センシュアルな試み01
※連載「Uno croce nera...」の番外編
※甘(微ギャグ?)裏
※ラブホテル
※ローションなど使用、注意!





きっかけは、



「リゾットさんが車を運転してるところ、見てみたいなあ」


と、車が走るCMを見つめながら名前が放った、一言だった。

刹那、ピシャーンと心の中に雷が落ち、黒目がちの瞳をこれでもかと言うほど瞠る男、リゾット。


可愛い彼女から口遊まれたデートの誘い、彼がそれをまんまと聞き逃すはずがない。



「……よし、行こう」


「え……? そ、そんな……いきなりいいんですか? お仕事もあるんじゃ――」


「今日明日と仕事はないんだ。デスクワークも、昨日のうちに済ませてある」



なんという幸運だろう。

昨日、行為を一回だけに留めて、泣く泣く仕事に明け暮れたことはある――そう脳内で昨夜の少女のあられもない乱れっぷりを振り返りながら、にやにやと少しばかり男は顔を綻ばせる。


一度と言えどもかなり濃厚だった行為を≪我慢≫と認めていいのかは別として、そのおかげで今日は存分に触れ合えるのだ。


しかし、≪自分が無理を強いているのでは≫と心配なのか、不安げにこちらを見つめる紅い双眸を察知したリゾットは、名前の頭へそっと大きな手のひらを寄せた。



「オレも、名前とどこかへ出かけたいと考えていた。……少し遠い海辺まで行ってみないか」


「っ……はい!」



それから、「車の鍵を借りてくる」と彼がおもむろに腰を上げた一方で、準備をしようと部屋へ向かった少女。

姿見の前に立つ彼女の心は、幸福感ゆえに自然と高揚していく。



「(嬉しい、な……で、デートだと思うと、すごく恥ずかしいけど……っ)」



そして、数少ない私服に着替えた名前は、大切なものを仕舞う小さな棚からふと直方体の箱を手に取った。


「えへへ……/////」


そう、その中に佇むのは恋人からの贈り物――ブーゲンビリアの髪飾り。

鏡越しに浮かぶ、カラスの濡れ羽色をした髪でひらひらと揺れる薄紫色のガクに、彼女は小さな微笑みを宿してから部屋を飛び出した。


後にするアジト。太陽が地平線の向こうへ消えた黄昏の空の下には、車の傍に立った男の逞しい背中が。



「リゾットさん……! ごめんなさい、お待たせしましたっ」


「ふ、謝らなくていい。オレも先程鍵を借り終え……、!」



刹那、こちらを振り向いたと同時に言葉は途切れ、徐々に見開かれていくリゾットの赤い眼。

彼の視界の先にあるモノ。それを悟り照れ臭くなった少女は、揺蕩う視線をそっと落とす。



「名前……」


「えと、せっかくなので……付けちゃいました」


「ッ(ああ……そう頬を赤らめるんじゃあない。やはり名前は無防備すぎるんだ……)」


「……リゾットさん?」



どうしたのだろうか。

不思議に思った名前が、羞恥を押し殺して男の顔を覗き込んだその瞬間、安堵とぬくもりをもたらす手のひらに左頬が優しく包まれた。


跳ねる鼓動に促されおずおずとリゾットを見上げれば、口元に滲むのは柔らかな微笑。



「やはりその髪飾りを選んで正解だった。可愛らしすぎる」


「ふふ、そうですよね。ブーゲンビリア、とても可愛いです!」


「……(名前のことを言ったんだが……しかし照れる名前もなんて愛らしいんだ)」



勘違いはあるものの、甘やかなムードに覆われる恋人たち。

彼らはどれほど蜜月を重ねても、まるで≪付き合い始めたばかり≫のような初々しい雰囲気を醸し出している。



「そろそろ、行くか」


「はいっ」


大きく頷いた彼女ははにかみつつ、彼が開けてくれたドアの奥へと乗り込んだ。







夜の海辺デートを満喫した二人。

ところが、問題はその帰り道にあった。



「なかなか、進みませんね……」


イタリアの高速道路――アウストラーダ。

時間的に混雑しているのか、車が少しずつしか前に進まない。


少女の唇から溢れる苦笑。

そんな、おそらく眉尻を下げているであろう右隣の恋人を、男はハンドルを手に一瞥する。



「そうだな。ずいぶんここに長居してしまっているが……名前、疲れていないか?」


「いえっ、私は大丈夫です! でもリゾットさんは運転でお疲れなのに……ごめんなさい。やっぱり私が無理を言ってしまったから……」


「こら。名前と出かけることができて、オレは良かったと思っているんだ……君は何も悪くない。自分を責めるな」



しょぼん、と視界の隅で垂れ下がった頭をそっと撫でるリゾット。

そのメッセージに思うところがあったのだろう。いたたまれなさは残るが、名前が顔を上げたのをフロントミラー越しに確かめてから、彼は改めて口を開いた。



「ふむ、アジトに帰ることは難しそうだな……ちょうど区切りがある。あそこを降りて、ホテルでも探そうと思うんだが」


紡がれたのは、考えもしなかった提案。

いいのだろうか――押し寄せてくるのはあらゆる面に対する微かな不安。


だが彼女はそこで、≪明日も休みだ≫という男の言葉を思い出し、おずおずと了承の意を示すために首を縦に振った。



「(んー、ホテル……)」


それからというもの、少女は右の窓越しにある景色をきょろきょろと見渡している。

車を徐行させながらリゾットが左側、名前が右側を担当しているのだ。


たとえお互いに発見したとしても、かなり高級のモノばかりで二人が諦めかけた――




次の瞬間。



「! 名前、左側にホテルがある。値段的にもかなり納得が行く……ここに泊まろう」


「本当ですか!? よかった……そうですね。そこにしま――えっ」



振り返った彼女の視界を塞いだのはピンクや青のネオン。看板に刻まれたホテル名らしき文字が、毒々しく光っている。

もしかしてここは――脳内を掠めたある予感に、少女は焦燥しきった様子で左隣にいる彼のシャツの裾を掴み、くいくいと小さく引き寄せた。



「あの、リゾットさん。やっぱりここは……やめませんか? 私、車の中でも大丈夫なので……!」


桜色の唇からこぼれた、必死の叫び。


しかしどうしたことだろう。

眼前の男は大げさと言っていいほど驚いているではないか。



「名前、いいのか?」


「? は、はい……今は暖房も冷房もいらない季節なので、エンジンを止めれば経済的にもよろしいかと――」


「車で身体を重ねるとなると、かなり揺れて外に行為が露呈する可能性もあるが……いいんだな?」


「へ!?」



刹那、名前の顔は宵闇の中でもわかるほど、見る見るうちに紅潮していく。

話し方はしどろもどろとなり、混乱でぐるぐると回り始めた目。



「え、あっ、わ、私……そのことは全然考えてなくて……えとっ」


「……目視で人気のない駐車場も探してみたが、この近辺にはなさそうだ。ここを選ぶほかないだろう」


「っ! でもここは……「入るぞ」り、リゾットさん……!」



ハンドルを切るリゾット。いつもより、少なからず強引気味だ。


とは言え彼女もわかっているのだ。アジトの財政がどれほど厳しくとも、こうして無茶をする彼に潜むのは――自分への気遣い。

そんな恋人の温かな優しさをわかっているからこそ、少女はどうしても言い出せなかった。






今から自分たちが入らんとしているここは、≪ラブホテル≫なのだと。






「すまない、二人なんだが」


「(日本と比べて全然見かけないから安心してたけど……イタリアにも、あるにはあるんだ……っ//////)」



フロントに店員が佇むタイプだったのか、平然と男は会話を始める。

何度行っても慣れない行為に対する大きな緊張と、≪どんなところなんだろう≫といった小さな興味で、顔に帯びた熱を自覚しつつ悶々と悩む名前。


すると、声をかける代わりにふわりと肩へ手が添えられた。



「名前」


考え事に夢中だったらしい。

そそくさと顔を上げた彼女は胸に蔓延る羞恥をなんとか抑え付けて、微笑んだ。



「どうしました?」


「見てくれ。ここは、部屋にもさまざまなタイプがあるらしくてな……ん? 牢獄風や電車の中をイメージしたものがあるぞ。構成の意図は正直わからないが、明かりが付いているということは空いているのか……ふむ」


「!? え、えっと……あ! リゾットさん、このシンプルなお部屋にしましょう?」



まさか≪天然≫がここでも発揮されるとは。だが、少女が再びアジトの経済を配慮しているのだと勘違いしたリゾットは、難色を示す。



「む……それは一番安い部屋じゃあないか。名前、そう遠慮せずとも――」


「え、遠慮じゃありませんから……! あの、この部屋でお願いしますっ」



数分後、彼らはこのホテルでもっともシンプルな部屋に来ていた。

部屋の真ん中に置かれたキングサイズのベッドに、大型テレビなどなど。


そういえば元々一つで眠るつもりだが、ベッドの種類や数を尋ねられなかった――室内を見回しながら、首をかしげた男がぽつりと呟く。



「しかし先程の個性的な部屋……ここはどういった趣旨のホテルなんだろうか」


ドキリ

もっとも問われたくなかった質問に、自ずと震える肩。


だが――伝えるなら、今しかない。


うん、と意を決したのか頷いた名前は、少し前に立つリゾットの服の袖を白くほっそりとした指先で控えめに掴んだ。



「? 名前?」


「〜〜っここは……その、≪ラブホテル≫というところで……え、えっちをすることに特化したホテルなんです……!」


「!?」


「っ、その顔……やっぱり、リゾットさんは知らずにここを選ばれたんですね」



赤面した彼女の告白に、彼は驚愕で元来無に近い表情をさらに硬直させた。

しかし同時に、男の胸中で合点がいったのも事実だ。


「なるほど。ジャッポーネに任務として何度か行ったあいつらから話には聞いていたが、そうだったのか……まあどちらにせよ、事を行うつもりではいたんだ。……一石二鳥と考えよう」


「! そ、そうかもしれませんけど……っもう!」



結局、これでもかと言うほど羞恥に心を掻き回されているのは自分の方らしい。


「うう……」



少なからず驚いていたものの、すぐさまこの環境を受け入れたリゾットは≪飲み物はあるのだろうか≫と探索をしている。


一方、どこまでも初心な少女は気恥ずかしくてたまらない。

視界を過っては消える天井やベッド。しばらく視線をあらぬ方へ移していた名前は、≪そうだ≫とある考えを胸に音を紡ぎ出した。



「リゾットさん。私、先に……シャワーを浴びてきても、いいですか?」


「!?(いつもと状況が異なるせいだろうか。さらに名前の放った言葉や仕草が意味深に聞こえてしまうぞ……)あ、ああ、そうだな。風呂もジャッポーネ式だと聞いた……ゆっくりするといい」


「っ/////」



こくん、と首を小さく縦に振り、そそくさと小走りで向かう先は浴室。

とりあえずベッドルームに広がる緊張から抜け出すことはできた彼女だったが、その数秒後――今度は眼前の光景に悲鳴を上げることとなる。



「ひ……っ」


あくまで日本の形式に倣っているのか、トイレと風呂場が別なのはいい。

だがラブホテルによくあると知られるガラス張りの浴室――ここまで再現しなくてもいいだろう。


申し訳程度に湯気は立ち上れども、これでは彼に晒け出しているのも同然だ。



「(そんな……っ丸見えになっちゃう……////)」



とは言え、入らないという選択もない。少女は恋人がこちらに来ないことを願いつつ、自分を包んでいた服をカゴに畳んで収納させた。

そして、適温が維持された浴室に広がる水音。



「はふ、気持ちいい……あ。泡風呂、できるんだ……」


髪を洗い終え、身体を丁寧かつ迅速に洗っていたそのとき、浴槽に設置された機械と文字が映り込みキラキラと輝く深紅の瞳。


普段はシャワーで済ませているが、なんだかんだ言って日本人。

たまには湯に浸かりたい気分のときもある。しかも滅多に体験できない泡風呂となればなおさらだ。


ガラスの壁という羞恥に勝ってしまった興味。



「少しだけなら、いいかな……?」



それから、しっとりと濡れた黒髪をクリップで一つに纏め上げた名前は、意気込んだ様子でその説明書を読み解いていく。

動きに合わせてふるんふるんと揺れる豊乳。


そのことすら気に留めていないのか、集中する彼女の心中に生まれゆくのは≪期待≫。



「わあ!」


一分後。

目の前には、浴槽でムクムクと膨らむ白い泡。


まさかこうした形で試すことができるなんて――少女はただただ喜心を抱きながら、ロマンチックと言える景色をじっと見つめていた。





次の瞬間。



「泡風呂か。初めて目にするが……こうも幻想的になるんだな」


「はい! 私もテレビでしか見たことがないので、すごくドキドキして――え?」


ギギギギ。まるで油を注してもらっていないロボットのように、首を回した名前の目線は右隣へ。

そこには、いるはずのない男の姿が。付け加えれば、平然と裸体を晒すリゾットに、ギョッとした彼女はたわわな乳房と股座を腕で必死に隠す。



「り、りりりリゾットさん!? どうしてこちらに……!」


「いつも名前が風呂から上がる時間を過ぎていたからな……心配になったんだ」


「あっ、う……お待たせしてごめんなさい」


「ふ……気にするな、君が無事ならそれでいい。だが本音を言うならば、ガラス越しに浮かんだ名前の官能的な姿に抑制が効かなくなった」



淡々と、真顔で真実を打ち明ける彼に、一瞬だけきょとんとする少女。

だが、ようやくその言葉を脳髄に行き届かせたのだろう。

見られてたんだ――今更ではあるが、はしゃいでいた自分を思い出し、自然と俯く顔。


一方で、男はどこかへ案内するように名前の小さな手を右手で優しく取った。



「? あの、何を……」


「ん? 名前は今から浴槽に浸かるんだろう? これがジャッポーネ式だな、かなり興味深い」


「そう、ですけど……えっと、リゾットさん? 私……できれば一人で入りた――ひゃんっ」



その瞬間、あっという間に身体を抱き上げられ、バスタブに足を踏み入れたかと思えば、背中を向けた状態で彼女はリゾットの膝の上に乗せられてしまう。

全身を包み込む、泡たち。

だが、少女は今、正直それどころではない。



「//////」


「名前?」



加速する心臓の音。背後から自分を強く抱きしめ、囁きかけてくる彼に対し反応を返す余裕もなく――



かぷり。気付いたときにはすでに遅かった。食まれる、紅潮した耳たぶ。



「ひぁっ!? ふ、っぁ……ん、りぞ、とさん……やめてくださ、っ」


「ふむ……それは聞き入れられないな」


「ぁっ、はぁ……だめ……ッ、囁いちゃ、あんっ!」



華奢な肩に顎を置き、存分に恋人の赤くなった耳を舐る男。

荒い息を滲ませたリゾットの舌先が耳孔を刺激するたびに、ゾクゾクと快感が背筋を駆け上がってくる。


もたらされる甘やかな痺れにひたすら身体を捩っていると、不意に彼の大きな手のひらが胸部を捉えた。


そして、泡を白い陶器のような膨らみへ塗りたくるように、五指がバラバラと動かされ始めたのだ。



「! やだ、っ……りぞっ、とさ……はっ、ぁ……ひゃぁあ!」


肉感を確かめ、示すかのごとく男の手の中で形を変える美乳。


しばらくの間その柔らかさを味わっていたリゾットは、すでにぷっくらと腫れていた乳頭を捏ね回していく。

突然の新たな快楽に紅い瞳を揺らした名前の鼓膜を、ひどく震わせる低い声。



「嫌なのか? 乳首をこんなにも赤くしていると言うのに……」


「やっ、ぁ……んん、っぁ、おねが……ふ、ぅ……!」


「……可愛いな、快感を享受しながらいやいやと首を振って。だが白い泡まみれの名前を見ていると……正直、オレも妙な気分になる」


「っ、妙だなんて、ぁっ……そ、な…………、!」



刹那、彼女のしなやかな双丘が捉えた、男性特有の熱さと硬さ。

その昂ぶりの感覚を子宮は鮮明に覚えているのか、言わずもがなきゅんと疼いてしまう。


「名前……」


「ひぁっ、や、ぁあん////」


指と指の間に挟まれ、勃つ先端をさらに際立たせようとグニグニと攻め立てられた。

蒸気で湿った唇からこぼれ出る婀娜やかな吐息。


自然と彼の太腿へ擦りつけてしまう腰。このままでは浴室に長居することになるだろう。

姿を消そうとする理性を叱咤した少女は性感に霞む意識の中で、細腕を前へ伸ばしなんとか壁際のあるボタンを押した。すると――



「ぐッ!?」


次の瞬間、バスタブの底から湧き上がる何か。ブクブクと別のところから泡立つそれに、男は自分の腕から可愛い恋人が脱兎のごとく抜け出していることも察知できぬまま、黒目がちの眼を大きく見開いていた。



「これは一体……」


「じゃ、ジャグジーというものですよ? リラックス効果もあると思うので……ゆっくりしてくださいね? 私はもう失礼します……!」


「ッ待て、名前。オレは君と続きを――」


話を最後まで聞くより先に、そそくさとシャワーを浴びて風呂場を立ち去る名前。

その蠱惑的な後ろ姿を凝視していたリゾットは、彼女を追うか少々逡巡していたが、≪せっかくこうしたホテルに来ているんだ。がっついてはいけない≫と大人しく居残ることにしたようだ。








「うう……リゾットさんの、ばかっ」


一方、相変わらず赤面状態の少女は、洗面所にて精一杯の悪態をついている。


胸の奥で刻まれ続ける速いテンポ。ねっとりと肌をまさぐられたことで、鼓動がなかなか落ち着いてくれない。

体内にこもった熱を冷ますようにパフパフと肌の水気をタオルで拭った名前は、着替えようとカゴを手に取ってあることに気が付いた。



「あれ?」


「……どうした? 名前」



壁越しに届く聞き慣れた声。裸体の男女を隔てる、今や白く煙ったガラスにホッとしつつ、彼女はおずおずと浴室の彼に呼びかける。



「っリゾットさん! あの、私の服や下着が見当たらなくて……」


「……それらなら≪すべて洗濯した≫ぞ」


「え」


ぴたり。停止する思考。

ようやくそれが再活動を始めたときには、新たな問題が浮上していた。



「(ええっと、私は一体何を着たら……)」


「そこにある洗濯機へ放り込んだと同時に、寝巻きも置いたはずだが」


「! そうだったんですね……ありがとうございます。あ、もしかしてこれです――」


「見つかったか?」


男の助言に沿って視線をちらちらと彷徨わせていた少女は、パジャマになるであろう布の端を発見し――言葉を途切れさせる。


それもそのはず。

目の前に現れたのはバスローブ。しかもここでは当然だがイタリア人が基準のため、少々大きめ。


名前はリゾットと出逢って何度、ブカブカ攻めに遭遇しているのだろう。



「……」


せめて服だけでも残していてくれたら――と、親切心(彼女はあくまでこれも気遣いだと信じている)で洗濯を始めてくれた彼にはさすがに言えない。

ゴオンゴオンと自分の下着を道連れに回り続ける家電。

美しい深紅の双眸は、羞恥にひどく潤んでいた。








十数分後。静寂を貫くワンルームには、文字通りバスローブしか纏っていない少女が。

肩からずり落ちてしまわぬよう、襟元を必死に両手で手繰り寄せている姿がまたなんとも形容しがたい。



「〜〜っ(どうしよう、すごく恥ずかしい……)」


後ろで一つに結った漆のような髪を左右に揺蕩わせ、名前は一人ベッドに座るのも気が引けたのか、ただただ室内を彷徨く。

そして、気恥ずかしさゆえに下唇を噛みながら恋人を待った。


時折己の寝巻きを恨めしげに見つめる彼女の頬は、ひどく赤らんでいる。



「……(ちら)」



しかしながら、たとえ歩き回ってもなかなか落ち着かない心。このホテルでの自然の成り行きを知識として理解しているために、そわそわしてしまうらしい。しばらくして少女は、いくつもの小さな引き出しがある棚にちょこちょこと近付いた。



「(何か、入ってるのかな……?)」


関心と緊張に、息をのむ。

一瞬の間。それを裂くように、名前は数ある引き出しの中から一つの取っ手をそっと引いて――



「ひっ」



バタンッ

垣間見えたグロテスクな代物たちに、堪らず大きな音を立てて戸を戻した。


映り込んだのは、いわゆる≪大人の玩具≫。

まあ、そういったホテルなだけはある。


「(ど、どうかリゾットさんが気付きませんように……)」



棚の捜索は諦め、大型テレビの前へと移った彼女の足。


また、ベッドの頭上にコンドームがしっかり補充されているところもこの宿泊施設だからこそなのだろう。

いまだ脳内に居座るおもちゃたちの残像を掻き消しながら、少女はリモコンを握った。



「ふう……て、テレビでも見て落ち着かなきゃ」


そろそろリゾットも戻ってくるに違いない。

冷静にならなくては――また熱くなってしまった顔へ風を送るように左手で扇いだまま、名前は電源ボタンへ置いた親指に力を入れた、が。



次の瞬間、大画面に出現したのは絡み合う男女の裸体。

さらに、それが視界を埋め尽くすや否や、初心な彼女の耳には背中を弓なりにさせた女性の淫らな嬌声が劈き――



「っきゃあ!?」



当然、すぐさま電源を消し、呼吸を整える。

とは言え、これでもかと言うほど轟いた悲鳴を、浴室にいる彼が聞きつけないはずもなかった。



ドタドタドタ



「名前ッ! 何があった!?」


「! リゾットさん……っあの……これは、えっと……」



今までのことを知られまいと、挙動不審になる少女。尚且つ、風呂上がりということもあり、男をそう簡単に直視することができない。≪色っぽすぎる≫のだ。

一方、不思議そうに首をかしげたリゾットは、視線を落とす名前が掴んだリモコンに、ある予測を立てる。



「テレビを見ようとしたのか?」


「っ、……」


「名前?」


「……、実は――」



かくかくじかじか。

そもそも、深い色を湛えてこちらをじっと見つめる彼に隠し通すこと自体が、難しかったのかもしれない。


大まかに事実を打ち明けた彼女はぺこりと頭を下げた。

その顔は、当然紅潮している。



「と、いうことだったんです。ごめんなさい、お騒がせして……//////」


「なるほど、そういうことだったんだな。……つけてみるか」


「!?」



刹那、己の耳を疑った少女だったが、明かりを帯びたテレビに思わず自身の視界と聴覚を塞ぐため男の逞しい腹部へ抱きついてしまう。

そんな細い背中を、安堵をもたらすかのごとくゆっくり摩りつつ、リゾットは自分で蒔いた種を回収するためリモコンでテレビの音量を下げた。


そして、意味深な笑みと共に一言。



「ふ……名前は本当に照れ屋だな」


「あ、う、その…………だって……っ/////」


「このビデオ以上に恥ずかしくいやらしいことを、オレたちはいつもシているだろう?」


「ッ! 〜〜っリゾットさんの、いじわる!」



非難の声を上げ、ぽかぽかと眼前の筋肉を叩く名前。

じとりとした彼女の目尻に浮かんだナミダ。

一つ一つが、可愛くて仕方がないのだ。


当たり前となった≪日常≫。胸に広がっていく幸せ。にやにやと彼の口元が緩む。


「意地悪、か。確かに否定はできない……名前と顔を合わせると、どうしても加虐的になってしまうんだ」


「そ、そんな……私はどうすれば――っん」



物言いたげに、少女がおずおずと顔を上げた瞬間。

少しばかり乾燥した唇が、豊潤なそれを塞いだ。


響き渡る水音。恋人の艶やかな後頭部へそっと手を添えた男は、二人の隙間を縫うように無防備な口内へ舌を忍ばせた。



「そのままでいい。ありのままの名前が、可愛らしくてたまらない」


「はぁ、っはぁ……りぞ、とさっ、ぁ……ンっ」


「は、ッ……名前」



歯列、上顎、舌下。その粘膜を先で舐りながら、リゾットは二つの額を重ねる。

かち合わせた赤と紅。

伝えたいことは、今ある言葉だけでは伝えきれない想いの丈。


世の中に散らばる単語はたくさんある。たとえそうだとしても最終的に――



「……名前、好きだ」


彼はひどくシンプルで、ひどく素直な単語を決して離したくない名前に紡ぎ出すのだ。

そうした男の真摯なそれに、口付けを受け入れつつ彼女は幸せを滲ませた。



「っ! ぁっ、はぁ……ン、わた、しも……すきです……ぁ……ふっ、ん!」


「ん」



口腔を貪れば貪るほど、無意識に揺蕩う少女の細い腰。

右手を静かに背中へ滑らせたリゾットは、それを優しく抱き寄せる。


さらに、片手間に持っていたリモコンでテレビを消してから、きょとんとする名前をベッドの脇に座らせた。



「ぁ……っん……はぁ、はぁ、はっ……りぞ、とさん……?」


「ふ……名前。こんなにも腰をビクビクと揺らして……キスだけで感じてしまったのか?」


「っ、……それは……ん、ぁっ、はぁっ……ぁ、りぞっとさんが……恥ずかしい、き、キスする……から……ですっ」


「!」


刹那、彼の目がこれでもかと言うほど見開かれる。

そして次第に、表情には苦笑が入り交じった。



「まったく……」


「んんっ!?」



彼女が不満げに尖らせていた唇。

桜色のそれを食むように再び奪った男。


クラリ。窒息してしまいそうになるほど、食い尽くされる自分のすべて。


限界を示すため、しっかりと密着して離さないリゾットの胸部に少女は手を置いて――あることに気付く。



「はっ、はぁ……、あ……リゾットさんの心臓、ドキドキして……」


「ん? 今日だけのことじゃあないぞ? 名前を前にすると、いつもここは高鳴っているんだ」


「//////」



先程までの深いキスも相まって、頬を赤らめる名前。

その熱を帯びた頬に手のひらを添えた彼は、静かに一撫でしてから、立ち上がった。


一方、しばらくして部屋の奥から戻ってきた男が持つ≪モノ≫に彼女は首を捻る。


「?」



わけもわからぬまま、ベッドの上へ敷かれたマット。

次の瞬間、リゾットは自分を見上げる少女をその上へと押し倒した。




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