please,LOOK AT ME!!
※妹分(貧乳)ヒロイン
※ギャグ





爽やかな風が吹き抜けるレストランのテラス。

そこで、プロシュートと彼の弟分・妹分であるペッシと名前の三人は昼食を取っていた。


彼らのテーブルに広がるのは、財政が逼迫しているとは思えないほど豪華な料理たち。



「もぐ、もぐもぐ……美味え! 兄貴これ美味いっすよ!」


「ハン! たりめえだろ。ここはオレのイチオシだ……いいか。いくら金に乏しいからって缶詰ばっか食ってっとなァ、人の舌は腐んだよ! 言うだろ、小っせえ頃からファーストフードを食わせすぎるなってな……つーわけでオメーら、好きなだけ食えよ! 安心しろ、この費用は…………アジトに付けるッ!」


「わーい! ありがとう、兄貴! ゴチになりまっす!」



そう叫び、喜んで目の前のパスタをフォークで絡め始める少女。


時折、兄貴分である男は≪安いなら構わねえ。だが安くてまずいのは許せねえ!≫と、二人をこうしてレストランに連れてくるのである。


あらゆるしらがみを感じさせない、ひどく穏やかな時間。しかし、次の瞬間だった。

自分たちの食べっぷりを眺めていたプロシュートの視線が、ふと自分越しの道へ移ったのは――



「――あー!」



ガタッ


突然大きな音と共に席を立つ名前、言うまでもなく兄貴分の顔には訝しげな色が浮かぶ。



「なんだ、名前」


「どうかした?」



さらに、事の変化を察知したのか、気遣わしげな眼差しを向けてくるペッシ。だが、一つの≪衝撃≫に支配された彼女は礼を言うどころではない。


「プロシュート兄貴、今……! 今ぁああ!」



一体、どうしたというのだ。

理由がわからないこともあり、男の眉間にはますますシワが増えた。


落ち着けよ――そう宥めてみるが、少女は首を横に振るばかり。



「落ち着いていられますか! だって! だって――」








「今兄貴……っな、ないすばでぃーな女の人を、チラ見したでしょ!」



必死の形相で叫ばれた言葉。

引きつる男二人の頬。


ここで補足しておくが、妹分が兄貴分と恋人同士で、浮気を問い質しているというわけでない。

一切盛り上がっていない胸――それが名前のコンプレックスなのだ。もちろん、そのことを刺激する出来事や人物には過敏である。



「なんですか! あてつけですか! 貧しい乳と書いて貧乳の私に対するあてつけなんですか!」


「……ったく。あてつけでもなんでもねえから、いちいち騒ぐんじゃあねえよ。だが……そんだけ動いてんのに、マジで揺れねえな。お前の胸」


「〜〜だッかッらッ……気にしてると何度言えばわかってくれるんです! 兄貴のバカ! 巨乳好き! ムキーッ!」



溢れ出る怒りを示すように彼女が両腕を上下に振れども、その動きに胸部が伴うことは一切ない。

からかうように薄い笑みを作ったプロシュートに、顔を真っ赤にした少女が悪態を付いていると、ペッシが慌てた様子で二人の間に入った。



「ま、まあまあ。名前も一旦落ち着いて……それに、名前が気にしてるほど小さくないよ!(……たぶん)」


「……ペッシ先輩」


「ちょ……ッ!? なんでもっと落ち込んで――」


「わかってます。ペッシ先輩が、私を慰めてくれる優しい先輩って、わかってるんですけど……それ、逆に傷つきますから……」



力が抜けたのだろうか。

ペタンと再び着席した名前。


その落ち込みように目線を彷徨わせれば、不意に彼女が勢いよく顔を上げる。



「あとっ! 私より(脂肪で)ボインな先輩に慰められるのも複雑です!」


「え……あ、なんかごめん……」



弟分と妹分の少しズレた会話。

その、テーブルに覆い尽くされたなんとも言えない雰囲気の中、プロシュートだけが二人の応酬にゲラゲラと笑っていた。



「はー、笑わせてくれるぜ。……確かに、名前のその平皿よりかはあるかもしんねえなあ」



細められた蒼い眼。

どこまでも楽しげに歪んだ口端。


一方、少女はわけがわからずただ首をかしげる。

どうやら、彼の紡いだ一つの≪単語≫が気になったらしい。



「平皿? それって、平らな皿……私の、平らな…………んなっ!?」


「ククッ、やっと気付いたか」


「うう……兄貴のドS!」



そして、自分の扱いの悪さに目を剥いた名前はあえて自分の胸元を見ないようにしながら、男をキッと睨んだ。


「私だって……私だって! 兄貴の目を惹くばでぃーになりたいです! どうせ兄貴は今まで、豊かな胸をお持ちのお姉様方を食い漁ってきたんでしょ!」


「おいおい。食い漁るってお前な……人を節操のない野獣みてーに言うんじゃねえよ」



苦笑交じりで肩を竦めるプロシュート。

ところが、顔色を真摯なモノに一変させた彼は、頬杖を付きつつ眼前で唇を尖らせる彼女を見据えた。



「で? オレをバカやら巨乳好きやら言ってるが……名前、オメーは≪少しでも≫理想の大きさにする努力ってモンをしてんのか?」



すると、挑発するかのような男の発問に、少女はこれでもかと言うほど大きく頷く。



「もちろん! サプリや牛乳だって飲んだし(骨が太くなったけど)、胸が大きくなるエクササイズも(ムキムキになったけど)しました! ……でも、一つだけ。きなこ牛乳もいいらしいんですけど、その≪きなこ≫だけはここではちょっと高いからまだ手を出せてなくて」



刹那、本日初めて双眸にあいまみえた躊躇い。

やはり、暗殺チームの仲間なら全員が共感できる、≪薄給≫がネックなのだろう。


思わずプロシュートの口からこぼれる深いため息。



「はあ……名前、名前、名前よ〜! お前、本気なんだろ? 平皿は嫌なんだろ? なら突っ走れ。『買う』と思ったなら、その時すでに行動は終わってんだよ」


「あ、兄貴……っわかったよ、プロシュート兄ィ! 私頑張って、お金調達する!」



調達。先程とは一変して、尊敬で瞳を輝かせた名前の一言に、≪どういう意味だ≫と彼の眉根が寄せられた。


「あ? 今月分の給料はどうした。まさか全部使い切ったわけじゃあねえだろ」


「……えへへ、実はサプリを買ったら思いのほか高くて……でも逞しくはなりますよ? あ、兄貴も試します? 知り合いに紹介したら、こっちがお金をもらえるらしくて――」


「やめろ! その商品、今すぐやめろ! オメーが断れねえならオレが代わりにしてやるから……そもそも、何ギャングがそういう商法に引っかかってんだ!」



当然ながら、のんきに話す妹分に兄貴分の喝が飛ぶ。

とは言え、ここがどこであるかを思い出したのか、焦燥を前面に男を引き止めるペッシ。


「ちょ、兄貴! ここレストランっすよ……というか二人共、夫婦漫才はもういいっすから!」



キリキリと痛む胃。

兄と妹に挟まれる限り、青年の苦労が絶えることはない。


一方で、彼女は夫婦という単語に赤くなった己の顔をペチペチと叩いてから、胸を張ってみせた。



「とにかくっ! いろいろ試してもダメだったんです……」


「……そうかそうか。そりゃあ残念だったなあ」



次の瞬間、テーブル越しにプロシュートの大きな手が伸びてくる。

頭に乗せられた手のひら。掻き混ぜられる髪。

膨らんでいく敬愛とも憧憬とも違う感情。いつの間にか俯いていた少女は、トクトクと小さく高鳴る心臓を押さえ、上目で彼を見つめれば――




男は、にやにやと笑っているではないか。



「〜〜っ//////No、子ども扱い! というか、絶対≪残念≫なんて思ってないでしょ!」


「ハッ! んなモン、思ってねえに決まってんだろ。まあ……子ども扱いっつーよりは、子ども体型扱いだな」


「ひ、ひどいです! 兄貴までそんなこと言うなんて……やっぱり、私をシニョリーナ扱いしてくれるのは、≪リーダーだけ≫なんですね!」



刹那。

意外な名前が出たからだろう。プロシュートがぴたりと動きを止めた。



「(リーダー? うーん、リーダーは意外だなあ……)」


「おい。リゾットがシニョリーナ扱いたァ、どういうことだ」



内心≪意外だ≫と考えるペッシ。すると、その考えの上を塗り足すように名前は語り始める。



「私……イルーゾォ、ギアッチョには同性の友達として見られてるし、ホルマジオは私のこと妹扱いだし、メローネには胸に手を添えられながら、≪もはや異性としてディ・モールトそそられないな≫って言われるし……! もちろん、顔がわからなくなるぐらい殴りましたけど!」



メローネは、おそらく凄まじい姿で発見されたのだろう。

彼女にとって、胸の話は過敏なポイントでしかないのだから。


一方、兄貴分である男は何を思ったのか、複雑な表情で喉を震わせた。



「よくやった! だが、納得いかねえ。なんであの朴念仁なんだ」







「ふふふ……リーダーは、唯一私に≪今のままでいい≫って言ってくれました!」



そう声高らかに宣言した少女は、ふと記憶に思いを馳せる。

リーダーと胸について話したあのときのことを。




「名前。確かに豊乳は≪夢が詰まっている≫という説もあるが……一方で、貧乳には≪夢を周りにあげた≫という名言がある。だから気にするな」







「うう……っ感動したんです! 黒目率が高くて、表情筋がほぼ働かないムッツリさんだけど……やっぱりリーダーはリーダーだったんですね! 一生付いていきます!」


「(チッ、あのロリコン野郎。人の妹分を勝手に誘惑するようなことしてんじゃねえよ)……ほーう」


「(あわわ……兄貴、気が立ってるなあ)」



苛立ち気味のプロシュート。

――どうしたんだろう?


その原因など露知らず、名前は凛とした表情で口を開いた。



「そんなわけで! 私は好きで胸が貧しいわけじゃないんです!」



わかってもらえましたか!?

そう叫声を上げ、意気揚々と切ないネタを繰り広げた彼女に、青年は自ずと憐憫の目を向けてしまいそうになる。

脳内に過る思考は一つ――そんな気にしなくていいのに。


一方、おもむろにタバコを口端に咥えた男は、紫煙を揺蕩わせながら――



「ハン、名前。お前の話はよーくわかった。だがよお……オメーはまだ≪すべての力を出し切ってない≫ぜ」


意味深な笑みを露わにした。

もちろん、その強調された言葉にこてんと首をかしげた少女。



「? すべての、力? 牛乳にサプリに体操……ほかに何があるんですか?」


「知りたいか?」



悪巧みをふんだんに含めた笑み。名前は、それに気付くことができない。



「そ、そりゃあ……むしろ、これ以上どんな方法を試せばいいんです!?」


やっと食いついたか――ここまで長かった、とプロシュートが静かに立ち上がる。


三日月を描く視線が定めた、首から下。

そして、



「!?」



彼は己の人差し指で、服越しにある彼女の胸部を小突いた。

その瞬間、凍りつく空気。



「……」


「あ、兄貴……さすがにそれは……」



ヤバいんじゃ――ペッシが隣にそう小声で話しかけた矢先のこと。


カラン

少女が会話の当初から握っていたフォークが、床へ落ちる。

さらに、これでもかと言うほど瞠目した双眸。



「なっ、なっ、なっ……な、ななな何を」


「ハッ、ちったあ落ち着けよ。口パクパクさせやがって……つまりオレが言いてえのはこういうことだ」









「誰かに胸を揉んでもらえばイイ。なんならその役目、オレが喜んで引き受けるぜ」



平らに近い胸元から指を離したと同時に、タバコを唇から距離を置かせ煙をこぼす男。


紫がモクモクと漂う最中、名前の顔は見る見るうちに紅潮した。



「〜〜破廉恥! 破廉恥です!」


「ハレンチだァ? お前、どの時代の人間なんだよ」


「と、とにかく破廉恥なんです! もちろん私は大歓迎ですけどっ、兄貴は変態ですら憐れな表情を向けてくるこんなド貧乳なんか相手にしないだろうし、それにそれに――ゴニョゴニョゴニョ」


「あ? 後半がよく聞こえねえぞ。もう一回言え」


容赦ない兄貴分のメッセージ。

だが、複雑な女心ゆえに彼女も首を縦に振るわけには行かない。



「(兄貴、≪聞こえてないフリ≫してる……半端ねえや)」


と、ペッシ。



「もう一回だなんて嫌です! ただでさえ恥ずかしいのに……!」


「……まあいい。お前が嫌なら無理強いはしねえよ。気が変わったらいつでもオレに言ってこい……すぐ部屋に行ってやる。……つっても――」







「≪コレ≫じゃあ、揉めるモンも揉めそうにねえけどな」


プロシュートが示すコレ。

それは、言うまでもなく少女のぺたんこな胸。


刹那、憤怒に眉が吊り上がる。



「ひどい……! 少し期待しちゃったじゃないですか!」


ガシャン

そして赤い肌を晒したまま、名前は早々と席を立ち――



「兄貴のバーカ! おたんこなす! 私、兄貴の妹分辞めてやるんだから……ッ!」


「あっ、名前……」


稚拙な悪口と共に、テラスからあっという間に飛び出した。


離れていく彼女の身体。

どうしよう――慌てるペッシの傍ら、兄貴分はにやりと笑うばかり。


「……見てろよペッシ。あいつ、一回はこっち向くぜ」


伊達に少女の兄貴分をやっているわけではない。

次の瞬間、それまで一切こちらを見ることのなかった妹分が、二人を振り返る。



「(チラ)」


「……(ニヤ)」


「! 〜〜っ!」



すべてお見通しなプロシュート。敵わない――そうひしひしと感じた名前は、羞恥と悔しさを胸に今度こそ一人アジトへ向かって猛スピードで走り去ってしまうのだった。









please,LOOK AT ME!!
他でもなく、私を見てほしい――そういう心情。




〜おまけ〜



すでに見えなくなってしまった人影。

そちらへじっと視線を向けていたペッシは、ふとした瞬間に今も楽しそうに笑うプロシュートの方を振り返った。



「……あの、兄貴。名前追いかけなくていいんですかい?」


「ハン、あいつの行き先はアジトしかねえからな。心配すんじゃねえよ」


「そ、そうかもしれねえっすけど」



しどろもどろになる青年。そんな彼を一瞥した男は、おもむろに口元を歪めながら形の良い唇を開く。


「にしてもよお」






「貧乳、豊乳の差異を気にしてんのは……本当はあいつとオレ、どっちなんだろうなァ? オレは別に、胸だけで名前を見てるわけじゃあねえしな。……つっても、からかい甲斐があんのは事実だが」


「……えーっと」



自然と弟分の口から溢れる苦笑。

プロシュートは、名前のコンプレックスに対し、決して慰めることはしない。

これは推定――いや、もはや確信に近いのだが、彼はさまざまな反応を一回一回見せる妹分が可愛くて仕方がないのだろう(おそらく他の仲間も、愛ゆえに胸のことをわざといじっている)。



だが、たとえそうだと理解していても、ペッシには一つ気がかりがあった。



「でも……その、プロシュート兄貴」



こちらを鋭く突き刺すブルー。何度視線を交わしても、その力強さに心が震える。

――言うべきだろうか。言ってもいいだろうか。


一方、自分の名前で音を区切り、なぜか口ごもる彼に男は眉根を寄せた。



「あ? ペッシよ〜! 言いたいことは胸張って言え。そこに、兄貴分弟分は関係ねえ! そう教えたはずだぜ」


「……だよな、うん。なんていうか……名前のことっすけど」


「名前? 名前がなんだ。っと、≪あいつをいじめてやんな≫とか野暮なことは言うんじゃねえぞ……ペッシ。オメー察してんだろ? オレはあいつを――」


「いや……そ、そうじゃねえんだ! プロシュート兄ィ!」



鼓膜を貫く叫び。

なら、なんだってんだ――少しばかり首を捻ったプロシュートが、いつの間にか立ち上がっているペッシへ視線を移せば、



「名前、結構天然というかかなり≪鈍感≫だからさ……兄貴の想いに気付いてないみたいだし、このままだと――」







「兄貴より、リーダーに懐いちゃうんじゃないかな、って……」



と、紡ぎ出される。


弟分の心を巣食っていたその不安を聞いて、兄貴分はわずかに目を見開いていた。


喧騒の広がる昼時とは思えないほど、沈黙が漂うその場。



「……」


「……」


「……」




しばらくして、微風で結い上げた髪を揺らした男の口が、動く。



「……ペッシ」


「!」



上がった腰。

≪怒られるのでは≫と胸中で育まれた怯え。そして驚き。その入り交じった二つを双眸に宿したペッシが、おもむろに彼を見上げると。



「さっさと名前、回収しに行くぞ」



あのロリコンに奪われちゃあ、たまったモンじゃねえからな。

そう一言付け加えて、淡々と会計へ向かうプロシュート。


――やっぱ兄貴はかっけーや!

改めて彼への憧憬を実感した青年は、男のすらりとした、それでいて逞しく美しい後ろ姿を心に焼き付けつつ、慌ててついていくのだった。



「うっす!」



いざ、コンプレックスを気にしがちな、可愛い妹分を迎えに。





終わり








長らくお待たせいたしました!
兄貴と貧乳ヒロインのギャグでした。
リクエストありがとうございました!
少々意地悪な兄貴になりましたが、いかがでしたでしょうか?


感想&手直しのご希望がございましたら、clapもしくは〒へお願いいたします!
Grazie mille!!
polka



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