、ふ、ぅ……いじるの、っ……はぁ、っは……やらぁ、っ」



ひたすら喘ぎ声と共に拒否を紡ぎつつも、もじもじと微かに擦り合わせている太腿。


それを不意に見とめると、彼の手ですべて取り外されたパジャマのボタン。

ぶるんと音を立てたかのように、肉感的な乳房が勢いよく顔を出す。

続けざまに赤く色付いた頂きを咥え込まれてしまった。



「っひぅ! りぞ、とさ……っぁ、っあ……だめ……たべな、っで、ぇ……!」


「ふ、ずいぶん敏感だな」


「……ひっ、ぁああん!?」



胸先に気を取られているうちに、男の指先は内腿に隠された秘部へと近付いていたらしい。割れ目をなぞられビクンと腰が跳ねる。


「……ん?」


「ぁ……」



かち合う赤と紅。

お互いに思うことは同じ――ひどく水気を含んだショーツについて。


にやり。誰が見てもわかるほど口元を歪めたリゾットは、ますます赤く染まった少女の耳に低く話しかけた。



「濡れているな。まさかとは思うが……口淫をしたときからこうなっていたのか?」


「そ、そんな……ちが……っ」


「嘘をつくんじゃあない。この湿った下着と水音が証拠だ」


「ひゃん!」



骨盤に焚き付けられる鋭い快感。

これからのことを期待し、パクパクと動く花弁。

分泌される愛液。意識が朦朧とするうえに絶頂は確実に迫っている。


ただただ恋人を見上げる名前の瞳は知らぬ間に、羞恥ゆえの拒絶を押し退け懇願を宿していた。



「ッ……りぞっ、とさ、っぁ……はぁ、っは……ン、っふぅ」


「ああ、いいぞ。淫らにイけばいい」


「! ぁっ、ぁっあっ……そこだめ……っわたし……ぁっ、ぁっ……ん、っぁ、ぁああ……!」



次の瞬間、彼女を攻め立てた強烈な快楽によって背筋が反らされると同時に、尿道から≪何か≫がこぼれ落ちる感覚。



「や、っはぁ……は、ぁ……っんん!」


じわりと潤いを帯びたショーツ。


少女も、その正体を理解したのだろう。



「名前」


「っ」



叱咤を込めて名を呟いたわけではないのに、気恥ずかしそうに視線を外した、愛くるしい恋人。


その様子にほくそ笑んだ彼は滑らかな足先に向かって、薄い生地のショーツを剥ぎ取る。

さらに、指で広げられた薄紅色の襞をまじまじと凝視され、頬を赤らめた名前は慌てて身を捩ろうとするが残念ながらそれは叶わない。



「……ふ、男に見られながらも蜜を零すとは……本当に淫乱な子だな、名前は」


「ぁっ……はぁっ、はっ……やら……りぞ、っとさ、の……いじわる、っ……ひろげちゃ……らめっ、ぇ!」


「そうか。……では、恥ずかしいことを言われて、ココをヒクつかせているのは誰だ?」


「や、ぁ////」



羞恥心に苛まれるのか、もう一度図ろうとした逃亡。しかし、男がすかさず大きな躯体で彼女を閉じ込め、より女性器を露出させるように両膝の裏を持ち上げてしまった。

刹那、内腿が捉えた焦熱にヒュッと喉を鳴らす少女。



「!(リゾットさんの、また大きくなって……っ)」


「名前、挿入れるぞ」



――≪いいな?≫。

こうして繋がるとき、リゾットは必ず言葉で、時に眼差しで問う。

トクトクと速いテンポを刻む心音。焼け付くような熱を覚えた躯体の芯。


しばらく言い淀んでいた名前は、「っ、はい」という返事と共にぎゅうと筋肉質な首に細腕を回した。



「ッく」


「っひゃ、ぁ……りぞっと、さ……っ、ぁああ!」


「は……名前ッ」


「あん、っふ、ぅ……ぁっぁっ、あっ……はぁ、っ、は……んんッ」



ヌプ、ズチュリ

朝に似つかわしくない音が部屋中に響き渡る。


小さく首を横に振りつつも、しっかりと肉棒を咥え込む恥肉。



「ふ、っぁ……りぞ、とさ……りぞ、とさっ、ん……!」


「クク、ずいぶんいやらしいな。自分から腰を振って」


「きゃう!? ッぁ……やら、っ……はぁ、はぁっ……ん、っぁ、っぁ……言っちゃ、やぁあ」



快感に翻弄されるあまり、彼女は彼へとさらにしがみ付き――密着した裸体。


掠れた吐息。扇情的な仕草に掻き乱される胸の内。

余裕のない自分を見せまいと、微かに奥歯を噛み締めた男は少女のすべてを支配するように子宮口を覆う筋肉を突き上げた。

すると、あられもない声が上がると同時に、名前の双眸はとろんと甘い熱を帯びる。



「ぁっ、あん……! らめ……ぁっぁっ、あ……そこ、っや……!」


「ん……? 君の肉襞は吸い付いてくるというのに、嫌なのか?」


「! そ、れは……っぁ、っは、っはぁ……ひぁ、っん!」


「……ふ」



うねる粘膜。痙攣を繰り返すしなやかな女体。

激しい律動をもたらしながら、不意に己の左手を彼女の腰から太腿の付け根へ移したリゾット。


そして、押し拡げられた膣口のすぐ上に指を近付け――



「ッ」


「ん、っぁあ!?」



包皮から陰核が剥き出しにされた刹那、ほっそりとした背中に電撃が走った。

開脚され、ただただ根元まで一物を頬張る愛液まみれの股座を天井へ曝け出す名前。

深紅の瞳にナミダを滲ませ、切なさを交えた色で彼を見上げる彼女にはもはや、≪少女≫の影はない。


はち切れんばかりに腫れ上がった陰茎が、秘豆を攻め立てていく。



「名前、名前……!」


「っふ、ぁっぁっ、ぁっ……やら、っ……りょうほ、らめなのっ……おねが……こすらな、っで」


「ダメじゃあないだろう。もっともっとと締め付けておきながら、よく言う」


「あん……っ」



あらゆる弱点に対する容赦のない責め苦に、名前は一頻り紅い瞳を見開いていた。


「はぁっ、はっ、はぁ……っぁ、またきちゃ……っ、んん!」



彼女の身体を阻みようのない快楽が駆け抜けた途端、ぼやけた世界ではっきりと覚える一つの終末感。

一度足を掬われれば、抜け出すことは難しいオーガズムへの予兆に、自ら抱きついた少女。


乱れた呼吸が男のガタイのいい肩に突き刺さる。



「ん……ふ、ぅっ……、ぁっあっ……ひぁ、っ……もう、っわたし……!」


「はぁッ……名前、いいか? 君のナカに……、ッ」


「っぁ、っぁ……ン……んっ、ッ、ぁ……はいっ、ぁっぁっ……りぞっと、さんの……ちょうらっ」



無意識に口遊まれた強請り。重なった視線に息をのんだリゾットはその瞬間、ドクリと拍動した男根を捻じ込み――




「ッく」


「ひゃっ、ぁ、ぁあああんっ!」



ほぼ同時に性的絶頂を迎える男女。離れぬよう、いつの間にか絡めていた指。

性感と苦悶で静かに眉をひそめた彼はその手を握る力を強めつつ、自分を誘うかのごとく幾度か蠢いた最奥に愛欲をほとばしらせた。










「……はぁ、っは……ん……りぞ、とさ……っ」



見つめ合ったまま、自然とこぼれるのは色めいた息。二つの胸に広がっていく多幸感。



「ぁっ」



突如、落ち着いた男性器を挿入したまま膝上に抱え上げると、名前の喉から思わず漏れたか細い声。


正常位や屈曲位も好きだが、最近は対面座位を好んでいるらしい。

行為や自身の言葉攻めに恥じらいながらも、悩ましげな表情で自分に縋りつき、物欲しそうに腰を揺らす姿がリゾットにとってはたまらないのだ。

もちろん、動きに合わせて揺蕩う胸もまた蠱惑的であるのは言うまでもない。



「朝から何も食べていないんだ。お腹がすいているだろう」


「え? ぁ……んんっ」


「ん……」



そして、舌先を容易く傷付けると同時に、豊潤な唇を貪っていく。

冷静さを取り戻しかけていた修道女を、再び興奮の沼へ引き込む血の香り。


「ふ、んぅっ……はぁ、っは……りぞっと、さ……っぁ、ん!」


「……ッは……名前」



名残惜しそうに離れる二人。ぷつりと切れた銀の糸。

少なからず細められた彼の加虐的な瞳にゾクリと性感を覚えてしまう自分は恋人に服従、隷属しているのかもしれない。


屈強な身体に倒れ込んだ彼女は、しばらくしておずおずと視線を上げた。



「はぁっ、はっ、ん……っ」


「ふ、蕩け切った顔をして。風呂場へは行けそうか? 難しいのであれば、オレが君を抱えていくぞ」


「〜〜っ(わ、私を≪蕩け切った顔≫にしたのはリゾットさんなのに……)いえ……なんと、か一人で……、っぁ」



そうか、と至極残念そうに紡がれた一言。

だが男の腕は相変わらず自分をしっかりと抱き止めたまま。離してくれないのだろうか――少女が小首をかしげている、と。



「名前の意志は把握した。……が、その前にもう一回」



刹那、いつの間に硬さを取り戻したのだろう。


ズグリ

きゅんと収縮を何度か繰り返していた胎内を刺激する、ひどく張り詰めた熱の塊。



「!? やっ……はぁ、っぁっぁ、っあ……らめ……も、むりです、っ!」


「ふむ。では浴室に行くか。あくまでこのままの姿勢で、だが」


「え……!? っ、なに言、てるんですか! このままなんて、ひぁっ、ぁ……見られちゃ――あんっ」


「ならば一ラウンド。……いや、もう三ラウンドだ」



どうして増えて――リゾットから示された数に、名前が青ざめたのは言うまでもない。





防音機能が一切装備されていない一室。

猫っ毛に近い銀色のそれをクシャリと指先で乱しつつ、彼女は妖艶に喘ぐ。

吐息を漏らす口からは精一杯の悪態。



「りぞ、とさっ、の……っぁっあ、ばかっ……やん、っばか、ぁ」


「……まったく、悪態をつく君も可愛いな。だがなぜそこまで頑なに嫌がってみせるんだ?」


「ひぁっ!? や……ら、って……ぁ、んっ……らって……っぁ、はぁ……こわっ、い、のぉ!」








「おく……いっぱい、ぐちゅぐちゅされ、たらっ……りぞ、とさんに……ん……ぁっぁっ、あっ……もっと、ふれてほしくな、っちゃ……!」


「ッ! ……名前。本当に君という子は……ッ」



彼の切羽詰まった声と共に、速まる律動。泡立った結合部。

溢れんばかりの想いを込めて少女の名前を何度も紡いだリゾットは、両腕に収まってしまうほど細身で小柄な恋人を強く抱きしめた。











正夢スフィダーレ
夢では終わらない、二人の情交。




〜おまけ〜



日の光が爛々と輝いているであろう昼前。

白く霞んだ朝に比べて、カーテンの色がより鮮明なモノへと変わった部屋には、下着を身に付けただけの男が一人、ベッドの脇に腰掛けていた。


生真面目な面持ちを貫く彼の傍には、静かに寝息を立てる愛しい人。



「すう、すう……すう」


「……(少々激しくシすぎてしまった)」



汗が滲んだ躯体を包む、目交い後独特の香りを受け止めながら、窓を一瞥する赤い眼。こうして閑散とした世界が室内に広がるとき、リゾットは切に考えてしまう。≪早く夜にならないだろうか≫、と。そうすれば、太陽に遠ざけられた名前は月明かりの下を自由に羽ばたけるから。


とは言え、彼女を自分の元から解放するつもりはさらさらない。

≪首輪≫という柵を葬った仲間や、少女との新たな未来を想い――しばらくの別離を心に決める、そのときまで。


うつぶせ気味で深い眠りについている恋人に対して、再び湧き上がった劣情を抑えつつ、彼は真っ白な枕に添えられた右手を優しく取り、ふと顔を綻ばせた。



「(可愛い顔で熟睡して、君は本当に隙だらけだ。……そのように無防備では襲われてしまうぞ)」



事実、先程まで婀娜やかに乱れていたとは思えないほど、美しい寝顔に心を滾らせている男がここにいるのだ。



「名前……」



また海に行こう――不意に思い至ったのは故郷を呼び起こす潮騒。すべての記憶が華々しいわけではない。しかし、殺風景だったはずの日々は、名前と共有していくたびに≪日常≫として色を取り戻していく。


自覚せざるをえない己の変化にリゾットが嘲笑を浮かべた、そのとき。



「ん……っ」


「!」


「……すう、すう」



応えるように、少しだけ握り返される彼の指先。

ハッと目を見開いた男は驚愕という感情を胸に、彼女を密やかに見つめた。

視界を埋め尽くすのは、恋人の普段以上にあどけない表情。


自然と押し寄せる≪願い≫。



「(柄ではないと承知している。……だができることなら、オレの夢を見てくれないか)」



自分が恋焦がれて、夢にまでその姿を投影するように。

――名前の顔を汚してしまったことが気にかかるが、こんなにもぐっすりと眠っているんだ。シャワーは後回しにしよう。


顔にかかる細く柔らかな髪を左手で掻き分けて、綿雪のように白い頬にそっと触れる。両方の手のひら、どちらにも伝わってくる微かな体温。微笑を湛えたリゾットはもう一度だけ名前という愛おしい存在を確かめていた。












大変長らくお待たせいたしました!
裏で、朝勃ちしてしまったリーダーに奉仕する連載ヒロインのお話でした。
リクエストありがとうございました……!
おまけは少しばかりしんみりとなってしまいましたが、いかがでしたでしょうか。


感想&手直しのご希望がございましたら、clapなどにお願いいたします!
Grazie mille!!
polka



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