What is a tiny?
※天然ヒロイン
※ギャグ






とある日のこと。

ひょこひょこと軽い足取りでリビングへやってきたチームの一員――名前は見慣れた≪銀色≫に顔を綻ばせた。



「あ、リーダー……!」


彼女の視線の先にはソファへ腰を下ろすリゾット・ネエロ。

一方、恒例のごとく家計簿とにらめっこをしていた彼は、≪どうした≫と言いたげに首をかしげる。


そうした男の思案をよそにポフンと音を立てて隣へ座ったかと思えば、にこりと微笑みかけてくる少女。



「ふふ、やっぱり……リーダーはアジトのマードレだなって思ったの」


「マードレ? せめてパードレではないのか」


「ううん、今はマードレだよ! 時々パードレ」



暗殺者とは想像もつかない人畜無害な笑顔。

≪マードレ時々パードレ≫。


現れた瞬間、突拍子もないことを口にした名前に対して、リゾットの脳内には「天然だな」という感想だけが浮かんでいた。


もちろん、彼も人のことは言えないのである。



「ところで名前。それはなんだ」


しかし、まさか自分の≪天然≫を自覚しているはずもなく、ほっこりとした気持ちを抱いた男はおもむろに彼女の右手へ赤い視線を移す。


そこには――



「これ? これはねえ……昔の写真!」


「写真……?」


少しだけ端の古びた写真が一枚。


暗殺チームの彼らは生業が生業ということもあり、互いのことを――特に過去についてはあまり深く話さない。

だからこそ、リゾットが珍しさゆえにその単語を反芻すると、微かに眉尻を下げた少女が応えるようにコクコクと頷いた。



「うん。実は今、部屋を整頓してたら出てきて……あ、ペットに抱きついてるのが小さい頃の私だよ」


「……」


「懐かしいなあ」



一瞬、見てもいいのだろうかと悩んだ彼だったが、名前に促され写真を覗き込めば――次の瞬間、元から色がないに等しい表情がさらに硬直する。


原因はおそらく当時5、6歳であろう彼女が可愛いから(当然それもある)ではない。

見開かれた男の双眸に映るペット――今と変わらない、花が咲いたように破顔する幼女に抱き込まれた子どもより一回り大きい≪イグアナ≫。


イグアナはかなり成長する生物らしい。



「(どう切り出せばいいんだ……名前のことか? ペットのことか?)」


一切顔色は変えない反面、必死に頭をフル稼働させるリゾット。

すると、まさか隣の彼が混乱しているとは知らない名前が、喜々としてそのイグアナを指差した。



「この子ね、フラゴラ(イタリア語:いちご)ちゃんって言うんだ〜!」



どうやらペットの話が正解のようだ。

彼女は今もなお、ほくほくと周りに癒しをもたらす笑みを滲ませている。



そのあどけなさと愛らしさに、男の唇は思わず――








「可愛いな」


と、独りでに呟いていた。

刹那、少女の瞳はこれでもかと言うほど丸くなる。



「えっ……そ、そうかな?」



ありありと溢れ出た動揺。それを視界に収めながら、


「ああ、可愛い」



改めて首を縦に振ったリゾット。


一方で、彼の天然発言が相当驚愕に値したのだろう。

頬を見る見るうちに赤らめた名前は視線を彷徨わせてから、こう言い放った。



「どうしよう……すごく嬉しいっ。(フラゴラちゃんのこと)可愛いって言ってくれる人、初めて……だから……」


「初めて?」



彼女の口から出たのは信じられない言葉。それに少なからず眉根を寄せた男は、感じたままのことを音にしてこぼす。


「……正直意外だ。(名前は)こんなに可愛らしいというのに」





――おわかりだろうか。

この二人、話しているモノの対象が完全に異なっているのである。


そうは言えど、イグアナのことだと信じきった少女は、写真を胸に抱き寄せつつ口を開いた。



「あ……えっと、ありがとう……。リーダーは、もしかして……好きなの?(イグアナ)」


「すッ……、……確かに(名前に対して)特別な感情を抱いてはいる、な」


「ほんと……?(ぱあああっ)」



ますます輝く名前の表情。

これでもかと言うほど口元を緩めている。



「こんなに近くに(イグアナ好きな人が)いたなんて……運命なのかも!」


「! 運命……」


「そう、運命! 会うべくして出会えた……なんて////」


「……ッ名前」


――ああ、可愛すぎる。

彼女の照れた仕草に、先程告げたばかりの想いを膨らませるリゾット。


ところが次の瞬間、少女の言葉が彼の心臓に激震を与えることになった。









「うん……そうだよ、せっかく会えたんだもん。≪ペット≫のことも打ち明けよう、かな」


「!?(ペット……だと!? どういうことだ……ま、まさか……名前にはそういった趣味があったのか……?)」



思いもしなかった発言に、衝撃(と微かな興奮)で動悸がひどくなっていく。

一方、名前はなぜか狼狽した男の赤い眼をじっと上目で見つめながら、おずおずと潤った唇を動かし始めた。



「あのね、リーダー」







「今じゃなくていいから、お願い」








「≪飼ってほしいな≫」



リゾット・ネエロに5000のダメージ。

つい今しがた互いの気持ちを確かめ合った(勘違い)と言うのに、こんなにも彼女は大胆だったのか。


しばしの間考え込んだ彼は、ふと少女と目線を交わらせる。



「(名前を)飼う、というのはつまり……」


「あ……えっと、ダメかな? でもそうだよね……食事とか環境とか大変だし」


「! そんなことはない。オレがしっかり養ってみせる……お前が望むのなら、ぜひ飼いたい」



飼いたい――なんて嬉しい同意だろう。

双眸にキラキラと光を宿した名前は、幸福感に満たされていくのを感じつつ男の服の袖をきゅうと掴んだ。



「ほんと? じゃあ、今度準備のためにいろいろ買いに行こうよ!」


「ああ」



約束と交わす指切り。そのときを思い、広がり続ける期待。


「ふふ、楽しみ……!」


「……しかし今は通販もあるが、それではダメなのか?」


「ええ? ダメだよ……全部実際に見て選ばなきゃ。ね? リーダーに直接選んでもらいたいし」


「ッ……確かにそうだな」



ドクドクとひどく高鳴るリゾットの鼓動。


これは緊張ゆえではない。



いわゆる≪高揚感≫だ。



「ところで名前。ここまで聞いておいてなんだが……飼うには何が必要になるんだ?」


「必要なもの? んー……人それぞれだけど……散歩のためのリード、とかかなあ」


「グハ……ッ!?」



≪散歩≫。目の前でにこにこと笑う彼女はソフトな外見に反して、どこまでハードなモノを好むのか。

正直驚きの連続だが……これもイイ――脳内を過ぎった思念に、鼻からメタリカが飛び出さないよう鼻骨をひたすら押さえながら、彼は了承を示した。



「わ、わかった。二人で選ぼう」


「うん! ……ふふっ」


「? 何かおかしなことを言ったか?」


「え? 違うよ〜……なんだか、リーダーとこんな話ができるなんて……思ってなかったから嬉しくて」



のほほんと呟き恥じらう少女。もちろん、仰天すると同時に喜ばしかったのは男も同じである。



「そうだな……昼間にする話としては、かなり刺激的だが」


「(刺激的? 驚いたってことかな?)うんうん! 私も最初は驚いちゃった」



どこまでも噛み合わない――いや、変に噛み合っている――二人の会話。


いつになれば、真実は見出されるのだろうか。



「だがオレは初心者だからな……実は不安でもある」


「大丈夫! 私がちゃんと教えてあげるから! 一緒に(お世話)頑張ろう?」


「ッ!?(名前はあくまでオレに主導権を渡すつもりはない、ということか。だが、≪夜≫のことに関しては譲らないぞ……)ああ、オレもさまざまな努力をしよう(意味深)」



そう言って、リゾットが珍しく口端を吊り上げた。

不意に顔を出した彼のその色香に慌てて視線をそらしつつも、ようやく垣間見えた≪夢≫の欠片にそっと笑みを浮かべる名前。


一方、男は彼女の手に握られた写真を再び覗き込む。

目的は残念ながら、イグアナの方ではない。



「……何度見ても、愛らしい」



しかし、少女はイグアナのことだと信じて疑っていない。

当然、爬虫類に対する感想はそれぞれなので、可愛いと思っている自分に不安もあるのだろう。


もう一度「ほんと?」と名前が尋ねれば、即座に返ってくる頷き。



「世辞は苦手でな……これがオレの本音だ。名前はもっと自信を持て」


「リーダー……」



優しい言葉、想い、眼差し。

リゾットがそう言ってくれるだけで、自然と憂慮は消えていた。



「ふふ、ありがとう。言われ慣れなくて私まで照れちゃうけど、そうだよね」


「ふ……そうだ。やはり――」


「やっぱり――」









「イグアナって可愛い!」
「名前は可愛い」









……。

…………。

………………。




「あれ?」


「ん……?」



どういうことだ――≪イグアナ≫と重ならなかった音に、目をぱちくりさせた彼女は思わず前のめりになる。



「あの……一応確認していいかな? リーダーは今、何が可愛いって言ったの?」


「名前のことを可愛いと言った。というより、オレは最初から名前の話のつもりだったんだが」


「え!? あ、えっと……私は……ずっとフラゴラちゃんのことだと思って……/////」



現れた真実。

気付いてよかったのか、今となっては悪かったのか。


そんなひどく動揺する二人を今まで同じリビング内で傍観していたホルマジオは、≪やれやれ≫と言いたげに肩を竦めつつおもむろに口を開いた。



「おォーいお前ら……やっと気付いたのかよ。ったく、しょーがねェな〜!」







その後、互いの話を改めて理解した彼らは、何事もなく日常を過ごすと思われた、が。



「(そういえば、リーダーはあのとき≪ぜひ飼いたい≫って言ってくれたけど…………ん? 何かがおかしいような……)」


「名前」


「あ、リーダー!」


いつもと変わらない仲間が集まる部屋。

唯一異なるのは、リーダーと呼ばれる彼の異常にまっすぐな視線。



「この前の話だが」


「うん」


「オレはいつでも準備ができている」


「うん……?」








「名前。いつ≪リード≫を選びに行こうか」


数秒後、「あの話はなくなったんじゃ……」と少女がきょとんとする傍ら、≪まだ勘違いしてんのか≫と呆れを滲ませた仲間の喝がこれまた不思議そうな男の元へ飛んだらしい。








What is a tiny?
≪可愛いもの≫は何か――答え:人によりけり。











長らくお待たせいたしました!
天然リーダーと天然ヒロインの話が噛み合わないギャグでした。
ミカ様、リクエストありがとうございました!
今回も個性的なヒロインと感じていただけたら幸いです^^


感想&手直しのご希望がございましたら、clapもしくは〒へお願いいたします!
Grazie mille!!
polka



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