※連載「Uno croce nera...」のif(50000hit≪quattro≫の続編)
※若シュート=優しさの割合が低い
※裏
※少々鬼畜(?)な上に媚薬を使用しています、注意!
ギャング組織、パッショーネの構成員であるプロシュート、20歳。
後に所属することとなる暗殺チームと比べて、それなりに高額の報酬を得ていた当時の彼は一つ年上の――とは言え、それが実年齢かは定かではないが――日本人のシスターに会いに来ていた。
掃除の音だけが静寂に響き渡る深夜の教会。眼前でせっせと働く彼女を見つめながら、ベンチに腰掛けた彼がぽつりと一言。
「ったく、目の前でケツ振りやがって……名前お前誘ってんのか」
「さ……ッ、そんなわけないじゃないですか! 私はただ、掃除をしてるだけですっ」
ほうきを手に振り返る、修道服を纏った名前。
あれ以来色男はここに足繁く通っているが、≪一線を踏み越える≫といったことになると、どうもスルーされている節がある。
吊り上がった片眉とこぼれる舌打ち。ツレねえなあ――そんな一言と共に黒シャツの胸ポケットから取り出された煙草。一瞬だけ、宵闇に灯る赤。鼻につく独特の香り。
すると、羞恥に塗れた表情から一変して、今度はじとりとした視線を少女が送ってくるではないか。
「あの、プロシュートさん……」
「ん? なんだ? やっと抱かれる気になったのか?」
「〜〜っ違います! そうじゃなくて」
「ここは≪禁煙≫って、私いつも言ってると思うんですけど」
モクモクと天井へ立ち上る白煙越しに、鈴を転がすような声が聞こえた。
最近、プロシュートは現在の商品では物足りなくなってきているほど、頻繁に吸うのだ。
寛容な心を捨て、今にも説教を始めそうな彼女に対し、彼は悪びれた様子も一切なく口を開く。
「いいじゃねえか、減るモンじゃねえし。煙たいなら換気扇でも回してくれ」
「そういう問題じゃありません! ……もう」
「ククッ、まあそう怒んなよ。可愛い顔が台無しだぜ?」
「別に怒ってないです。(プロシュートさんの体調が心配なだけなのに)」
ぷすぷすと効果音が付くかのように怒りを体現しつつ、動きを再開する名前。
そんな後ろ姿をぼんやりと眺めていると、不意にある案が脳内に浮かんだのか男がにやりと口角を上げた。
「名前。ちょっとこっちに来い」
「? 今度はどうしたんです……ひゃっ!?」
次の瞬間、きょとんとした少女が振り返ると同時に、細腕をグッと自分の方へ引き寄せるプロシュート。
カラン、と床にぶつかったほうき。手のひらに伝わる低い体温。冷え性なのか。それともやはり触れられる幽霊なのか。
だが、今の彼にとってそういった事実は≪どうでもいい≫。
食生活を心配してしまいそうになるほど軽い身体を膝の上に乗せた男が、薄い笑みを宿しながらベールから覗く艶やかな黒髪にそっと唇を寄せる。
「いや……なんだかんだ言って心配してくれてるオメーのためにも、ちったあ控えるかって改心しようとしてんだよ」
地面で鎮火した煙草の残骸。思わぬ告白。それが脳髄に辿り着いた途端、彼女の面持ちが安堵と喜心ゆえに少しばかり輝いた。
しかし、まだ話には続きがあるのだ。
二人の距離はおよそ5センチ。そして重厚なボイスで紡がれた≪ただし≫。その言葉におずおずと顔を上げれば――
「ま、その分オレの≪口寂しさ≫をお前が責任持って埋めてくれんなら、っつー話だけどな」
「え……? 何を言、っんん!」
「ん」
刹那、布越しの後頭部に手を回され、名前の唇がプロシュートのモノによってあっという間に塞がれてしまう。
歯列の裏や舌下、そして上顎をされるがままに舐られ――口内を犯していく、未体験の味。
慣れない辛みに舌先が捉えたのは、ピリピリと痺れるような感覚。
どれほどの時間が経ったのか、それすら把握できない。長く濃厚な口付けから解放されるやいなや、少女はひどく咳き込んでいた。
「〜〜ケホッ、コホ……っは、っはぁ……」
「どうした? ああ、むせちまったのか。そりゃァワリー……どうだ? 謝罪の意味も込めて、もう一回――」
「しませんっ!」
「チッ」
相変わらずガードが固い。
きっぱりと≪No≫を紡ぎ出した彼女に不満を抱きつつ、妙に甘やかな己の口内を確かめた彼は、コツンと互いの額を重ね合わせる。
「しっかし、名前の口ん中は甘えな」
「あ、甘い……? うう、そんな……不公平です。私はすごく辛かったんですよ?」
こちらを射抜く、羞恥と不服が入り交じった紅い双眸。そのとき、何を思ったのか男の口端が妖艶に歪んだ。
「……≪不公平≫ね。面白えこと言うじゃねえか」
「?」
「ふ……いや、大したことじゃあねえよ。っと、もうこんな時間か。そろそろ帰らせてもらうぜ」
プロシュートの帰りは、常に唐突だ。
だからこそ、名前は違和感を覚えることもなく立ち上がり、しばらく歩いた後、いつものように扉の外へ一歩踏み出した。
一方、胸に広がる名残惜しさを掻き消した彼は小柄な少女を見下ろしてから、ぽんぽんとその頭を大きな手のひらで撫でる。
「じゃあな。変な男に捕まんじゃねえぞ」
「(変わってるという点では、今まさに目の前にいるような……)えと、はい。プロシュートさんも、気を付けて帰ってくださいね」
冷涼とした日陰に咲き誇る花のごとく控えめで柔らかな微笑み。手をおずおずと左右に揺らす姿がまた可愛いのだが――今回ばかりはそれに気を取られているわけには行かない。紺一色の空を一瞥した男は、再び取り出した煙草の先端に火を灯しながらすかさず距離を縮めた。
「なあ名前」
「はい……、?」
「……最後に一つ。甘えキス、試してみたいだろ?」
「へ? なんだか嫌な予感がするので遠慮させ、んぐっ」
首を横に振ろうとした次の瞬間、口の中に押し込まれたのは、つい今しがたプロシュートが咥えていたはずの嗜好品。
当然、咄嗟のことに呼吸を止めることもできず、彼女はまたしても煙を吸い込んでしまう。
一体何がしたいのだ。
ようやく息苦しさから解放され、眉を微かにひそめた名前が、どこまで会話を繰り返しても行動の読めない彼を慌てて睨めつけようとした、ら。
「! ン、っふ……ぅ……はぁ、っは……んん!」
「は……ッ」
「ん、っ……ぷろ、しゅーとさ……ぁ、はぁっ……はぁ」
月影の下で重なった二つの影。視線を上げた途端、先程以上に濃厚なキスがシスターを待っていた。
戸惑う少女をよそに、空いている片手できゅっと締まった腰を抱き寄せ、我を忘れて無防備な口腔を貪っていく青年。
この接吻は、巷で流行っている麻薬よりよっぽど質が悪いかもしれない――忘れがたい中毒性がプロシュートの心中を巣食う。
「ふ、っぁ、ん……ッ、あん……ゃっ、はぁ……っは……ぅ、ンん……!」
「もっと舌出せ……わざわざ≪タバコ吸わせた≫意味がねえだろ」
ああ、≪甘い≫というのはこのことだったのか。
粘膜を支配する味覚。クラクラと意識が白く霞み始める中、彼を見据えた瞳は生理的なナミダでひどく潤んでいた。
「ぁ……はぁ、っは……ん……プロシュートさんの、ケダモノっ!」
「クク、ケダモノね。ならそのケダモノが次現れるまでには、食われる準備でもちゃんとしとくんだな」
「〜〜ッ」
見る見るうちに朱を帯びる彼女の白い頬。
表情から滲み出た照れ臭さを視界に収めつつ、自分たちの間を伝っていた銀の橋を繋ぎ直すように豊潤な上唇を食み、チュッとわざとらしく音を立てたかと思えば、颯爽と立ち去ってしまうプロシュート。
そう。以後、百戦錬磨と呼ばれることになるこの色男は若さゆえに、名前に対する感情が今や≪好奇≫から別のモノへとすでに移ろっていることに気が付いていなかったのだ。
数日後。
今日も今日とて教会の中へ足を踏み入れたプロシュートを最初に迎えたのは、想像もしなかった≪鳴き声≫。
「ふしゃーッ」
「……おいおい。名前の奴、番犬ならぬ番猫でも付けたのかァ?」
警戒を示す、金の短毛にブルーの眼を持った猫。どこかで見覚えがある――あやふやな記憶を辿ろうと彼が顎に指先を置いたそのとき、聖堂の隅にあるこじんまりとした部屋の扉から普段通り少女が現れる。
「あ。こんばんは、プロシュートさん」
――思い出した。
それは出会いの日。彼女が窓のひさしから手を伸ばし助けた、毛玉かと勘違いするほど小さかったあの子猫ではないか。
あのときより幾分か成長したようだが、今でもかなり懐いているらしい。
「よォ。……そいつ、なんでここに居んだ」
「え? ああ……エサをあげていたら、なんだか住み着いちゃったみたいで……パンチェッタちゃんというお名前を付けさせてもらいました」
「にゃーん」
「……へえ。オレにはどうでもいいことだが、猫に食い物の名前を付けるたァ、ネーミングセンスとしてどうなんだ? え?」
ギクリ。華奢な肩が微かに揺れる。
この子の毛色、瞳に≪似ている≫と脳内を過ぎった感想からヒントを得たなんて、頭上で眉根を寄せる≪張本人≫には口が裂けても言えない。
とりあえず話をそらすため、男に対する反応とは異なり、ゴロゴロと甘えるように喉を鳴らす愛玩動物を優しく抱き上げた名前。
まるで相思相愛。眉間にシワをますます増やしたプロシュートは、顔を綻ばせた少女の背後に素早く回った途端、その小ぶりな双丘を右手で鷲掴みにした。
「きゃう……っ/////」
「ふ、初心な反応しやがって。そうだな……安産型にはちと足りねえが、相変わらず男の欲をそそらせるケツだ――」
「シャーッ!」
もみもみと柔らかさをしばらく堪能していると、不意に鋭い爪が飛んでくる。
服を裂きそうなほど尖ったそれを間一髪で避ける彼の身体。
「おっと。……あの猫、とんだ真似してくれるじゃあねえか」
刹那、荒っぽい手つきから解放されたことに安堵したのか、陶器のように白い肌を赤らめながらそそくさと部屋に戻っていく修道女。
惜しい――自然と漏れる舌打ち。
しばしの間、閉じられたドアに眼差しを向けていた男はふと視線を落とした。
そして、ゆっくりと三日月を描く、形のいい唇。
「だがまァ、≪やることはやった≫」
手中に収まる錠剤の瓶。
そう。今、あの修道服のポケットには≪中身だけが入れ替わった≫モノが。
蒼を細めたプロシュートには、名前に関して気になることが二つあったのだ。一つは正体。
「(見た目はオレらとあんま変わらねえが……強いて言うなら、体温が低いぐれえか)」
もう一つは――
次の瞬間、三半規管を貫いた膝が崩れ落ちる音。
ハッと目を見開いた彼は、すぐさま部屋のそばへと駆け寄る。
「! おい名前、どうしたッ」
好奇心に混ざり合う憂慮。
いくら待てども返事がない。
ドアノブに手をかけようとした矢先、「ぷろしゅ、とさん?」といつも以上にか細い声音が己の名を紡いだ。
刹那、自分でも気付かぬうちに男は安堵ゆえのため息をこぼしていた。「大丈夫か」とテノールが問えば、板を隔てて頷く気配。
「はっ、はぁ……し、心配しな、でください。少しふらついただけです」
「ならいいけどよ……あまりにも≪辛え≫なら呼べよ?」
ガラス瓶に忍ばせたのは、≪媚薬≫。
と言っても、それは性欲と縁がなさそうな聖女から色情を引き出すための代物であり、こちらが持っている薬は種明かしと同時にすぐ返すつもりだったのだ。
すると、扉越しに再び柔和な声が届く。
「ふふ……ありがとうございます。でも大丈夫です。たまに起こる衝動的なモノなので、薬も飲んだしもう少しで治まり――」
音が、途切れた。
手から滑り落ちたのだろうか。床に転がる瓶の悲鳴と共に劈く荒い吐息。
「名前?」
「ぁっ、や……はぁ、はぁっ……ど、して……」
「……。開けんぞ」
「! ダメ……だめで、す……っ」
静止の声も聞かずに勢いよくドアノブを回す。同時に足を横切っていった猫。
媚薬が効いている――正しくも間違った見解に荒立つプロシュートの心。
知る由もないのだ。彼が求めている二つ目の答え、すなわち≪吸血衝動≫を抑えるために少女がその≪薬≫を度々服用していることを。
「何が≪ダメ≫だ。無理すんじゃねえよ」
「やぁ、っはぁ、は……おねが……ぷろしゅ、とさ……来な、っで」
「いい加減にしやがれ。妙なヤセ我慢しやがって……自分で慰めるつもりか? え……? とにかくオレに任せ」
パシッ
「!」
「ぁ……っ」
じれったさに駆られて紡いだドスの利いた低音は、伸ばした腕を鋭く振り払った細い手によって掻き消えてしまった。
完全なる≪拒絶≫。
先行したのは虚しさと怒り。
目下で彼女が喉を震わせ、ひどく怯えていることすら腹立たしい。
「ん……っは、っはぁ……」
「……」
「あ、あの……ぷろしゅー、とさん……ほ、んと、にごめ、なさいっ……でも――きゃっ!?」
しゃがみこんでいた躯体が彼の両腕によって抱え上げられたかと思えば、ベッドに突き落とされる。
驚愕する女体を即座に組み敷く男。
当然、瞠目した名前は焦燥ゆえに身を捩らせ始めた。
「! えっ、あ……のいてくださっ」
「黙ってろ」
「ひっ……ぁっ、あんっ……だめです……おねが……っはぁ、はぁ……はなし、てぇ」
「……、チッ」
まさか、ここまで嫌がられるとは。
膨らむ憤りの感情。奥歯をギシリと鳴らしたプロシュートはカラスの濡れ羽色の髪を覆うベールを投げ捨て、指先を顔の輪郭に添わせようとする。が、ふとした瞬間、静かに自分の首筋へ顔を埋めた少女。注射前に行う消毒のごとく肌を濡らす舌先。もたらされた静寂と現状に、彼が自ずと笑みを浮かべた。
「ハッ! やっと素直になったか。にしてもお前……外見以上に結構積極的じゃあ――ッ!?」
次の瞬間、止まる呼吸。皮膚に食い込んだ痛みに見下ろせば――
「っ、は……名前……?」
「ん……っふ……ん、ぅ」
彼女がひたすら血を吸っているのだ。
唇を濡らす深紅。まさか――頭を掠める予測と視界の隅に映るその恍惚とした表情に、身体の芯が煽り立てられる。
名前は、≪吸血鬼≫だというのか。
「んん……んっ」
「(ッ、さすがにヤべェな。このままじゃあ――)おい名前ッ!」
「!」
荒げられた声にハッと我に返る修道女。眼前には、自身の首筋を確かめるように手を這わす男。そして、指の隙間から見えた二つの小さな穴に、自分のしでかしたことを悟った彼女は両手で口元を覆った。
罪の意識に苛まれる心。
「わ……わた、し……っ」
身動きもできず、ただただ押し寄せるのは狼狽。
この事実を知って、プロシュートはどのような反応を示すのだろうか。
小刻みに震える身体を落ち着かせるため、何度も覚束ない呼吸を繰り返す名前。
降りかかるのは驚愕の声か、好奇の眼差しか。もしかすると罵倒の言葉かもしれない。そのどれでも受け入れられるよう、覚悟に目を瞑っていると。
「いいな、その顔」
「……え? ひぁ、ぁああんっ!?」
つーとなぞられた頬にこれでもかと言うほど跳ねる腰。
色めいた嬌声を上げた少女は、双眸を白黒させることしかできない。
「あどけないヴァンピーラだ。吸血鬼っつーのはもうちっとセクシーな奴を想像してたが、なるほどな……」
一方、一つ一つの反応を上から眺めつつ意味深に口元を歪ませる優男。
笑顔も可愛らしいと思う。
しかし、彼女が初めて見せた面持ちが、たまらなかった。
「オメー今……後悔してんだろ。綺麗な目にいっぱい涙溜めやがって。けどまあ、お前が思ってる以上にエロい顔してるぜ? ……すげえゾクゾクする」
「そ、そんな……ぁっ、は……やめ、てくださ、っぁあ!」
「≪やめろ≫? 人の血ィ吸っておきながら、まだ拒絶すんのか? テメーのケツはテメーで拭く。それが≪責任≫ってモンだ」
「ひ……っ! はぁ、はっ……」
太腿へグリグリと擦りつけられる≪焦熱≫。
それに小さく息を飲めば、ほくそ笑んだ彼がこめかみに唇を寄せる。
「ま、安心しな。名前が快感でぐちゃぐちゃになるよう、そう仕向けたのはオレだ」
「!」
「さっきオメーが飲んだのはあの常備薬じゃあなく媚薬だ。接触したときにすり替えさせてもらった。……つっても、さすがのオレもお前にこうして強烈なキスマークを付けられるとは思わなかったが」
驚き、怯え、愉悦。
あらゆる感情が入り交じる深紅の瞳が、自分を貫いた。
待ち望んでいた≪このとき≫。紅潮した柔い耳たぶを甘噛みしながら、男は優しい声色で囁く。
「いいか、名前。恥なんてとっとと捨てて全部オレに委ねちまえ。何も咥え込んだことのねえオメーの≪ここ≫、トロットロになるまでほぐしてやるからな」
囚われた、と気付いてももう遅い。全身へ染み渡った媚薬に息を乱した名前には、もはや承諾という選択肢しか残されていなかった。
数分後。修道服をあっけなく奪われ、文字通りひん剥かれてしまったシスター。
居た堪れなさそうな彼女を、有無を言わさず自身の膝上に座らせたプロシュートが、背後からパステルカラーのブラジャーを鎖骨側へ持ち上げる。
ぶるん、とひどく弾力のある乳房に、鳴らしてしまう口笛。
「へえ……意外にボリュームあるじゃあねえか。名前お前、着痩せするタイプか?」
「〜〜っ////」
恥辱ゆえに押し通す沈黙。
名前の様子に笑みを深めた彼はその肩口に顎を置いたまま、左右の手のひらで豊かな膨らみを包み、ねっとりと揉みしだき始めた。
「ひゃう……っぁ、はぁ……だめ……つよく、っもんじゃ……や、ぁあ」
「悪ィな、これも男の性だ。身体は細っこいクセにイイ乳してんだ……揉まねえなんて、勿体ねえだろ?」
「ぁっ、あん……!」
神経が過敏になっているのか、痙攣する肢体。
男もそれなりの経験を積んできたが、ここまで性交において世話を焼いたことはない。
なぜなら、自分に連れ添ってくるのは大抵行為に慣れた女ばかりだからだ。
「クク、ずいぶん免疫ねえなァ……ここはしっかり感じてるみてえだが」
「はぁっ、んん……っは、っは、ぁん……感じてな、っか」
「おいおい。嘘はイケねえだろ、嘘は」
「っひぁああ!?」
刹那、クニクニと赤く腫れた乳頭を指先で捏ねると、背を弓なりにさせる少女。
押し潰すように指の腹で弄ぶ。くつくつと喉を鳴らしたプロシュートは鬱血を残すため眼前の白いうなじに吸い付いた。
「ぁっ……ん、ぁっ……ぷろしゅっ、とさ……はぁ、っは……おねが、やら、ぁ」
「ふ……怖えか? 安心しろ、直によくなる」
というより、この味が忘れられなくなるぐれえ、オメーに快楽を教えてやるよ。
そう吐き出した瞬間、意地悪い彼を射抜く恐怖に似た想いが占めた視線。
真っ白な――いや、彼女は高潔なまでに漆黒なのかもしれない。
たとえば、黒いキャンバスに色を添えるとき。色鉛筆や水性ペンではその瞬間は望めても、いつか滲んでしまうだろう。
「ひっ、ぁ……っはぁ、っぁ、っぁ……あん、っぁあ……!」
ならば油絵具で塗りつぶしてやればいい。
広がり続ける欲望。ふと、滑らかな脇腹からショーツの縁に男が手を這わせると、次を想像したのかしなやかな身体がビクリと揺蕩う。
「っんん、ふ……だめ、です……ぁっ、そっちは……ぷろ、しゅーとさ、っ……ぁ、やんっ」
「なんだ、照れ隠しか。それとも……バレたくねえ状態にでもなってんのか?」
「! ちが……っひゃあ!?」
ありったけの抵抗も虚しく。
誰にも触れられたことのない秘部への侵入をまんまと許してしまった名前。
一方、擦り合わせようとする内腿を押し退けていけば――ピチャリと皮膚を濡らした液体にプロシュートは鼻で笑ってみせた。
「ハッ! 想像はしてたが、下着グチョグチョじゃねえか。……お前、媚薬抜きにしても感度良すぎだろ」
「やら……あん、っふ、ぅ……いわな、っで……ひ……ぁっ、ぁっ」
薬に侵され、融通のきかない躯体。
チュプリと淫らな音を立てた中指が、すでに充血しているであろう膣口を掻き分ける。
すると、紅い目を見張り、懇願の意を込めてふるふると首を左右に動かす少女。
だが、その行動に加虐心を擽られた彼が動きを止めることはない。
「つっても、オレのモンを入れるにはまだまだ足りねえな」
「ぁあん! ひっ、ぅ……らめ……ぁっぁっ、ん……はぁっ、も、こわれちゃ……っ」
「おう、壊れちまえよ。女っつーのはな、ここが一番感じんだぜ」
「こ、こ……? えと、わからな――んっ、ぁあああ……!?」
包皮から剥かれ、爪先が捉えたのは陰核。喉が天井へ晒されると同時に、一際甘さを帯びる喘ぎ声。空気に滲んでは消える荒い吐息。感覚の一つ一つが敏感な上に、連続的にもたらされる強烈な快感に意識は半ば朦朧としているのだろう。
「っぁ、ふ……やっ、んん……ッ……はぁっ、はっ、ぁ……そこ、だめっ……らめ、ぇ!」
「お前……知らねえのか? 自分で感覚的に弄ったことぐらいあんだろ」
驚愕がありありと宿った表情。知識としてしか知らない、と言いたげに頭を振るえば、感嘆の吐息を男がこぼす。
羞恥ゆえの嘘か、誠か。真実は本人にしかわかりえないが、プロシュートにとっては好都合だ。
「ハン。そうかよ……ならみっちり鍛えてやんねえと、なあ?」
「や……っ、ん、っぁ……ぷろしゅ、とさっ……らめ……いや、ぁっ、ぁっ……んッ」
「あァ? 嫌ってお前な……こうやって摘めるほど、クリトリス硬くしてる奴が何言ってんだ」
部屋に響き渡る生々しい水音。紡がれる言葉に対し正直な膣内は細長い指を歓迎するかのように蠢き、小さく震える蜜に濡れた花弁。
もはや使い物にならない下着は、ピンと張り詰めた足先を渡ってベッドの脇へ放り投げられてしまった。
そして不意に自分のボトムを一瞥した彼が、にやりと笑う。
「ったく、オレのズボン濡らしてるじゃあねえか」
「ぇっ……? ぁ……ん、はぁ、っは……ごめ、っなさ……や、っぁあ……!」
弱々しい声で謝罪が述べられると同時に、内壁をさらに刺激する指の腹。
考えることすら煩わしくなるほど快楽に囚われた脳内。頂点へ上り詰める感覚によって分泌された愛液が、ますます布のシミを広げた。
「あんっ、ぅ……ぷろ、しゅーとさん、っぁ……だめ……らめっ、やら……な、にかきちゃ……ぁっぁっ、あっ……ひぁ、っぁああん!」
次の瞬間、全神経を駆け抜ける鋭い痺れ。
自然と背筋を反らしていた彼女が甲高い嬌声と共に果てる。
うつろに揺蕩う淫靡な眼。
すると、膝裏に逞しい腕が差し込まれ、今度はなぜか横抱きにされた。
「ん、っふ……、っは、っはぁ……ッ、ぁ」
男の予期できぬ行動に思考の隅ではてなマークを浮かべていると、扉と向かい合うように部屋の入口で立たされる。
落ち着きのない心音。布の擦れる音がしばらくの間聞こえていたかと思えば、不意に背中全体をぬくもりが包み、ベルベットボイスが鼓膜を震わせた。
「あんま声出すなよ? 司教様とやらが帰ってきてんだろ」
「!」
内腿が鮮明に感じ取ったひどく熱いモノ。まあ、バレてもいいっつーならオレは別に構わねえが――そう楽しげに呟くプロシュートに、慌てて口を噤んだ。
刹那。
グチュン、と恥肉を押し拡げた陰茎。
「ぁっ……ひっ、ぁっ、ぁあああっ!」
どうやら、最初から彼は名前を黙らせるつもりはなかったらしい。
悲鳴に近い声を上げつつ、ふと≪圧迫感≫だけを覚える膣に修道女が瞳をぱちくりさせる。
「っ、ぁ、はぁ……はぁっ……ふ、っぅ、んん……っ、? 痛、くな……?」
「……ハン、なんのために媚薬飲ませたと思ってんだ」
「?」
痛みで快楽どころではない。それは男も気が引けたのだ。
当然ながら、清楚の二文字に包まれた彼女を快楽で乱したいという願望もあったが。
無意識に肉棒を締め付ける膣壁に、一瞬だけ苦悶の表情を見せたプロシュートは柔肌に腕を回したままゆるゆると腰を上下させ始めた。
「ひぁっ、ぁっ、あっ……ぷろしゅ、とさっ……や、ぁあん」
「く、ッ……けどやっぱり狭えな」
「っは、ぁ……らめ……ぁっ、あん……そこ、ぐりぐりしな、でぇっ」
「……ふ」
制止を懇願する名前に対して、しっかりと男根を咥え込む潤った恥丘。
女性の弱点を亀頭で的確に押し当てたまま、彼は目前の紅潮した耳にキスを贈りほくそ笑む。
「どうだ? 神聖な教会の中でギャングの男に後ろから犯されてる気分は」
「ぁっ……!? ひ、っぅ……やら、ぁっ、あ……おねがっ……言っちゃ、ぁあ!」
ジュブリ、パチュと羞恥を高める経過音。
生理的なナミダを流す少女は、恐らく気付いていないのだろう。
さらなる性感を求めて揺れている細い腰。
媚薬の効果と彼女の敏感さを再確認した男は、背筋からうなじへ指先を伝わらせながら嘲笑を口にした。
「ずいぶんやらしいなァ、え? 初体験のクセに後ろから攻め立てられて、悦んでのか」
「! ひぁ……ちがっ、の……ン、っぁっぁ、ちが……っん、ぁあ!」
「違わねえだろ。離したくなさそうに吸い付いてクポクポ言ってんのによ……」
きゅうと蠢いた肉襞に、あえて卑猥な表現を選ぶ。
「わかるか? 子宮の入口とペニスの先っぽがキスしてるぜ」
「ぁっ、あん、ふ……はぁっ、はっ……そ、っなこと……言わな、っぁ、んんッ」
赤黒く肥大した先端に刺激を与えられる子宮口。
乱れるばかりの二人の息。
そして、おもむろに細められたプロシュートの双眸。
「名前。じっくり時間かけて、ここでも快楽を覚えちまう身体に躾けてやるから」
「ぁ……!」
「……まあ案外、その童顔がメスのツラになる日も近えかもな」
「!」
背後から顎に指を添えられ、それに従うまま振り向けば、加虐の中に情愛を孕んだ目とかち合った。
飛び跳ねる心臓。下唇を噛んだ名前が恥ずかしそうに視線を落とした途端、さらに膨張した一物が最奥をもう一度突き上げる。
「ハッ、いちいち可愛い反応しやがって。口や首で必死に拒否する割には、恍惚とした表情になってるっつーのによ……そういう無自覚な吸血鬼にはちゃんと奥で種付けしてやらねえとな」
「? たねづ……っ、や……らめ、っぁ、らめぇ! はぁ、っは……ぁ、んっ、ぁああ!」
悩ましげにこちらを見つめる聖女に、「嫌なら追い出してみろ」と意地の悪い言葉を吐いた。熟れた膣肉は今も陰茎に絡みつき、それを中断することは困難だと知っているのに。
こんなにも執着してしまう理由が、わからない。だが、自然と湧き上がる欲を発散するだけのモノと割り切っていたこの行為に、今確かに見出しているのは≪ぬくもり≫。
そして何より、他の女との間では感じ得なかった心地良さがあるのだ。
自身の形、質量をはっきりと覚えさせようと、止めどなく蜜が溢れるナカを蹂躙した。
「名前、しっかり受け止めろよ」
「ん、ぁっ……らめ、ぷろしゅ、とさっ……まっ、て……おねが、ぁっぁっ……まっへ、ぇっ! ぁっ、や……またきちゃ……っひ、ぁ、ぁあああん!」
「ッ……く」
ビュルリ、と胎内に向かって爆ぜる白濁液。
弾ける快感をただただ享受することしかできない少女を、眉根を寄せつつ視界に収める男。
恋人ではないのだからと、普段は気乗りがしないはずの情事直後の接吻。しかし、不意にぼんやりとこちらを見上げた彼女のすべてを自分だけで満たしてしまいたくて――無意識のうちに優しい笑みを浮かべたプロシュートは、掻き乱れる本能に引き寄せられるままそっと桜色の唇に己のモノを重ねていた。
アドーネとヴァンピーラ
美青年と吸血鬼。捕食されるのはどちらか。
〜おまけ〜
「……あ?」
ベッドに倒れ込む二つの人影。トクトクトク、と早めのテンポを刻む心拍数に連なった男女の吐息が、ようやく落ち着き始めた頃。
視界の隅で目敏く発見したのは、初体験ゆえに重たいであろう身体を、自分の下でもぞもぞと動かす名前。
甘やかな恍惚が居座った上に、焦燥の入り交じった表情に愛しさを覚えながら、もちろんプロシュートは逃亡を胸板で阻む。
「ったく。何、逃げようとしてんだよ」
「! い、いえ……ただそろそろ服を――ひぁ!?」
深紅の双眸が服の散らばったベッドの脇を見据えた瞬間、ふと背中を伝った指先。
体内を蝕む媚薬は、かなり作用が続く代物のようだ。その繊細かつ荒っぽい手つきに白い喉を晒し、小さな悲鳴を上げた彼女は、潤んだ眼で彼をキッと睨みつけた。
「はっ……ぁ、ん……はぁっ、は、ぁっ……な、にする、んですかっ!」
「そりゃあオレのセリフだ。クスリが残ってる身体で無茶しやがって、まだ本調子じゃねえんだろうが」
「う……でもこのままだと、ぷろしゅ、とさんに……ごめいわく、が」
「は? ……≪迷惑≫だァ?」
なんだそれは。
耳を突き刺したのは聞き捨てならない言葉。
じわじわと額に青筋を立てた男は、相変わらず身動ぎしているしなやかな後ろ姿に、白いシーツと挟み込むかのごとく伸し掛かる。
そして、じたばたとする少女をその腹部に片腕を回すことでいとも簡単に捕らえつつ、自分の中でもはや一つの≪武器≫と化している甘い声を紅潮した耳元に向かって紡ぎ出した。
「おい。まさかお前、オレが媚薬を盛った罪悪感とお情けでセックスに付き合ったとでも思ってんのか」
「ひぅっ! やっ……はぁっ、は……らめ……耳、もとでしゃべ、っちゃ……っ」
「いいから答えろよ。オメーの返事によっちゃあ、情け無用で≪第二ラウンド≫に突入するぜ」
首筋を啄まれていく感覚が名前に先程までの行為を思い起こさせ、快感にピクリピクリと跳ねる腰。
しかし、どうにも引っかかる単語が。
プロシュートの浮かべた想像は、完全に的を外れているのだ。微かに頭を振っていた彼女はきょとんとしてから、彼が求めているであろう答えを呟く。
「あん……、っぇ? わ、私は……吸血のえいきょ、うだと思って……ましたが」
「……」
「ぁ、っはぁ……プロシュートさん?」
「…………ククッ」
どこまでも己のアプローチに靡かない――いや、気付こうとしていない。
鈍感なその聖女に小さな苛立ちさえ感じると同時に、男はようやく悟ったのだ。
なぜほどほどに高価で強烈な媚薬を仕込んでまで、自分が名前のことを知ろうとしたのかを。
≪知りたい≫。その欲求は恋の第一歩だ。次の瞬間、プロシュートは我慢ならずに吹き出し、笑声を上げていた。
「ぶ、ふふッ……ハハハハ! まったくオレは……人の感情は大体わかるクセに、テメー自身の恋心にゃ気付かねえなんてよォ……ザマァねえな」
「? だ、大丈夫ですか? お水でも持って――」
「名前。いつの間にか、オレはオメーに惚れちまってたらしい」
大きな右手にすかさず包まれた左手。さらに、眼前の色男がにっと口角を吊り上げたかと思えば、唇が不意に近付き――チュッと音を立てて瞼へ贈られたキス。
驚愕と狼狽にふるりと震えた睫毛。
少しの間硬直していた彼女は目をぱちくりさせながら、脳内で彼が放ったばかりの言葉を反芻する。
「ほれ……、え!? えと……そ、そんなっ……冗談はよくないです、よ?」
「ハッ! おいおい、冗談なんてこんなタイミングで言うと思うか? 口説くと思ったときにはすでに、オメーを口説いてたわけだ」
「口説く、って……」
これまでの状況を自ら振り返る頭の中。口説かれていたのか、とクエスチョンマークばかりが生まれる中、少女は両手を前に慌てて口を開いた。
は、早まらないでください。私は人間じゃ――自分の正体を何度も口遊むのは心苦しいが、変えようのない≪真実≫であるそれを改めて打ち明けようとすると、
「んんっ」
妨げられた言葉の続き。
ピチャリ。婀娜やかな糸を作って、二人の唾液が交じり合う。
とどめと言いたげに、蠱惑的に濡れた桜色の上唇をぺろりと舌先で一舐めしたプロシュートは、口付けで抵抗する力を失った名前の柔らかな躯体を仰向けに転がしつつ、おもむろに口端を吊り上げた。
「ふっ……ンなモン関係ねえだろ。上等じゃねえか、吸血鬼のシスター。名前が欲しいっつーなら毎日お前に血を捧げてやるさ。まあ、それ相応の≪礼≫はさせてもらうけどな」
礼とは一体何を指すのだろうか。
吐き出したその単語が気になるものの、返答と反応が妙に恐ろしくて尋ねることができない。
「……にしても。誰か一人に執着するたァ思っても見なかったんだが……気持ちを把握した分、オレはきっと執念深いぜ? ≪覚悟≫しとけよ、名前」
「え、あっ、う……/////」
鼓膜を支配したテノール。これから、自分はどうなってしまうのだろう。意味深な宣言を携えて細められたのは、海を映したかのように澄んだ二つの蒼。
冗談に違いないと苦笑する頭と、彼の想いを信じかけている精神。
抑制を訴える心といまだに疼いた身体。
だが、こちらを覆うその眼差しがあくどくとも、ひどく美しくて――自分を真っ直ぐに射抜く男の瞳から顔をそらせないまま、彼女は伸びてきた両腕にまんまと捕まってしまうのだった。
![](//img.mobilerz.net/sozai/1616_w.gif)
すみません、大変長らくお待たせいたしました!
「もしも連載ヒロインが最初にリーダーではなく、兄貴と出逢っていたら」で、彼らの日常や裏でした。
BN様、リクエストありがとうございました!
少々、いやかなり鬼畜になってしまったような気がしますが……いかがでしたでしょうか?
考案はしていた、兄貴が暗殺チームへ所属するきっかけとなる出来事の部分は、かなり長くなりそうなのでまた別の機会があれば、ということで(笑)。
感想&手直しのご希望がございましたら、お願いいたします!
Grazie mille!!
polka
>
※若シュート=優しさの割合が低い
※裏
※少々鬼畜(?)な上に媚薬を使用しています、注意!
ギャング組織、パッショーネの構成員であるプロシュート、20歳。
後に所属することとなる暗殺チームと比べて、それなりに高額の報酬を得ていた当時の彼は一つ年上の――とは言え、それが実年齢かは定かではないが――日本人のシスターに会いに来ていた。
掃除の音だけが静寂に響き渡る深夜の教会。眼前でせっせと働く彼女を見つめながら、ベンチに腰掛けた彼がぽつりと一言。
「ったく、目の前でケツ振りやがって……名前お前誘ってんのか」
「さ……ッ、そんなわけないじゃないですか! 私はただ、掃除をしてるだけですっ」
ほうきを手に振り返る、修道服を纏った名前。
あれ以来色男はここに足繁く通っているが、≪一線を踏み越える≫といったことになると、どうもスルーされている節がある。
吊り上がった片眉とこぼれる舌打ち。ツレねえなあ――そんな一言と共に黒シャツの胸ポケットから取り出された煙草。一瞬だけ、宵闇に灯る赤。鼻につく独特の香り。
すると、羞恥に塗れた表情から一変して、今度はじとりとした視線を少女が送ってくるではないか。
「あの、プロシュートさん……」
「ん? なんだ? やっと抱かれる気になったのか?」
「〜〜っ違います! そうじゃなくて」
「ここは≪禁煙≫って、私いつも言ってると思うんですけど」
モクモクと天井へ立ち上る白煙越しに、鈴を転がすような声が聞こえた。
最近、プロシュートは現在の商品では物足りなくなってきているほど、頻繁に吸うのだ。
寛容な心を捨て、今にも説教を始めそうな彼女に対し、彼は悪びれた様子も一切なく口を開く。
「いいじゃねえか、減るモンじゃねえし。煙たいなら換気扇でも回してくれ」
「そういう問題じゃありません! ……もう」
「ククッ、まあそう怒んなよ。可愛い顔が台無しだぜ?」
「別に怒ってないです。(プロシュートさんの体調が心配なだけなのに)」
ぷすぷすと効果音が付くかのように怒りを体現しつつ、動きを再開する名前。
そんな後ろ姿をぼんやりと眺めていると、不意にある案が脳内に浮かんだのか男がにやりと口角を上げた。
「名前。ちょっとこっちに来い」
「? 今度はどうしたんです……ひゃっ!?」
次の瞬間、きょとんとした少女が振り返ると同時に、細腕をグッと自分の方へ引き寄せるプロシュート。
カラン、と床にぶつかったほうき。手のひらに伝わる低い体温。冷え性なのか。それともやはり触れられる幽霊なのか。
だが、今の彼にとってそういった事実は≪どうでもいい≫。
食生活を心配してしまいそうになるほど軽い身体を膝の上に乗せた男が、薄い笑みを宿しながらベールから覗く艶やかな黒髪にそっと唇を寄せる。
「いや……なんだかんだ言って心配してくれてるオメーのためにも、ちったあ控えるかって改心しようとしてんだよ」
地面で鎮火した煙草の残骸。思わぬ告白。それが脳髄に辿り着いた途端、彼女の面持ちが安堵と喜心ゆえに少しばかり輝いた。
しかし、まだ話には続きがあるのだ。
二人の距離はおよそ5センチ。そして重厚なボイスで紡がれた≪ただし≫。その言葉におずおずと顔を上げれば――
「ま、その分オレの≪口寂しさ≫をお前が責任持って埋めてくれんなら、っつー話だけどな」
「え……? 何を言、っんん!」
「ん」
刹那、布越しの後頭部に手を回され、名前の唇がプロシュートのモノによってあっという間に塞がれてしまう。
歯列の裏や舌下、そして上顎をされるがままに舐られ――口内を犯していく、未体験の味。
慣れない辛みに舌先が捉えたのは、ピリピリと痺れるような感覚。
どれほどの時間が経ったのか、それすら把握できない。長く濃厚な口付けから解放されるやいなや、少女はひどく咳き込んでいた。
「〜〜ケホッ、コホ……っは、っはぁ……」
「どうした? ああ、むせちまったのか。そりゃァワリー……どうだ? 謝罪の意味も込めて、もう一回――」
「しませんっ!」
「チッ」
相変わらずガードが固い。
きっぱりと≪No≫を紡ぎ出した彼女に不満を抱きつつ、妙に甘やかな己の口内を確かめた彼は、コツンと互いの額を重ね合わせる。
「しっかし、名前の口ん中は甘えな」
「あ、甘い……? うう、そんな……不公平です。私はすごく辛かったんですよ?」
こちらを射抜く、羞恥と不服が入り交じった紅い双眸。そのとき、何を思ったのか男の口端が妖艶に歪んだ。
「……≪不公平≫ね。面白えこと言うじゃねえか」
「?」
「ふ……いや、大したことじゃあねえよ。っと、もうこんな時間か。そろそろ帰らせてもらうぜ」
プロシュートの帰りは、常に唐突だ。
だからこそ、名前は違和感を覚えることもなく立ち上がり、しばらく歩いた後、いつものように扉の外へ一歩踏み出した。
一方、胸に広がる名残惜しさを掻き消した彼は小柄な少女を見下ろしてから、ぽんぽんとその頭を大きな手のひらで撫でる。
「じゃあな。変な男に捕まんじゃねえぞ」
「(変わってるという点では、今まさに目の前にいるような……)えと、はい。プロシュートさんも、気を付けて帰ってくださいね」
冷涼とした日陰に咲き誇る花のごとく控えめで柔らかな微笑み。手をおずおずと左右に揺らす姿がまた可愛いのだが――今回ばかりはそれに気を取られているわけには行かない。紺一色の空を一瞥した男は、再び取り出した煙草の先端に火を灯しながらすかさず距離を縮めた。
「なあ名前」
「はい……、?」
「……最後に一つ。甘えキス、試してみたいだろ?」
「へ? なんだか嫌な予感がするので遠慮させ、んぐっ」
首を横に振ろうとした次の瞬間、口の中に押し込まれたのは、つい今しがたプロシュートが咥えていたはずの嗜好品。
当然、咄嗟のことに呼吸を止めることもできず、彼女はまたしても煙を吸い込んでしまう。
一体何がしたいのだ。
ようやく息苦しさから解放され、眉を微かにひそめた名前が、どこまで会話を繰り返しても行動の読めない彼を慌てて睨めつけようとした、ら。
「! ン、っふ……ぅ……はぁ、っは……んん!」
「は……ッ」
「ん、っ……ぷろ、しゅーとさ……ぁ、はぁっ……はぁ」
月影の下で重なった二つの影。視線を上げた途端、先程以上に濃厚なキスがシスターを待っていた。
戸惑う少女をよそに、空いている片手できゅっと締まった腰を抱き寄せ、我を忘れて無防備な口腔を貪っていく青年。
この接吻は、巷で流行っている麻薬よりよっぽど質が悪いかもしれない――忘れがたい中毒性がプロシュートの心中を巣食う。
「ふ、っぁ、ん……ッ、あん……ゃっ、はぁ……っは……ぅ、ンん……!」
「もっと舌出せ……わざわざ≪タバコ吸わせた≫意味がねえだろ」
ああ、≪甘い≫というのはこのことだったのか。
粘膜を支配する味覚。クラクラと意識が白く霞み始める中、彼を見据えた瞳は生理的なナミダでひどく潤んでいた。
「ぁ……はぁ、っは……ん……プロシュートさんの、ケダモノっ!」
「クク、ケダモノね。ならそのケダモノが次現れるまでには、食われる準備でもちゃんとしとくんだな」
「〜〜ッ」
見る見るうちに朱を帯びる彼女の白い頬。
表情から滲み出た照れ臭さを視界に収めつつ、自分たちの間を伝っていた銀の橋を繋ぎ直すように豊潤な上唇を食み、チュッとわざとらしく音を立てたかと思えば、颯爽と立ち去ってしまうプロシュート。
そう。以後、百戦錬磨と呼ばれることになるこの色男は若さゆえに、名前に対する感情が今や≪好奇≫から別のモノへとすでに移ろっていることに気が付いていなかったのだ。
数日後。
今日も今日とて教会の中へ足を踏み入れたプロシュートを最初に迎えたのは、想像もしなかった≪鳴き声≫。
「ふしゃーッ」
「……おいおい。名前の奴、番犬ならぬ番猫でも付けたのかァ?」
警戒を示す、金の短毛にブルーの眼を持った猫。どこかで見覚えがある――あやふやな記憶を辿ろうと彼が顎に指先を置いたそのとき、聖堂の隅にあるこじんまりとした部屋の扉から普段通り少女が現れる。
「あ。こんばんは、プロシュートさん」
――思い出した。
それは出会いの日。彼女が窓のひさしから手を伸ばし助けた、毛玉かと勘違いするほど小さかったあの子猫ではないか。
あのときより幾分か成長したようだが、今でもかなり懐いているらしい。
「よォ。……そいつ、なんでここに居んだ」
「え? ああ……エサをあげていたら、なんだか住み着いちゃったみたいで……パンチェッタちゃんというお名前を付けさせてもらいました」
「にゃーん」
「……へえ。オレにはどうでもいいことだが、猫に食い物の名前を付けるたァ、ネーミングセンスとしてどうなんだ? え?」
ギクリ。華奢な肩が微かに揺れる。
この子の毛色、瞳に≪似ている≫と脳内を過ぎった感想からヒントを得たなんて、頭上で眉根を寄せる≪張本人≫には口が裂けても言えない。
とりあえず話をそらすため、男に対する反応とは異なり、ゴロゴロと甘えるように喉を鳴らす愛玩動物を優しく抱き上げた名前。
まるで相思相愛。眉間にシワをますます増やしたプロシュートは、顔を綻ばせた少女の背後に素早く回った途端、その小ぶりな双丘を右手で鷲掴みにした。
「きゃう……っ/////」
「ふ、初心な反応しやがって。そうだな……安産型にはちと足りねえが、相変わらず男の欲をそそらせるケツだ――」
「シャーッ!」
もみもみと柔らかさをしばらく堪能していると、不意に鋭い爪が飛んでくる。
服を裂きそうなほど尖ったそれを間一髪で避ける彼の身体。
「おっと。……あの猫、とんだ真似してくれるじゃあねえか」
刹那、荒っぽい手つきから解放されたことに安堵したのか、陶器のように白い肌を赤らめながらそそくさと部屋に戻っていく修道女。
惜しい――自然と漏れる舌打ち。
しばしの間、閉じられたドアに眼差しを向けていた男はふと視線を落とした。
そして、ゆっくりと三日月を描く、形のいい唇。
「だがまァ、≪やることはやった≫」
手中に収まる錠剤の瓶。
そう。今、あの修道服のポケットには≪中身だけが入れ替わった≫モノが。
蒼を細めたプロシュートには、名前に関して気になることが二つあったのだ。一つは正体。
「(見た目はオレらとあんま変わらねえが……強いて言うなら、体温が低いぐれえか)」
もう一つは――
次の瞬間、三半規管を貫いた膝が崩れ落ちる音。
ハッと目を見開いた彼は、すぐさま部屋のそばへと駆け寄る。
「! おい名前、どうしたッ」
好奇心に混ざり合う憂慮。
いくら待てども返事がない。
ドアノブに手をかけようとした矢先、「ぷろしゅ、とさん?」といつも以上にか細い声音が己の名を紡いだ。
刹那、自分でも気付かぬうちに男は安堵ゆえのため息をこぼしていた。「大丈夫か」とテノールが問えば、板を隔てて頷く気配。
「はっ、はぁ……し、心配しな、でください。少しふらついただけです」
「ならいいけどよ……あまりにも≪辛え≫なら呼べよ?」
ガラス瓶に忍ばせたのは、≪媚薬≫。
と言っても、それは性欲と縁がなさそうな聖女から色情を引き出すための代物であり、こちらが持っている薬は種明かしと同時にすぐ返すつもりだったのだ。
すると、扉越しに再び柔和な声が届く。
「ふふ……ありがとうございます。でも大丈夫です。たまに起こる衝動的なモノなので、薬も飲んだしもう少しで治まり――」
音が、途切れた。
手から滑り落ちたのだろうか。床に転がる瓶の悲鳴と共に劈く荒い吐息。
「名前?」
「ぁっ、や……はぁ、はぁっ……ど、して……」
「……。開けんぞ」
「! ダメ……だめで、す……っ」
静止の声も聞かずに勢いよくドアノブを回す。同時に足を横切っていった猫。
媚薬が効いている――正しくも間違った見解に荒立つプロシュートの心。
知る由もないのだ。彼が求めている二つ目の答え、すなわち≪吸血衝動≫を抑えるために少女がその≪薬≫を度々服用していることを。
「何が≪ダメ≫だ。無理すんじゃねえよ」
「やぁ、っはぁ、は……おねが……ぷろしゅ、とさ……来な、っで」
「いい加減にしやがれ。妙なヤセ我慢しやがって……自分で慰めるつもりか? え……? とにかくオレに任せ」
パシッ
「!」
「ぁ……っ」
じれったさに駆られて紡いだドスの利いた低音は、伸ばした腕を鋭く振り払った細い手によって掻き消えてしまった。
完全なる≪拒絶≫。
先行したのは虚しさと怒り。
目下で彼女が喉を震わせ、ひどく怯えていることすら腹立たしい。
「ん……っは、っはぁ……」
「……」
「あ、あの……ぷろしゅー、とさん……ほ、んと、にごめ、なさいっ……でも――きゃっ!?」
しゃがみこんでいた躯体が彼の両腕によって抱え上げられたかと思えば、ベッドに突き落とされる。
驚愕する女体を即座に組み敷く男。
当然、瞠目した名前は焦燥ゆえに身を捩らせ始めた。
「! えっ、あ……のいてくださっ」
「黙ってろ」
「ひっ……ぁっ、あんっ……だめです……おねが……っはぁ、はぁ……はなし、てぇ」
「……、チッ」
まさか、ここまで嫌がられるとは。
膨らむ憤りの感情。奥歯をギシリと鳴らしたプロシュートはカラスの濡れ羽色の髪を覆うベールを投げ捨て、指先を顔の輪郭に添わせようとする。が、ふとした瞬間、静かに自分の首筋へ顔を埋めた少女。注射前に行う消毒のごとく肌を濡らす舌先。もたらされた静寂と現状に、彼が自ずと笑みを浮かべた。
「ハッ! やっと素直になったか。にしてもお前……外見以上に結構積極的じゃあ――ッ!?」
次の瞬間、止まる呼吸。皮膚に食い込んだ痛みに見下ろせば――
「っ、は……名前……?」
「ん……っふ……ん、ぅ」
彼女がひたすら血を吸っているのだ。
唇を濡らす深紅。まさか――頭を掠める予測と視界の隅に映るその恍惚とした表情に、身体の芯が煽り立てられる。
名前は、≪吸血鬼≫だというのか。
「んん……んっ」
「(ッ、さすがにヤべェな。このままじゃあ――)おい名前ッ!」
「!」
荒げられた声にハッと我に返る修道女。眼前には、自身の首筋を確かめるように手を這わす男。そして、指の隙間から見えた二つの小さな穴に、自分のしでかしたことを悟った彼女は両手で口元を覆った。
罪の意識に苛まれる心。
「わ……わた、し……っ」
身動きもできず、ただただ押し寄せるのは狼狽。
この事実を知って、プロシュートはどのような反応を示すのだろうか。
小刻みに震える身体を落ち着かせるため、何度も覚束ない呼吸を繰り返す名前。
降りかかるのは驚愕の声か、好奇の眼差しか。もしかすると罵倒の言葉かもしれない。そのどれでも受け入れられるよう、覚悟に目を瞑っていると。
「いいな、その顔」
「……え? ひぁ、ぁああんっ!?」
つーとなぞられた頬にこれでもかと言うほど跳ねる腰。
色めいた嬌声を上げた少女は、双眸を白黒させることしかできない。
「あどけないヴァンピーラだ。吸血鬼っつーのはもうちっとセクシーな奴を想像してたが、なるほどな……」
一方、一つ一つの反応を上から眺めつつ意味深に口元を歪ませる優男。
笑顔も可愛らしいと思う。
しかし、彼女が初めて見せた面持ちが、たまらなかった。
「オメー今……後悔してんだろ。綺麗な目にいっぱい涙溜めやがって。けどまあ、お前が思ってる以上にエロい顔してるぜ? ……すげえゾクゾクする」
「そ、そんな……ぁっ、は……やめ、てくださ、っぁあ!」
「≪やめろ≫? 人の血ィ吸っておきながら、まだ拒絶すんのか? テメーのケツはテメーで拭く。それが≪責任≫ってモンだ」
「ひ……っ! はぁ、はっ……」
太腿へグリグリと擦りつけられる≪焦熱≫。
それに小さく息を飲めば、ほくそ笑んだ彼がこめかみに唇を寄せる。
「ま、安心しな。名前が快感でぐちゃぐちゃになるよう、そう仕向けたのはオレだ」
「!」
「さっきオメーが飲んだのはあの常備薬じゃあなく媚薬だ。接触したときにすり替えさせてもらった。……つっても、さすがのオレもお前にこうして強烈なキスマークを付けられるとは思わなかったが」
驚き、怯え、愉悦。
あらゆる感情が入り交じる深紅の瞳が、自分を貫いた。
待ち望んでいた≪このとき≫。紅潮した柔い耳たぶを甘噛みしながら、男は優しい声色で囁く。
「いいか、名前。恥なんてとっとと捨てて全部オレに委ねちまえ。何も咥え込んだことのねえオメーの≪ここ≫、トロットロになるまでほぐしてやるからな」
囚われた、と気付いてももう遅い。全身へ染み渡った媚薬に息を乱した名前には、もはや承諾という選択肢しか残されていなかった。
数分後。修道服をあっけなく奪われ、文字通りひん剥かれてしまったシスター。
居た堪れなさそうな彼女を、有無を言わさず自身の膝上に座らせたプロシュートが、背後からパステルカラーのブラジャーを鎖骨側へ持ち上げる。
ぶるん、とひどく弾力のある乳房に、鳴らしてしまう口笛。
「へえ……意外にボリュームあるじゃあねえか。名前お前、着痩せするタイプか?」
「〜〜っ////」
恥辱ゆえに押し通す沈黙。
名前の様子に笑みを深めた彼はその肩口に顎を置いたまま、左右の手のひらで豊かな膨らみを包み、ねっとりと揉みしだき始めた。
「ひゃう……っぁ、はぁ……だめ……つよく、っもんじゃ……や、ぁあ」
「悪ィな、これも男の性だ。身体は細っこいクセにイイ乳してんだ……揉まねえなんて、勿体ねえだろ?」
「ぁっ、あん……!」
神経が過敏になっているのか、痙攣する肢体。
男もそれなりの経験を積んできたが、ここまで性交において世話を焼いたことはない。
なぜなら、自分に連れ添ってくるのは大抵行為に慣れた女ばかりだからだ。
「クク、ずいぶん免疫ねえなァ……ここはしっかり感じてるみてえだが」
「はぁっ、んん……っは、っは、ぁん……感じてな、っか」
「おいおい。嘘はイケねえだろ、嘘は」
「っひぁああ!?」
刹那、クニクニと赤く腫れた乳頭を指先で捏ねると、背を弓なりにさせる少女。
押し潰すように指の腹で弄ぶ。くつくつと喉を鳴らしたプロシュートは鬱血を残すため眼前の白いうなじに吸い付いた。
「ぁっ……ん、ぁっ……ぷろしゅっ、とさ……はぁ、っは……おねが、やら、ぁ」
「ふ……怖えか? 安心しろ、直によくなる」
というより、この味が忘れられなくなるぐれえ、オメーに快楽を教えてやるよ。
そう吐き出した瞬間、意地悪い彼を射抜く恐怖に似た想いが占めた視線。
真っ白な――いや、彼女は高潔なまでに漆黒なのかもしれない。
たとえば、黒いキャンバスに色を添えるとき。色鉛筆や水性ペンではその瞬間は望めても、いつか滲んでしまうだろう。
「ひっ、ぁ……っはぁ、っぁ、っぁ……あん、っぁあ……!」
ならば油絵具で塗りつぶしてやればいい。
広がり続ける欲望。ふと、滑らかな脇腹からショーツの縁に男が手を這わせると、次を想像したのかしなやかな身体がビクリと揺蕩う。
「っんん、ふ……だめ、です……ぁっ、そっちは……ぷろ、しゅーとさ、っ……ぁ、やんっ」
「なんだ、照れ隠しか。それとも……バレたくねえ状態にでもなってんのか?」
「! ちが……っひゃあ!?」
ありったけの抵抗も虚しく。
誰にも触れられたことのない秘部への侵入をまんまと許してしまった名前。
一方、擦り合わせようとする内腿を押し退けていけば――ピチャリと皮膚を濡らした液体にプロシュートは鼻で笑ってみせた。
「ハッ! 想像はしてたが、下着グチョグチョじゃねえか。……お前、媚薬抜きにしても感度良すぎだろ」
「やら……あん、っふ、ぅ……いわな、っで……ひ……ぁっ、ぁっ」
薬に侵され、融通のきかない躯体。
チュプリと淫らな音を立てた中指が、すでに充血しているであろう膣口を掻き分ける。
すると、紅い目を見張り、懇願の意を込めてふるふると首を左右に動かす少女。
だが、その行動に加虐心を擽られた彼が動きを止めることはない。
「つっても、オレのモンを入れるにはまだまだ足りねえな」
「ぁあん! ひっ、ぅ……らめ……ぁっぁっ、ん……はぁっ、も、こわれちゃ……っ」
「おう、壊れちまえよ。女っつーのはな、ここが一番感じんだぜ」
「こ、こ……? えと、わからな――んっ、ぁあああ……!?」
包皮から剥かれ、爪先が捉えたのは陰核。喉が天井へ晒されると同時に、一際甘さを帯びる喘ぎ声。空気に滲んでは消える荒い吐息。感覚の一つ一つが敏感な上に、連続的にもたらされる強烈な快感に意識は半ば朦朧としているのだろう。
「っぁ、ふ……やっ、んん……ッ……はぁっ、はっ、ぁ……そこ、だめっ……らめ、ぇ!」
「お前……知らねえのか? 自分で感覚的に弄ったことぐらいあんだろ」
驚愕がありありと宿った表情。知識としてしか知らない、と言いたげに頭を振るえば、感嘆の吐息を男がこぼす。
羞恥ゆえの嘘か、誠か。真実は本人にしかわかりえないが、プロシュートにとっては好都合だ。
「ハン。そうかよ……ならみっちり鍛えてやんねえと、なあ?」
「や……っ、ん、っぁ……ぷろしゅ、とさっ……らめ……いや、ぁっ、ぁっ……んッ」
「あァ? 嫌ってお前な……こうやって摘めるほど、クリトリス硬くしてる奴が何言ってんだ」
部屋に響き渡る生々しい水音。紡がれる言葉に対し正直な膣内は細長い指を歓迎するかのように蠢き、小さく震える蜜に濡れた花弁。
もはや使い物にならない下着は、ピンと張り詰めた足先を渡ってベッドの脇へ放り投げられてしまった。
そして不意に自分のボトムを一瞥した彼が、にやりと笑う。
「ったく、オレのズボン濡らしてるじゃあねえか」
「ぇっ……? ぁ……ん、はぁ、っは……ごめ、っなさ……や、っぁあ……!」
弱々しい声で謝罪が述べられると同時に、内壁をさらに刺激する指の腹。
考えることすら煩わしくなるほど快楽に囚われた脳内。頂点へ上り詰める感覚によって分泌された愛液が、ますます布のシミを広げた。
「あんっ、ぅ……ぷろ、しゅーとさん、っぁ……だめ……らめっ、やら……な、にかきちゃ……ぁっぁっ、あっ……ひぁ、っぁああん!」
次の瞬間、全神経を駆け抜ける鋭い痺れ。
自然と背筋を反らしていた彼女が甲高い嬌声と共に果てる。
うつろに揺蕩う淫靡な眼。
すると、膝裏に逞しい腕が差し込まれ、今度はなぜか横抱きにされた。
「ん、っふ……、っは、っはぁ……ッ、ぁ」
男の予期できぬ行動に思考の隅ではてなマークを浮かべていると、扉と向かい合うように部屋の入口で立たされる。
落ち着きのない心音。布の擦れる音がしばらくの間聞こえていたかと思えば、不意に背中全体をぬくもりが包み、ベルベットボイスが鼓膜を震わせた。
「あんま声出すなよ? 司教様とやらが帰ってきてんだろ」
「!」
内腿が鮮明に感じ取ったひどく熱いモノ。まあ、バレてもいいっつーならオレは別に構わねえが――そう楽しげに呟くプロシュートに、慌てて口を噤んだ。
刹那。
グチュン、と恥肉を押し拡げた陰茎。
「ぁっ……ひっ、ぁっ、ぁあああっ!」
どうやら、最初から彼は名前を黙らせるつもりはなかったらしい。
悲鳴に近い声を上げつつ、ふと≪圧迫感≫だけを覚える膣に修道女が瞳をぱちくりさせる。
「っ、ぁ、はぁ……はぁっ……ふ、っぅ、んん……っ、? 痛、くな……?」
「……ハン、なんのために媚薬飲ませたと思ってんだ」
「?」
痛みで快楽どころではない。それは男も気が引けたのだ。
当然ながら、清楚の二文字に包まれた彼女を快楽で乱したいという願望もあったが。
無意識に肉棒を締め付ける膣壁に、一瞬だけ苦悶の表情を見せたプロシュートは柔肌に腕を回したままゆるゆると腰を上下させ始めた。
「ひぁっ、ぁっ、あっ……ぷろしゅ、とさっ……や、ぁあん」
「く、ッ……けどやっぱり狭えな」
「っは、ぁ……らめ……ぁっ、あん……そこ、ぐりぐりしな、でぇっ」
「……ふ」
制止を懇願する名前に対して、しっかりと男根を咥え込む潤った恥丘。
女性の弱点を亀頭で的確に押し当てたまま、彼は目前の紅潮した耳にキスを贈りほくそ笑む。
「どうだ? 神聖な教会の中でギャングの男に後ろから犯されてる気分は」
「ぁっ……!? ひ、っぅ……やら、ぁっ、あ……おねがっ……言っちゃ、ぁあ!」
ジュブリ、パチュと羞恥を高める経過音。
生理的なナミダを流す少女は、恐らく気付いていないのだろう。
さらなる性感を求めて揺れている細い腰。
媚薬の効果と彼女の敏感さを再確認した男は、背筋からうなじへ指先を伝わらせながら嘲笑を口にした。
「ずいぶんやらしいなァ、え? 初体験のクセに後ろから攻め立てられて、悦んでのか」
「! ひぁ……ちがっ、の……ン、っぁっぁ、ちが……っん、ぁあ!」
「違わねえだろ。離したくなさそうに吸い付いてクポクポ言ってんのによ……」
きゅうと蠢いた肉襞に、あえて卑猥な表現を選ぶ。
「わかるか? 子宮の入口とペニスの先っぽがキスしてるぜ」
「ぁっ、あん、ふ……はぁっ、はっ……そ、っなこと……言わな、っぁ、んんッ」
赤黒く肥大した先端に刺激を与えられる子宮口。
乱れるばかりの二人の息。
そして、おもむろに細められたプロシュートの双眸。
「名前。じっくり時間かけて、ここでも快楽を覚えちまう身体に躾けてやるから」
「ぁ……!」
「……まあ案外、その童顔がメスのツラになる日も近えかもな」
「!」
背後から顎に指を添えられ、それに従うまま振り向けば、加虐の中に情愛を孕んだ目とかち合った。
飛び跳ねる心臓。下唇を噛んだ名前が恥ずかしそうに視線を落とした途端、さらに膨張した一物が最奥をもう一度突き上げる。
「ハッ、いちいち可愛い反応しやがって。口や首で必死に拒否する割には、恍惚とした表情になってるっつーのによ……そういう無自覚な吸血鬼にはちゃんと奥で種付けしてやらねえとな」
「? たねづ……っ、や……らめ、っぁ、らめぇ! はぁ、っは……ぁ、んっ、ぁああ!」
悩ましげにこちらを見つめる聖女に、「嫌なら追い出してみろ」と意地の悪い言葉を吐いた。熟れた膣肉は今も陰茎に絡みつき、それを中断することは困難だと知っているのに。
こんなにも執着してしまう理由が、わからない。だが、自然と湧き上がる欲を発散するだけのモノと割り切っていたこの行為に、今確かに見出しているのは≪ぬくもり≫。
そして何より、他の女との間では感じ得なかった心地良さがあるのだ。
自身の形、質量をはっきりと覚えさせようと、止めどなく蜜が溢れるナカを蹂躙した。
「名前、しっかり受け止めろよ」
「ん、ぁっ……らめ、ぷろしゅ、とさっ……まっ、て……おねが、ぁっぁっ……まっへ、ぇっ! ぁっ、や……またきちゃ……っひ、ぁ、ぁあああん!」
「ッ……く」
ビュルリ、と胎内に向かって爆ぜる白濁液。
弾ける快感をただただ享受することしかできない少女を、眉根を寄せつつ視界に収める男。
恋人ではないのだからと、普段は気乗りがしないはずの情事直後の接吻。しかし、不意にぼんやりとこちらを見上げた彼女のすべてを自分だけで満たしてしまいたくて――無意識のうちに優しい笑みを浮かべたプロシュートは、掻き乱れる本能に引き寄せられるままそっと桜色の唇に己のモノを重ねていた。
アドーネとヴァンピーラ
美青年と吸血鬼。捕食されるのはどちらか。
〜おまけ〜
「……あ?」
ベッドに倒れ込む二つの人影。トクトクトク、と早めのテンポを刻む心拍数に連なった男女の吐息が、ようやく落ち着き始めた頃。
視界の隅で目敏く発見したのは、初体験ゆえに重たいであろう身体を、自分の下でもぞもぞと動かす名前。
甘やかな恍惚が居座った上に、焦燥の入り交じった表情に愛しさを覚えながら、もちろんプロシュートは逃亡を胸板で阻む。
「ったく。何、逃げようとしてんだよ」
「! い、いえ……ただそろそろ服を――ひぁ!?」
深紅の双眸が服の散らばったベッドの脇を見据えた瞬間、ふと背中を伝った指先。
体内を蝕む媚薬は、かなり作用が続く代物のようだ。その繊細かつ荒っぽい手つきに白い喉を晒し、小さな悲鳴を上げた彼女は、潤んだ眼で彼をキッと睨みつけた。
「はっ……ぁ、ん……はぁっ、は、ぁっ……な、にする、んですかっ!」
「そりゃあオレのセリフだ。クスリが残ってる身体で無茶しやがって、まだ本調子じゃねえんだろうが」
「う……でもこのままだと、ぷろしゅ、とさんに……ごめいわく、が」
「は? ……≪迷惑≫だァ?」
なんだそれは。
耳を突き刺したのは聞き捨てならない言葉。
じわじわと額に青筋を立てた男は、相変わらず身動ぎしているしなやかな後ろ姿に、白いシーツと挟み込むかのごとく伸し掛かる。
そして、じたばたとする少女をその腹部に片腕を回すことでいとも簡単に捕らえつつ、自分の中でもはや一つの≪武器≫と化している甘い声を紅潮した耳元に向かって紡ぎ出した。
「おい。まさかお前、オレが媚薬を盛った罪悪感とお情けでセックスに付き合ったとでも思ってんのか」
「ひぅっ! やっ……はぁっ、は……らめ……耳、もとでしゃべ、っちゃ……っ」
「いいから答えろよ。オメーの返事によっちゃあ、情け無用で≪第二ラウンド≫に突入するぜ」
首筋を啄まれていく感覚が名前に先程までの行為を思い起こさせ、快感にピクリピクリと跳ねる腰。
しかし、どうにも引っかかる単語が。
プロシュートの浮かべた想像は、完全に的を外れているのだ。微かに頭を振っていた彼女はきょとんとしてから、彼が求めているであろう答えを呟く。
「あん……、っぇ? わ、私は……吸血のえいきょ、うだと思って……ましたが」
「……」
「ぁ、っはぁ……プロシュートさん?」
「…………ククッ」
どこまでも己のアプローチに靡かない――いや、気付こうとしていない。
鈍感なその聖女に小さな苛立ちさえ感じると同時に、男はようやく悟ったのだ。
なぜほどほどに高価で強烈な媚薬を仕込んでまで、自分が名前のことを知ろうとしたのかを。
≪知りたい≫。その欲求は恋の第一歩だ。次の瞬間、プロシュートは我慢ならずに吹き出し、笑声を上げていた。
「ぶ、ふふッ……ハハハハ! まったくオレは……人の感情は大体わかるクセに、テメー自身の恋心にゃ気付かねえなんてよォ……ザマァねえな」
「? だ、大丈夫ですか? お水でも持って――」
「名前。いつの間にか、オレはオメーに惚れちまってたらしい」
大きな右手にすかさず包まれた左手。さらに、眼前の色男がにっと口角を吊り上げたかと思えば、唇が不意に近付き――チュッと音を立てて瞼へ贈られたキス。
驚愕と狼狽にふるりと震えた睫毛。
少しの間硬直していた彼女は目をぱちくりさせながら、脳内で彼が放ったばかりの言葉を反芻する。
「ほれ……、え!? えと……そ、そんなっ……冗談はよくないです、よ?」
「ハッ! おいおい、冗談なんてこんなタイミングで言うと思うか? 口説くと思ったときにはすでに、オメーを口説いてたわけだ」
「口説く、って……」
これまでの状況を自ら振り返る頭の中。口説かれていたのか、とクエスチョンマークばかりが生まれる中、少女は両手を前に慌てて口を開いた。
は、早まらないでください。私は人間じゃ――自分の正体を何度も口遊むのは心苦しいが、変えようのない≪真実≫であるそれを改めて打ち明けようとすると、
「んんっ」
妨げられた言葉の続き。
ピチャリ。婀娜やかな糸を作って、二人の唾液が交じり合う。
とどめと言いたげに、蠱惑的に濡れた桜色の上唇をぺろりと舌先で一舐めしたプロシュートは、口付けで抵抗する力を失った名前の柔らかな躯体を仰向けに転がしつつ、おもむろに口端を吊り上げた。
「ふっ……ンなモン関係ねえだろ。上等じゃねえか、吸血鬼のシスター。名前が欲しいっつーなら毎日お前に血を捧げてやるさ。まあ、それ相応の≪礼≫はさせてもらうけどな」
礼とは一体何を指すのだろうか。
吐き出したその単語が気になるものの、返答と反応が妙に恐ろしくて尋ねることができない。
「……にしても。誰か一人に執着するたァ思っても見なかったんだが……気持ちを把握した分、オレはきっと執念深いぜ? ≪覚悟≫しとけよ、名前」
「え、あっ、う……/////」
鼓膜を支配したテノール。これから、自分はどうなってしまうのだろう。意味深な宣言を携えて細められたのは、海を映したかのように澄んだ二つの蒼。
冗談に違いないと苦笑する頭と、彼の想いを信じかけている精神。
抑制を訴える心といまだに疼いた身体。
だが、こちらを覆うその眼差しがあくどくとも、ひどく美しくて――自分を真っ直ぐに射抜く男の瞳から顔をそらせないまま、彼女は伸びてきた両腕にまんまと捕まってしまうのだった。
![](http://img.mobilerz.net/sozai/1616_w.gif)
すみません、大変長らくお待たせいたしました!
「もしも連載ヒロインが最初にリーダーではなく、兄貴と出逢っていたら」で、彼らの日常や裏でした。
BN様、リクエストありがとうございました!
少々、いやかなり鬼畜になってしまったような気がしますが……いかがでしたでしょうか?
考案はしていた、兄貴が暗殺チームへ所属するきっかけとなる出来事の部分は、かなり長くなりそうなのでまた別の機会があれば、ということで(笑)。
感想&手直しのご希望がございましたら、お願いいたします!
Grazie mille!!
polka
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