Amantium irae amoris integratio.
※20000hit『開け、サディズム!』続編
※Sなヒロイン
※お仕置き裏
※いつも以上に容赦ないかもしれません。玩具使用、注意!





「これ、どういうこと?」



ある夜の自室にて。

恋人――名前が眉を吊り上げながら差し出した見覚えのある≪雑誌≫に、サーッと効果音が背後に描かれるのではないかというほどイルーゾォは勢いよく青ざめた。



「!? そ、それは……」


「ちょっと。しどろもどろになる必要がどこにあるの。これはどこからどう見てもエロ本、よねえ?」



よりにもよって、一番発見されたくなかった代物を、なぜ彼女は目ざとく見つけてしまうのだろう。

とは言え、これは自身の過失ゆえに招いた惨事であり、≪口論≫から≪別れ話≫にもつれ込むのはどうにか避けたい。


数秒の間の後。唇を一文字に描いたまま淡々とふしだらな表紙を眺める女に、彼が慌てて頭を下げる。



「ごッ、ごごごめん! それは、名前の想像通りオレの私物です! お、オレのこと、煮るなり焼くなり好きにしてくれ……!」


「……はあ。別に私は、イルーゾォがエロ本を持ってることに呆れてるわけじゃないの。(というか、なんで≪好きにしてくれ≫の部分だけ異常に声が嬉々としてるのよ)」


「え」



ぽかん。胸を占めていた罪悪感からしばらくして顔を出す安堵。

助かった――そう思ったのも束の間。


突然視界を埋め尽くした肌色率の高さと、鼻を突き刺す紙の特徴的な香りに、男はギョッと目を見開いた。

雑誌の中身があられもなくこちらへ晒されたのである。



「ここに載ってる写真すべて! ≪私の顔写真でコラージュ≫してることがムカつく……!」



そう。光沢のある紙面に載っているモノすべて、彼女、彼女、彼女(に見立てた写真)。

当然、頬を真っ赤にしつつ怒りの言葉を並べる名前。ちなみにこの雑誌、最初は快楽に対してひたすら受け身だった恋人が、徐々に女王様へと豹変する姿がまた≪たまらない≫のだが、そのようなことを力説すればむしろ火に油を注ぐだけだろう。



「名前……(≪落ち着け≫なんて言ったら、ブチ切れられるな。絶対)」


「なんなの、これ? 一瞬、瓜二つの人間が出演してるのかと勘違いするほど、繋ぎとか精巧だし。しかもこんないやらしい格好して、男を虐げて……っまるで私が攻めてるみたいじゃない!」


「いや、これには深―い訳があるというか……! べべべ別に! オレがメローネに頼んで作ったわけじゃ――あ!」


「あんの変態男……ッ」



やはり犯人はあいつしかいない。


以前、間髪容れずにスカートだけでなく下着の中へ手を差し込まれかけた借りもある――あいつ、拷問はお好きかしら――と小さく紡げば、その途端「ヒィ」と悲鳴を漏らすイルーゾォ。

よほど凶暴な表情を浮かべていたらしい。すると、女もさすがにいつもの冷静さを取り戻してきたのか、反省ゆえにゴホンと小さく咳払いをする。



「まあ……変態の処分はまた今度にして。今はイルーゾォよね。こういうマゾヒティックな類は、前に実際体験してもらったはずだけど」


「うぐッ」



冷ややかな眼差し。グッと近付くそれを携えた顔。

もう一歩、もたらされる言葉の槍に後退ろうとするが、残念ながら後ろは壁。



「……イルーゾォ貴方、まだ懲りてなかったの?」


「いや、その……結構よかったなー……なんて。というかさ、名前もオレが≪またこんな感じでシない?≫って言ったとき頷いてくれたよな!?」


「……」



開き直った――自ずとこぼれてしまうため息。


もちろん、名前もこれまで人それぞれの性癖を目撃、実感してきた身なので責めるつもりはないが、眼前の彼はあの行為以来、≪攻められること≫にどっぷりとハマってしまったようだ。

ジクジクと痛む頭。いっそのこと、その希望を叶えてやろうか。そう決めたときには彼女はもう、ゆっくりと一音一音を噛み締めるように唇を動かしていた。



「いいわ」


「!」


「貴方の要望通り、今日は徹底的にお仕置きしてあげる」


「ま、マジ……?」



様変わりした男の顔色に歪む口端。自分の可愛い恋人は今、罠にかかったのだ。


「ええ、大マジ。ただし――」



次の瞬間、名前が自分のカバンを逆さにしたかと思えば、何かが無機質な音を立てて机に落ちる。

現れたのはグロテスクな玩具たち。



「これ全部、諜報用にちょうど買ってきたばかりなの」


「……」


ヒクリと頬を引きつらせるイルーゾォ。だが、気に留めることはあえてしない。



「でも、せっかくだからイルーゾォ用にしようかな。改めて買うなら、そのときは組織につけとけばいいし」



ベッドの上で啼き喘ぐ姿を想像し、スッと細められる女の瞳。


確かに加虐欲がそそられている部分もあるが、≪彼の望むことをしたい≫と思うあたりは献身的だと捉えていただきたい。

だから――そう呟いた彼女は一呼吸置いて、今まで男が目にしたことがないほど朗らかな笑みを浮かべた。









「途中で弱音なんか吐いて、バテないでね? 私の奴隷さん」










その後、イルーゾォは言われるがまま衣服を脱ぎ、妙な羞恥に苛まれつつベッドに腰を下ろす、と。

名前がテーブルに並べられたそれらをしばらく吟味してから、ゴムでできた輪を手に取ったではないか。


「まずはこの≪コックリング≫だけど」


「え、ちょ、名前? それどこに付け……、っうぁ……!?」



すでに熱を持ち始めた彼の男根。

それをなんの前触れもなく鷲掴みにされ、かと言って彼女の手で快感がもたらされるわけでもなく、ただ持っていたコックリングとやらを根元に装着されてしまう。


言わずもがな、押し迫る性感の中に動揺をありありと滲ませる男。



「ぁっ……はぁ、はっ……なん、ッだよこれ……ひっ」


「これはね、勃起を維持させる補助具なの。にしても興奮するの早すぎない? もうこんなにパンパンにさせちゃって」


「んん! やめ……そっ、な……ぁ、ぁ……と、ってくれよ、ぉ」



世界に灯る乱れた吐息。

何を好き好んで、陰茎を昂ぶらせ続けなければならないのか。


おもむろに眉根を寄せたイルーゾォは、懇願を入り交じらせながら女を見上げた。


しかし、拒絶を含めたその発言にしっかりと≪恍惚≫を見抜いた名前は、微笑みを返すばかり。



「大丈夫、少ししたら取ってあげるから」



彼がばつが悪そうに目をそらした途端、口端を婀娜やかに吊り上げた彼女は、人差し指でわざとらしく熱欲の根元から先端をなぞる。

当然、寄せては引いていく快楽の波を確かに感じたまま、彼はふるふると首を横へ振った。



「ぁ、っはぁ……名前、ッん、ぁっ……も、むり、ぃ」


「あら、もう弱音? って言っても、解放なんてしてあげないけど。あとは、勝手に出さないように……」


「ひぐっ!?」


「……ふふ、イイ顔。紐で裏筋を結ばれたのがそんなに気持ちいい?」



痛々しいほどに勃ち上がり、天井を向いた肉棒の先端を締め付ける、柔らかな素材の紐。

苦しいはずのそれは、今は刺激の要因にしかならないのか、美しい黒髪を振り乱しつつ甘やかな息を漏らす。


唇から顎先へ伝う唾液。部屋を支配する喘ぎ声。自分が妙な劣等感を覚えるほど、男のひどく色めいた表情。じっと見渡してから、不意にテーブルを一瞥した女。



「んー……貴方が喘ぐ姿をしばらく眺めてもいいんだけど……、そうね」


「?」



今、一体何を見たのだろうか。


連続的な責め苦に顔をしかめた状態で言葉の続きを待っていると、不意にイルーゾォの想像を超えた命令が紅潮した耳を劈いた。



「イルーゾォ、ちょっと四つん這いになって」


「……は? んっ、ぁ、名前……そ、れはさすがに……っふ、ぅ」


「返事は≪Si≫のみ」



早くしなさい――吐き出すように紡がれた冷酷な物言い。

普段とは違う一面。名前が、仕事で容赦なく情報を取り立てる姿を予想した瞬間、脈打ち、一層張り詰めた焦熱。


もちろん、自ら触れることは禁じられている。


≪早く欲しい≫。垣間見えた本能をどうすることもできずに、ただただベッド上で四つん這いになれば、彼女が嘲るようにこちらを見下ろした。



「何? 前だけじゃなくこっちまですごくヒクヒクさせちゃって。ほんとド変態ね」


「あ、っぐ……みん、な、っぁ……ぁあ!」


「見るな、ねえ……私からすれば、見られて悦んでるとしか思えないんだけど」


「んぁ……ッ!」



突然、ひやりとしたモノが排泄という役割しか知らない後孔を襲う。


腰を突き出すかのごとくその衝撃を享受し、大きく目を見開いた彼が慌てて振り返る、と。

自分の臀部には、ピンクというこれまた毒々しい色をした液体が。



「ひっ、ん、ぅ……ぁっ、これ……つめた、っぁ……」


「そう言いながら、これにも感じてるんでしょ?」



おそらくこれはローションだろう。

甲高く轟く淫らな自分の声。あられもないそれに、思わずシーツへ口元を埋める。

とは言え、男がいかなることをしても、残念だがなんの抵抗にもならない。むしろ背後の名前に対して、さらなる快感を催促するばかり。


再び、嘲笑が女の口元を彩った。



「にしても、前は≪試したいだけだからな≫って意地張ってたクセに……今じゃ正真正銘のマゾヒストじゃない」



そんなイルーゾォにはこれ――視界の隅に映ったのは、小さな球体が連なっている玩具。


ゆっくりと失われていく血の気。枕の方へ逃げようと咄嗟に動く躯体。

だが彼女が、捕獲寸前の獲物を易々と逃がすはずもなく。



「む……むり、っ無理無理無理! そんな、っ……ぁ!?」


「ふふ、心配しないで。ボール状のモノよりは小さめだから……ちょっと≪押し込むだけ≫」


「名前ッ、頼む! ……ひっ、ぁああ!?」


ズプリ

ローションとなけなしの体液が絡み合う淫靡な音が、彼の鼓膜を震わせると同時に狭い箇所を侵入していく無機物。


自分ですら触れたことのない禁忌の場所。

双眸を見張った男が喉をありありと晒す中、あくまで微笑んだままの名前は楽しげに口を開く。



「この玩具ね、指を引っ掛けられるように取手が付いてるの。これを勢いよく引けば――」


「っうぁ……ん、ぁっ……ふッ、ぁっ、あっ……やめ、っんん!」


「イルーゾォのココが≪もっとおっきなモノ≫を飲み込めるように、括約筋が押し拡げられるわけ」


「ひ……!」



悲鳴に似た声色。掻き立てられる女の嗜虐心。

一方、眼前の布を必死に握り締め、迫り来る快楽に堪えるイルーゾォはもはや限界に達していた。



「名前、っは、ぁ……名前……ん、おねが……ッも、イきた、いぃ」


「ダメよ。あと二つ、玩具は残ってるんだから」



≪二つ≫。普段は大抵小さいと感じるこの数字が、これほど重いと感じるときが生きてきた中であっただろうか。


焦れったさに重なる絶望。

当然彼女は、ひたすら右手を前後へ動かしつつ、素知らぬ顔で玩具を選び始める。



「次はこれかな」


ぴたり。ようやく止んだ悦楽の電流。

現れた休息に少なくともホッと息を吐いた、が。


ふと視線が捉えた棒状のモノ。


そのひどく冷たい先端をヒクヒクと蠢く菊座が感触として悟った瞬間、彼は改めて胸中に衝撃を受けることになる。



「はぁっ、は……そ、れって……」


「後ろ用のディルドー。細いタイプだから問題ないでしょう」


「え!? ん、ぁっ、ふ……結構問題じゃ……ぅっ、く!」



ツッコミは最後まで続かず、甘美な嬌声に場所を取って代わられてしまった。

膝立ちの身体を浮かす男に対して、どこかを探るように張り型の抜き差しを繰り返す名前。



「ぁ、っぁ……名前、やめっ、ぁ……んん……!?」


「……ここ、か」


「そこ、っや、ぁ……ひっ、ぅ……ぁっ、ああ!」


「まさかイルーゾォ、もう前立腺で感じてるの? ここの快感を覚えるには結構時間がかかるはずなんだけど……まさか自分でいじったことあるわけ?」



刹那、ブンブンと首がもげるのではないかと心配するほど否定を示すイルーゾォ。


ところが、細めの腰はなお性感を強請るように揺れるばかり。

しばらくの間放置されている男根に高まっていく熱。そして、ジュプリジュプリと耳を犯し、連続して与えられる終末感に彼は叫ぶ。



「ひぐっ、ン……ぬい、てっ……ん、はぁ……ぁっ、ぬいて、ぇ」


「ふふ、一回イったらね」



優しさの裏に秘められた無慈悲な言葉。前に付けたモノを外してくれるのか――少なからず期待した瞬間、いつもとは違った≪せり上がってくる感覚≫に男は瞠目した。



「なっ、ぁ……なんだよこれ……ひ、っぅ……なん、かくる……ッ」


「イルーゾォは知らないと思うけど……男の人ってね、ここから精液を出さなくてもイけるのよ?」


「ふあ……!? や、やめ……ッん、ぁ」



尿道を囲むように存在する前立腺。

それを後孔から刺激すれば、恥肉が今か今かと収縮する。


諜報部に参入した当初は、こうしたことは一切知らなかった名前。だが、快楽によって男から情報を聞き出すためいろいろ調べていると、勝手に知恵として身に付いてしまうモノで。



「ひぅ、っは、っはぁ……ん、っふ……ぁ、っ、ぁあああ!」


一際高い声と共に肢体が大きく跳ねた。

荒い呼吸が響き渡る中、ピンと張り詰めた筋肉が徐々に弛緩していく。


当然ながら、白濁液が飛び出すことはない。

イルーゾォは陰茎の周囲だけでなく、全身を支配する痺れに目を白黒させることしかできないようだ。



「なん、っぁ……、これ……はぁっ、はっ……ん」


「ドライオーガズムってやつ。どう?」



悪くはないでしょ――今まで経験したことのない絶頂に浸ったまま、自然と縦に振ってしまう首。

すると、ピクピクと小刻みに震える後孔から抜き取ったディルドーをベッドの脇に投げ捨てた女が、にやりと色鮮やかにほくそ笑んだ。



「よかった。これなら、≪前と後ろでほぼ同時にイっても≫大丈夫そうね」


「!」


「イルーゾォ……恨むのは、なしよ? ≪今日≫雑誌を発見された貴方の運が悪いだから」



背後でまた彼女が動く気配。嫌な予感に振り向いた彼はギョッとし、思わず自身の目を疑った。


なぜなら恋人が、陰茎を象ったゴム製かプラスチック製と思しきモノが付属するベルトを手にしていたのだから。

さすがあらゆる性癖を持つ標的と渡り歩いてきただけのことはある。キャミソールだけの姿になった名前は淡々とそれを腰に回し始める。



「ん……」


陰核を刺激するような仕組みになっているのか、微かに女から上がる艶やかな声音。


形状を簡単に説明すると、先程までの代物と比べて遥かに大きい。しかし、狼狽する男を厭わず名前はその一物へ、月夜に光るローションを垂らしていた。

女体にはないはずの歪なモノや、色香にドクドクとざわめく心臓。だが、ふと我に返り、「いやいや待て待て」とイルーゾォは慌てて己を叱咤する。

結果、飛び出たのは制止を促す言葉。



「名前! さ、さささすがにそれは……ちょっ、待てって……いや、待ってくださ――」


「待っては聞かない」


「ひっ……ん、ぁ……ぁっ、ぁっ、ぁああああ!?」



先端がゆっくりと押し込まれていく感覚。たとえ慣らされたと言えども、痛い。

これがいわゆる破瓜の痛みに類似したモノなのか。


目尻に浮かぶ涙。この激痛を経験しなければならない女性にある種の尊敬を滲ませつつ、男は自然と愛しい名前を呼んでいた。



「名前……、名前、名前……!」


「んっ、はぁ……なんだかんだ言って、イルーゾォも腰揺らしてるじゃな、い……っ」



そう。細身と言っても、彼も≪男≫。

≪やめろ≫と喘ぐなら押し返せばいいと言うのに、結局自分から逃げないのだから、やはり悦んでいるのだろう。



「ほんと、救いようのない変態ね。お仕置きを簡単に受け入れて……」


「はっ、ぁ……んっ、ふ……ぁっぁっ、ぁ……うぁ、っ!?」


「恋人に大事なところ奥までほじられて嬉しいわけ?」


「ッんん、っん、ぁ……ひっ、ぁああ!」



腰を捕らえられ、グリグリと刺激をもたらされるコブ状の性感帯。


パンパン、と嫌でも部屋を突き刺す淫らな経過音。

すると、何を思ったのか彼女が不意に右手を前へ移す。



「そろそろ、リボンは解こうかな」



ようやく解消された≪待て≫。イルーゾォは内心、すぐにでもいつも通り欲を吐き出すことを期待した、が。

刹那、締め付けるように柔らかな手のひらで根元を制されてしまう。



「まだダメ」


「!」


「こっちもイかないと」


上下に擦られる、屹立した熱の塊。


不規則に急き立てられる快感は、彼にとって今や拷問でしかない。

二つの責め苦にますます朦朧とする脳内。



「どっ、ちもやめ……ぁっぁっ、あっ……また、これ……ひっ、んぁあああ!」


「んん、っ」



反り返った一物に走る電流。眼前が白く霞み始めた次の瞬間、待ちわびたと言うかのごとく飛び散った体液。

一方、女も刺激された肉芽に感じ入るところがあったのだろう。名残惜しそうに少しばかり腰を一旦止めた。


つかの間の休息。

ところが、膝をガクガクと震わせた男はこれで≪終わり≫だと信じているらしい。



「はぁっ、はっ……名前、ん、けっこ……はげし――」


「こら。誰が休んでいいなんて言ったの?」


「え……っ、ひぁ……ん、っふ……や、っぁ、っぁあ!」



驚愕で見開かれる眼。

それを見とめながら、名前は睾丸の一つをやんわりと、だが確かに掴む。



「んぁッ!?」



そして背中にぴたりとくっついた彼女は、今なお赤い耳に残酷な言葉を囁いた。



「溜まった精液全部出して、この中すっからかんにしちゃいなさい」









ベッドに並ぶ三つの玩具。

密室に響き渡る、男の喘ぐ声と女の吐息。充満する香り。

透明になった子種が、じわりじわりとシーツに広がっていく。



「名前、ッおねが……ぁっ、ぁっ……ここ、ひろが、ちゃ」


「安心して。人間の身体はそんなヤワじゃないから……イルーゾォが望んでるなら別だけど」


「! そんっ、なわけ……ね、だろ……っぁ、あ……!」


「っ、ぁ……ふーん」



時折小さく躯体を小刻みに揺蕩わせつつ、腰をゆるゆると動かし続ける名前。

二人の表情に滲む疲労感。


しかし、焦熱は相変わらず頭をもたげたまま。

二種類のオーガズム。何度目か数えるのが億劫なほど、経験したそれが再びイルーゾォを攻め立てた。



「ひぁ、っン……名前……うぁっ、はっ……も、でな……っぁ……っぁっぁ、ぁあああ!」


「ん……!」



静かに、できる限り黙々と彼女が快感を甘受する。

一方、痙攣と共に上がる彼の嬌声。


恋人の蕩けた顔。可愛い――囁きかけるように呟いた女は、今も自分たちを揺さぶる代物を引き抜くと同時に、弓なりになった白い背中へそっと口付けるのだった。










Amantium irae amoris integratio.
「恋人たちの喧嘩は、恋の回復である」。




〜おまけ〜



あらゆる羞恥と絶頂を体験したイルーゾォがうつ伏せのまま四肢を投げ出していると、不意にその鼻を何かが焼けるような臭いが擽った。



「ん? なんか焦臭いような…………って、ええええ!?」


「? 何驚いてるの」



勢いよく振り返った彼が目にしたのは、白い薄布団で胸元から下を隠すだけでなくなぜかライターを持つ名前。

もう片方の手の中に収まる成人向けの雑誌≪だったモノ≫。


炭と化していくそれを凝視しながら、驚愕とショックを表情に滲ませた男がパクパクと口を何度も動かせば、彼女は怪訝そうに眉をひそめる。



「ただ雑誌を燃やしてるだけじゃない。何か問題でも?」


「いや、問題とかは……ねえけど……! こう、予期せぬ別れだったというか」


「……なあに? イルーゾォ貴方、まだこの本と仲良くするつもりだったわけ?」



呆れた――鏡の世界に響き渡る冷笑と軽蔑に満ちた声色。

女のそれと艶やかなため息にさえ、快感に変換しゾクリと背筋で享受するイルーゾォ。


さすが、変態にアイコラを頼んだだけのことはある。

言い返すにも言い返せず彼がただただ口ごもっていると、ふと二人の瞳がかち合った。



「というか」


しかし、少しばかり瞠目した名前はすぐさま視線をそらしてしまう。

男の頭上を占めるクエスチョンマーク――その柔らかい耳が紅潮しているのは錯覚ではないはず。



「もし。もしよ? そういう衣装を……イルーゾォが実際買って私に懇願するなら、そのときは着てあげなくもないんだけど」


「え……ええ!?」



なんということだろう。突如呟かれた大胆発言に思わず声を上げれば、心中を責める恥ずかしさが助長されたのか彼女がキッとこちらを睨んでくるではないか。



「〜〜っどうせ買う勇気はないんでしょ? はい、この話は終わり!」


「ちょ、勝手に終わらせるなって! 名前。買って懇願したらマジで着てくれるんだよな? つまり、その格好でまた攻めてくれると思っていいんだよな……?」


「は? ちょっとイルーゾォ。着るとは確かに言ったけど、攻めるとまでは――」


「いいんだよな!?」



裸体のままベッドを飛び降りた瞬間、近付いてきたイルーゾォの鬼気迫る表情。

頷かざるをえない状況。刹那、彼がクローゼットを漁り始めた。正直≪まずは服を着ろ≫と言いたくて仕方がないが、オーラを放つ背に声すらかけられない。


すると、しばらくして男の手に掲げられたのは――革製のボンデージ衣装。

どのような用途を指定されているオプションなのか理解したくもないが、鞭付きである。


「実はもう、名前のサイズに合わせた衣装を通販で購入して、たり……」


「……」



言わずもがな着せられるであろうそれが、月明かりに照らされ黒く光った。

女の変わらない、否、変えまいと必死の面持ち。その心は大渦。


(実は)マゾヒストな男が恋人である名前。彼女の受難はまだまだ続くようだ。












すみません! 大変長らくお待たせいたしました!
『開け、サディズム!』の続編で、イルーゾォにお仕置きをするお話でした。
リクエスト、そしてお祝いのお言葉ありがとうございました!
自分の中では容赦ない感じに仕上げたのですが、いかがでしたでしょうか?


感想&手直しのご希望がございましたら、お願いいたします!
Grazie mille!!
polka



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