※メローネに悪戯を仕掛けられているようです。
※ツンデレヒロイン
「……気になってたんだけどさ」
ある日のこと。
おもむろに口を開いたイルーゾォは、ソファに座るメローネと名前を半分睨むように見つめた。
「お前らって、付き合ってんの? 付き合ってないの? どっちだよ!?」
そう、傍から見ると≪仲間以上恋人未満≫の二人。
彼らの関係は一体どうなっているのか。そもそも、あの変態が名前に手を出していないわけがあるだろうか――この頃仲間内で話題になることの真意を、男は問うことにしたのである。
しかし、渦中の男女はと言えば、
「「付き合ってない」」
と、あっけらかんとした表情のままなぜか声を揃えて答えるばかり。
――本当かよ。
思わず宿してしまう訝しげな眼差し。
すると、≪やれやれ≫と言いたげに肩を仰々しく竦めてみせるメローネ。
「まあ、でも? オレたちいろーんなことが≪まだ≫なだけで……すでに相思相愛だもん、な−?」
隣の少女の肩に腕を回し、求めた同意。
当然、聞き捨てならない単語を耳にしたためか、彼女の頬は見る見るうちに赤く染まった。
「なっ……わ、私は別にメローネのことなんてなんとも思ってない! 勝手に≪お互い≫って決めないでよ! バカ! 変態! 母胎マニア――っ!」
「ガハァッ! ……くっ、ベネ……! パンチが入ってくるこの角度、後でジンジンとオレを攻め立てるこの痛さ、名前の柔すぎるわけでもなく輩みたいに硬いわけでもないこの感触……すごくイイッ!」
そう恍惚気味に言って、名前の手のひらを舐めようと長い舌を出す男。
もちろん、咄嗟の判断でその手を引っ込めた彼女は、もう片方の拳で彼の腹部を打ち砕く。
すっかりじゃれ付き始めてしまった(周りにはそう見える)、男と女。そんな二人が気付くはずもなかったのだ。
「……リア充は許可しない」
イルーゾォが、げっそりとした顔色で小さな拒絶を呟いたことに。
このように≪恋人では?≫と仲間にすら誤解される二人だったが――実は、少女はメローネが毎日と言っていいほど繰り出す悪戯に頭を悩ませていた。
まずは、そのうちの初歩的な悪戯から紹介しよう(レベル1)。
「ふあーあ……眠い」
「あれ? いつも昼寝したら、リーダーが晩ご飯って起こしに来るまで寝てる名前が、珍しいじゃん。仕事?」
薄紅色の瑞々しい唇から溢れるあくび。
それをグッと噛み殺した名前は、ひょこりとリビングから顔を覗かせた同僚に≪別に……買い物に行くだけ≫とそっけなく頭を振るう。
次の瞬間、アイマスクと手袋を装着していない彼が浮かべた薄い笑み。
「へえ……そっかそっかあ」
――その顔。
長年の付き合いゆえだろうか。
男が、自分が関与しているか否かは別として、何かしらの悪巧みをしていると瞬時に判断する脳髄。
警戒心を露わにした彼女は、眼前で半月を描く二つの翡翠を睨めつけながら、≪しらばっくれたら許さない≫と念を押すように言葉を紡ぎ出した。
「メローネ。……私が寝てる間に、何もしてないよね?」
「あはっ、そんなわけないだろ? それとも名前は、オレとの間にナニかあってほしかった? ん?」
「! ちがッ……バカな事言わないでよ、このスカタン! 私がそんなこと望むわけないし、第一そういうのは順序が…………っ買い物行ってくる!」
いってらっしゃーい。
照れ臭さと恒例の天邪鬼で、鏡を見ることなくアジトを飛び出した少女。
数十分後。
それが、そもそもメローネの弁解を鵜呑みにすること自体が間違いだと、身を以て体験することになる。
ガチャ――扉が開くと同時に、外から現れた少々俯き気味の名前に、相変わらず自分の言うことを聞かない猫を無理やり抱えたホルマジオは、これでもかと言うほど目を丸くした。
「お? どうした、名前。もう買い物終了か? 今日はずいぶん早いじゃねェか。ハハッ、さては懲りないナンパが鬱陶しすぎて――」
「……メローネはどこ?」
「おいおい、話を……って、メローネェ? メローネなら……≪火山が噴火する前に非難するよ≫とかなんとか意味わかんねーこと言って、自室に引きこもったぜ? 今さっきな」
「〜〜〜〜っ、ほんっとありえない……!」
刹那、彼の回答が相当気に入らなかったのか、怒りを剥き出しにする同僚。
ところが、勢いよく顔を上げた彼女はひどく涙ぐんでいる。
――なんかあいつに、またしてやられたのか? しょォがねーな〜〜!
苦笑した男が胸中で口癖を呟いていると、案の定、少女が何かをカバンから取り出した。それは――
「……なんだそれ。猫耳ならぬ、≪犬耳≫か? 可愛いっちゃァ可愛いが、まさか買い物の戦利品……じゃあねェよな?」
「もちろんよ。メローネの奴……っ≪何もしてない≫って言ってたクセに……!」
「おかげでこれを付けたまま、外出る羽目になったじゃない!」
≪なるほど≫。ホルマジオは、その言葉にすべてを察してしまう。
一方で、確認しなかった私も私だけど――と言いつつも、ひたすら喉を震わせる名前の愚痴は止まらない。
話によれば、「可愛いワンコ」やら「愛らしい耳だね。どうだい、今からお茶でも」やらいつものナンパとは違った誘い方に、本人は最初首をかしげていたらしい。
「しかもショッピングモールのディスプレイでやっと気付いて、慌ててこの耳を外した途端、なぜか残念そうな声が周りから上がって……すごくっ、すごく恥ずかしかったんだからぁああ!」
「お、おう……なんつーか、どんまい! 元気出せって! お前の好きなドルチェ、奢ってやるからよォ」
羞恥と絶望が入り交じった感情を双眸に滲ませ、今にも自棄を起こしそうな少女。そんな彼女を決まって宥めるのは、大体自分たち≪第三者≫の役目なのだ。
≪ったく、悪戯もほどほどにしろよな≫と、部屋でほくそ笑んでいるであろう男へ恨み言を向けながら、ホルマジオは名前を落ち着かせるため、普段と変わらず薄給な今月分の残金を思い返していた。
次は、中堅と言える悪戯である(レベル2)。
犬耳の件以来、かなり恥ずかしい目にあったことも起因し、ツンケンに磨きを増した彼女。
当然、怒りゆえに口もなかなか利いてもらえず――ついに、メローネが動き出した。
「名前サン」
「! び、びっくりした……」
自室へ入ろうとした少女の耳を劈く、少々機械的な声。
慌ててそちらを振り返れば、こちらへ何か≪ラッピングされた箱≫を差し出す少年――のような姿をしたベイビィ・フェイス(息子)。
実は、母胎が関係するのかよくわからないが、この子に限って暗殺向けの息子ではなかったため、基本新しいことが好きな本体の遊び相手になっているのだ。
もちろん、ここで重要なのは、どちらが≪遊んでもらっているか≫という点なのは言うまでもない。
「えっと……これって、メローネからだよね?」
「ハイ。≪ごめんね≫ト言ッテイマシタ」
「……ふーん」
無意識のうちに、気のない返事をしたにも関わらず、ほぼ強制的に手渡されるその代物。
デハ、失礼シマス――そう言って離れた小さな背中を見送りつつ、名前は静かに悪態をつく。
「謝るぐらいなら……悪戯なんて、最初っからやめればいいのに」
音を立てて、足を踏み入れる己の部屋。
メローネはかなり変人だが、見た目が中性的な雰囲気を醸し出していることもあるのか、想像以上にモテているのだろう。
だが、やはり問題はあの性格だ。いつか元恋人とかに、後ろから刺されて――そこで過ぎった、一つの≪憂慮≫。それにハッと我に返った彼女は頭を横へ振り始める。
「何、今の……メローネのことなんて心配じゃない。べ、別にあいつが怪我とかしても寂しくないし、絶対に……そう! これは同情! 変態すぎて女性に引かれてばかりのあいつに、同情してるだけなんだから……!」
苦し紛れの言い訳。
たとえ頭がそれを自覚していても、どうにもならないことはたくさんある。
「……これ、中身なんだろ」
ひとしきり否定を続けた少女は、自分の手の中にある先程受け取ったばかりの箱をじっと見下ろした。
――どうせロクなモノじゃないんだろうな……でも。
懐疑と期待。複雑な心情。しばらく逡巡した名前が、ついに意を決したのか箱を開ける。
ガシャン
次の瞬間、現れたその中身に贈り物は両手から床へと滑り落ちていった。
そして、落下の衝撃に促され、箱の中からは禍々しい色をした――いわゆる大人の玩具たちがこれみよがしに顔を出す。
ひらりと舞う小さな手紙。そこには、こう書かれていた。
「≪あんまり気を張りすぎると、疲れちゃうぜ? ぜひお試しあれ! あ、使ったら捨てるんじゃなくてオレにちょうだ――≫」
「メローネぇぇええええっ//////」
「……名前サンノ悲鳴デスネ」
「ディ・モールトッ! ハアハア、今日も今日とてイイ声じゃあないか……! ベイビィ・フェイス……よくやったぞ!」
こうして、彼女の彼に対する怒りはふりだしに戻るのである。
最後に、最段階の悪戯(レベル3)についてであるが、もはやこれは≪セクハラ≫と呼べるだろう。
カチャリ
「おじゃましまーす」
明朝。男は自室ではなく、お目当ての少女の元にいた。
変態侵入防止のため、リゾットに取り付けてもらったはずの鍵は、いとも簡単にこじ開けられてしまう。
そして、朝特有の青白い光が浮かび上がらせる名前の寝顔に、ようやくあいまみえたと口端を歪めるメローネ。
「うえへへへへ……無防備な格好しちゃってさ」
「……んっ」
短パンから覗く陶器のような白い生足。
少しばかり乱れたキャミソール。
寝息と共に届く小さな声。
それらが、彼女から漂う妙な艶めかしさを助長させた。
「ホント……ハアハア、エロ可愛いんだ・か・ら! ディ・モールト興奮しちゃうなああ」
にやにやと緩む口元を戻そうともしない男。
ついに、繊細ながらも意外に角ばった彼の手が、少女の魅惑的な首筋から鎖骨にかけて這わされていく。
「んん……っ」
ピクリと揺れる身体。太腿に、もう片方の手が添えられた。
「……は、っぁ……ふ」
微かに乱れた息に、男のどこまでも荒い吐息が重なる。
さて、と。そろそろいいかな――自ずと舌なめずりをした侵入者の指先が短パンの裾に差し掛かったところで、名前が大きく身動ぎをした。
そして、丸い瞳がゆっくりと開かれていく。
「んー…………あれ? めろ、ね……?」
「Buon giorno、名前。気分はどうだい?(名前の寝起きにしか聞けない掠れた声! ベネ! ベネェェエエッ!)」
「?」
さわさわさわ、と今も肌を往復する誰かの手のひら。
軽々とした挨拶がにこりと微笑むメローネの口から紡がれたと同時に、脳内が察知する浅い眠りの中での≪違和感≫。彼女は言わずもがな覚醒し――
「この変質者ッ!」
ありったけの腕力で、彼の身体をドアに向かって叩きのめすのだった。
ツンケン少女と数多の悪戯
垣間見えるその子の≪デレ期≫を目指して――
〜おまけ〜
その後、メローネは仁王立ちする名前の前で、一時間に渡り正座を続けていた。
「寝込みを襲うなんて最低! 悪戯にも、限度ってものがあるでしょ!?」
「……スイませェん」
本当に反省しているのだろうか――彼の受け答えに思わず引きつる頬。
すると、彼女の思考を察知した男が、荒い息をこぼしながらこちらを見上げてくる。
「でもさ……ハアハア、止められるわけないだろ!? オレの悪戯で、表情をコロコロ変える名前がベリッシモ可愛いんだよ! ……オレは! ずっと名前の頭の中に居続けたいんだッ!」
あまりにも堂々と宣言されるメローネの願望。
今まで付き合ってきた(母胎にされた?)女性たちは、その異様な実直さに絆されたのかもしれない。
と、脳内で膨らみかけた考えを掻き消すために、少女が咳払いとため息を一つ。
「はあ……あのね、メローネ。どうせなら、悪戯なんてしないで直接会いに来てよ。私、不意を突かれるのが一番嫌なの。それに――」
「……いつもあんな態度取っちゃうけど。メローネのこと……、なんていうか…………別に、嫌い……じゃない、し」
もちろん、身体をやらしく触るのはダメだからね!?
そう息継ぎもせずに思いの丈を吐き出した途端、照れ隠しゆえかふいっとそっぽを向く名前。
カチリ
スイッチが、押された。
「名前――――ッ!」
「!? きゃあああ!?」
「ブヘッ!」
刹那、床に沈み込む彼の身体。
その背中を踏みつけてしまいたい気持ちに、≪そんなことをしてもこいつは喜ぶだけだ≫と己を叱咤した彼女が、男に対してますます眉を吊り上げる。
「だから、いきなりはやめてって言ってるでしょ!?」
「グッ、ナイスパンチ……ハアハアハア……ッだってさ、オレの本能が≪名前と子作りしたい≫って訴えて…………、そうだよ。理屈じゃない、オレたちは互いの本能に導かれてるんだ」
まるで詩人のように切り替わった言葉の羅列。
目の前には、神妙な面持ちのメローネが。
どうしたのだろうか――少しばかり瞳に≪心配≫を滲ませた少女が同僚に一歩近付いた。
「め、メローネ?」
「まったく……オレってば今まで何してたんだか。母胎泣かせの名が泣くぜ……せっかくだし、名前が告白してくれるまで待とうと思ったけど、もう我慢できない! それによくよく考えれば、名前はツンデレだから≪嫌いじゃない=好き≫ってことだし? つまり……≪オレとのベイビィを産んでくれる≫ってことだ!?」
「……あの、一体なんの話をして――」
「名前」
「既成事実、作ろっか(にこー)」
たった四文字、されど四文字。
一瞬で青ざめた名前は、にやにやとした笑みを携えて近寄ってくる彼に慌てて後退る。
「ちょ……やだっ、来ないで!」
「ちょっと〜、そんなに逃げられるとオレが襲ってるみたいじゃん! でも萌えるッ! あ……もしかして身体の相性とか、心配してる? あはは、心配無用だぜ! 前、名前が寝てる間に口腔粘膜を採取して≪きっちり≫測定したから、遺伝子的にも良好! 要するにオレたちは、心の面でも身体の面でも最高のカップルになれるわけだッ! ……いや、待てよ。もう恋人を通り越して≪夫婦≫になろう! な? ディ・モールトいい名案だと思わないかい!?」
男の鬼気迫る表情。
ひどくぎらついた視線。
ベッドに躓き、座り込んでしまった彼女はまさに絶体絶命。
「〜〜あんたって、いちいち話がぶっ飛びすぎなのよっ! バカぁあああ!」
ドカッ
しかし当然ながら、少女も暗殺者。メローネの腹部には、顔を紅潮させた名前から本日何度目かのアッパーが炸裂したらしい。
![](//img.mobilerz.net/sozai/1616_w.gif)
お待たせいたしました!
ツンデレヒロインに悪戯を仕掛けるメローネのお話でした。
リクエスト、そしてお祝いのお言葉ありがとうございました!
ヒロインには最後にデレてもらいました……と言っても、それが変態を喜ばせてしまったのですが(笑)。
感想&手直しのご希望がございましたら、お願いいたします!
Grazie mille!!
polka
>
※ツンデレヒロイン
「……気になってたんだけどさ」
ある日のこと。
おもむろに口を開いたイルーゾォは、ソファに座るメローネと名前を半分睨むように見つめた。
「お前らって、付き合ってんの? 付き合ってないの? どっちだよ!?」
そう、傍から見ると≪仲間以上恋人未満≫の二人。
彼らの関係は一体どうなっているのか。そもそも、あの変態が名前に手を出していないわけがあるだろうか――この頃仲間内で話題になることの真意を、男は問うことにしたのである。
しかし、渦中の男女はと言えば、
「「付き合ってない」」
と、あっけらかんとした表情のままなぜか声を揃えて答えるばかり。
――本当かよ。
思わず宿してしまう訝しげな眼差し。
すると、≪やれやれ≫と言いたげに肩を仰々しく竦めてみせるメローネ。
「まあ、でも? オレたちいろーんなことが≪まだ≫なだけで……すでに相思相愛だもん、な−?」
隣の少女の肩に腕を回し、求めた同意。
当然、聞き捨てならない単語を耳にしたためか、彼女の頬は見る見るうちに赤く染まった。
「なっ……わ、私は別にメローネのことなんてなんとも思ってない! 勝手に≪お互い≫って決めないでよ! バカ! 変態! 母胎マニア――っ!」
「ガハァッ! ……くっ、ベネ……! パンチが入ってくるこの角度、後でジンジンとオレを攻め立てるこの痛さ、名前の柔すぎるわけでもなく輩みたいに硬いわけでもないこの感触……すごくイイッ!」
そう恍惚気味に言って、名前の手のひらを舐めようと長い舌を出す男。
もちろん、咄嗟の判断でその手を引っ込めた彼女は、もう片方の拳で彼の腹部を打ち砕く。
すっかりじゃれ付き始めてしまった(周りにはそう見える)、男と女。そんな二人が気付くはずもなかったのだ。
「……リア充は許可しない」
イルーゾォが、げっそりとした顔色で小さな拒絶を呟いたことに。
このように≪恋人では?≫と仲間にすら誤解される二人だったが――実は、少女はメローネが毎日と言っていいほど繰り出す悪戯に頭を悩ませていた。
まずは、そのうちの初歩的な悪戯から紹介しよう(レベル1)。
「ふあーあ……眠い」
「あれ? いつも昼寝したら、リーダーが晩ご飯って起こしに来るまで寝てる名前が、珍しいじゃん。仕事?」
薄紅色の瑞々しい唇から溢れるあくび。
それをグッと噛み殺した名前は、ひょこりとリビングから顔を覗かせた同僚に≪別に……買い物に行くだけ≫とそっけなく頭を振るう。
次の瞬間、アイマスクと手袋を装着していない彼が浮かべた薄い笑み。
「へえ……そっかそっかあ」
――その顔。
長年の付き合いゆえだろうか。
男が、自分が関与しているか否かは別として、何かしらの悪巧みをしていると瞬時に判断する脳髄。
警戒心を露わにした彼女は、眼前で半月を描く二つの翡翠を睨めつけながら、≪しらばっくれたら許さない≫と念を押すように言葉を紡ぎ出した。
「メローネ。……私が寝てる間に、何もしてないよね?」
「あはっ、そんなわけないだろ? それとも名前は、オレとの間にナニかあってほしかった? ん?」
「! ちがッ……バカな事言わないでよ、このスカタン! 私がそんなこと望むわけないし、第一そういうのは順序が…………っ買い物行ってくる!」
いってらっしゃーい。
照れ臭さと恒例の天邪鬼で、鏡を見ることなくアジトを飛び出した少女。
数十分後。
それが、そもそもメローネの弁解を鵜呑みにすること自体が間違いだと、身を以て体験することになる。
ガチャ――扉が開くと同時に、外から現れた少々俯き気味の名前に、相変わらず自分の言うことを聞かない猫を無理やり抱えたホルマジオは、これでもかと言うほど目を丸くした。
「お? どうした、名前。もう買い物終了か? 今日はずいぶん早いじゃねェか。ハハッ、さては懲りないナンパが鬱陶しすぎて――」
「……メローネはどこ?」
「おいおい、話を……って、メローネェ? メローネなら……≪火山が噴火する前に非難するよ≫とかなんとか意味わかんねーこと言って、自室に引きこもったぜ? 今さっきな」
「〜〜〜〜っ、ほんっとありえない……!」
刹那、彼の回答が相当気に入らなかったのか、怒りを剥き出しにする同僚。
ところが、勢いよく顔を上げた彼女はひどく涙ぐんでいる。
――なんかあいつに、またしてやられたのか? しょォがねーな〜〜!
苦笑した男が胸中で口癖を呟いていると、案の定、少女が何かをカバンから取り出した。それは――
「……なんだそれ。猫耳ならぬ、≪犬耳≫か? 可愛いっちゃァ可愛いが、まさか買い物の戦利品……じゃあねェよな?」
「もちろんよ。メローネの奴……っ≪何もしてない≫って言ってたクセに……!」
「おかげでこれを付けたまま、外出る羽目になったじゃない!」
≪なるほど≫。ホルマジオは、その言葉にすべてを察してしまう。
一方で、確認しなかった私も私だけど――と言いつつも、ひたすら喉を震わせる名前の愚痴は止まらない。
話によれば、「可愛いワンコ」やら「愛らしい耳だね。どうだい、今からお茶でも」やらいつものナンパとは違った誘い方に、本人は最初首をかしげていたらしい。
「しかもショッピングモールのディスプレイでやっと気付いて、慌ててこの耳を外した途端、なぜか残念そうな声が周りから上がって……すごくっ、すごく恥ずかしかったんだからぁああ!」
「お、おう……なんつーか、どんまい! 元気出せって! お前の好きなドルチェ、奢ってやるからよォ」
羞恥と絶望が入り交じった感情を双眸に滲ませ、今にも自棄を起こしそうな少女。そんな彼女を決まって宥めるのは、大体自分たち≪第三者≫の役目なのだ。
≪ったく、悪戯もほどほどにしろよな≫と、部屋でほくそ笑んでいるであろう男へ恨み言を向けながら、ホルマジオは名前を落ち着かせるため、普段と変わらず薄給な今月分の残金を思い返していた。
次は、中堅と言える悪戯である(レベル2)。
犬耳の件以来、かなり恥ずかしい目にあったことも起因し、ツンケンに磨きを増した彼女。
当然、怒りゆえに口もなかなか利いてもらえず――ついに、メローネが動き出した。
「名前サン」
「! び、びっくりした……」
自室へ入ろうとした少女の耳を劈く、少々機械的な声。
慌ててそちらを振り返れば、こちらへ何か≪ラッピングされた箱≫を差し出す少年――のような姿をしたベイビィ・フェイス(息子)。
実は、母胎が関係するのかよくわからないが、この子に限って暗殺向けの息子ではなかったため、基本新しいことが好きな本体の遊び相手になっているのだ。
もちろん、ここで重要なのは、どちらが≪遊んでもらっているか≫という点なのは言うまでもない。
「えっと……これって、メローネからだよね?」
「ハイ。≪ごめんね≫ト言ッテイマシタ」
「……ふーん」
無意識のうちに、気のない返事をしたにも関わらず、ほぼ強制的に手渡されるその代物。
デハ、失礼シマス――そう言って離れた小さな背中を見送りつつ、名前は静かに悪態をつく。
「謝るぐらいなら……悪戯なんて、最初っからやめればいいのに」
音を立てて、足を踏み入れる己の部屋。
メローネはかなり変人だが、見た目が中性的な雰囲気を醸し出していることもあるのか、想像以上にモテているのだろう。
だが、やはり問題はあの性格だ。いつか元恋人とかに、後ろから刺されて――そこで過ぎった、一つの≪憂慮≫。それにハッと我に返った彼女は頭を横へ振り始める。
「何、今の……メローネのことなんて心配じゃない。べ、別にあいつが怪我とかしても寂しくないし、絶対に……そう! これは同情! 変態すぎて女性に引かれてばかりのあいつに、同情してるだけなんだから……!」
苦し紛れの言い訳。
たとえ頭がそれを自覚していても、どうにもならないことはたくさんある。
「……これ、中身なんだろ」
ひとしきり否定を続けた少女は、自分の手の中にある先程受け取ったばかりの箱をじっと見下ろした。
――どうせロクなモノじゃないんだろうな……でも。
懐疑と期待。複雑な心情。しばらく逡巡した名前が、ついに意を決したのか箱を開ける。
ガシャン
次の瞬間、現れたその中身に贈り物は両手から床へと滑り落ちていった。
そして、落下の衝撃に促され、箱の中からは禍々しい色をした――いわゆる大人の玩具たちがこれみよがしに顔を出す。
ひらりと舞う小さな手紙。そこには、こう書かれていた。
「≪あんまり気を張りすぎると、疲れちゃうぜ? ぜひお試しあれ! あ、使ったら捨てるんじゃなくてオレにちょうだ――≫」
「メローネぇぇええええっ//////」
「……名前サンノ悲鳴デスネ」
「ディ・モールトッ! ハアハア、今日も今日とてイイ声じゃあないか……! ベイビィ・フェイス……よくやったぞ!」
こうして、彼女の彼に対する怒りはふりだしに戻るのである。
最後に、最段階の悪戯(レベル3)についてであるが、もはやこれは≪セクハラ≫と呼べるだろう。
カチャリ
「おじゃましまーす」
明朝。男は自室ではなく、お目当ての少女の元にいた。
変態侵入防止のため、リゾットに取り付けてもらったはずの鍵は、いとも簡単にこじ開けられてしまう。
そして、朝特有の青白い光が浮かび上がらせる名前の寝顔に、ようやくあいまみえたと口端を歪めるメローネ。
「うえへへへへ……無防備な格好しちゃってさ」
「……んっ」
短パンから覗く陶器のような白い生足。
少しばかり乱れたキャミソール。
寝息と共に届く小さな声。
それらが、彼女から漂う妙な艶めかしさを助長させた。
「ホント……ハアハア、エロ可愛いんだ・か・ら! ディ・モールト興奮しちゃうなああ」
にやにやと緩む口元を戻そうともしない男。
ついに、繊細ながらも意外に角ばった彼の手が、少女の魅惑的な首筋から鎖骨にかけて這わされていく。
「んん……っ」
ピクリと揺れる身体。太腿に、もう片方の手が添えられた。
「……は、っぁ……ふ」
微かに乱れた息に、男のどこまでも荒い吐息が重なる。
さて、と。そろそろいいかな――自ずと舌なめずりをした侵入者の指先が短パンの裾に差し掛かったところで、名前が大きく身動ぎをした。
そして、丸い瞳がゆっくりと開かれていく。
「んー…………あれ? めろ、ね……?」
「Buon giorno、名前。気分はどうだい?(名前の寝起きにしか聞けない掠れた声! ベネ! ベネェェエエッ!)」
「?」
さわさわさわ、と今も肌を往復する誰かの手のひら。
軽々とした挨拶がにこりと微笑むメローネの口から紡がれたと同時に、脳内が察知する浅い眠りの中での≪違和感≫。彼女は言わずもがな覚醒し――
「この変質者ッ!」
ありったけの腕力で、彼の身体をドアに向かって叩きのめすのだった。
ツンケン少女と数多の悪戯
垣間見えるその子の≪デレ期≫を目指して――
〜おまけ〜
その後、メローネは仁王立ちする名前の前で、一時間に渡り正座を続けていた。
「寝込みを襲うなんて最低! 悪戯にも、限度ってものがあるでしょ!?」
「……スイませェん」
本当に反省しているのだろうか――彼の受け答えに思わず引きつる頬。
すると、彼女の思考を察知した男が、荒い息をこぼしながらこちらを見上げてくる。
「でもさ……ハアハア、止められるわけないだろ!? オレの悪戯で、表情をコロコロ変える名前がベリッシモ可愛いんだよ! ……オレは! ずっと名前の頭の中に居続けたいんだッ!」
あまりにも堂々と宣言されるメローネの願望。
今まで付き合ってきた(母胎にされた?)女性たちは、その異様な実直さに絆されたのかもしれない。
と、脳内で膨らみかけた考えを掻き消すために、少女が咳払いとため息を一つ。
「はあ……あのね、メローネ。どうせなら、悪戯なんてしないで直接会いに来てよ。私、不意を突かれるのが一番嫌なの。それに――」
「……いつもあんな態度取っちゃうけど。メローネのこと……、なんていうか…………別に、嫌い……じゃない、し」
もちろん、身体をやらしく触るのはダメだからね!?
そう息継ぎもせずに思いの丈を吐き出した途端、照れ隠しゆえかふいっとそっぽを向く名前。
カチリ
スイッチが、押された。
「名前――――ッ!」
「!? きゃあああ!?」
「ブヘッ!」
刹那、床に沈み込む彼の身体。
その背中を踏みつけてしまいたい気持ちに、≪そんなことをしてもこいつは喜ぶだけだ≫と己を叱咤した彼女が、男に対してますます眉を吊り上げる。
「だから、いきなりはやめてって言ってるでしょ!?」
「グッ、ナイスパンチ……ハアハアハア……ッだってさ、オレの本能が≪名前と子作りしたい≫って訴えて…………、そうだよ。理屈じゃない、オレたちは互いの本能に導かれてるんだ」
まるで詩人のように切り替わった言葉の羅列。
目の前には、神妙な面持ちのメローネが。
どうしたのだろうか――少しばかり瞳に≪心配≫を滲ませた少女が同僚に一歩近付いた。
「め、メローネ?」
「まったく……オレってば今まで何してたんだか。母胎泣かせの名が泣くぜ……せっかくだし、名前が告白してくれるまで待とうと思ったけど、もう我慢できない! それによくよく考えれば、名前はツンデレだから≪嫌いじゃない=好き≫ってことだし? つまり……≪オレとのベイビィを産んでくれる≫ってことだ!?」
「……あの、一体なんの話をして――」
「名前」
「既成事実、作ろっか(にこー)」
たった四文字、されど四文字。
一瞬で青ざめた名前は、にやにやとした笑みを携えて近寄ってくる彼に慌てて後退る。
「ちょ……やだっ、来ないで!」
「ちょっと〜、そんなに逃げられるとオレが襲ってるみたいじゃん! でも萌えるッ! あ……もしかして身体の相性とか、心配してる? あはは、心配無用だぜ! 前、名前が寝てる間に口腔粘膜を採取して≪きっちり≫測定したから、遺伝子的にも良好! 要するにオレたちは、心の面でも身体の面でも最高のカップルになれるわけだッ! ……いや、待てよ。もう恋人を通り越して≪夫婦≫になろう! な? ディ・モールトいい名案だと思わないかい!?」
男の鬼気迫る表情。
ひどくぎらついた視線。
ベッドに躓き、座り込んでしまった彼女はまさに絶体絶命。
「〜〜あんたって、いちいち話がぶっ飛びすぎなのよっ! バカぁあああ!」
ドカッ
しかし当然ながら、少女も暗殺者。メローネの腹部には、顔を紅潮させた名前から本日何度目かのアッパーが炸裂したらしい。
![](http://img.mobilerz.net/sozai/1616_w.gif)
お待たせいたしました!
ツンデレヒロインに悪戯を仕掛けるメローネのお話でした。
リクエスト、そしてお祝いのお言葉ありがとうございました!
ヒロインには最後にデレてもらいました……と言っても、それが変態を喜ばせてしまったのですが(笑)。
感想&手直しのご希望がございましたら、お願いいたします!
Grazie mille!!
polka
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