※変態ヒロイン
※ヒロイン以外が、酔いどれています=言わずもがなカオス
酒の力。
それは時に人を癒し、時に人を崩壊させる。
この日、珍しく十分な報酬を手に入れた暗殺チームのリビングには、異様な空気が充満していた。
「唯一無二の存在! ≪アレ≫を剥ぎ取った瞬間、相見える肌。絶対恥ずかしがって赤らむに違いない顔。アジトの柔軟剤とは違った芳しい香り……イイ! 想像しただけでも興奮してきちゃった……!」
「……おー」
独特の香りが漂う中、何かについて力説する女。
ちなみにこの少女、名前はその高いテンションから酔っぱらっているように思えるが、実は素面である。
一方、彼女からの話を聞いて、適当な返事を口にしたチーム一の酒豪を誇るホルマジオ。
それすら顧みず、連ねられる言葉。
「どう? これで私が≪イルーゾォの下着≫を欲する理由……わかってくれた!?」
――ああ、もったいない。
目をぎらつかせ、鼻息荒く少女が語っていたのは、同じくチームメイトの下着について。外見と性格――初対面の相手にショック死を与えてしまいそうなほど存在する名前のギャップに、妙な虚しさで胸中を埋め尽くされたホルマジオはおもむろに口を開く。
「いやァ……≪どう≫、って言われてもなァ……正直よォ、あいつの下着でそんだけ盛り上がれんのお前ぐれェだと思うぜ?」
「え、なんで!? マジオさん……どうしてわかってくれないの!?」
「おいおい。無茶言うなって」
そもそもなぜ自分に聞かせようと思ったのだ。
彼はそう続けようとして、≪俺がこいつの隣に座ったからだ≫と諦めを表すように項垂れた。
すると、ホルマジオには通じないと判断したのか、きょろきょろと顔を動かしていた彼女の瞳がある一点で止まる。
「! 兄貴! プロシュート兄ィ!」
「あ?」
シンプルな部屋に映える赤いソファ。そこには、長い脚を組んでグラスに手を付けるプロシュートの姿が。
「≪イルーゾォの下着は正義≫……兄貴もそう思うよね!? ね!?」
そして兄貴なら理解してくれるに違いない――という根拠のない自信に促された名前は、意気揚々と本音を漏らした。
当然ながら、頬の色が少なからず変わった状態のプロシュートは、訝しげに眉根を寄せる。
「……話がよくわかんねえんだが」
「さっきまでイルーゾォの下着の素晴らしさを語ってたんだ! でもね、マジオさんがなかなかわかってくれないの」
「ほーう」
会話の中で挙げられた自分の名前に、ホルマジオはもう一度ため息をついてから、おそらく酔っていないであろう同僚にアイコンタクトを図ることにした。
自分はこの後輩の変態話に飽き飽きしているのだ、と。
そんな彼に対して、ブロンドを蛍光灯に煌めかせた男はやおら片眉を吊り上げ――
「じゃあ、≪オレのはどうだ?≫」
「……は?」
吐き出したのは、ホルマジオの想像を絶する言葉。
こいつまで何言ってんだ――そんな丸刈り男の心情は露知らず、プロシュートは惜しげもなく≪肌色≫を晒していく。
「気分が乗った。見せてやるよ……つっても、今日だけだからな。名前、しっかり目に焼き付けとけよ?」
「いや、待て待て待て。お前……今日に限って酔ってるだろ!? しょーがねェな〜〜! そもそもよォ、今日だけって……んな≪期間限定≫みてェにするもんじゃ――」
「イイッ! 期間限定? もちろん大歓迎! 兄貴の胸筋で、私パスタ三日分イけるから!」
さながらモデルのような彼に、ますます興奮する少女。
すらりとした躯体。光に照らされた肉体美。
≪うっひょー!≫やら≪ブーメランで床に銃向けてる兄貴、ベネ……!≫と叫ぶ彼女の横顔を一瞥してから、ホルマジオは図らずとも遠方を見据えた。
「(……やべェ。どうにか、どうにか名前を止める奴が……お。あそこにリーダーがいんじゃねェか……!)」
求める終止符。見る限り、顔色が変わっていないチームのリーダーに男が期待の眼差しを向ける、と。
「……さてと」
その一声と共に、立ち上がったリゾットまでがなぜか己の服を脱ぎ捨てていく。
実は仕事からの疲れと解放感ゆえか、この男もまた、久々に酒を痛飲したことで≪完全に出来上がっていた≫。
「おいおいリーダー! 今から家事始めるか、みたく脱ぎ出すんじゃねェよ! つーか、酔ってんのか酔ってねえのか、あんたガチでわかりにくいなァ、おいッ!」
「キター! よっ! 大本命! リーダー、いつも腹筋の大半は晒してくれてるけど、下は見たことないからね……!」
眼前の光景に荒ぶる心。今、名前は幸せの最絶頂にいる。
「はあ、はあ……ベネ! ベネーっ!」
隆々とした筋肉。
後頭部で組んだ無骨な手。
少しばかり反らされた背中。
恒例の「オレはお前に近付かない」。
人々はそれを、≪ジョジョ立ち≫という。
どこから取り出したのかわからないが、愛用するカメラのシャッターを切りつつ、少女はひどく恍惚とした笑みを浮かべていた。
「兄貴とリーダー……一日で二人も生脱ぎ、生下着姿を見られるなんて! 今日の私、なんて運がいいの! もう盗撮要らずだね! はあはあ、すごく……ベリッシモ……イイ……ッ」
「(……その言い方、あいつが出てきて仕方がねェ)」
もう頼る者は誰もいない。
かと言って、自ら彼女の前に立ちはだかるほど、自分は猛者ではないし気力もない。
隣から飛び出した科白に、現実逃避の如くホルマジオがアジトに棲みつくもう一人の変態を脳内に過ぎらせた、そのとき。
「だーれだ!」
名前の背後から届いたテンションの高い声。
出てきやがった――頬を引き攣らせる彼の傍らで、少女は≪誰だろう≫と考える素振りすら見せず喉を震わせる。
「ふふー……服越しに伝わる手の体温、しっとりとした肌、今もわきわきと這い回るこの動き……メローネでしょ!」
「あったりー! こんなに早く当ててくれるなんて、ベリッシモ嬉しいよ!」
あからさまに喜ぶもう一人の変態――メローネ。
だが、彼の両手は相変わらずわきわきと動かされ続けていた。
付け加えておくと、≪ふふふ≫と怪しく笑う彼女は目元を隠されているわけではない。
では今、男の指先は名前のどこを捉えているのかと言えば――
「で? 同士であるメローネはどうして私の胸を揉んでるのかなー?」
「んー? ただ名前のこの適度な滑らかさ、柔らかさを堪能したくなったから……それだけだぜ!」
「……あはは、そっかあ。そうなんだ……うふふふふー(にこにこ)」
「そうだよ、だからもっと…………むッ? ねえ、名前のおぱーいさ、前より一回り大きくなったんじゃない? ハアハア、ッなんだ? ナニがあったんだい!? ハアハアハア……このメローネさんに言ってごら――グエッ!」
次の瞬間、容赦ないアッパーが顎元を抉り、遠くまで吹っ飛んでしまったメローネ。
どうやら自分が触れられることはお気に召さないらしい。その基準が理解できないのか、虫の息で≪ベネ≫と囁く彼を気に留めることなく、再びカメラを手に取る少女におずおずと近付くペッシ。
「あのー……どうして名前はオレたちにセクハラするのに、されるのは嫌なんすか? するもされるも一緒なんじゃ……」
実は、以前から彼女の猛烈たるセクハラに悩まされていた(一名は悦んでいた)男たち。
特に奇襲をかけられる被害者は、ド天然のリゾットともっとも隙だらけのペッシである。
≪する≫と≪される≫の差異。あまりにも不思議そうな後輩に、一瞬目を丸くした名前はにやりと笑って人差し指を左右へ振った。
「ノンノン。甘いよ、おばあちゃんが孫のために丹精込めて作った、シュークリームよりゲロ甘いよ……夢見る童貞ことペッシくん!」
「まあ、確かにあれは甘いっすよね……って、ちょ! 名前ひどくないっすか!? 第一オレは、ど…………童貞っすけど!!」
「ふっふー、素直でよろしい。どう? 今度お姉さんが手取り足取り腰取り教えてあげよ……って、そうじゃなかった。なんで私はみんなの筋肉もろもろを堪能してるのに、相手には触らせないのかって? それは――」
「≪ヤられるより、ヤる≫! これが私の信条だからだよ!」
……。
――ああ、どう返せばいいのかわからない。
ちらりと視線を向ければ肩を竦めるホルマジオが。
なぜ聞いてしまったんだ。その思い一心でペッシが涙している、と。
「テメーらよォオオ……いちいちいちいち、うっせェーんだよ! 黙って飲みやがれ、ボケがァアア!」
「!(ギアッチョなら拳骨でもなんでもして、名前を止めてくれるかもしれねえ!)」
わずかな期待。
それを胸に、憐れとも言える弟分は振り返った、が。
「な、なんでギアッチョまで脱いでるんだよ……!」
衝撃的な映像。ホルマジオとペッシは目を剥くことしかできない。
「ハッ、ンなモン俺の自由だろうがァアア! 大体、この部屋熱いんだよ……! 俺をナメてんのかァ――ッ!?」
「まさかギアッチョが……はあっ、チームの中で一番ガードの固いあのギアッチョが脱いでくれた……なんて意外に逞しい身体なのッ! あと、やっぱり前から目を付けてた腰がたまらん! ギアッチョお願い、あのかっこいい動きして! スピードスケーター! 私、アレ好きなの!」
「ケッ、褒めても何も出ねーぞ……ひっく」
そう言いながらも、きちんとポーズを取る赤い顔のギアッチョ。
酒の影響もあるのか、妙なところで律儀である。
ノリのいい男と盛り上がる彼女をなんとも言えない表情で見つめていると、ふと己の背後に気配を感じた。
「……」
「! あ……兄貴? ど、どうしたんすか? というか風邪引いちまうんで、そろそろ服を着てほし……」
「おいコラペッシィ! お前よ〜、全ッ然酒飲んでねえじゃねえか! なんのつもりだ、ゴラァ」
「は!? いや、プロシュート兄ィすいやせん。オレは最初から飲まないつもりで――」
「こんのマンモーニがッ! オレの注ぐ酒が飲めねえっつーのか!? いいから飲め! 話はそれからだ!」
「え、ちょ、兄貴、それウォッk――ぎゃーッ!」
刹那、食道を通して流れ込んでくるアルコール。
もちろん、弱いと自覚している弟分が酔いに打ち勝てるはずもなく。
「兄貴の覚悟を! 言葉ではなく肝臓で理解できた!」
バーン
その効果音がまるで付いているかのように、ビーチ・ボーイを手に握るペッシ。
すかさず彼のお腹に飛び付きつつ、少女はテンションをさらに高めていく。
「おっほ! ペッシのお腹気持ちいい〜!」
その光景に奮い立たされたのは、先程吹っ飛んだメローネだった。
「オレもうかうかしてらんないな……いざ!」
ホルマジオの制止の声も聞かず、身体を大の字に作るように腕を広げた男。
そして、一言呟く。
「良好……ですか?」
「おお〜!?」
ひらめく白いふんどし。
想像した以上に逞しい躯体。
名前は驚きと興奮に目を見開いた。
「どうだい!? 名前! これであんたに≪細身≫なんて言わせないぜ!」
「く、悔しい……悔しいけどバイク運転してるだけのことはある! ガタイがいい! 意外ッ! それはメローネの背中……このうなじから尾骨にかけてのライン、ベネ! 新しい扉が開けそう……!」
「だろだろ〜? さあ、名前! オレはすべて(下着以外)を曝け出したんだ……あんたもその神秘に満ち溢れたベリッシモエロい裸体を、オレに見せブベネッ!」
とは言え、やはり変態は変態である。
改めてどこかへ飛んで行った仲間に、残された丸刈り男がもはや苦笑だけを唇からこぼしている――と。
「んー? おまえら、なにしてんだよ……」
「ッ、イルーゾォ!」
すべての根源、イルーゾォがほろ酔い状態で歩み寄って来た。
言うまでもなく抱きつこうとする少女。
その首根っこを捕まえながら、彼はこれまでの経緯を簡単に説明する。
「ったく、お前もよく飲んだなァ。実は名前の一言がきっかけで、みんな下着姿晒し始めちまってよ……あと残ってんのはお前だけ――」
だから、脱いでくれんなよ。
その意味も込めて紡ぎ出した音。
しかしもう遅い。
ホルマジオが話を終えるより先に、イルーゾォは寝ぼけ眼で自身の服を捨てたのだから。
さらに、ポーズだけは鏡にいるかのように自信に満ち溢れているのだから、どうしようもできない。
「うっひょわぁあああ!?」
「はは……名前なんだよその声……変なの」
「つ、ついに念願の下着が目の前に……! どうしよう……取る? 取っちゃう!? うぐぐぐ、迷う……あともう数センチ手を伸ばせばできるのに、でも剥ぎ取りたくない気持ちもある……〜〜っその境界線がベネ!」
取るか、取らざるか。そのことで身悶える名前。
こうして室内は、セミヌードの男が6人、発狂し何度もカメラを持つ女が1人、こいつら放って部屋に戻ろうかと悩み始めた男が1人と――まさに惨状と呼べる状況下に陥っていた。
だが、人間とはそもそも環境、時代、同胞とさまざまなモノに流される生き物である。
次々と己の身体を服から解放していく仲間を見ているうちに、ホルマジオもその肌色率に感化され――
「しょォがねーな〜〜!」
床にはもう一着の服が散らばっていた。
すると、彼女が叫ぶと同時にフラッシュが彼を突き刺す。
「ちょっ……ベネ! なんてイイ体つき! 腹筋や腕だけじゃなくて、いつもいろいろ出したらいいのに! リーダーみたいに!」
「ハハッ、大袈裟だなァおい」
「いやいや本音だから! 下着から伸びる足と引き締まった筋肉……ああ、でも! マジオさんはあの腹見せがたまんないんだよね……!」
リビングに並ぶ七人の男たち(withジョジョ立ち)。興奮冷めやらぬまま、名前はほうと恍惚の吐息を漏らした。
「目の前に広がる七者七様の下着姿……はあっ、わかった! ここが楽園なんだ! はあはあ……あ、そうだ! 集合写真撮っとこうっと」
パシャッ
たった一枚、されど一枚。この写真を見た瞬間、全員――メローネ以外――が頬を引きつらせ、その黒歴史にこれまたそれぞれ個性的な反応を示してくれるだろう。
その光景を想像したのか、少女がほくそ笑んでいると、知らぬ間にキッチンへ移動したプロシュートの普段よりトーンの高い声が皆の耳に届く。
「お前ら! キッチンの棚の奥にまだ酒があったぜ……どうする? 行くか?」
問われた理性。しかし答えは言わずもがな――
「……そうだな」
「はれほれひー……お、おれものみたいっす〜」
「オレもディ・モールト飲み足りない……ハッ! 酒、飲まずにはいられない!」
「んー……禁酒なんて、許可しない……あー、どんどんつまみほしくなってきた」
「クソックソッ、まっっったく飲み足りねえェ――ッ! ひっく……つーかよォオオ、≪酒池肉林≫っつー(以下省略)」
「おいおーい、それ俺が隠してた奴じゃねーか。……ま、いっか。今日は飲み明かそうぜ!」
Siだ。
しばらくして、さらに広がった独特の香り。彼女は再び盛り上がりそうな彼らを止めることなく、むしろ楽しそうに見守るばかり。
「はあ、はあ……っリーダーの腹筋、兄貴の胸筋、メローネの背筋、ペッシのお腹、ギアッチョの臀部、マジオさんの上腕二頭筋、イルーゾォの腸骨筋……ああっ、フィルム一つじゃ足りない……!」
はあはあとひどく息を切らした名前は、狭いリビングで夜明けまで騒ぐ大の大人たちをカメラのレンズ越しに傍観しながら、一人オレンジジュースの入ったグラスに口を付けるのだった。
パクス・アジータ
今日もアジトは、平和である。
〜おまけ〜
明朝。まるで嵐が過ぎた後のように、静まったリビング。
皆が皆、いわゆる≪二日酔い≫に悩まされているのか、廊下に足音が響き渡ることはない。
そうした最中、小さなテーブル一面に写真を一枚一枚並べて、ソファに腰掛けながら時折口元を歪める女が一人。
「ふふ、これをこうして……ふふ」
「(あー、水。水ほしい……って名前だ。何してるんだ? ……いや、今まであの表情のあいつに関わるとロクなことなかったし、そっとしておこ――)」
「なぁにをそっとしておくのかな? イルーゾォ」
「!?」
沈黙を貫くように、そーっと鏡から身体を這い出させたイルーゾォだったが、その声に肩をビクリと揺らした。
一方、眼前に立つ彼の硬直した表情を気にすることなく、名前はペラペラと説明を始める。
「実は今ね、昨日の写真を整理してたんだけど……見てこれ! 腹踊りに寝顔! んふふー、みんな楽しそうで何よりだよね」
「はあ……(どんな状況だよ、これ。まあ確かに記憶ないな……オレ、変なことしてなきゃいいけど――)」
おぼろげな記憶しか持ち得ていない男は、穏便にその場を切り抜けようと生返事をした。
しかし、目線を写真の方へ移した途端、視界に映り込んだ他の仲間よりも確率の高い≪黒髪≫。
見慣れすぎたその色、その結び方――嫌な予感がイルーゾォを急かす。
「ま……ま、まさか……まさかまさかまさか……、ゲッ!?」
押し迫る羞恥。なぜか服を脱いだ下着姿の自分と、今目の前でにこにこ――否、にやにやと微笑む彼女のツーショットに言わずもがな青ざめる男。
「ね、イルーゾォ。私たち……裸の付き合いをした仲でしょ?(私は脱いでないけど)」
≪だからもっと、イルーゾォとお近付きになりたいな≫。
そう象った女の形の良い唇。そしてますます笑みを深めた名前の細腕が、こちらへ伸びてきた。
刹那。
「名前は許可しないィィイイ!」
慌てて自分の世界へと逃げ込んだ。
狼狽する彼は、ある種≪安全≫と呼べる陣地を構えたにも関わらず、これでもかと言うほど震えながらガラスの向こうにいる彼女に応対する。
「(ガクブルガクブル)」
「あー……また鏡に入っちゃった。お願い、イルーゾォ……私も許可して! 何もしないから! 別に今イルーゾォが履いてる下着を剥ぎ取って、クンカクンカしたいなんて、思ってないんだから!」
「ちょ、それが本音だろ! 騙されないぞ……その表情と言葉に何度騙されたと思ってるんだよ。許可しない! 名前が改心しない限り……お、オレは絶対に許可しねえからな! 見た目は結構イイくせにほんとなんなんだよ、お前……!」
途方もない攻防戦。
それからかなり長い間、荒い息と鏡越しの悲鳴がリビングには轟いていた。
ちなみに、男たちのさまざまな痴態を収めたアルバムは今も名前の部屋に潜んでいる――らしい。
終わり
![](//img.mobilerz.net/sozai/1616_w.gif)
長らくお待たせいたしました!
イルーゾォ下着の需要生を語るヒロインと、自分のはどうだと脱ぐ兄貴、そして自ら服を脱ぎ捨て下着姿をヒロインに評価してもらう暗チのお話でした。
リクエストありがとうございました!
脱ぎそうにない人物が約数名いたので、お酒の力を借りましたが……いかがでしたでしょうか?
感想&手直しのご希望がございましたら、お願いいたします!
Grazie mille!!
polka
>
※ヒロイン以外が、酔いどれています=言わずもがなカオス
酒の力。
それは時に人を癒し、時に人を崩壊させる。
この日、珍しく十分な報酬を手に入れた暗殺チームのリビングには、異様な空気が充満していた。
「唯一無二の存在! ≪アレ≫を剥ぎ取った瞬間、相見える肌。絶対恥ずかしがって赤らむに違いない顔。アジトの柔軟剤とは違った芳しい香り……イイ! 想像しただけでも興奮してきちゃった……!」
「……おー」
独特の香りが漂う中、何かについて力説する女。
ちなみにこの少女、名前はその高いテンションから酔っぱらっているように思えるが、実は素面である。
一方、彼女からの話を聞いて、適当な返事を口にしたチーム一の酒豪を誇るホルマジオ。
それすら顧みず、連ねられる言葉。
「どう? これで私が≪イルーゾォの下着≫を欲する理由……わかってくれた!?」
――ああ、もったいない。
目をぎらつかせ、鼻息荒く少女が語っていたのは、同じくチームメイトの下着について。外見と性格――初対面の相手にショック死を与えてしまいそうなほど存在する名前のギャップに、妙な虚しさで胸中を埋め尽くされたホルマジオはおもむろに口を開く。
「いやァ……≪どう≫、って言われてもなァ……正直よォ、あいつの下着でそんだけ盛り上がれんのお前ぐれェだと思うぜ?」
「え、なんで!? マジオさん……どうしてわかってくれないの!?」
「おいおい。無茶言うなって」
そもそもなぜ自分に聞かせようと思ったのだ。
彼はそう続けようとして、≪俺がこいつの隣に座ったからだ≫と諦めを表すように項垂れた。
すると、ホルマジオには通じないと判断したのか、きょろきょろと顔を動かしていた彼女の瞳がある一点で止まる。
「! 兄貴! プロシュート兄ィ!」
「あ?」
シンプルな部屋に映える赤いソファ。そこには、長い脚を組んでグラスに手を付けるプロシュートの姿が。
「≪イルーゾォの下着は正義≫……兄貴もそう思うよね!? ね!?」
そして兄貴なら理解してくれるに違いない――という根拠のない自信に促された名前は、意気揚々と本音を漏らした。
当然ながら、頬の色が少なからず変わった状態のプロシュートは、訝しげに眉根を寄せる。
「……話がよくわかんねえんだが」
「さっきまでイルーゾォの下着の素晴らしさを語ってたんだ! でもね、マジオさんがなかなかわかってくれないの」
「ほーう」
会話の中で挙げられた自分の名前に、ホルマジオはもう一度ため息をついてから、おそらく酔っていないであろう同僚にアイコンタクトを図ることにした。
自分はこの後輩の変態話に飽き飽きしているのだ、と。
そんな彼に対して、ブロンドを蛍光灯に煌めかせた男はやおら片眉を吊り上げ――
「じゃあ、≪オレのはどうだ?≫」
「……は?」
吐き出したのは、ホルマジオの想像を絶する言葉。
こいつまで何言ってんだ――そんな丸刈り男の心情は露知らず、プロシュートは惜しげもなく≪肌色≫を晒していく。
「気分が乗った。見せてやるよ……つっても、今日だけだからな。名前、しっかり目に焼き付けとけよ?」
「いや、待て待て待て。お前……今日に限って酔ってるだろ!? しょーがねェな〜〜! そもそもよォ、今日だけって……んな≪期間限定≫みてェにするもんじゃ――」
「イイッ! 期間限定? もちろん大歓迎! 兄貴の胸筋で、私パスタ三日分イけるから!」
さながらモデルのような彼に、ますます興奮する少女。
すらりとした躯体。光に照らされた肉体美。
≪うっひょー!≫やら≪ブーメランで床に銃向けてる兄貴、ベネ……!≫と叫ぶ彼女の横顔を一瞥してから、ホルマジオは図らずとも遠方を見据えた。
「(……やべェ。どうにか、どうにか名前を止める奴が……お。あそこにリーダーがいんじゃねェか……!)」
求める終止符。見る限り、顔色が変わっていないチームのリーダーに男が期待の眼差しを向ける、と。
「……さてと」
その一声と共に、立ち上がったリゾットまでがなぜか己の服を脱ぎ捨てていく。
実は仕事からの疲れと解放感ゆえか、この男もまた、久々に酒を痛飲したことで≪完全に出来上がっていた≫。
「おいおいリーダー! 今から家事始めるか、みたく脱ぎ出すんじゃねェよ! つーか、酔ってんのか酔ってねえのか、あんたガチでわかりにくいなァ、おいッ!」
「キター! よっ! 大本命! リーダー、いつも腹筋の大半は晒してくれてるけど、下は見たことないからね……!」
眼前の光景に荒ぶる心。今、名前は幸せの最絶頂にいる。
「はあ、はあ……ベネ! ベネーっ!」
隆々とした筋肉。
後頭部で組んだ無骨な手。
少しばかり反らされた背中。
恒例の「オレはお前に近付かない」。
人々はそれを、≪ジョジョ立ち≫という。
どこから取り出したのかわからないが、愛用するカメラのシャッターを切りつつ、少女はひどく恍惚とした笑みを浮かべていた。
「兄貴とリーダー……一日で二人も生脱ぎ、生下着姿を見られるなんて! 今日の私、なんて運がいいの! もう盗撮要らずだね! はあはあ、すごく……ベリッシモ……イイ……ッ」
「(……その言い方、あいつが出てきて仕方がねェ)」
もう頼る者は誰もいない。
かと言って、自ら彼女の前に立ちはだかるほど、自分は猛者ではないし気力もない。
隣から飛び出した科白に、現実逃避の如くホルマジオがアジトに棲みつくもう一人の変態を脳内に過ぎらせた、そのとき。
「だーれだ!」
名前の背後から届いたテンションの高い声。
出てきやがった――頬を引き攣らせる彼の傍らで、少女は≪誰だろう≫と考える素振りすら見せず喉を震わせる。
「ふふー……服越しに伝わる手の体温、しっとりとした肌、今もわきわきと這い回るこの動き……メローネでしょ!」
「あったりー! こんなに早く当ててくれるなんて、ベリッシモ嬉しいよ!」
あからさまに喜ぶもう一人の変態――メローネ。
だが、彼の両手は相変わらずわきわきと動かされ続けていた。
付け加えておくと、≪ふふふ≫と怪しく笑う彼女は目元を隠されているわけではない。
では今、男の指先は名前のどこを捉えているのかと言えば――
「で? 同士であるメローネはどうして私の胸を揉んでるのかなー?」
「んー? ただ名前のこの適度な滑らかさ、柔らかさを堪能したくなったから……それだけだぜ!」
「……あはは、そっかあ。そうなんだ……うふふふふー(にこにこ)」
「そうだよ、だからもっと…………むッ? ねえ、名前のおぱーいさ、前より一回り大きくなったんじゃない? ハアハア、ッなんだ? ナニがあったんだい!? ハアハアハア……このメローネさんに言ってごら――グエッ!」
次の瞬間、容赦ないアッパーが顎元を抉り、遠くまで吹っ飛んでしまったメローネ。
どうやら自分が触れられることはお気に召さないらしい。その基準が理解できないのか、虫の息で≪ベネ≫と囁く彼を気に留めることなく、再びカメラを手に取る少女におずおずと近付くペッシ。
「あのー……どうして名前はオレたちにセクハラするのに、されるのは嫌なんすか? するもされるも一緒なんじゃ……」
実は、以前から彼女の猛烈たるセクハラに悩まされていた(一名は悦んでいた)男たち。
特に奇襲をかけられる被害者は、ド天然のリゾットともっとも隙だらけのペッシである。
≪する≫と≪される≫の差異。あまりにも不思議そうな後輩に、一瞬目を丸くした名前はにやりと笑って人差し指を左右へ振った。
「ノンノン。甘いよ、おばあちゃんが孫のために丹精込めて作った、シュークリームよりゲロ甘いよ……夢見る童貞ことペッシくん!」
「まあ、確かにあれは甘いっすよね……って、ちょ! 名前ひどくないっすか!? 第一オレは、ど…………童貞っすけど!!」
「ふっふー、素直でよろしい。どう? 今度お姉さんが手取り足取り腰取り教えてあげよ……って、そうじゃなかった。なんで私はみんなの筋肉もろもろを堪能してるのに、相手には触らせないのかって? それは――」
「≪ヤられるより、ヤる≫! これが私の信条だからだよ!」
……。
――ああ、どう返せばいいのかわからない。
ちらりと視線を向ければ肩を竦めるホルマジオが。
なぜ聞いてしまったんだ。その思い一心でペッシが涙している、と。
「テメーらよォオオ……いちいちいちいち、うっせェーんだよ! 黙って飲みやがれ、ボケがァアア!」
「!(ギアッチョなら拳骨でもなんでもして、名前を止めてくれるかもしれねえ!)」
わずかな期待。
それを胸に、憐れとも言える弟分は振り返った、が。
「な、なんでギアッチョまで脱いでるんだよ……!」
衝撃的な映像。ホルマジオとペッシは目を剥くことしかできない。
「ハッ、ンなモン俺の自由だろうがァアア! 大体、この部屋熱いんだよ……! 俺をナメてんのかァ――ッ!?」
「まさかギアッチョが……はあっ、チームの中で一番ガードの固いあのギアッチョが脱いでくれた……なんて意外に逞しい身体なのッ! あと、やっぱり前から目を付けてた腰がたまらん! ギアッチョお願い、あのかっこいい動きして! スピードスケーター! 私、アレ好きなの!」
「ケッ、褒めても何も出ねーぞ……ひっく」
そう言いながらも、きちんとポーズを取る赤い顔のギアッチョ。
酒の影響もあるのか、妙なところで律儀である。
ノリのいい男と盛り上がる彼女をなんとも言えない表情で見つめていると、ふと己の背後に気配を感じた。
「……」
「! あ……兄貴? ど、どうしたんすか? というか風邪引いちまうんで、そろそろ服を着てほし……」
「おいコラペッシィ! お前よ〜、全ッ然酒飲んでねえじゃねえか! なんのつもりだ、ゴラァ」
「は!? いや、プロシュート兄ィすいやせん。オレは最初から飲まないつもりで――」
「こんのマンモーニがッ! オレの注ぐ酒が飲めねえっつーのか!? いいから飲め! 話はそれからだ!」
「え、ちょ、兄貴、それウォッk――ぎゃーッ!」
刹那、食道を通して流れ込んでくるアルコール。
もちろん、弱いと自覚している弟分が酔いに打ち勝てるはずもなく。
「兄貴の覚悟を! 言葉ではなく肝臓で理解できた!」
バーン
その効果音がまるで付いているかのように、ビーチ・ボーイを手に握るペッシ。
すかさず彼のお腹に飛び付きつつ、少女はテンションをさらに高めていく。
「おっほ! ペッシのお腹気持ちいい〜!」
その光景に奮い立たされたのは、先程吹っ飛んだメローネだった。
「オレもうかうかしてらんないな……いざ!」
ホルマジオの制止の声も聞かず、身体を大の字に作るように腕を広げた男。
そして、一言呟く。
「良好……ですか?」
「おお〜!?」
ひらめく白いふんどし。
想像した以上に逞しい躯体。
名前は驚きと興奮に目を見開いた。
「どうだい!? 名前! これであんたに≪細身≫なんて言わせないぜ!」
「く、悔しい……悔しいけどバイク運転してるだけのことはある! ガタイがいい! 意外ッ! それはメローネの背中……このうなじから尾骨にかけてのライン、ベネ! 新しい扉が開けそう……!」
「だろだろ〜? さあ、名前! オレはすべて(下着以外)を曝け出したんだ……あんたもその神秘に満ち溢れたベリッシモエロい裸体を、オレに見せブベネッ!」
とは言え、やはり変態は変態である。
改めてどこかへ飛んで行った仲間に、残された丸刈り男がもはや苦笑だけを唇からこぼしている――と。
「んー? おまえら、なにしてんだよ……」
「ッ、イルーゾォ!」
すべての根源、イルーゾォがほろ酔い状態で歩み寄って来た。
言うまでもなく抱きつこうとする少女。
その首根っこを捕まえながら、彼はこれまでの経緯を簡単に説明する。
「ったく、お前もよく飲んだなァ。実は名前の一言がきっかけで、みんな下着姿晒し始めちまってよ……あと残ってんのはお前だけ――」
だから、脱いでくれんなよ。
その意味も込めて紡ぎ出した音。
しかしもう遅い。
ホルマジオが話を終えるより先に、イルーゾォは寝ぼけ眼で自身の服を捨てたのだから。
さらに、ポーズだけは鏡にいるかのように自信に満ち溢れているのだから、どうしようもできない。
「うっひょわぁあああ!?」
「はは……名前なんだよその声……変なの」
「つ、ついに念願の下着が目の前に……! どうしよう……取る? 取っちゃう!? うぐぐぐ、迷う……あともう数センチ手を伸ばせばできるのに、でも剥ぎ取りたくない気持ちもある……〜〜っその境界線がベネ!」
取るか、取らざるか。そのことで身悶える名前。
こうして室内は、セミヌードの男が6人、発狂し何度もカメラを持つ女が1人、こいつら放って部屋に戻ろうかと悩み始めた男が1人と――まさに惨状と呼べる状況下に陥っていた。
だが、人間とはそもそも環境、時代、同胞とさまざまなモノに流される生き物である。
次々と己の身体を服から解放していく仲間を見ているうちに、ホルマジオもその肌色率に感化され――
「しょォがねーな〜〜!」
床にはもう一着の服が散らばっていた。
すると、彼女が叫ぶと同時にフラッシュが彼を突き刺す。
「ちょっ……ベネ! なんてイイ体つき! 腹筋や腕だけじゃなくて、いつもいろいろ出したらいいのに! リーダーみたいに!」
「ハハッ、大袈裟だなァおい」
「いやいや本音だから! 下着から伸びる足と引き締まった筋肉……ああ、でも! マジオさんはあの腹見せがたまんないんだよね……!」
リビングに並ぶ七人の男たち(withジョジョ立ち)。興奮冷めやらぬまま、名前はほうと恍惚の吐息を漏らした。
「目の前に広がる七者七様の下着姿……はあっ、わかった! ここが楽園なんだ! はあはあ……あ、そうだ! 集合写真撮っとこうっと」
パシャッ
たった一枚、されど一枚。この写真を見た瞬間、全員――メローネ以外――が頬を引きつらせ、その黒歴史にこれまたそれぞれ個性的な反応を示してくれるだろう。
その光景を想像したのか、少女がほくそ笑んでいると、知らぬ間にキッチンへ移動したプロシュートの普段よりトーンの高い声が皆の耳に届く。
「お前ら! キッチンの棚の奥にまだ酒があったぜ……どうする? 行くか?」
問われた理性。しかし答えは言わずもがな――
「……そうだな」
「はれほれひー……お、おれものみたいっす〜」
「オレもディ・モールト飲み足りない……ハッ! 酒、飲まずにはいられない!」
「んー……禁酒なんて、許可しない……あー、どんどんつまみほしくなってきた」
「クソックソッ、まっっったく飲み足りねえェ――ッ! ひっく……つーかよォオオ、≪酒池肉林≫っつー(以下省略)」
「おいおーい、それ俺が隠してた奴じゃねーか。……ま、いっか。今日は飲み明かそうぜ!」
Siだ。
しばらくして、さらに広がった独特の香り。彼女は再び盛り上がりそうな彼らを止めることなく、むしろ楽しそうに見守るばかり。
「はあ、はあ……っリーダーの腹筋、兄貴の胸筋、メローネの背筋、ペッシのお腹、ギアッチョの臀部、マジオさんの上腕二頭筋、イルーゾォの腸骨筋……ああっ、フィルム一つじゃ足りない……!」
はあはあとひどく息を切らした名前は、狭いリビングで夜明けまで騒ぐ大の大人たちをカメラのレンズ越しに傍観しながら、一人オレンジジュースの入ったグラスに口を付けるのだった。
パクス・アジータ
今日もアジトは、平和である。
〜おまけ〜
明朝。まるで嵐が過ぎた後のように、静まったリビング。
皆が皆、いわゆる≪二日酔い≫に悩まされているのか、廊下に足音が響き渡ることはない。
そうした最中、小さなテーブル一面に写真を一枚一枚並べて、ソファに腰掛けながら時折口元を歪める女が一人。
「ふふ、これをこうして……ふふ」
「(あー、水。水ほしい……って名前だ。何してるんだ? ……いや、今まであの表情のあいつに関わるとロクなことなかったし、そっとしておこ――)」
「なぁにをそっとしておくのかな? イルーゾォ」
「!?」
沈黙を貫くように、そーっと鏡から身体を這い出させたイルーゾォだったが、その声に肩をビクリと揺らした。
一方、眼前に立つ彼の硬直した表情を気にすることなく、名前はペラペラと説明を始める。
「実は今ね、昨日の写真を整理してたんだけど……見てこれ! 腹踊りに寝顔! んふふー、みんな楽しそうで何よりだよね」
「はあ……(どんな状況だよ、これ。まあ確かに記憶ないな……オレ、変なことしてなきゃいいけど――)」
おぼろげな記憶しか持ち得ていない男は、穏便にその場を切り抜けようと生返事をした。
しかし、目線を写真の方へ移した途端、視界に映り込んだ他の仲間よりも確率の高い≪黒髪≫。
見慣れすぎたその色、その結び方――嫌な予感がイルーゾォを急かす。
「ま……ま、まさか……まさかまさかまさか……、ゲッ!?」
押し迫る羞恥。なぜか服を脱いだ下着姿の自分と、今目の前でにこにこ――否、にやにやと微笑む彼女のツーショットに言わずもがな青ざめる男。
「ね、イルーゾォ。私たち……裸の付き合いをした仲でしょ?(私は脱いでないけど)」
≪だからもっと、イルーゾォとお近付きになりたいな≫。
そう象った女の形の良い唇。そしてますます笑みを深めた名前の細腕が、こちらへ伸びてきた。
刹那。
「名前は許可しないィィイイ!」
慌てて自分の世界へと逃げ込んだ。
狼狽する彼は、ある種≪安全≫と呼べる陣地を構えたにも関わらず、これでもかと言うほど震えながらガラスの向こうにいる彼女に応対する。
「(ガクブルガクブル)」
「あー……また鏡に入っちゃった。お願い、イルーゾォ……私も許可して! 何もしないから! 別に今イルーゾォが履いてる下着を剥ぎ取って、クンカクンカしたいなんて、思ってないんだから!」
「ちょ、それが本音だろ! 騙されないぞ……その表情と言葉に何度騙されたと思ってるんだよ。許可しない! 名前が改心しない限り……お、オレは絶対に許可しねえからな! 見た目は結構イイくせにほんとなんなんだよ、お前……!」
途方もない攻防戦。
それからかなり長い間、荒い息と鏡越しの悲鳴がリビングには轟いていた。
ちなみに、男たちのさまざまな痴態を収めたアルバムは今も名前の部屋に潜んでいる――らしい。
終わり
![](http://img.mobilerz.net/sozai/1616_w.gif)
長らくお待たせいたしました!
イルーゾォ下着の需要生を語るヒロインと、自分のはどうだと脱ぐ兄貴、そして自ら服を脱ぎ捨て下着姿をヒロインに評価してもらう暗チのお話でした。
リクエストありがとうございました!
脱ぎそうにない人物が約数名いたので、お酒の力を借りましたが……いかがでしたでしょうか?
感想&手直しのご希望がございましたら、お願いいたします!
Grazie mille!!
polka
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