彼はシスターコンプレックス
※天然妹ヒロイン
※ギャグ甘





暗殺チームにもっとも遅く入った青年――ペッシには心の兄貴がいる。



「ペッシッ! オメーは何度言ったら理解できんだ!」


「ひィッ! ごめんよ、兄貴ィィ!」



口より手足が先に出る兄貴ことプロシュート。

厳しいことも言うが、その分弟分に響くものは大きい。



決して失われることのない誇り。

一人のギャングとしての意志と力強さ。

有言実行。外見も含めてすべてが洗練された、まさに≪男の中の男≫。



だが、


「いいか、ペッシ。誰にだって心の奥にゃ≪力≫がある。それを引き出すか引き出さねえか、決めんのはオメー自身だ。もちろん自由だぜ。……だがな、チームの誰もが一歩足を踏み出さねえとオレたちに栄光は――」








「お兄ちゃん!」


「!? 名前……!」



自身の妹――名前を前にするときはだ。

憧れる彼はチームの誰もが認める、重度のシスターコンプレックス、すなわちシスコンだった。


ブルーの双眸を輝かせた男は駆け寄ってきた少女を胸板に押し込め、ひたすら頭を撫で回す。

その姿はさながらムツゴ○ウである。今にも≪よーしよしよし≫という音が形の良い唇からこぼれ落ちそうだ。



「名前、お前一人でアジトを出歩くなっつったろ? 悪い輩に捕まらなかったか!? 不審者に出くわしたらすぐ叫ぶんだぜ……? オレが直々にグレフル食らわせてやっからなッ!」


「んぐ……っもう、お兄ちゃん心配しすぎ! アジトの中は平和だし、それに……やっぱり目の前に肌色は困っちゃうよ。だからシャツのボタン止めて?」


「ハン! 相手は可愛い可愛い妹なんだ、心配しねえ方がおかしいだろ。つか、オレの胸元なんざ風呂場で何度も見て来たじゃあねえか。なんならあれか? 久々に二人で入るか?」


――いやいや! さすがにお二人共、年が年なんだから……ないっすよね!?


思わず心の中でツッコミを入れながら、ただただ傍観に徹するペッシ。

しかし、彼の予測は大抵裏切られてしまうことが多い。



「いいの!? じゃあ私、お兄ちゃんの頭洗ってあげるね!」


「ククッ……ああ。オレもガシガシ洗ってやるからな」



ああ、これでいいのだろうか――自然と遠くなる目。

すると、相変わらずプロシュートに抱きしめられたままの彼女がこちらを見ていることに気付き、さらに空気になろうと努めていた青年は慌てて頭を下げた。



「どうもっす、名前さん!」


「こんにちはペッシくん! あのね……ペッシくんがお兄ちゃんの弟分くんなのはわかってるんだけど、別に私のことはさん付けじゃなくていいんだよ?」


「(ギンッ)」


「! い、いやあ……やっぱり尊敬する兄貴の妹さんなんで……あは、は」



ゴゴゴゴゴゴ


もちろん、できることならば名前のことを名前だけで呼んでみたいが、少女には自分にとってどうしても崩すことのできない≪砦≫がいる。


――怖い。

鋭い眼光を宿した兄貴分に、ペッシが薄ら笑いを滲ませつつ視線をそらした、そのとき。



「名前ーッ!」


「あ、メローネだ!」


「(ピキッ)」



もっとも男が警戒している≪変態≫が、飄々と近付いてきた。

刹那、これでもかと言うほど眉を吊り上げる兄。


そんな彼のことは気にも留めず、満面の笑みを浮かべたメローネはギュッと彼女の両手を握り締める。



「ハアハアハア、チャオ! 今日もベリッシモ可愛いね! というわけで、君の下着をちょうだい! シルブプレ(ちょうだい)! ペルファボーレ(ちょうだい)! なんなら今履いてるのでも可! むしろそれがベネッ!」


「下着? そっかあ、メローネは下着を集めるのが趣味なんだねえ……私がよく行くショッピングモールに可愛い下着屋さんがあるよ?」


「んふふっ、そうじゃない……そうじゃあないんだよ、この天然さんめ! でもその首コテンが可愛いから許す! ハアハア、教えてくれたのは嬉しいけどオレさ……その辺り行ったことないから、ハアッ、名前案内してくれないかな?」


「? うん、いいよ。いつ行く――」







「グエッ!?」


「きゃっ……メローネ?」



誘拐犯の常套句とも言えるフレーズ。

にこにこと人畜無害の笑顔を見せる名前に唇を寄せながら、男が荒い息と共にペラペラとそれを口にした瞬間、壁際まで吹っ飛ぶその身体。


当然だが、メローネに鉄拳を繰り出した人間は一人しかいない。



「『ブッ殺す』と心の中で思ったならッ! そのときスデに行動は終わっているんだッ!」


「お、お兄ちゃん……!」


「名前、金輪際この≪変態≫に近付くな。近寄らせるな。同じ部屋に鉢合わせたらオレを呼べ。今言った三つが変態防止三原則だ、守れよ」


カッと目を見開いたプロシュートが、少女の肩を強く掴む。

しかし、妹は力説される意味がわからないのか、首を傾けるばかり。



「えっ? でもメローネは仲間だし――」


「≪でも≫も≪クソ≫もねえ! いいか……男は誰だってオメーみたいな可愛いシニョリーナを食っちまう≪オオカミ≫なんだ。わかるか? 仕事とアジトの財政以外何も考えてなさそうなあのリゾットでさえ、イイ女にゃ夢中になる。あ? ≪オレの言うイイ女はどこにいる≫、だ? そりゃあ……って、そのことはいいんだよ。今はお前の話だ。つまり仲間だからってオメーはそう簡単に油断しちゃあならねえ。聞き分けのいい名前はお兄ちゃんの言うこと、理解できるな?」



十八番の長ゼリフ。

心配で心配で仕方がない彼は、息継ぎすらせずに想いのこもった言葉を吐き出していた。


一方、驚きでつぶらな瞳を丸くした彼女は、しばらくして小さく頷く。



「(お兄ちゃんの目、どうしてギラギラしてるんだろう……。)わ……わかった。お兄ちゃんの言うことだもんね! その三原則、守るよ!」


「……ふっ、いい子だ」



そう、プロシュートは大切な妹に変な男が寄り付かぬよう、常にアンテナを張り巡らせている節があった。

たった一瞥で人を殺めそうな鋭い眼差しは、仲間に対しても例外ではない。



「なあ名前」


「イルーゾォ! どうしたの?」


「うん。実はさ、今度――」






「……(じーッ)」








「……ごめん。また今度(プロシュートがいないときに)話すよ」


「? うん……」


「ったく、油断も隙もねえな。あいつもブラックリストに入れとくか」


「(や……やってることはえげつねえけど、やっぱかっけーや、兄ィは!)」



(おそらく)デートに誘おうとしたイルーゾォを、一瞬で黙らせてしまう。

もちろん、以前から途中で話を切ることの多い男たちに、名前が毎回不思議そうにしているのは言うまでもない。


改めて尊敬の念を燃やすペッシのそばで、ジャケットの裏から取り出したノートに男がメモしている間にも、今日何人目かの被害者(予定)が現れた。



「あ、ホルマジオだ〜!」


「うおッ……おいおい、名前。いきなり飛び付くじゃねェよ。オメーの兄貴に≪シニョリーナがはしたねえ≫、って叱られちまうぞ?」



なんの遠慮もなく背中へ抱きついた妹に、衝撃で少し前かがみになったホルマジオがただただ苦笑を漏らす。

それを目撃した弟分は、≪今にも兄貴が怒るのでは≫と気が気ではない。


一方、そんな青年の杞憂も知らずに、眼前の男が紡いだ言葉に対して動揺を露わにする少女。



「ええ! お兄ちゃんに怒られるのは困るなあ……お願い! 秘密にしてくれる?」


「ハハッ、いいぜ。可愛い娘ちゃんの頼みだからなァ……で? なんか俺に用事があったんじゃねェのか?」


「ううん? ただホルマジオにくっつきたかっただけ!」



屈託のない笑み。

向けられたそれに、ホルマジオは一瞬目を白黒させてから、


「ったく……マジでしょーがねェな〜!」



これまた思いきり破顔したと同時に彼女の小さな頭へ手を伸ばした。



「(へ? ぎゃあああああああッ! ダメっす! ダメっすよ、ホルマジオ! 名前さんに触ったら兄貴が――)」







ポフッ





「……あれ」


だが、どうしたことだろう。


ペッシの耳には、怒声も銃声も聞こえてこない。

すでに≪なでなで≫を実行した男が、血祭りに上げられているわけでもない。



「あわわ、ダメだよホルマジオ! 髪せっかく整えたのに、乱れちゃう……!」


「髪ィ? 心配すんな! 髪グッシャグシャでもお前は可愛いぜ? つーわけで、もういっちょ!」


「そういう問題じゃ……きゃーっ!」



今も楽しそうに右手を動かすホルマジオと、悲鳴を上げる名前。

しばらくその光景を唖然とした顔で凝視していた青年が、そろりと隣に視線を向ければ、平然とケーキを食す兄貴の姿が。



「もぐもぐ……お。このケーキ意外に美味え。おい名前! お前も早く来い! つーかペッシ、辛気臭えツラして一体どうした。ケーキ食わねえのか? 食わねえなら、名前にあげちまうぞ」


「! い、いただきやす!(全然動じてねえけど、あれはいいのかな……)」








結局、その場で答えを見つけることができず、眉をひそめては首を縦に振るという自問自答を繰り返すペッシ。

ところが、そんな弟分の不可思議な様子に、元から周囲の変化に目ざといプロシュートが気付かないはずがないのだ。



「ペッシ」


「!」


「オメーよお、さっきから何一人で百面相してんだ。言いてえことがあんなら、はっきり言いやがれ。はっきりと!」



短気な性分が出るのか、苛立ちを示すように揺さぶられる彼の長い脚。

しかし、言わなければ叱られるとわかっていても、青年はただただ押し黙ってしまった。


次の瞬間、ポキッと男の指の関節から鳴り響いた音。



「……よし。お前の気持ちはよーくわかった。理解したぜ……ッグレイトフル――」


「わあああ! 言う! 言うよ兄貴!」



グレフルだけは勘弁したい――肩を落としたペッシは己の胸に蔓延っていた疑問を打ち明けるために口を開く。≪なぜ手加減なしの制裁を加えたメローネやイルーゾォに対して、ホルマジオには牽制すらしなかったのか≫、と。


すると、プロシュートはあっけらかんとした表情で、



「あ? んなモン――」






「名前」


「リーダー!」


「すまないな、呼び止めて。少し仕事で頼みたいことが――」





セダーン





「≪そいつに下心があるかねえか≫だろ」


と言い放った。

彼が右手に持つのは――拳銃。

その銃口からモクモクと立ち上る煙。


一方、「あっはははは! 誰だよ〜、銃ぶっ放した奴! 壁に穴空いたんだけど! でもこれで名前のシャワーシーンがディ・モールト見放題ryブベネッ」と叫ぶメローネの声を耳で受け止めながら、少女は今しがた眼前を過ぎった鋭い≪モノ≫に首をかしげる。



「あれ?(今、何か通ったような……)」


「……プロシュート」



突然何をしてくれるんだ、と言いたげな黒目がちの瞳。

呆れを含んだリゾットの表情に、男はソファの上で組む足を変えつつ声を上げた。


「おいリゾット。こいつに用があんなら≪兄である≫オレを通してもらわねえと、困るんだよ……それともなんだ? 名前にしか言えねえようなやましいことなのか? え?」


「(こいつは名前のマネージャーか何かなのか)……いや、またにさせてもらう」


「う、うん! またね…………お兄ちゃん、リーダー疲れた顔してたけど、大丈夫かな?」


「ハッ……名前、お前が気にするようなことじゃねえよ」



すぐさま自室へ戻っていくリーダー。

きょとんとする妹の肩に手を置いてから、こちらへ戻ってきたプロシュート。


そして、彼が長椅子に腰を下ろしたのを見計らって、ペッシはおずおずと再び喉を震わせる。



「……あの、プロシュート兄ィが名前さんのことでキレるポイントはわかったんす、けど」


「けど?」


「いや、兄貴はその≪下心≫をどうやって判断してるんすか?」



刹那、その場を包む静寂。

瞬きすら躊躇われる雰囲気。

やはり聞かない方がよかっただろうか――見る見るうちに青ざめる顔。


ところが息をのんだ瞬間、リビングに広がったのは、男のどこまでも深いため息。



「はああ……ペッシペッシペッシよ〜! オレはな、これまで名前に群がる奴すべてを、世間から抹消してきたんだぜ? そいつの表情、動作、口調、声のトーン――この目で見て、この耳で聞いたら大体ンなこたァすぐにわかんだよ」


「……す、スゲー」



もはやこの兄がすごいのか、兄をここまで夢中(過保護)にさせる妹がすごいのか。

どちらにせよ、二人ともただならぬモノを持っている――頬を引きつらせないよう配慮しながら、ペッシはそう結論づけることにした。



「あ」


次の瞬間、名前に資料を手にしたまま近付いてきたのは、なぜかいつも顔をしかめているギアッチョ。



「オイ。このターゲットなんだがよオ」


「調べたらいいんだよね? 明日でいいかな」


「……あァ、頼むぜ」



あれはおそらく大丈夫なのだろう。

そんな推測を胸に、恐る恐る横へ視線を移す青年。


すると、彼の予想通り、プロシュートはうんうんと頷いている。



「ハン! ありゃあ≪二重マル≫だな。仕事のことしか話さねえ距離感、視線の合わせ方、素っ気なさ……正直言ってソツがねえ。どうせなら花マルをやりたいぐらいだぜ」


「そ、そうだね! ギアッチョは安全っす――」



起こりそうにない修羅場にホッと安堵の息をこぼした弟分だったが、そのとき重要なことに気付いてしまった。

もう用はないとすぐさま踵を返したギアッチョに、少しばかり俯いた少女がタッタッと走り寄る。



「ぎ、ギアッチョ!」


そう、確かに男は彼女に対していつも通りの態度を取った。

まさに兄でさえ納得する模範的な行動。


しかし――



「実は朝にクッキー作ったの! た、食べてくれる?」


「……チッ。それまさかマズくねえだろうな、オイ」


「まずくないよ! ……たぶん」


「はあ? クソッ、たぶんってなんだよ。たぶんってよォ――ッ! ……まあ、細っこいテメーが試食して腹壊すよりはマシか」



マルタイ(護衛の対象)の態度が変われば、また話が違う。


ほんのり赤らんだ頬。

≪食べてやる≫と聞いた途端、咲いた花のように綻んだ顔。



あ、ヤバい――隣から届いた≪ブチッ≫という音に、今度こそペッシが表情筋を硬直させた直後。



「名前! 今すぐ! そいつからッ! 離れろォォオオオオオオ!」



言わずもがな怒声が響き渡った。



「あ? ンだアレ」


「えと……お兄ちゃん、どうしたの?」


訝しげなギアッチョと放心気味の妹。


その、先程まではまったく気にならなかった距離に対してさえギリッと奥歯を軋ませたプロシュートが、あっという間に名前を抱き寄せる。

当然ながら、少女はあたふたするばかり。



「! あの、く、苦しいよ……っお兄ちゃん」


「いいからオメーは黙って抱きしめられてろ。はー……間に合ってよかったぜ。危うくこの冷凍メガネに名前、お前は食われるとこだったんだからな……危ねえ危ねえ」


「!?(ちょ、兄貴違う! ギアッチョが食べるのは名前さんじゃなくて、名前さんの作ったクッキー! クッキーっすから!)」



ギューッとさらに腕の力を強める兄貴。

慌てて内心で叫んだ弟分の言葉が、怒り心頭に発している彼の鼓膜へ届くことはない。



「食べられる? よ、よくわからないけど、ギアッチョは――」


「名前。それ以上言う必要はねえよ。オレァ全部わかってる……いいか? お前はペッシとここで待ってろ」


「? わかった! コーヒー入れて待ってるね」


「(キューンッ)ああ、行ってくるぜ」



目尻を下げる男。だが彼女に向けていた笑顔から一転、プロシュートは鬼の形相でギアッチョを振り返った。



「つーわけでギアッチョ。ちょっくらツラ貸せよ」


「オイジジイ。テメー、何ワケわかんねーこと言ってんだ。そもそも俺はコイツの用に付き合――」


「いいからツラ貸せッ! オレの妹に手ェ出したこと、忘れんじゃねえぞ?」



ただ事ではない状況――ある種とばっちりの彼も察したらしい。

おもむろにリビングを後にする二人。


それを見つめていた名前は、ふと唯一残った青年に声をかける。



「ねえ、ペッシくん。行ってくるって言ってたけど、お兄ちゃんとギアッチョはどこに行ったの?」


「お……男同士の熱い喧嘩に行ったんすよ! 拳で語り合うって!」


「語り合い……そっかあ! ふふ、後で二人にタオル持っていかないと」


「あはは、そっすね……オレも手伝いやす…………あは、あははは。(名前さんがほんと天然でよかったーッ! ……いや、よかったのかな……?)」



双眸に宿るのは悲観。

確信に近い心中穏やかでない未来へ思いを巡らせて、ペッシはガクリと項垂れるのだった。









彼はシスターコンプレックス
男の暴走は、妹にしか止められない。




〜おまけ〜



「ギアッチョ……あの、大丈夫?」


「!」


それなりに傷だらけの同僚。

ミネラルウォーターを飲み干していたギアッチョは、おずおずと近付いてきた名前から慌てて顔をそらした。



「まさか、お兄ちゃんがこんなに暴れると思ってなくて……その、えっと」


「……チッ、テメーの兄貴にゃマジ参るぜ。さっきもよォオオ……急に怒り出したかと思えば、喧嘩ふっかけてきやがって。……テメーといるとロクなことになんねえな」


「っ……そ、そっか」


「!(ヤベッ)」



しょぼん。まさに少女から聞こえてきそうなその音に、ギョッとする男。

苦虫を噛み潰したような顔をした彼が、静かに振り返る。


すると案の定、彼女は申し訳なさそうに笑っていた。



「え、っと……ごめんね? 私もう、ギアッチョに近付かないように……する、から……」


「バッ! 〜〜そ、そうしろとは言ってねえだろうが――ッ! 別にテメーがいること自体を悪いとは思って……ッいや、ワリー。なんつーか、その……テメーと話すのは嫌じゃねえっつーか、案外たの、しいっつーか……あーッ、クソ! 何言おうとしてんだ、俺。ワケわかんねえ……とにかく! 俺に変な気ィ遣うんじゃねえよ」


「え? じゃあ一緒にいて、いいの……?」



間髪を容れずに変じた表情。

先程拳を交えたばかりの兄と同じ色をした妹の瞳に、ギアッチョが再び視線を外してから口を開く。



「居たいなら居ろよ、居たいならな。……大体、俺といてえなんて変人すぎんだよ、ボケが」


「えへへ……うん!」


嬉しそうに笑う名前。意外に嫌いではないその笑顔を一瞥して、彼は微かに口元を緩ませた、が。



「おーいおいおい、ギアッチョ≪くん≫よ〜! テメーの脳みそはすっからかんかぁ? あァん? 名前の半径2メートル以内に近付くなって、さっき言ったばっかだよなぁあああ?」



解決すべき問題は別にある。

最初は、少女に対する護衛っぷりに≪身内同士だと普通なのだろうか≫と首を捻っていた男だったが、今なら理解できる――プロシュートはシスコンだ、と。


それもかなり重症。



「ケッ……上等だゴラ。今わかったぜ、プロシュート! あんま首は突っ込みたかァねえが、テメーみたいな過保護兄貴じゃよ――ッ! 妹のコイツ……名前が息苦しいだけだから、なアアアアッ!」


「ハン、後でピーピー泣くなよ、ガキが! ギアッチョ、オメーの仕事に対する誇りはオレだって認めてるし、信用もしてる……ッだがな! 名前のことなら容赦はしねえ! つーか、何人の妹勝手に呼び捨てしてんだ! あとテメーに兄呼ばわりされる筋合いはねえぞッ!」



その後――年は取るわ、部屋の温度は下がるわでついにキレたリゾットがメタリカを発動させるまで(名前はペッシの計らいでイルーゾォの鏡の中に避難済み)、二人の抗争は止まらなかったらしい。





終わり








大変長らくお待たせいたしました!
シスコン兄貴と天然な妹ヒロインのお話でした。
リクエストありがとうございました!
被害者としてギアッチョに少し出張ってもらいましたが……いかがでしたでしょうか?


感想&手直しのご希望がございましたら、お願いいたします!
Grazie mille!!
polka



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