バターミルクの甘い誘惑
※連載「Uno croce nera...」の番外編
※裏
※ヒロインが、いつもより積極的なようです
※白いものを飲みます、注意





「なん、だと……?」



絶望を胸に硬直するリゾット。

この世のものではないモノを目撃したかのような顔をして、その場に立ちすくむ所以には、彼が手に持つ≪雑誌≫が関係していた。








それは、買い出しの帰りに一人コンビニエンスストアへ立ち寄った、ある日のこと。


「ん?」



雑誌コーナーの前で止まる両足。

ある一冊の女性誌。その鮮やかな表紙にデカデカと刻まれている文字を目にして、男はおもむろに考え込む仕草を見せる。


興味を若干示す、深い色を帯びた瞳。



「ふむ、≪乙女心≫か」



女心がわかっていないやら鈍感やら朴念仁やらと、仲間に――特にブロンド組二人に――よくからかわれているリゾット・ネエロ、28歳。

以前ならば、淡々と素通りしていただろう。

むしろその存在にすら気付かなかったかもしれない。


だが今は乙女心を――否、恋人である名前の気持ちを少しでも知りたいと思った。



「(買うとなれば気が引けるが、立ち読みならいいだろう)」



静かに頷いた彼は買い物用のバッグを両肩に下げながら、その雑誌に読みふける。

かなりの筋肉質で無表情の男に女性誌と、なかなか目に厳しい図ではあるが、本人はさほど気にしていないようだ。



「(なるほど。思った以上にこういった雑誌の内容は赤裸々なんだな。情事に対する女の本音も書いて……)え?」








「≪がっつきすぎな男には愛想を尽かすことが多い≫……!?」


瞠目した双眸が注目するのは、とある欄。


人知れず動揺を心に宿したリゾットは、彼女との夜を振り返ってみることにした。

そして気付く。自分は完全に本能に従って――がっついていると。



「(つ、つまりオレは名前に愛想を尽かされてしまうのか? いや、もうすでに……)」



紙の擦れる音が床に響く。しっかり持っていたはずの雑誌が、手から滑り落ちたことを気にする余裕すらないほど、彼はひどく狼狽していた。







「――と、いうわけで。お前に意見を乞いたい」


「いや、どういうわけかわかんねーよ」



帰宅後。幸運にも、アジトの中でも他より常識を携えていると思われる人物の捕獲に成功した男。

一方、捕まった常識人(仮)――ホルマジオは今すぐリビングを出て行きたくて仕方がないが、≪拒否権はない≫と言いたげな禍々しい眼光に思わず肩を竦める。


「しょーがねェな〜〜。つか、そういうのは俺よりプロシュートやメローネの方が適任だと思うんだが」



≪対女性≫と言えばあのブロンドたちだ。彼が「たぶん両方、部屋にいると思うぜ」と親指でそちらを示せば、口を一文字に結んだリゾットは首をゆっくりと横へ振ってから一言。



「あいつらがこういったことに関わると、大抵碌でもない方向に行くだろう」


「ハハハ、ハ…………確かに」


「はああ。やはり名前に尋ねてみるしか方法は――」


「おま、それはガチでやめとけって! んなモン、名前も返答に困るに決まってんだろうが! ……大体よォ、≪どうしたら愛想尽かされずに済むか≫って簡単じゃね?」



簡単。その一言にピクリと動く眉。

彼の様子を一瞥しつつも、話を続ける男。


「まずは二、三日。襲っちまわないよう我慢してみたらいいじゃねーか」



――あわよくば、ムラッと来た名前から誘ってもらえる機会も、あるかもしんねェぜ?



こうして、ホルマジオの一言で、鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をした男の挑戦は始まった。


初日、夜。



「リゾットさん? あの、えっと……」


「! ど、どうした?」


自分に背を向けてベッドへ横になるリゾットに、言わずもがなたじろぐ少女。

いつも彼は比較的小柄な恋人を抱き込むように眠るのだ。


それゆえ、このような状態は初めてと言っても過言ではない。

胸の内に広がる暗雲。しかし、何か訳があるのだろう――と、まさか期待の眼差しを向けられているとは知らない名前は、垣間見えた気がかりを奥へ押し込めて小さく微笑んだ。



「い、いえ……! なんでもありません! 明日もお仕事あるんですよね? 寝ましょうっ」


「確かにデスクワークはあるが、二、三時間なら君と目交え――」


「おやすみなさい、リゾットさん」



慌てた様子で布団を被った彼女に、一人残される男。

しばらくして背後から届く寝息。



「すぅ、すぅ」


「……名前……。(やはり今までの行為は、度が過ぎていたのか……)」


「すぅ……、んっ」


「!?(この感触はッ)」



脳内に挙げられる数多の反省点。だがふとした瞬間、今ある寂しさを埋めるように大きな背中へぴたりとくっついた身体。


たった二枚の布越しにある柔らかさ、温もり、鼓動。

驚愕ゆえに目を見開いたリゾットがそのまま瞼を閉じることはなく、寝不足になったのは言うまでもない。



「(アジトへ来てくれた当初からこの方針で夜を共にしていたが、今にして思えば名前はなんて無防備なんだ……)」



正直≪よく堪えられていたな≫、と過去の自分に対し称賛を贈りたくなってしまうほどである。


だが、この状態では仕事に支障が出る――そう己を叱咤した彼は、少女が眠ったことを確認すると同時に部屋から抜け出すことで二日目、三日目をなんとか過ごした。


キシリ。扉の軋む音が響けば、一瞬だけ室内に光が差し込む。


「……りぞ、とさん」



欲を抑えることに必死だった男は、目標である≪我慢≫が達成されたことに安堵していたのだ。

自室を後にした刹那、一人きりとなったベッドの上で名前がゆるりと瞼を上げ、切なげに目を伏せているとは知らずに。








そして、人格として本来備わっていた忍耐力が功を奏したのか、リゾットはついに四日目の昼を迎えようとしていた。

蔓延るのは、清々しいとも言えず、おどろおどろしいとも言えない感情。


増幅するそれをあえて無視しながら、リビングのソファに腰を下ろしている彼は一人頷いた。



「ふむ。(ようやく我慢も形になってきたな。だが、困った。いつ性交の再開を名前に切り出せば――)」


「あの……リゾットさん」


「! どうした?」



ずいぶん考え事をしていたらしい。凛としていて柔らかな声の方を振り向くと、神妙な面持ちの彼女が。


「お仕事中にごめんなさい。隣に座っても、いいですか?」


「ん? もちろんだ。……おいで」



実際、仕事は普段と比べて進んでいないものの、微かに口元を緩めた男はペンをテーブルに置き、そっと細い手を取る。

すると、照れ臭さによって深紅の瞳を揺らした少女は、恋人の誘導に従うままちょこんとソファに身体を添えた。



「「……」」



二人を覆う無言の空間。


ここでリゾットはようやく≪おかしい≫と違和感を悟った。

口重なこともあり、自分は話題をいつでも湧水のように出せるわけではない。それを気にしないでほしいと言うかのように、スタンドや動物が可愛いと名前がさまざまなことを話してくれるのだ。




そう、いつもならば。



「あ、そうだ」



おもむろに声をかけようとした途端、彼女はそそくさと立ち上がってしまう。

行き先はキッチン。見慣れない色つきの瓶を抱えて戻ってきた少女。


そして、再び己の隣へ座った名前からふわりと漂ってくる甘い香りに、彼は自然と首をかしげた。



「それは?」


「えへへ、フランス出身の知り合いから前に頂いたキャンディーが入ってる瓶です。バターミルク味でとても美味しいんですよ? よければリゾットさんも……」


「どうしたんだ」


「ご、ごめんなさいっ……さっきのでなくなってしまったみたい、です」



カラカラと音すら響かない容器に、彼女が申し訳なさそうに肩を落とす。


その落ち込んだ姿を目にして、不謹慎とわかっていても可愛いと少しばかり口端を吊り上げる男。

飴自体は確かに気になってはいたが、少女が今こうして≪美味しい≫と顔を綻ばせているのならそれこそが幸せだと、リゾットは断言できた。

がくりと項垂れる頭へ大きな手のひらを寄せ、カラスの濡れ羽色に煌く髪を優しく撫でる。



「ふ……気にするな」


「……」


「名前?」



しかし、名前にとってはそう簡単に聞き入れられることではなかったらしい。

どうせなら彼とこの甘美な味を分かち合いたかったのだ。


口内で転がるキャンディー。彼女は俯いたまま、微動だにしない。



「?」



終始無言の少女に≪焦燥≫を滲ませ始める男の表情。

そうした最中、なんの前触れもなくある答えがパッと脳内でひらめく。

とても恥ずかしいが――これしか方法はない。


これからのことを想像し、耳たぶを紅潮させた名前が、おずおずと顔を上げた。



「り、リゾットさん……」


「名前、飴のことなら気に病む必要はないんだぞ? オレは君が嬉しそうならそれで――んッ!?」



突如行われたのは、予想だにしなかった恋人の行動。

短いものから深いものへと変貌するキスに驚きつつも、吐息と共に微笑をこぼしたリゾットはグッと細い腰を自分の傍へ抱き寄せる。



「んっ、ふ……ぁっ、はぁ、はぁっ……りぞ、とさ……ん!」


「名前……ッ、は」


「ン……ぅ、っ……ふっ、んん……っは、ぁ……はぁっ、ぁ、ん……」


「!」



唇と唇が銀の糸を引いて離れた瞬間、コロンと口内に移った飴玉。

舌上に広がる濃厚なバターミルクの風味。


あらゆることに面食らった自分に対し、彼女はただただはにかんでいた。



「えへへ……おいしい、ですか?」


「……」


「/////」



トクトクと落ち着くことを知らない心音。少女は今も、肌を薄らと透かすシャツの袖から指を離せずにいる。

不安だったのだ。眠っている間に、彼がどこか――たとえば、美しく器量のいい女性が集まるサービス満載の店など――へ行ってしまったのではないか、と。


止めどなく溢れる気持ち。小さく揺らぎ、荒々しく掻き乱された心。そしてほぼ毎晩植え付けられてきたことで、ジクジクと疼く身体。

それらが引き金となって、名前を大胆かつ積極的に変貌させた。



「あ、あのっ……ずっと気になっていて」









「リゾットさんは……もう……は、恥ずかしいこと……私にしてくださらないんですか?」






「〜〜ッ」



数日間の我慢の甲斐あって、効果抜群。しかし「待てよ」と不意に思いとどまる。

これは単なる≪質問≫なのかもしれない――とは言え、恋人が可愛らしいことに変わりはないのか、口元を己の手のひらで覆い隠し、自分を恐る恐る見上げる潤んだ瞳から赤い目をついとそらしたリゾットに、彼女は小首をかしげた。



「え? あ……もしかしてさっきのキャンディー、美味しくありませんでしたっ? ごめんなさい! 私、リゾットさんと味を共有したくて、つい……っ」


「ち、違う……違うんだ。名前、落ち着いてくれ。飴の話じゃあない」



宥めるように空いている手を華奢な肩に置けば、ますますクエスチョンマークで周囲を満たす少女。



「?」


「……その、だな。君はなんの気なしに放った質問かもしれないが、人によっては誘っていると捉えられてしまうこともある。残念ながらオレもその一人だ。つまり――」


「なっ、なんの気なしじゃありません! 私は本当に……っ、えと、リゾットさんと……!」


「シたい、のか?」



感情に急き立てられた彼が吐き出した直接的な問い。刹那、揺蕩う紅の双眸。



≪動揺≫と≪喜心≫。

普段では起こりえない事態の連続に狼狽しつつも、男の心中を占める割合は喜びの方が大きいのだ。なぜなら――



「っ/////」


頬を朱に染めた名前は小さくも確かに、こくんと首を縦に振ってくれたのだから。












いつもとは異なる心持ちで彼らの部屋へ足を踏み入れる。

そして、扉の閉まる音がその場に響き渡った途端、俯きがちの彼女は眼前で揺らめく服の裾をもう一度控えめに引き寄せた。



「リゾットさん。その……今日は……わ、私にさせてください」


「なッ」


――この子は一体、何を言い出すのだ。


衝撃に囚われ、ギョッと黒目がちの瞳を見張ったリゾットが遠慮を示すより先に、彼は自然と回転椅子に座らされてしまう。

一方、緊張の面持ちで息をのんだ少女は、こちらへ向けられる両足の間に身体を滑り込ませるように床へ膝を着いた。



「っ、失礼します」


「!? 名前、頼むから無理をするんじゃあない。きょ、今日は一体どうしたんだ。様子がおかしい――」


「……無理なんて、してません」



いや、明らかに無理をしているはずだ――見慣れているはずの自分の裸体にさえ顔を赤らめる名前は、性交はおろか口淫など滅多に進んでしないと言うのに。

ただ同時に男の胸を締め付けるのは≪誘惑≫。ところが、流されてしまいそうな自身を振り払ったリゾットは慌てて恋人の動きを止めようとするが、視線を落とせばすでにズボンのファスナーは下ろされ、下着の中から陰茎が取り出されているではないか。



「(えっと、まずは手で包むんだよ、ね)」


「! う……ッ」


以前教えられた方法を必死に思い返しながら、ゆっくりと両手を根元から先端まで上下させる少女。

すると、項垂れていたはずの男根が、久方ぶりの性感によって徐々に頭をもたげていく。


視界の上部に映る彼の苦悶に満ちた表情。その男性特有の色っぽさに、トクリと速いテンポを刻む鼓動。

大きな羞恥と小さな興奮。懸命に刺激を与え続ける名前からも、微かに吐息が漏れた。



「(リゾットさんの……す、すごく熱くなって……/////)」


次の段階へ行くべきなのだろうか――考え込んだ結果、彼女がたどたどしく舌を血管の浮き出る一物へ寄せる。


股座から届く水音。

ちろちろと裏筋を掠める赤い粘膜。



「ん……」


たとえ状況に思考が追いつかなくとも、目をそらすことはしない男。瞬きをできる限り避け、恋人の淫靡な姿を虹彩に焼き付けている、と。


不意に、桜色の唇がおずおずと鈴口を含んだ。

サイズの問題もあり頂きをかろうじて包む、口腔特有の生温かい感触。

それでも、まるで膣内に覆われているような錯覚に陥ったリゾットが少々歯に力を込めれば、その様子に気付いた少女がおずおずと目線をこちらへ移した。



「んっ、ん……きもひいい、れすか?」


「名前……咥えたまま喋るんじゃあ、ない」


「?」


「く……ッ、ぁ」



先程舐めていた飴が影響しているのだろうか。いつも以上に粘膜下で分泌が促され、自然と亀頭から根元が唾液に塗れる。

クチュリ、ピチャ――自分を絶頂へ押し上げようと名前が皮膚に手を擦り付けつつ、先走りの溢れる入口をひたすら舐っていることを証明する音。それが、すでに反り上がっている陰茎をより膨張させた。


「っん! ぁ……おっひく、なっへ……っ」


「はぁッ、はッ……!」



だがこのまま終わるわけにも行かない。息を荒げた彼が、改めて目下の彼女を凝視する。

すると、現在進行形で欲情を誘う仕草を見せているにも関わらず、少女は恥ずかしそうに視線を落としたのだ。


心を貫く≪ギャップ≫。次の瞬間、眉根を寄せた男はその後頭部へ手を添え、喉に押し当ててしまっていた。

驚愕にこれでもかと言うほど見開かれた、鈴を張ったような双眸。慎重ではあるが揺れ動くリゾットの腰。柔らかな粘膜を蹂躙していく陰茎。名前の口端からはいやらしく唾液が零れ、苦しさにナミダが頬を伝う。



「名前ッ、名前……」


「ふ、ぅ……っぁ、んん!」


「ッ」



蓄積される熱。

唇から見え隠れする赤黒い男根。


そろそろ危ない――チカチカと眼前で散らばる白い星に、そっと彼女の顔から躯体を離そうとした、が。



「んッ……だめ、っ」


「!? な、にを言っているんだ。離れなさい」


「や……」


「名前……ッ!」



咥えたまま首を左右へ振る少女。今度こそ仰天した彼は、絶頂と忍耐のせめぎ合いに少しばかり囚われた。



が、刹那。


「ッく」


「ぁ、んん……っ」



根元から先端へかけて、ほとばしる刺激に熱の塊が一層拍動する。

ビュルリと口内へ無遠慮に放たれる白濁液。


一瞬、呼吸を止めた男は強烈な快感に背もたれへ上体を預けながら、ぎこちなくその焦熱を処理しようと試みている名前の左頬を、静かに右手で包んだ。


「ん! ン、ぅっ……ん」


「はっ、はぁ……、口を開けろ」


「? ぁ……」



零さないよう、怖々と開かれる彼女の口。理性がしばらく邪魔していたものの、本音を打ち明けるならば≪やることなすこと≫すべてにひどくそそられていた。

柔和だが、加虐的に細められたリゾットの赤い眼に、もう≪動揺≫の姿はない。



「ッまったく……瞳をこんなにも蕩けさせながら、男の射精を受け入れるとは。いいぞ、飲み込め」


「っふぁ、い……ン、んん」


顎に指先を添えられたまま、コクリ、コクリと静かに上下する喉。

広がっていく苦味。


今更だが少女の胸を攻め立てる羞恥。

漂う静寂にいたたまれなくなり、そそくさと俯こうとした途端、名前はあることに気付く。



「あ……/////」



視線の先には、テラテラと体液に光る陰茎――いつの間に、それは硬さを取り戻したのだろう。

一方、その様子に口元を歪めつつ、彼女を立ち上がらせた彼はあえて答えを把握している質問を淡々とぶつけた。



「どうした、股間をまじまじと見つめて」


「! い、いえ……」


「……まだ前戯もしていないが、まさか濡らしているんじゃあないだろうな」



≪何を≫など言わずともわかってしまう少女。


まさに挙動不審。すると、目線をあらぬ方へ移していた名前が引き寄せられたかと思えば、小ぶりの臀部に手を宛てがわれ、ねっとりと撫で回される。

肉感的な柔らかさを堪能するように手のひらが蠢くたび、ビクビクと震える肢体。



「ぁっ、や……はぁっ、はっ、ん……りぞ、とさ……っ」


「ふ……図星か。名前、下着を脱いで膝の上に跨るんだ」



男はまだ秘部には触れていない。それでも≪図星≫だとわかるのは、眼前の彼女が顔をすぐ紅潮させるからである。

躊躇いを押し退けた快感への期待。太腿に乗ったことで、自ずと捲れ上がる修道服の裾。


亀頭の熱をひしひしと感じた少女は、逃がさぬよう腰を掴んだリゾットの力強い支えを頼りに筋張った肩あたりへ両手を添えた。



「あ、の……っひゃん!?」


すると、彼は露わになる生足を眺めながら、開脚したことで自然と姿を現した秘境の入口を先端で掻き乱す。

クチュクチュと陰裂から耳に直接劈く擬態語。


「やらっ、ぁ、んっ……りぞっとさ、っんん……ぁっぁっ……おしつけな、っでぇ」


「ずいぶんいやらしいな。擦り付けただけで淫らな音が聞こえてくる」


「〜〜っ////」


今、男が紡ぐ言葉一つ一つに反応する名前は、先程まで自分に口淫を施していた者と同一人物とは思えないほど恥ずかしさに心を奪われ、下唇を噛み締めていた。


愛液によって濡れそぼった蜜壷を掠めては、焦らすかのごとく離れる焦熱。

性欲に塗れた肉と肉がぶつかり、淫靡な音を部屋に響かせる。



「っはぁ……はっ、はぁ……りぞ、とさん……あの」


「名前、ゆっくりでいい。ゆっくり……そのまま、腰を落としてみろ」


「! は、はい……ん、っふ……ぁ……はぁ、はぁ……ぁっ、ぁっ、ひぁああ!」


「ッは……、いいぞ」



深い挿入と共に胸元へ滑る彼女の手のひら。

シャツ越しでもはっきりとわかる、精悍な躰つき。


高鳴る心臓。同時に、今しがた肌が直接捉えていた熱の塊を、今度は欲に正直な粘膜が鮮明に感じ取っていた。

目前の恋人をまっすぐ見つめる、快楽に潤んだ紅い瞳。


「っぁっぁ、っあ……りぞ、っとさ……、ふ……ぅっ、ん……ぁ、ひゃ、っあん」


「ッ名前……」



自分で動けるな――同意と命令の二つが入り交じった男のテノールが耳に届いた次の瞬間、ゆっくりと女体が揺れ始める。


「や、っん……ぁ、っぁ……ッ、ぁっぁっ、あっ……そこ、あたっちゃ……やら、っ……ひぅ!」



回転椅子の狭さによって動きを制限されているのがもどかしいのか、切なげで恍惚とした表情を浮かべつつひたすら腰を上下させる少女。

充血した膣内。片手で白い太腿を撫でたリゾットは、嗜虐に口端を歪めた。



「……陰茎に柔肉が絡み付いてくるが、物足りないのか?」


「あんっ! ぁ……そ、なっ……ちが、っぁ……ッ……らめ、んっ、ちがいま……ひゃ、っぁああん!?」


「ッ、嘘を付くんじゃあない。……名前は性交のことになると、途端に悪い子になるな」



胎内の入口を覆う果肉。それを容赦なく抉る硬さを帯びた先端。


彼の目下で服ごと揺蕩う豊かな乳房。今日は一度も触れていないな、と思い至った男はその膨らみに手を伸ばそうと試みた――が、どうしたことだろう。

不意に名前が自分へ縋り付くように首へ両腕を回したのだ。

より密着する二つの躯体。



「名前?」


「はぁっ、はぁ、っ……ん、ぁ……きっ……きす、っ……していい、ですか?」



悩ましげで、物欲しげな眼差し。

その普段からは想像できないほどひどく官能的な面持ちに、図らずとも一際質量を増す男根。


リゾットは静かに生唾を飲んでから、恋人へ向ける視線を一瞬たりとも外すことなく頷いた。



「……んっ」


刹那、二人の合間を縫うかのごとく唇が重なり、おずおずと侵入する舌。たった一日の間に、彼女が深い口付けを二度も自らせがむ日が、今まであっただろうか。



「ふ、っぅ……ぁ、はぁっ、は……っぁ、んん!」


「は……ッ、もっと舌を出せ」


「ぁっ、ぁ、ンっ……ん……ぁッ、りぞっ、とさ……ふ、ぅ……!」



水音を轟かせながら、何度も距離を縮める男と女。


――それにしても。目を瞑る少女をしっかり見収めた彼は、思考の隅である感想を浮かべる。

自分の分身が吐き出したモノは、こんなにも苦いのか。


押し寄せる後悔と共に、胸に蔓延る名前への愛しさ――微笑んだ男はキスに夢中で動きが止まっていることを知らせるため、ヒクつく最奥を押し上げた。



「んんっ!? っぁ、ふ、やら……いじ、わるしな、っで……ぁ、あんっ」


「……こら。口付けをやめてどうする」


「!」


「どちらも続けるんだ」



突き付けられる難題。

そうわかっていても自分を射抜く、リゾットの有無を言わせない瞳にきゅんと子宮が収縮してしまうのだ。



「ん……」


「はぁっ、ぁっ……はっ、はぁ……ふ、っぅ……んっ!」


クシャリ――いつの間にか柔く掴んでいた、透き通るような銀髪が細く白い指と指との間で震える。

一方でうなじにそっと回されている、心に安堵をもたらす温かい手のひら。


布に跡を残す、いくつもの水滴。彼女は彼の首筋に顔を埋めながら、自ずと溢れんばかりの想いをこぼしていた。



「りぞ、とさっ、ぁ……おねがっ……ぁっ、ぁっ、あん……離れちゃ、っや、ぁああ」



少なからず瞠目する男。少し間を置いて耳たぶに贈られる小さなキス。


「無論だ。オレが、君の傍から離れるはずがない」



少女の鼓膜をその声が震わせた瞬間、引き寄せられるように赤と紅がかち合う。

しかしリゾットが気になったのは、双眸を覆う安堵に隠された≪憂慮≫。



「っは……、はぁ、はぁっ……ほんと、に……っぁ、っぁっぁ、いいん……れすかっ……?」


「む。いいも何も、オレは元からそうするつもりなんだが……どうした?」



何か気がかりなことでもあるのだろうか。

かしげられる彼の首。


すると、しばらく逡巡してみせた名前が息を乱しつつ、小さく呟いた。



「ん、最近……りぞっとさ、ん……夜は、ぁっ、はぁ……っん、ぁ……部屋を、出て行かれてました、っぁ……から」


「! それは」


「はぁ、っは……そ、れは?」


「……すまない、名前。あとできちんと説明する」



今は――劣情を孕んだ瞳の奥に想いを察したのだろう。現状を改めて認識しながら、彼女がはにかみと共に頷きを返す。



「ふっ……グラッツェ」


「あ、う……っ/////えへへ、どういたしま――ひゃ、っあああん!?」


突如再開される律動。

小柄な身体を持ち上げては、重力に従って落ちたところを穿つ激しさに、顔を紅潮させた少女がおずおずと睨み付けるが、男はただただ口元を緩めるばかり。


撒いてしまった不安の種。

それは自らの手で回収しなければならない。



「やっ、ぁっぁっ……らめっ……んっ、ぅ……はぁっ、ぁ、ッ……ひぁっ……!」


「く……ッ」


「あん! ンっ、ぁ……そこやらっ……おく、ぐりぐりしなっ、で……ぁっ、あっ……らめなの、っぉ」



室内にいつまでも鳴り止まない、粘膜を打ち付け合う音。

そして、不意に肉棒の熱が陰核を擦ったのか、名前の背中が弓なりになった。


「ひゃう……!? はっ、はぁ……と、っき……やぁあ!」


「ふ、クリトリスを自ら肥大させておきながら、何を言っているんだ」


「ぁっぁっ、あっ、ん……っおねが……ひぁ、っぁ、あん……ふ、ぅ……やら、ぁっ」


「ッ……何度もこうして性交を経験していると言うのに……本当に狭いな、名前のナカは」



今にも食い千切られそうだ――そう吐息交じりにリゾットが耳元で口遊めば、ビクリと揺れる彼女の肩。

共鳴しているかのようにうねる膣肉。


ズプリ、ヌチャと彼の膝上で無意識のうちに腰を振っていた少女は、ついに絶頂の瞬間を朦朧とした意識の中で捉える。



「ん、っぁ……、はぁっ、はぁ……っ、りぞ、とさ……っぁ、ぁあ!」


「ああ、わかっている。オレもそろそろ限界だ」



骨盤あたりを掴んだ両手。

熱の塊をより深く捩じ込まれるナカ。

それに応えるかのごとく、悦びに蠢く肉襞。


切なく締め付けられたことで眉を微かにひそめつつ、男は色香漂う言葉を恋人に紡ぎ出した。



「……名前の子宮に直接注ぐからな」


「ぁっ、ぁっ、ぁっ……やん、っ……そこ、っあ……らめ……ぐちゅぐちゅしたら……っん……しきゅ、こっ、ひらいちゃ……っ」


「ッ、く」


次の瞬間、溢れるように爆ぜた焦熱が無防備な胎内に焚き付けられ――



「ひぁあ!? ぁ……りぞ、とさ、っの……どくどく、いって……ッあん、っぁ、やら……っや、ぁっぁっ、あっ……ん、ぁっ、ぁあああん!」


痺れに粟立つ背中。白い喉が天井に向かって晒されると同時に、吐息だけの世界を切り裂いた嬌声。

逞しい腕の中で、名前は波のごとく押し迫る快感にピクンと肢体を痙攣させていた。













「え? 雑誌、で?」



白いシーツの海に身を委ねる、一糸まとわぬ姿の二人。きょとんとする名前に対して、リゾットは静かに頷いた。


「ああ。≪がっつきすぎる男は嫌われる≫と読んでオレは……」


「……」


「名前?」









「――リゾットさん!」


「んぐ」



刹那、小さな手のひらによって両頬をグニッと挟まれる。


攻撃自体は痛くも痒くもないのだが、この行動は彼女が怒っている証拠だ。

突然のことに、彼が左右から圧迫を受けたまま目を白黒させていると、なぜか頬を赤く染めた少女がおずおずと唇を震わせた。



「私は……ありのままのリゾットさんが……好き、なんですからっ」


「! ありの、まま?」


「っ//////……前にリゾットさんも言ってくれたじゃないですか。≪ありのままの私がいい≫って」


「名前……」



比べ物にならないほど大きな手に、そっと自分のモノを重ね合わせる名前。

それらが離れてしまわないよう指と指とで絡みつかせた彼女は、しばらくして再び口を開く。


「た、確かに雑誌で書かれていたように捉える女性もいるかもしれませんが、≪女性全員≫がそうとは限りません。男の人もそうでしょう?」


「そう、だな。どうやらオレは、的外れなことを実行していたらしい」



ふっと緩んだ男の口元。


ベッドの上。そこで久しぶりに、彼らは面と向かって微笑み合うことができた。

自然と溢れる安堵の息。



「……よかった」


ぼそり。

リゾットに聞こえないよう想いを呟くと同時に、ふと少女は自分にさらなる≪黒歴史≫ができてしまったことを思い出す。



「(でも、またあんな風に誘ってしまうなんて……! ど、どうかっ、リゾットさんに詳細を聞かれませんように――)」


「ところで、≪ありのまま≫と言った君が今日はずいぶん積極的だったが……何か理由があるんだろう?」


「!?」


あっという間に、フラグ回収。

聞かれたくなかったのに――小さな恨み言を胸に、慌てて誤魔化そうとする名前。


だが、じとりと深い色を滲ませた視線が彼女に突き刺さり、追い込まれたのは≪言わざるをえない状況≫。



「あ、うう……実は、ですね」




ある種の窮地に立たされた少女は、ぽつりぽつりと≪その不安≫を打ち明けた。

プロシュートやメローネといったタイプとは異なるが、寡黙で心優しい恋人。

さまざまな女性が彼に思慕を抱いている可能性もあるだろう。


複雑な感情に従って視線が落ちた――その瞬間、脇腹に手が這わされたかと思えば、鷲掴みにされる丸みを帯びた白い臀部。



「っひゃう! ぁ、っあん……やら……っおし、り……触っちゃ、ぁっ、んんッ」


「まったく……君という恋人がありながら、オレがそういった場所へ出かけるはずがないだろう。……いや、誤解を招くような行動を取ってしまった結果だな。すまない」



男の発言に驚いたのか、「リゾットさんのせいじゃないです」と否定すべく頭を振るってから自分を見上げる、目尻にナミダを浮かべた名前。


やわやわと揉まれていた双丘から消える感触。どうやら解放されたようだ。

強靱な胸板へそっと額を寄せた彼女は、今度こそ胸を撫で下ろした、が。



「それにしても……飴の口移しで誘惑か。ふむ、イイな」


「なっ! 〜〜もう絶対にしませんからっ」


「ん? なぜだ。オレはその後の行動も含めて、≪するな≫とは言っていないんだぞ? 恥ずかしがり屋な君はもちろんだが、積極的な名前も可愛らしく、淫らで――」


「うう……聞こえません、聞こえません!」



慌しく耳を塞ぎ、首をふるふると動かす慎ましやかな恋人。

しかしその拒絶は、残念ながらリゾットには通用しない。むしろ膨らむ情愛を助長させるばかり。口端を微かに吊り上げた彼がその手首を取り、セクハラと言っても過言ではない言葉を少女の赤く染まった耳に囁きかけるまで、あと――










バターミルクの甘い誘惑
真ん丸のそれは、優しい風味を残して二人の心に溶けた。




〜おまけ〜



数日後、リビングにて一人パソコンをカタカタと打つ見慣れた背中に、片眉を上げたホルマジオが飄々と声をかけた。



「よ、リーダー。ここで仕事っつーことは、今も≪我慢≫は続いてんのか?」


「いや、その試みはもう中止している」


「へェ。(だと思ったぜ。大体察しは付いてるが……リーダーって極端なとこあっから、たぶん名前のこと不安にでもさせたんだろうなァ)」



脳内で組み立てられる予測(あながち間違っていない)。


彼が小さく苦笑していると、不意にリゾットの≪無≫と捉えられがちな表情が和らいだのだ。

いい意味で変わったな――口元を歪ませた男は、次に紡がれるであろう音にそっと耳を傾ける。



「ありのままがいい――その言葉に救われた」


「ハハッ、そりゃあよかったよかった! 性欲や性癖も含めて、テメー自身を認めてもらえることほど、男にとって嬉しいこたァねーよ。(ありのままなんて、名前らしいじゃねェか! クソ〜ッ、どっかに可愛い娘ちゃんいねーかな〜〜)」


「ああ、オレもそう思う。彼女があまりにも健気なことを言うんだ、あの後が≪激しく≫なるのも無理はない」


「……あ?」



聞いてはいけないことを聞いてしまった。

咄嗟に隠した動揺――アジトの紅一点への同情を胸に、慌てて話をそらそうとするホルマジオ。



「そ、そういやァ名前はどうした? 今日、全然見てねェけど」


「ん? 名前なら――」










「昨日も≪徹夜≫だったからな。ベッドですやすやと眠っているぞ」


「……」


「? なんだ、その顔は」


簡単に言えば、≪墓穴を掘る≫。


顔をこれでもかと言うほど強ばらせた彼は、どうやら危険領域へ自ら進んでしまったことを猛烈に恨みたいようだ。

一方、依然として恋人の話を続けるつもりなのか、キーボードに指を添えた状態で珍しく饒舌になっているリゾット。



「寝顔はもちろんだが、寝言もまた愛らしくて仕方がない。どうやら名前は、白い枕をメタリカに見立てているらしいんだが……ん?」



まさに昼夜逆転じゃねーか――適当に相槌を打ちつつ、内心でツッコミを入れたそのとき。


彼が連ねていた惚気の羅列がぴたりと止んだ。

赤い視線の先にはデスクトップ。首をかしげた男も身を乗り出してそちらを覗き込む。

と、そこにはこう記されていた。



「≪男子に気付いてほしい! 実は彼を誘っている女子の仕草特集≫……!?」


暗殺チームのリーダーが閲覧するのは、ありとあらゆる情報が散乱するインターネット。

カッと黒目がちの眼を見開いた男はページの信憑性を疑うことなく、記事を読み進めていく。



「ふむ……ふむ……、な!? この仕草もだったのか?」


「(やべェ。なんつーか、嫌な予感がするぜ)」



しばらくして、画面から文字が消えた。

読み終えたらしい。


ソファ上で頭を垂れ、後悔を帯びたリゾットの面持ち。


彼がもし漫画の登場人物ならば(実際そうだが)、ズーンという効果音が描かれていそうである。



「オレは、一体何をしていたんだ……。名前はいつでも、サインを送ってくれていたと言うのに」


フォローするべきか、せざるべきか。

しかし、後頭部をガシガシと掻いた彼が口を開くより先に、≪居ても立ってもいられない≫と身体で表現するかのようにリゾットは勢いよく立ち上がってしまった。


当然、ホルマジオはギョッと瞠目し――



「ちょ、リーダー! 野郎がそうであるように、女も一概には言えないって名前から教えられたんだろうがッ! 女心を知ろうとするのはいい傾向だと思うが、いちいち影響されすぎんのもどうかと……って! もういねェのかよ!」



忽然と消えた人影。扉へ向かって手を伸ばしたまま硬直する坊主頭の男。

遠くから聞こえたドアが開き、閉まる音に言うまでもなく頬を引きつらせていると、若者たちが頭上にはてなマークを浮かべながらリビングに足を踏み入れてきた。



「ホルマジオ、何してるんすか?」


「あれ? さっきまでリーダーも居たように見えたんだけど……気のせいかな」


「ケッ、胡散臭ェ格好しやがって。新種のヨガでも流行ってんのかァアアアア?」



上からペッシ、イルーゾォ、ギアッチョ。何も知らずやってきた彼らに、暴走機関車を阻めなかった虚しさを伝えずして、誰に伝える。

むしろ現状を共有させること以外に、自分が心穏やかになる道はあるだろうか。


――いや、ない。


「お前ら……。いやァ、それがかくかくじかじか」





一分後。



「……リーダーってさ、仕事だとあんなに冷徹なのに。なんだろう……恋愛……というか名前のことになると、アラサーであることを疑いたくなるほど落ち着きがないよな」


どこまでも遠い目をしたイルーゾォが淡々と放った一言。

刹那、その場にいた全員が仰々しく、そして憐憫を込めて頷くのだった。





終わり








すみません、大変長らくお待たせいたしました!
リーダーとMっぽく積極的な連載ヒロインでした。
リクエストありがとうございました!
二人とも≪ああ、勘違い≫と言いますか……一瞬、連載ヒロインが攻めているのではと錯覚もしましたが、SとMは表裏一体ということでどうかお許しくださいませ。


感想&手直しのご希望がございましたら、お願いいたします!
Grazie mille!!
polka



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