KARAOKEと仕事人
※暗チが日本のカラオケに行ったようです=時代考証なし(そして基本邦楽)
※イメージ崩壊、あり……?
※同僚ヒロイン
※タイトルそのものは出していませんが、いくつか歌詞が出ています








「そうだ。みんなで≪KARAOKE≫に行こう」



それは、本当になんの予兆もなく放たれた、メローネの言葉だった。

静まり返るアジトのリビング。


しばらくして男たちはそれぞれの行動に移るため動き出したが、彼の突拍子もない提案には≪また始まった≫と一切取り合おうとしない。


当然ながら、その華麗なるスルーに非難の意を込めた叫び声が上がる。



「ちょっとちょっと! なんなのさ、この無反応っぷりは! 何? 何かのプレイ? ならディ・モールト良しッ!」


「……め、メローネ。たぶんそういうプレイじゃ――んぐっ」


「名前。オメーのためだ、あの変態に話しかけようとすんな。どうせすぐ別の話題に切り替わる」



ある種憐れな同僚にチームの紅一点、名前が声をかけようとした。

ところが、メローネの餌食にされることは目に見えていたため、近寄ろうとした彼女の口元をすかさず覆うプロシュート。


一方、今のは聞き捨てならないと、≪カラオケ≫を話題にした男は肩を竦めつつ首を横に振る。



「変わらない! オレ、本気で提案してるんだからさあ……プレイじゃないならそう言ってくれ! リーダー! あんたなら聞いてくれるよな? なッ?」


「……はあ。わかった、お前の言う通りその詳細だけは聞こう。≪カラオケ≫がなんだって?」



口から漏れるため息。

それを惜しげもなく吐き出したリゾットが、手を動かしたまま耳を傾ければペラペラと言葉を連ねていくメローネ。



「んふふ、カラオケはアレだよアレ。ジャッポーネで有名なカラオケボックスのことだぜ!」


「いや、いくら流行のモノに疎いリーダーだってカラオケのことは知ってるだろ。リーダーが言いたいのは、≪なんで突然カラオケに行きたいなんて言い出したんだ≫ってことじゃねえの?」


「え、そんなの思いつきに決まってるじゃあないか。近くにできたらしいから、なんとなく行ってみようと思って。イルーゾォは歌とか好きだよね?」


「! う……歌はまあ、嫌いじゃねえ……けど」



まさか自分に回ってくるとは思わなかったのだろう――突然の質問にたじろいだイルーゾォは自然と頷いてしまう。


その瞬間。

まるで計画通り、と言いたげに彼は翡翠の双眸を細めた。



「好きなら決まりだな! 今からみんなでカラオケだ……ホルマジオも行くだろ!?」


「あー? おいおい、何歌ェっつーんだよ……ま、面白そうだしいいぜ」



一人味方を付ければ後は早い。

反論する間を与えることなく次の一人に視線を移すと、今にも逃げようとする猫を捕まえたホルマジオが、性格が元々楽観的なことも関係するのか口癖と共に頷く。



「ったく、いちいち唐突すぎんだよ……まあ、たまには悪かねえな。賛成だ」


「オレも行きやす!」



そして、イベント事にはとことん力を入れる兄貴分と、そんな彼についていく弟分の同意。



「ベネ! みんなノリが良くて助かるよ……というわけで、もちろんギアッチョも行くよなー?」


「はア? チッ……ンなモン、行くわけ――」


「まあ、全員強制参加だけどね」



≪強制≫という言葉。

その単語に、見る見るうちに引きつっていくギアッチョの頬。


彼が言いたいこと、それはただ一つ。



「テメー……強制参加ならよォオ――ッ! 全員に≪行ける、行けない≫って聞いてる意味ねえだろうが、ボケがッ! フザケんじゃねーぞ! オイ!」



室内に響き渡る怒声。

しかし結局行くつもりではあるらしい。≪ケッ≫と言いながらも男が外出の準備を始める最中、今度は名前がおずおずと口を開いた。



「あの、私はできれば留守番がい――」


「ダーメ! さっき言ったでしょ? ≪強制参加≫だよ、名前」



――そ、そんな……!

刹那、≪ガーン≫と効果音が付きそうなほど、肩を落とした彼女の表情に憂いが滲む。


それもそのはず。少女は極度の恥ずかしがり屋だった。歌うことに戸惑いは特にないが、人前となると話は別だ。


どうしよう――参加せざるを得ない状況に一人狼狽えていると、ふと目の前に鍵を手にしたリゾットが。



「盛り上がるのは構わないが出るなら早く出ろ。戸締りができないだろう」


「ハハッ! 案外ノリノリだな、リーダー!」


「(リーダーも行くんだ。聞いてみたいな、歌声……っうう、でも恥ずかしいし)」


暗殺チームに加入して以来、憧れの存在である彼が歌う――その興味と襲い来る羞恥の波。


複雑に入り交じった二つの感情にしばらく視線を彷徨わせていた名前は、まさに男の鶴の一声でわらわらとアジトを出て行く男集団の背を一瞥してから、玄関へ向かった。

目的はもちろん――



「……リーダー」


「ん? どうした、名前」


「えっと……あのね。私、やっぱりここに残――」








「おーっと、残らせないよ〜?」


「! メローネ……」


「ほらほら早く行こうぜ!」


「えっ、ちょっと待って! 引っ張っちゃ……っあわわわわ!」


するりと肩に腕を回され、彼女は有無を言わさず歩かされていく。

もたらされた静寂。その場には、アジトの鍵を閉めつつ首をかしげるリゾットだけが残されたらしい。









十数分後。彼らはカラオケルーム特有の異様な雰囲気に身を投じていた。



「(結局来ちゃった……)」


はあ、と誰にも気付かれないよう少女が小さく息をこぼす。

とは言え、同僚の切実な想いを潜めたそれが、周りの耳に届くことはなかっただろう。


なぜならリーダーである彼が部屋を出て行った――すなわち目を離した途端、仲間はタバコを吸い始めたり、マラカスやタンバリンを陽気に鳴らし始めたりと、とことん我が道を突っ切っていたのだから。

またこれも当然であるが、再び扉が開くやいなや男から飛んだ≪喝≫。



「……お前ら、来て早々騒ぐんじゃあない! それと順番は、この割り箸で決めるぞ」



その後、≪みんなどんな曲歌うんだろう≫と戦々恐々としていた名前の脳髄に舞い込んできたのは、想像以上に動揺も恐怖心をももたらさない仲間たちの歌。


どうやら様子見の意味もあるのか、最初の一曲は皆≪スタンド≫の名前と同じアーティストやアルバムの曲だったのである。

ちなみに、名前はタイミングよく手洗いに抜け出したことで、一周目は回避していた。



「(やっぱりスタンド愛が溢れてるなあ、みんな。結構かっこいいし……このまま終わってくれたらいいんだけど)」



常に騒動を呼び、呼ばれ――もはや非日常に近い日常を過ごしている彼ら。

にしては、本当に珍しいこの一瞬。



普段荒んだ状況ばかりを経験している彼女は、今自分を包む雰囲気に安堵さえ感じていた。


そう、一周目だけは。










ことの発端は二周目のトップバッター、メローネにある。

彼が次に選んだ曲というのが――






「――こ・づ・く・り……しまっ『ホワイト・アルバム!』ゲフォアッ!?」


「寒ッ! この変態を氷漬けにするのは構わないけど、限度を考えろよ、ギアッチョ!」



ワンフレーズを歌い終えることもなく、一瞬で制裁を受けたメローネ。

だが、寒いのは許可しない――と肩を抱きしめながら訴えるイルーゾォに、チッと舌打ちをしたギアッチョは渋々といった様子でスタンドを解除した。


もちろん、低温の世界から舞い戻った彼にはリゾットの鋭い眼光が突き刺す。



「メローネ、室温のためにも少しは自重しろ。そして名前に照準を定めながら歌うな」


「えー!? 名前と子作り……それがオレの切実な願いなんだよ! まあ、歌詞的に言うなら? オレが捧げるんじゃなくて、むしろ名前に操を捧げてほしryブベネッ」


「ハン! 黙ってろ、変態。オメーら、こいつのことは放っておいて次行け! 次!」



プロシュートの長い脚により、壁際まで吹っ飛ぶ男。

それからと言うもの、危険を考慮してか、カラオケルーム内でメローネが少女の隣に座らせてもらうことはなかったらしい。









二周目、ホルマジオ



「――Fun! Fun! We hit the step step! 同じ風の中、We know We love Oh!!」


「(な、なんだろう……なぜかしっくり来る)」



次にかかったのは、歌とダンスで魅せるアーティストの曲。その曲調に、周りもテンションが上がってきたようだ。中には、腕をくるくると振りつつ身体を回転させる有名なモーションを取る男たちさえ出てきた。

その隅で、名前はオレンジジュースをちびちびと飲みながら、この≪なぜか一致する≫感覚について考えていたのは言うまでもない。









二周目、イルーゾォ



「――Your love forever 瞳をとじて、君を描ーくよ それだけで、い〜い〜」


「ベネ! オレも愛を叫びたくなってきた! 名前! あんたの一生を、オレにペルファボ――「ちょっと! いいとこなんだから黙ってろよ! メローネを許可するッ!」うわ!?」


「!(い、一瞬で鏡に閉じ込めちゃった……)」


「おいおい。ずいぶんご立腹じゃねェか……ありゃァ、ハモリでもなんでも、歌ってるところを邪魔されるとキレるタイプだな」



熱がこもった彼の歌に促されたのだろう。

部屋の中心で勢いよく愛を叫ぼうとしたが、今も歌う男の怒りに満ちた一声であっという間に鏡へ引き込まれたメローネ。


呆然とする彼女の鼓膜を、ホルマジオの苦笑交じりの声が震わせた。









二周目、プロシュート



「――上野発の夜行列車 おりた時からァ〜 青森駅は、雪の中〜」


「(プロシュート、すごくノリノリ。演歌というだけあって小節もしっかりきかせてあるし……さすがハイスペック)」



まさに完璧主義者と呼ぶにふさわしい歌声。

紡がれていく力強く言葉に自然と心打たれる。




一方。



「――そばかす、なんて 気にしないわ」


鮮明に緊張を漂わせているものの、真剣に歌い続けるペッシ。

その思わぬチョイスに正直驚きつつも、少女の頬は彼だからこそ溢れる愛らしさに緩んでいた。



「かっ、可愛い……!」








二周目、ギアッチョ


「(ギアッチョって、どんな曲が好きなんだろ……ロックとかかな?)」


もしかすると、先程と同じアルバムの曲かもしれない。

名前の心に自然と湧き上がる関心。


そして、リモコンで何かしらの曲を打ち、おもむろにマイクを握ったギアッチョを見上げれば――





「――明日、今日よりも好きになれる〜 溢れる想ーいが止まらない」


「「「「「ブッ!?」」」」」



これまた仲間の想像を超越したタイプ。

彼の歌を邪魔しないよう、ほぼ全員が吹き出すところでなんとか衝撃ゆえの笑いを止めたが、一人ゲラゲラと笑い続ける男がいた。



「ちょ、合わねえ! ギアッチョあんた、ラブソング歌うんだ……! ヤバい、ディ・モールト面白い!」


「〜〜オイ! 人が歌ってる間にいちいち声かけてくんじゃねェエエエエ! 気ィ散るだろうが! ……つーかよォ――ッ! 名前ッ! テメェ、まったく歌ってねえじゃねーか!」


「へ!?」


次の瞬間、自分の元へやってきた飛び火。


不意打ちだったこともあり彼女が目を丸くしていると、ふと視界に入った酒の瓶。

ずいぶんノリがいいと思えば――ギアッチョは半分酔っ払っているらしい。



「ん? そういやそうだなァ。名前お前……歌、苦手なのか?」


「え、あ……いや、その」


「マジで? 朝、洗面所の鏡越しから鼻歌聞こえてきたりするけど、あれ名前じゃないの?」


「!?(聞かれてたなんて!)その鼻歌は、確かに私だけど……」


「ハン、ならいいじゃねえか。名前、お前リゾットの後に歌えよ? 決定事項だからな」


「そんな……!」



上からホルマジオ、イルーゾォ、プロシュートに言いくるめられ、少女は言葉を失ってしまう。

さらに極めつけは――



「オレも、名前の歌聞いてみたいなあ」


歌わなければならない。名前がそう感じさせられた瞬間だった。










「……(ど、どどどどうしよう)」


とは言え、基本カラオケに行くことがない彼女に、十八番があるはずもなく。

曲名が並ぶ雑誌。そのページをひらすら捲っていると。



「名前」


「はえ!?」



突然呼ばれた名前に、少女の肩がビクリと震える。



「大丈夫か? 顔色が悪いが」


「あ……う、うん。めったに歌わないから何を歌うか迷っちゃって……えへへ」


「……」



疑うようにスッと細められる黒目がちの瞳。

その二つから慌てて視線をそらしながら、紙を掴む指先を動かし続ける名前。


いっそのこと、童謡を歌おうかな――幼い頃に覚えたさまざまな曲名を脳内に過ぎらせ、必死に探していた刹那。



「!」


不意に、ひどく厚い本が両手から消えた。

なぜ。その疑問詞につられるように、彼女が隣へ目線を向ける。



「リーダー?」


「名前、オレと一緒に歌うぞ」


「……え!? どうして――」


「その様子から見て、こういった類があまり得意ではないんだろう? すまなかった……オレの中で、カラオケに対する興味が先行してしまったようだ」



申し訳なさそうに項垂れるリゾットに対し、首を微かに横へ振る少女。


気が付いてくれたことが、何より嬉しかった。

だが、溢れんばかりの感謝の中に一つだけ残る靄。



「ありがとう、リーダー……っでも、強いて言うなら歌わない方向で行かせてほしいな……なんて」


「……ああ。オレも本当はそうすべきだと思う。だが――」








「名前の歌声をぜひ聞きたい」


ドキリ

さすが天然――どこまでもまっすぐな眼差しに、名前も彼の希望を受け入れる他ない。



「じゃあ……リーダーが曲決めてくれる?」


「いいのか?」


「うん。音楽を聞くのは結構好きで……いろいろ知ってるから、たぶん大丈夫」





数分後。

期待に覆い尽くされた視線がいくつもの指す中、彼女は男と共にマイクを握る。


そして、≪デュエットか、どういった曲を歌うのだろう≫と和んていた男たちだったが――次の瞬間、テレビに映るテロップを見て全員が固まった。





「――馬鹿いってんじゃないよ、お前とオレは ケンカもしたけどひとつ屋根の下暮らしてきたんだぜ……(略)」


「――よくいうわ、いつも騙してばかりで 私がなんにも知らないとでも思っているのね〜」


「ちょ、ちょ……ちょ……ちょっと待て、お前らよォ! 付き合ってもねェのに熟年カップル臭漂わせんなって……!」


室内を走る動揺。

なぜ≪浮気≫がキーワードの曲を選んだのか。優しい声色と歌詞のミスマッチ具合に、イルーゾォが悲鳴に近い声を上げる。



「名前の歌声すっげー可愛い……のに、選曲がなんとも言えない! なんだよこれ!」


「……ペッシ。こいつが≪残念な男≫の典型的な例だ……立ち振る舞いや性格は悪かァねえのに、どっかズレてやがる。わかったか?」


「う、うん……よくわかったよ、プロシュート兄ィ」



しかし、周りが苦笑と困惑を口に出す一方で、少女ははにかみつつも幸せそうに喉を震わせていた。



「(恥ずかしいけど、リーダーと歌えるなんて思わなかったな……えへへ)」


「(名前の歌声が想像以上に可愛い……カラオケへ行く案に賛成してよかった)」







それから、カラオケという雰囲気に馴染んできたのか、名前自らリモコンを取るようになる。

まさに≪全員が楽しむ≫。彼らは仕事のことも忘れ、延長をしてしまうほど盛り上がっていた、が。



「んだこれェ!? ビールだけでも結構すんじゃねーか」


「はア!? アイス一個でこんな高えワケあっかよ! クソックソッ! この俺をナメやがってェ――ッ!」



それは数時間後に部屋を出たときのこと。値段も見ずに料理や酒などを頼んだ結果、レジに刻まれた≪数字≫に別の意味で全員の表情が硬直したらしい。









KARAOKEと仕事人
楽しむたびに、緩むのは言うまでもなく財布の紐。










長らくお待たせいたしました!
暗チとカラオケに行くお話(リーダー落ち)でした。
リクエストありがとうございました!
本性を暴露させることができたか不安もありますが……捧げさせていただきます(^p^)


感想&手直しのご希望がございましたら、お願いいたします!
Grazie mille!!
polka



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