somma 〜33〜

※微裏
※あくまでもお仕置き




「あっ、あの……リゾットさん……!」


俵抱きされたまま、名前は必死にリゾットの肩を押していた。

しかし、微動だにしないそれに、焦燥は募っていくばかり。



――お仕置きだなんて……どうしよう……!



「っ……やぁ!?」


じたばたと足を動かしてみても、服越しに太腿をやらしくなでる彼の右手によって、それはすぐさま停止することを促されてしまう。



「着いたな」


「!」



ガチャリ

耳が捉えた扉の音に、自然と身体は強張る。

視界に映るのは、見慣れた部屋の中。



「り、リゾットさん、私……ひゃっ」


「……少し、待っていろ」



ようやく床に足を着けることを許されたかと思えば、いつも男が腰を下ろしている回転式の椅子に座らせられる。

そして、おずおずと自分を見上げる名前の頭に優しく手を置いていたリゾットは、ふとそれを離し、なぜかクローゼットへと向かった。



「?」



ただただ彼の背を凝視する少女。

もはや、逃亡は無駄な行為だと理解しているので、視線を鍵の閉められた扉へ移すことはしない。



「二本で、十分だろう」



数十秒後、おもむろに振り返ったリゾット。

その手には、めったに身に着けることのないネクタイが二本。


「! そ、それ……何に使うん、ですか?」



この予感が――どうか当たりませんように。

目の前で自分を見下ろす彼から、ふっと視線を落とせば――



「! え? えっ?」


突然の闇。

目元を覆う布の感触に、それが故意的なものだと悟る。

一方、視界を塞がれ、きょろきょろと顔を動かす名前に男は口元を緩めていた。



「ふ……いい眺めだな」


「ッ、意地悪なこと、言わないでくださ……へ!?」



リゾットが、どんな表情で自分を見ているのかもわからない状況。

下唇を小さく噛み、ただただ羞恥と不安に堪えていると――不意に両手首が椅子の後ろへ回され、何かで繋がれてしまった。



「オレのネクタイによって、視界と身体の自由を奪われているんだ……気分はどうだ?」


「っ! あ、そんな……」



右耳に突き刺さる、鼓膜を震わせるような低い声と吐息、そして彼の唇。

突如現れたそれにピクリと彼女が反応すれば、ねっとりと耳たぶを食まれてしまう。



「ひぁっ……ん、リゾットさ……っ」


「どうした? 名前、息を荒くして……これはお仕置きなんだぞ?」


「! はっ、はぁ……わかっていま……ぁッ」



ぴちゃ、れろっ。

脳内に直接響く、攻め立てるような水音。

視覚が機能しない分だけ、名前の聴覚は鋭くなっていた。


自ずと擦り合わせてしまう、己の内腿。

しかし、たとえ視界にそれを映しても、リゾットが少女を包む黒い修道服の裾に手を伸ばすことはない。



「はぁ、っは……!」


「……名前、あんな嘘をついて……ちゃんと反省しているのか?」


「っ」



反省しています。

そう言いたいのに、口から漏れ出すのは色めいた吐息だけ。


だが、小さく唇を開きプルプルと震えながらも、押し寄せる快感から必死に逃れようとする彼女の姿は、男の加虐心に火をつけてしまった。



「そうか……反省していないのなら、お仕置きを止めることはできないな」


「! わた、し……やぁっ!?」


「それとも、≪この状態がいいから≫……言わないだけなのか?」



リゾットの声が一瞬遠退いたかと思えば、首筋に鋭く走った痛み。

彼は、無防備になっている名前の白いそれに歯を立てていた。


いつもは罪悪感をもたらす、鈍く光る黒い首輪も、今は白と黒のコントラストで男の欲を掻き立てるだけ。



――なんとかこれを外して……赤色に変えることはできないだろうか。



「いやっ……噛んじゃ、やだ……ぁ!」


「ふむ、脈が少し速くなったようだが……痛い方が好みなのか?」


「!? ちがっ……!」



懸命に首を振る少女。

ふわりと香る甘さを楽しみながら、リゾットは首から唇を離すことをやめない。



「……ん、まるで……んっ、媚薬のようだな……はぁ、っ名前の身体は」


「はっ……ぁ……、ッやあ!」



焦らすように舐め、食み、時に紅い華を咲かせる。

≪お仕置き≫という名目で始めたものの、自分がもたらす快感に翻弄されている名前は――ひどくいやらしい。


自然と、心を占める満足感。



「はぁ、はっ、はぁ…………え?」


「……、どうした?」



おもむろに離れ、ネクタイをするりと取り払う。


あくまでお仕置きなのだから。

そんな言い訳を心の中でして、リゾットは蕩ける紅い瞳を覗き込んだ。



「ぁ、あの……っ」


「ん?」


「〜〜っ////」



一方、眩しい光に少し眉をひそめながら、動揺する少女。

いつものように、≪最後まで≫あると少なからず思っていたのだ。


期待していたわけでは――ないはず。

じくじくと痛む首筋を自由になった右手で押さえつつ、男と視線を合わせる。

だが、先程までとは打って変わって、リゾットは優しく微笑むばかり。



「名前、リビングに戻ろう」


「え!? ……あ」



ドクンドクン、と高鳴る胸。

彼に教えられた快感が、忘れられない。



「……名前?」



――ダメだ、私……っ。


シャツに隠れた彫刻のような胸板、腹筋。

自分を優しく、荒々しく、そして強引に掻き抱く逞しい腕。

爪を立てていい――そう言って手を回させてくれる傷のある背中。

そして、自分をいとも簡単に乱してしまう彼の――




「ッ、リゾットさん……!」




扉を開けようとした男の右腕に、勢いよく抱きつく。


≪媚薬のよう≫なのは、リゾットの方だ。





「続きは……しないん、ですか?」


少しひやりとする部屋に、頬を赤らめた名前の吐息交じりの声が響き渡った。




続く



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