※連載「Uno croce nera...」のヒロイン
※みんなで3部のコスプレをするそうです
※ギャグ
「おいおい、なんだ? こりゃァ」
とある朝、頭の刈り上げをセットしたホルマジオは、リビングに置かれたあるモノに声を上げた。
そこには――8つのボストンバッグ。
思わず彼が周りを見渡すと、コーヒを片手に新聞を読むリゾットがおもむろに口を開く。
「それは今朝、組織から送られてきたものだ」
「組織ィ? ったく、今度は何させようって算段だ?」
「……よくわからないが、何かを祝福してこれを着なければいけないらしい」
あくまで淡々と話すチームリーダーに、自然と引きつる頬。
ちなみに、その場にいる全員がその≪何か≫の正体をもっとも気にしたのは言うまでもない。
「ほんと組織って何がしてえんだろ。オレら、一応≪暗殺チーム≫なんだけどな」
「た、確かにそうですね……」
ぽつりと文句をこぼすイルーゾォに対して、苦笑を漏らしながら同意する名前。
本来ならば、こういった仕事は断ってしまいたい。
しかし――リゾットは眉を寄せた状態で仲間一人一人を順番に見据えた。
「だが、たとえ違和感があれども組織の命令だ。どんなことでも無碍にすると後々面倒なことになる」
諦めを滲ませた赤い瞳。
だな、と皆が渋々の承諾をしていく。
まさに全員の表情は≪げっそり≫。
彼らの姿を視界に収めた少女は、慌てて喉を震わせた。
「あの……皆さん、無理はなさらなくても――」
「名前。オレらに仕事を選んでる暇はねえ。わかるな?」
「プロシュートさん……」
でも、明らかに怪しいのに――静かに視線を落とすと、その肩にポンと乗せられた手。
次の瞬間、ハッと顔を上げた名前が振り返れば、そこにはにやにやと口元を緩ませたメローネが。
「まあまあ! いつもの仕事とは違って、ベリッシモ楽しそうだし……せっかくだから中身見ずにやってみようぜ! オレこれに決ーめた!」
「チッ! テメー勝手に選んでんじゃねえよ! クソッ……組織の命令じゃなけりゃこんなモン……!」
悪態を付きつつも、ギアッチョが彼の後に続く。
次々に消えていくボストンバッグ。
こうして、アジト内で急遽ファッションショーが、開催されることになったのである。
一人目、イルーゾォ→?
「か、鏡に『中の世界』なんてありませんよ。ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから……って、なんだよこれ! 微妙にオレを否定されてる気がするんだけど……!」
「わあ……これは≪花京院くん≫の学ランだそうです」
「あはっ、鏡のイルーゾォが鏡の世界に異議申し立てしてる……!」
カバンに入っていた手書きの説明書を読みながら、彼へ目線を向ける少女。
緑の長い学ラン。
赤みを帯びた不思議な髪型のかつら。
耳元で揺れるさくらんぼのイヤリング。
イルーゾォ自身が細身ということもあり、正直違和感がない――全員の意見はそれで一致していた。
ところが男はそれどころではない。
「いや、鏡の世界って言ったら確かにおかしいかもしんないけど、確かにオレの世界は鏡越しにあって、それで……というかこの服結構キツ……うわあああ」
「イルーゾォ!? だ、大丈夫っすか!?」
「ふむ。自己否定されて、よほどショックだったようだな……」
ぐるぐると目を回し始めたイルーゾォに駆け寄るペッシ。
そして、冷静に現状を分析するリゾット。
一方、全身を覆ったその学ランとやらに、プロシュートは感嘆の息を吐き出す。
「しっかし、ジャポネーゼは名前も含めてあんま露出しねえんだな……ガードが固いって奴か」
「えと、ここにいる皆さんの露出度が高いだけだと思いますよ?」
彼らの仕事着。それを思い出したのか、彼女の苦笑が空気に溶けていった。
二人目、ペッシ→?
「…………ワン」
白黒の着ぐるみを着たペッシが、言葉ならぬ鳴き声を紡ぐ。
リビングに漂う沈黙。
「こ、これは……」
「へえ……イギーっていう名前のボストンテリアらしいよ」
興味深そうにメローネがその説明書を読み上げた。
静寂は消えたものの、ペッシの周りにはなんとも言えない憐れみと生暖かい視線が付き纏う。
「うう……こんなのってないっすよ……」
「ペッシさん、元気出してください! すごく可愛いですよ!」
「名前……、男は可愛いじゃダメなんす!」
「えっ、そうなんですか?」
きょろきょろと周りを見回す名前。
すると、それに応えるようにうんうんと頷く全員。
可愛いと言われるのは複雑だ。着ぐるみを身に付けた男が項垂れた――そのときだった。
彼の兄貴ことプロシュートが唇を動かしたのは。
「ふっ……いいじゃあねえか、ボストンテリア。似合ってるぜ。ペッシ、もっとオメーは自分に自信を持て」
「あ、兄貴ィイイイ!」
三人目、ホルマジオ→?
「あ……ありのまま今起こったことを話すぜ! っつー感じでいいのかァ?」
「す、すごく似ていました! ポルナレフさんならぬ、ホルナレフさんですね!」
肩出しタンクトップ。
カーキ色のズボン。
まるでハートを二つに割ったかのようなデザインのイヤリング。
少女が懐かしい姿に感動していると、ホルマジオが頭を指さしつつ口を開く。
「けどよォ、このかつら……こんなに重力に逆らった髪型が世の中にはあんだなァ」
重くて仕方がねェよ。
楽しそうな声色と共に紡ぎ出された困惑。
さらに、このポルナレフという人物が何者か気になるらしい。
「あ、なんか説明書に書いてる。……通称、トイレの人って」
「トイレェ? ハハハッ、そいつに一体何があったんだよ!」
ようやく復活したイルーゾォが連ねた言葉に、朗らかに笑ってみせる男。
彼に一体何があったのか――ぼんやりと覚えている名前は誰にも気付かれぬよう口を噤むのだった。
四人目、プロシュート→?
「ほーう、『一番よりNo.2』か。飄々としたセリフに、このガンマンに近い格好……ハン、気に入ったぜ」
「ケッ! どこまで行ってもイケすかねえ奴はイケすかねえなアア!」
「兄貴……! やっぱ兄貴は何着てもかっけーや!」
テンガロンハットからたなびくブロンド。
口端にしっかりと咥えられたタバコ。
描かれたしたり顔は、まさに腕利きの暗殺者である。
「ブスだろうが美人だろうが女を尊敬している……だが名前。お前に対する感情だけは違う」
「え、えと……?」
思いもしなかった彼の発言に、深紅の瞳をぱちくりとさせながら後退ろうとした。
だが、そうはさせないとプロシュートは簡単に少女を抱き寄せてしまう。
「ふっ、そう怖がんじゃあねえよ。オレはただ、目の前にいるお前だけを愛して――」
ゴゴゴゴゴゴゴ
「プロシュート……さっさと退くんだ。あと名前に近付くな」
「……チッ。へえへえ、奴さんの嫉妬深さには困ったもんだ」
五人目、メローネ→?
リビングに怪しげな影が蠢く。
「みんな! お・待・た・せ!」
「あ、メローネさん。メローネさんはどなたの服を――ひっ」
視界に広がった≪彼の姿≫に、彼女は悲鳴を上げた。
なぜなら――
「うげッ、テメーなんだよそれ。マジ気持ちワリー」
「(わー……どうしよう、吐き気が……)」
「えー、いいじゃんいいじゃん! この≪レオタード≫! んーッ、身体を締めつける感じが、ディ・モールトベネ……!」
おわかりいただけたであろうか。
メローネは今、あのヴァニラ・アイスの格好をしているのだ。
イラつくギアッチョと青ざめるペッシを横目に、彼は怯えた表情の名前に迫る。
「ねえ名前……この生足、どう? ハアッ……触ってみたくならない!?」
「え!? ど、どうと言われても、そんな……っ」
「ハアハア、ッどうしたんだい? 顔を真っ赤にしちゃって……そっか、ハアハアハア……恥ずかしいんだね!? 名前、遠慮する必要はないんだよ? 存分にオレの足を堪能し――」
「いい加減にしろッ! メタリカァアア!」
「メローネ! テメーのその性欲さっさと枯らしてやるぜ……グレイトフル・デッドォオ!」
「あっ、ベネ……!」
メローネ、再起不能。
六人目、ギアッチョ→?
「……服が超重てえ。クソッ、重てえのはまあいい……けどよオオオオ! コイツ火のスタンドを持ってるらしいじゃねえか……なんでそれを俺は選んでんだよ! 意味わかんねえエエエエ! クソ、クソがッ! これって納得行くか――ッ!?」
「ぎ、ギアッチョさん落ち着いてください! 誰を責めてるのかわからなくなってます……!」
腕輪などの装飾品。
巻物を連ねたような髪型。
耳からつなぐネックレスのようなモノ。
アヴドゥルの格好をしたギアッチョが、とにかく訳もわからぬまま吠える。
「ハン。確かにずいぶん重そうな服だな……何者だ?」
「わかんねェ。なんというか、占い師っぽいよなァ」
「説明書によれば、実際占い師のようだぞ」
彼を宥める少女のそばで、淡々と話し合う年長組。
その会話が、男の荒立つ感情を助長させてしまった。
「占い、だアアアア!? ンなモン、信じられっか! このボケがッ! クソ……脱げねえ!」
しかし、脱ごうにもなかなか露出度の低い服ゆえだろうか。
今にも布を破ってしまいそうなギアッチョ。
彼とその衣装の間でしばらく攻防戦が続いたようだ。
七人目、リゾット・ネエロ→?
「なじむ、実に! なじむ、ぞ……?」
「(まさかリゾットさんがDIOさんだなんて……)」
「ハッ! こりゃまたすげえのが来たな」
響くプロシュートの乾いた笑い。
それを耳で捉えつつ、リゾットは自身の派手――というより個性的な服装を見下ろす。
「ほぼ黄色か……なんとも目に痛い色合いだな」
「いや、ほぼ黒なあんたに言われたくないと思うけどね」
知らぬ間に復活していたメローネが、やれやれと肩を竦めた。
だが、仲間の反応や装飾として付いているハート、なぜか開かれた股間すら気にすることなく、男は可愛い恋人を求めて周りを見渡していく。
どうせなら、愛しい名前から話を聞きたいのだ。
「……名前。この男は一体何者――名前?」
「あ、名前なら今着替えてるはずだよ」
「!? な、なんだと……?」
八人目、名前→?。
しばらくして、リビングへと顔だけを覗かせる少女。
「えと……」
サイズが合わないのか、ずいぶん深く被られている黒い学帽。
それを目ざとく見つけたリゾットは、優しい表情で彼女を手招いた。
「名前、君はどういう格好だったんだ? ほら、そんなところで立ち止まらずこっちへおいで」
「いえっ、その……、〜〜っ」
ところが、名前は首を横に振りつつ拒否を示すばかり。
「ほらほらッ、恥ずかしがってないで入って入って!」
するとどうしたことだろう。
素早く扉に近付いたメローネが、少女の腕を引っ張ったのである。
「あ……!」
次の瞬間、
「「「「「「「!?」」」」」」」
薄紫のワンピース(タンクトップ)と黒い学ラン。
それらしか身に纏っていない彼女に、彼らは全員唖然とした。
一方、自分を突き刺すいくつもの視線に、慌てて弁解を始める名前。
「じ、実は……服がすべてブカブカで……ズボンが履けなかったんです」
「おいおいおい。だからってこの雰囲気やべーぞ、今にも変態が騒ぎ出――」
「ベネ! 誰の服か知らないけど、ベネェェエエエ!」
「うう……////」
ホルマジオが少女をリビングの外へ押し戻そうとするも、そうは行かず。
興奮したメローネだけでなく、妙に深い色の双眸を輝かせたリゾットに彼女は捕まってしまう。
「名前……なんて可愛いんだ。オレ以外の男物を着ているという点は気に入らないが、とても似合っている」
「り……リゾットさん?」
「正直、服を脱がせてしまうのは惜しい……だが君のその魅力的な姿を他の奴らにあまり見せたくはない。……よし、このまま部屋に――」
「だ、ダメです!」
伸びてきた無骨な手。
恋人の開いた≪ベルトの下≫を直視しないように目をそらしながら、名前は彼の手を必死に両手で押し止めていた。
当然、訝しげな顔をする男。
「? なぜダメなんだ」
「その……、……実はリゾットさんが着ている服の方と、私が着ている服の方は≪敵同士≫、なんです」
「……敵、同士?」
そう。今の格好で言うならば、自分たちは敵同士だ。
なんとか部屋へ行くことを避けようと紡いだ事実が効いたのか、硬直したリゾットに少女はホッと息をついた――が。
「ふむ……敵か。だが君になら負けてもいい」
「え!?」
「どうした? オレは今、負けを認めたんだ……さあ、部屋に戻ろう」
「えええ!? リゾットさんっ、それじゃダメですってば……!」
外へと誘導される身体。
彼の脳内は現在、彼女と一つになること一色だ。明らかに聞く耳を持ちそうにはない。
こうなったら――意気込んだ名前はグッと両手を握り締め、
「……、……おら」
「おら?」
「〜〜オラオラオラオラオラっ」
微かな記憶として残る、オラオララッシュを見よう見まねで試してみることにした。
ポカポカと腹筋を掠める拳。
「(クッ。オレに一生懸命パンチを繰り出して、いじらしい……だが)無駄無駄無駄無駄ァ!」
だが残念。
少女の懸命な拒否が、男の心を余計に熱くさせてしまったようだ。
リゾットは余裕の顔つきで、軽々とパンチを受け止めていく。
そのなんとも言い難い光景に、苦笑しか口からこぼすことのできない仲間たち。
「あはは、二人とも意外にノリがいいよね。リーダーなんか、このまま放ってるとロードローラー出してくるんじゃない?」
「ちょ、ロードローラーって……アジト壊す気かよ……!」
楽しげなメローネの笑いやイルーゾォの引きつった声。
それを掻き消すような二人の≪セリフ≫。
「う、WRYYYYY……無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!」
「オラオラオラオラ、はあっ……オラオラオラぁ……!」
「……ふ、無駄無駄無駄!(名前が息を切らし始めているな。押し切れる! このまま行けば第三部完、も近)――ん?」
しかし、少しばかり口端を吊り上げた男は、ふとあるモノに気付いた。
それは華奢な身体にしては大きめな彼女のバスト。
身長差とそのブカブカタンクトップが関係するのか、リゾットから見れば、ふるんと揺れる下着に包まれた名前のマシュマロが露わに――
「グハアッ!」
「うわ!? あ、兄貴! リーダーの鼻からメタリカが……」
「ハン、エロい胸元にマジで『ハイ』になっちまったみてえだな」
「オイジジイ! 誰が≪うまいこと言え≫っつったんだよ! つーか、名前もその格好で激しい動きすんじゃねえエエエッ!」
突如終わりを告げた、攻防戦。
傍観に徹していた男たちが、膝から崩れ落ちたチームリーダーを同情と呆れを織り交ぜた瞳で見つめるなか、本人は息も絶え絶えのまま喉を震わせる。
「う……ブカブカの服……、ベネ……、ッ」
徐々に床へと広がっていく赤。
≪ロオオオオド≫と全員の耳に届くメタリカの声。
動かなくなった恋人のそばで、名前は学帽のツバを指先で捉えながら、ため息と共に一言呟くのだった。
「ふう……やれやれです!」
第三部、完。
スターダストアサシン
その後、倒れた恋人は彼女がしっかりと介抱したそうだ。
![](//img.mobilerz.net/sozai/1616_w.gif)
お待たせいたしました!
連載の番外編でヒロインちゃんと暗チの3部コスプレでした。
実様、リクエストありがとうございました!
ヒロインちゃんにヴァニラコスでもいいかな、とも思いましたが、やっぱり承太郎さんで。祝アニメ!
そして管理人、shortでifとしても置いてありますが、ヒロインちゃんと承太郎さんを絡ませるのも嫌いじゃ……ゲフン。
というわけで感想&手直しのご希望がございましたら、お願いいたします!
Grazie mille!!
polka
>
※みんなで3部のコスプレをするそうです
※ギャグ
「おいおい、なんだ? こりゃァ」
とある朝、頭の刈り上げをセットしたホルマジオは、リビングに置かれたあるモノに声を上げた。
そこには――8つのボストンバッグ。
思わず彼が周りを見渡すと、コーヒを片手に新聞を読むリゾットがおもむろに口を開く。
「それは今朝、組織から送られてきたものだ」
「組織ィ? ったく、今度は何させようって算段だ?」
「……よくわからないが、何かを祝福してこれを着なければいけないらしい」
あくまで淡々と話すチームリーダーに、自然と引きつる頬。
ちなみに、その場にいる全員がその≪何か≫の正体をもっとも気にしたのは言うまでもない。
「ほんと組織って何がしてえんだろ。オレら、一応≪暗殺チーム≫なんだけどな」
「た、確かにそうですね……」
ぽつりと文句をこぼすイルーゾォに対して、苦笑を漏らしながら同意する名前。
本来ならば、こういった仕事は断ってしまいたい。
しかし――リゾットは眉を寄せた状態で仲間一人一人を順番に見据えた。
「だが、たとえ違和感があれども組織の命令だ。どんなことでも無碍にすると後々面倒なことになる」
諦めを滲ませた赤い瞳。
だな、と皆が渋々の承諾をしていく。
まさに全員の表情は≪げっそり≫。
彼らの姿を視界に収めた少女は、慌てて喉を震わせた。
「あの……皆さん、無理はなさらなくても――」
「名前。オレらに仕事を選んでる暇はねえ。わかるな?」
「プロシュートさん……」
でも、明らかに怪しいのに――静かに視線を落とすと、その肩にポンと乗せられた手。
次の瞬間、ハッと顔を上げた名前が振り返れば、そこにはにやにやと口元を緩ませたメローネが。
「まあまあ! いつもの仕事とは違って、ベリッシモ楽しそうだし……せっかくだから中身見ずにやってみようぜ! オレこれに決ーめた!」
「チッ! テメー勝手に選んでんじゃねえよ! クソッ……組織の命令じゃなけりゃこんなモン……!」
悪態を付きつつも、ギアッチョが彼の後に続く。
次々に消えていくボストンバッグ。
こうして、アジト内で急遽ファッションショーが、開催されることになったのである。
一人目、イルーゾォ→?
「か、鏡に『中の世界』なんてありませんよ。ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから……って、なんだよこれ! 微妙にオレを否定されてる気がするんだけど……!」
「わあ……これは≪花京院くん≫の学ランだそうです」
「あはっ、鏡のイルーゾォが鏡の世界に異議申し立てしてる……!」
カバンに入っていた手書きの説明書を読みながら、彼へ目線を向ける少女。
緑の長い学ラン。
赤みを帯びた不思議な髪型のかつら。
耳元で揺れるさくらんぼのイヤリング。
イルーゾォ自身が細身ということもあり、正直違和感がない――全員の意見はそれで一致していた。
ところが男はそれどころではない。
「いや、鏡の世界って言ったら確かにおかしいかもしんないけど、確かにオレの世界は鏡越しにあって、それで……というかこの服結構キツ……うわあああ」
「イルーゾォ!? だ、大丈夫っすか!?」
「ふむ。自己否定されて、よほどショックだったようだな……」
ぐるぐると目を回し始めたイルーゾォに駆け寄るペッシ。
そして、冷静に現状を分析するリゾット。
一方、全身を覆ったその学ランとやらに、プロシュートは感嘆の息を吐き出す。
「しっかし、ジャポネーゼは名前も含めてあんま露出しねえんだな……ガードが固いって奴か」
「えと、ここにいる皆さんの露出度が高いだけだと思いますよ?」
彼らの仕事着。それを思い出したのか、彼女の苦笑が空気に溶けていった。
二人目、ペッシ→?
「…………ワン」
白黒の着ぐるみを着たペッシが、言葉ならぬ鳴き声を紡ぐ。
リビングに漂う沈黙。
「こ、これは……」
「へえ……イギーっていう名前のボストンテリアらしいよ」
興味深そうにメローネがその説明書を読み上げた。
静寂は消えたものの、ペッシの周りにはなんとも言えない憐れみと生暖かい視線が付き纏う。
「うう……こんなのってないっすよ……」
「ペッシさん、元気出してください! すごく可愛いですよ!」
「名前……、男は可愛いじゃダメなんす!」
「えっ、そうなんですか?」
きょろきょろと周りを見回す名前。
すると、それに応えるようにうんうんと頷く全員。
可愛いと言われるのは複雑だ。着ぐるみを身に付けた男が項垂れた――そのときだった。
彼の兄貴ことプロシュートが唇を動かしたのは。
「ふっ……いいじゃあねえか、ボストンテリア。似合ってるぜ。ペッシ、もっとオメーは自分に自信を持て」
「あ、兄貴ィイイイ!」
三人目、ホルマジオ→?
「あ……ありのまま今起こったことを話すぜ! っつー感じでいいのかァ?」
「す、すごく似ていました! ポルナレフさんならぬ、ホルナレフさんですね!」
肩出しタンクトップ。
カーキ色のズボン。
まるでハートを二つに割ったかのようなデザインのイヤリング。
少女が懐かしい姿に感動していると、ホルマジオが頭を指さしつつ口を開く。
「けどよォ、このかつら……こんなに重力に逆らった髪型が世の中にはあんだなァ」
重くて仕方がねェよ。
楽しそうな声色と共に紡ぎ出された困惑。
さらに、このポルナレフという人物が何者か気になるらしい。
「あ、なんか説明書に書いてる。……通称、トイレの人って」
「トイレェ? ハハハッ、そいつに一体何があったんだよ!」
ようやく復活したイルーゾォが連ねた言葉に、朗らかに笑ってみせる男。
彼に一体何があったのか――ぼんやりと覚えている名前は誰にも気付かれぬよう口を噤むのだった。
四人目、プロシュート→?
「ほーう、『一番よりNo.2』か。飄々としたセリフに、このガンマンに近い格好……ハン、気に入ったぜ」
「ケッ! どこまで行ってもイケすかねえ奴はイケすかねえなアア!」
「兄貴……! やっぱ兄貴は何着てもかっけーや!」
テンガロンハットからたなびくブロンド。
口端にしっかりと咥えられたタバコ。
描かれたしたり顔は、まさに腕利きの暗殺者である。
「ブスだろうが美人だろうが女を尊敬している……だが名前。お前に対する感情だけは違う」
「え、えと……?」
思いもしなかった彼の発言に、深紅の瞳をぱちくりとさせながら後退ろうとした。
だが、そうはさせないとプロシュートは簡単に少女を抱き寄せてしまう。
「ふっ、そう怖がんじゃあねえよ。オレはただ、目の前にいるお前だけを愛して――」
ゴゴゴゴゴゴゴ
「プロシュート……さっさと退くんだ。あと名前に近付くな」
「……チッ。へえへえ、奴さんの嫉妬深さには困ったもんだ」
五人目、メローネ→?
リビングに怪しげな影が蠢く。
「みんな! お・待・た・せ!」
「あ、メローネさん。メローネさんはどなたの服を――ひっ」
視界に広がった≪彼の姿≫に、彼女は悲鳴を上げた。
なぜなら――
「うげッ、テメーなんだよそれ。マジ気持ちワリー」
「(わー……どうしよう、吐き気が……)」
「えー、いいじゃんいいじゃん! この≪レオタード≫! んーッ、身体を締めつける感じが、ディ・モールトベネ……!」
おわかりいただけたであろうか。
メローネは今、あのヴァニラ・アイスの格好をしているのだ。
イラつくギアッチョと青ざめるペッシを横目に、彼は怯えた表情の名前に迫る。
「ねえ名前……この生足、どう? ハアッ……触ってみたくならない!?」
「え!? ど、どうと言われても、そんな……っ」
「ハアハア、ッどうしたんだい? 顔を真っ赤にしちゃって……そっか、ハアハアハア……恥ずかしいんだね!? 名前、遠慮する必要はないんだよ? 存分にオレの足を堪能し――」
「いい加減にしろッ! メタリカァアア!」
「メローネ! テメーのその性欲さっさと枯らしてやるぜ……グレイトフル・デッドォオ!」
「あっ、ベネ……!」
メローネ、再起不能。
六人目、ギアッチョ→?
「……服が超重てえ。クソッ、重てえのはまあいい……けどよオオオオ! コイツ火のスタンドを持ってるらしいじゃねえか……なんでそれを俺は選んでんだよ! 意味わかんねえエエエエ! クソ、クソがッ! これって納得行くか――ッ!?」
「ぎ、ギアッチョさん落ち着いてください! 誰を責めてるのかわからなくなってます……!」
腕輪などの装飾品。
巻物を連ねたような髪型。
耳からつなぐネックレスのようなモノ。
アヴドゥルの格好をしたギアッチョが、とにかく訳もわからぬまま吠える。
「ハン。確かにずいぶん重そうな服だな……何者だ?」
「わかんねェ。なんというか、占い師っぽいよなァ」
「説明書によれば、実際占い師のようだぞ」
彼を宥める少女のそばで、淡々と話し合う年長組。
その会話が、男の荒立つ感情を助長させてしまった。
「占い、だアアアア!? ンなモン、信じられっか! このボケがッ! クソ……脱げねえ!」
しかし、脱ごうにもなかなか露出度の低い服ゆえだろうか。
今にも布を破ってしまいそうなギアッチョ。
彼とその衣装の間でしばらく攻防戦が続いたようだ。
七人目、リゾット・ネエロ→?
「なじむ、実に! なじむ、ぞ……?」
「(まさかリゾットさんがDIOさんだなんて……)」
「ハッ! こりゃまたすげえのが来たな」
響くプロシュートの乾いた笑い。
それを耳で捉えつつ、リゾットは自身の派手――というより個性的な服装を見下ろす。
「ほぼ黄色か……なんとも目に痛い色合いだな」
「いや、ほぼ黒なあんたに言われたくないと思うけどね」
知らぬ間に復活していたメローネが、やれやれと肩を竦めた。
だが、仲間の反応や装飾として付いているハート、なぜか開かれた股間すら気にすることなく、男は可愛い恋人を求めて周りを見渡していく。
どうせなら、愛しい名前から話を聞きたいのだ。
「……名前。この男は一体何者――名前?」
「あ、名前なら今着替えてるはずだよ」
「!? な、なんだと……?」
八人目、名前→?。
しばらくして、リビングへと顔だけを覗かせる少女。
「えと……」
サイズが合わないのか、ずいぶん深く被られている黒い学帽。
それを目ざとく見つけたリゾットは、優しい表情で彼女を手招いた。
「名前、君はどういう格好だったんだ? ほら、そんなところで立ち止まらずこっちへおいで」
「いえっ、その……、〜〜っ」
ところが、名前は首を横に振りつつ拒否を示すばかり。
「ほらほらッ、恥ずかしがってないで入って入って!」
するとどうしたことだろう。
素早く扉に近付いたメローネが、少女の腕を引っ張ったのである。
「あ……!」
次の瞬間、
「「「「「「「!?」」」」」」」
薄紫のワンピース(タンクトップ)と黒い学ラン。
それらしか身に纏っていない彼女に、彼らは全員唖然とした。
一方、自分を突き刺すいくつもの視線に、慌てて弁解を始める名前。
「じ、実は……服がすべてブカブカで……ズボンが履けなかったんです」
「おいおいおい。だからってこの雰囲気やべーぞ、今にも変態が騒ぎ出――」
「ベネ! 誰の服か知らないけど、ベネェェエエエ!」
「うう……////」
ホルマジオが少女をリビングの外へ押し戻そうとするも、そうは行かず。
興奮したメローネだけでなく、妙に深い色の双眸を輝かせたリゾットに彼女は捕まってしまう。
「名前……なんて可愛いんだ。オレ以外の男物を着ているという点は気に入らないが、とても似合っている」
「り……リゾットさん?」
「正直、服を脱がせてしまうのは惜しい……だが君のその魅力的な姿を他の奴らにあまり見せたくはない。……よし、このまま部屋に――」
「だ、ダメです!」
伸びてきた無骨な手。
恋人の開いた≪ベルトの下≫を直視しないように目をそらしながら、名前は彼の手を必死に両手で押し止めていた。
当然、訝しげな顔をする男。
「? なぜダメなんだ」
「その……、……実はリゾットさんが着ている服の方と、私が着ている服の方は≪敵同士≫、なんです」
「……敵、同士?」
そう。今の格好で言うならば、自分たちは敵同士だ。
なんとか部屋へ行くことを避けようと紡いだ事実が効いたのか、硬直したリゾットに少女はホッと息をついた――が。
「ふむ……敵か。だが君になら負けてもいい」
「え!?」
「どうした? オレは今、負けを認めたんだ……さあ、部屋に戻ろう」
「えええ!? リゾットさんっ、それじゃダメですってば……!」
外へと誘導される身体。
彼の脳内は現在、彼女と一つになること一色だ。明らかに聞く耳を持ちそうにはない。
こうなったら――意気込んだ名前はグッと両手を握り締め、
「……、……おら」
「おら?」
「〜〜オラオラオラオラオラっ」
微かな記憶として残る、オラオララッシュを見よう見まねで試してみることにした。
ポカポカと腹筋を掠める拳。
「(クッ。オレに一生懸命パンチを繰り出して、いじらしい……だが)無駄無駄無駄無駄ァ!」
だが残念。
少女の懸命な拒否が、男の心を余計に熱くさせてしまったようだ。
リゾットは余裕の顔つきで、軽々とパンチを受け止めていく。
そのなんとも言い難い光景に、苦笑しか口からこぼすことのできない仲間たち。
「あはは、二人とも意外にノリがいいよね。リーダーなんか、このまま放ってるとロードローラー出してくるんじゃない?」
「ちょ、ロードローラーって……アジト壊す気かよ……!」
楽しげなメローネの笑いやイルーゾォの引きつった声。
それを掻き消すような二人の≪セリフ≫。
「う、WRYYYYY……無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!」
「オラオラオラオラ、はあっ……オラオラオラぁ……!」
「……ふ、無駄無駄無駄!(名前が息を切らし始めているな。押し切れる! このまま行けば第三部完、も近)――ん?」
しかし、少しばかり口端を吊り上げた男は、ふとあるモノに気付いた。
それは華奢な身体にしては大きめな彼女のバスト。
身長差とそのブカブカタンクトップが関係するのか、リゾットから見れば、ふるんと揺れる下着に包まれた名前のマシュマロが露わに――
「グハアッ!」
「うわ!? あ、兄貴! リーダーの鼻からメタリカが……」
「ハン、エロい胸元にマジで『ハイ』になっちまったみてえだな」
「オイジジイ! 誰が≪うまいこと言え≫っつったんだよ! つーか、名前もその格好で激しい動きすんじゃねえエエエッ!」
突如終わりを告げた、攻防戦。
傍観に徹していた男たちが、膝から崩れ落ちたチームリーダーを同情と呆れを織り交ぜた瞳で見つめるなか、本人は息も絶え絶えのまま喉を震わせる。
「う……ブカブカの服……、ベネ……、ッ」
徐々に床へと広がっていく赤。
≪ロオオオオド≫と全員の耳に届くメタリカの声。
動かなくなった恋人のそばで、名前は学帽のツバを指先で捉えながら、ため息と共に一言呟くのだった。
「ふう……やれやれです!」
第三部、完。
スターダストアサシン
その後、倒れた恋人は彼女がしっかりと介抱したそうだ。
![](http://img.mobilerz.net/sozai/1616_w.gif)
お待たせいたしました!
連載の番外編でヒロインちゃんと暗チの3部コスプレでした。
実様、リクエストありがとうございました!
ヒロインちゃんにヴァニラコスでもいいかな、とも思いましたが、やっぱり承太郎さんで。祝アニメ!
そして管理人、shortでifとしても置いてありますが、ヒロインちゃんと承太郎さんを絡ませるのも嫌いじゃ……ゲフン。
というわけで感想&手直しのご希望がございましたら、お願いいたします!
Grazie mille!!
polka
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