somma 〜32〜

※初のエイプリルフールネタ
※いともたやすく行われる(リーダーにとっては)えげつない嘘




3月31日、夜。


「みんな……集まってくれてベリッシモ、ベリッシモありがとう」


神妙な顔をしたメローネが、リビングでおもむろに口を開いた。

ちなみに、いつも皆をまとめているはずのリーダー、リゾットは単独の仕事のため外出中。



「おいおい、大層な面して……どうしたって言うんだよ」


「ほんとそれ。オレ、正直眠い……早く鏡に戻りたい」



小さな櫛で頭を整えるホルマジオと大きなあくびをするイルーゾォ。

二人の共通点、それは胡散臭そうな目を前に向けている点である。

しかし、ソファに腰を下ろすメローネの隣に立っていたプロシュートは、そんな彼らを嘲るように鼻で笑った。



「ハン、そう言っていられるのも今のうちだぜ? なんせ明日には、ビッグイベントが控えてるからなッ!」


「え? 明日なにかあるんですかい?」


「チッ……変態とジジイが主催とか、怪しいにも程があるだろオオオ!? オレをなめてんのかア? クソッ!」



差がありすぎるそれぞれの反応。

それに珍しくイケメンのように、メローネがふっと(普通の)笑みを見せた。



「まあまあ。いいからみんな、耳を近付けて!」


「「「「……えー……(嫌そうな顔で近付かない)」」」」


「あっれー? いいのかな? オレが撮った名前の写真、ナニに使ってるか知んないけどさあ……みんな持ってるってリーダーに言っても──」


「「「ぜ、ぜひとも聞かせてください!」」」


ペッシ以外の素早い反応に、プロシュートがこいつらアホだな──と内心毒づいたのは言うまでもない。

もちろん、彼も写真は抜かりなく所持しているのだが。



「──と、いうわけだッ! どう? 普段鉄不足と過度なパワハラ(メタリカ)に苛まれているオレたちの、≪動揺しまくるリーダーをによによ観察しよう作戦≫は!!」


「ははっ、なんだそれ! 長いうえにそのまんまの名前は別として、作戦はすげー面白そうじゃねェか!」



ホルマジオの豪快な笑い声がリビングに響くなかで、うんうんと頷く男が数人。



「だろ? 最初この変態が話を持ちかけるために近寄ってきたときは、すぐよぼよぼにしてやろうと思ったけどな」


「あはっ! プロシュートの愛って、ほんと超の付く痛さだよ──グエッ」


ドカッ


「誰がテメーなんぞにやるか、バカ野郎」



よく磨かれた革靴の鋭い爪先が男の腹部を抉る。



「……まあ、特に恨みがあるわけじゃないけど、明日限定だしね」


大体オレの愛は──と延々語り続けているプロシュートに、「ベネ!」と床に這いつくばりながら荒い息を立てるメローネ。

その凄まじい光景を平然と眺めているイルーゾォも、聞いた作戦には賛成らしい。



「お、オレも……リーダーにバレないように頑張るよ!」


「……オイ、テメーら。一つ……重要なことを見落としてねえかアアア?」



イライラしたように呟くギアッチョ。

その一声に、ハテナマークを浮かべる面々。



「重要なこと? ギアッチョ、オレの作戦に何が抜け落ちているって?」


「……あのリゾットバカの名前が、リゾットに嘘をつけると思ってんのか? あア?」


「あー……」



言われてみればそうだ。

納得したように頷き、皆の視線がメローネへ向く。

すると、彼はにんまりと口端を上げた。



「そうなんだよねえ……オレもさ、困惑した表情の名前を襲わないように、堪えながら説得するのは苦労したぜ……」


「おい、何やりきった顔してんだよ。説得、できたんだろうな?」


「もちろん! ≪リーダーって基本イベントとか好きだから、エイプリルフールという名の戦場に向かうオレたちにぜひ協力してくれ≫って言ったら、すぐ頷いてくれたよ! ああ……リーダーが喜ぶと信じて疑わないあの花が咲いたような笑顔……ベネ」


「……誰かよオオオオ……名前に≪疑うってこと≫を教えてやれッ!」



すぐに人を信じる少女。

そこはもちろん長所と呼ぶべき点なのだが、それは時に≪騙されやすい≫と捉えられてしまう。

特に、今目の前で意味深に笑っている変態にとっては。



「まあ、協力してもらえるならよかったじゃねェか……そろそろお開きにしようぜ。リーダー帰ってきそうだしよ!」


しょーがねェな〜と苦笑気味のホルマジオが口を開いたことで、部屋へと戻っていく男たち。



「……メローネ、変なマネすんじゃあねえぞ」


「プロシュートだって! ≪ベイビィの父親≫にされるようなことはするなよ〜?」


「ハン! 誰に言ってやがる」



だから、主催者の二人がゴゴゴゴと音を立てて睨み合っていたことも、彼らは知らない。









翌朝。

皆々が顔を合わせて食事していたときだった。


「……っ、ごめんなさい、ちょっと……!」


いきなり青ざめたかと思えば、食卓を離れる名前に、リゾットが心配そうに眉をひそめ立ち上がる。



「名前?」


「あ、リーダー。今は行くのやめてあげた方がいいかも」


「? なぜだ、イルーゾォ」


「……最近ちょっと体調が悪いみたいで」



それこそ一大事ではないか。

いぶかしむようにイルーゾォを一瞥した男は、彼の制止も聞かずに歩き出そうとした、が。



「そ、そういえば……昨日名前に聞かれたんす! ≪何かすっぱいものはありませんか≫って」


「……すっぱいもの?」



叫ぶように言い放ったペッシに、足を止める。

どこかでそういう話を聞いたような――首をかしげていると、ホルマジオが後頭部を掻きながらおずおずと口を開いた。



「なあ。それって……いや、すっぱいものが欲しくなんのも個人差があるって聞くしな……」


「どうした。はっきりと言え」


「ね、リーダー。要するにホルマジオはこう言いたいんじゃない? 名前の今の症状、≪つわり≫に似てるなって」


「……」



聞きなれない単語。

だが、知識としては知っているのだ。



――つわり……それはつまり、名前が――――



「!?」


「お、やっと反応示しやがったな。で? 身に覚えでもあんのか? リゾットさんよお」



勘繰るようにこちらへ視線を向けるプロシュート。

正直、身に覚えがありすぎた。



「ふー、治まってよかった……あれ? リゾットさん、どうかされたんですか?」


「! 名前、オレは――」


「オイ。早く戻らねえと、メシ食っちまうぞ」


「あ、はい……!」



しばらくきょとんとしていたものの、ギアッチョのぶっきらぼうな物言いに自分の横を通り過ぎていく名前。

それに少なからず寂しさを覚えながら、リゾットは仲間から告げられた≪可能性≫について考え続けていた。











――どうやって、切り出せばいい……。


昼ごろ、コテンと自分の左肩に頭を預ける少女の隣で、男はぐるぐると朝の出来事を思い返していた。



――単刀直入に聞くのがてっとり早くもあるが……それでは名前に気遣いもできないのかと愛想をつかされてしまうかもしれない……。


「……あの、リゾットさん」


――いや、それだけではないな。オレが動じていては、名前も不安がるに違いない……落ち着け、落ち着くんだオレ。



「り、リゾットさん……!」


「! すまない、考え事をしていた」


「いえ……大丈夫ですか?」


「ああ。名前こそ、大丈夫か?」


「え? あ、はい……その話なんですけど……」



ついに、来たか。

できる限り自身の中にある動揺を悟られぬよう、言いよどむ名前の頭をそっとなでる。


その優しい感触に、彼女は小さくはにかみ、静かに口を開いた。



「あの……闇医者様に、連絡を取ってもいいですか?」


「! ど、どこか気になるところがあるのか?」


「えと、少し……≪確かめたいこと≫があって……」


「!?」



確かめたいことの詳細――それを尋ねようとした刹那。





「名前ー! やっぱ服はピンクかブルーだよな!?」


「ちょ、ホルマジオ! 最近は男の子でも女の子でも着られる色ってものがあるんだから!」



何かの雑誌――笑顔の赤ん坊が表紙のものを持って、現れたホルマジオとイルーゾォ。

指し示すのは、明らかに自分たち用ではない服。



さらに――


「ねえ、名前! 食事とかも考えた方がいいよね?」


「……あと消耗品やら、いろいろいるだろ」


「ペッシ……ギアッチョ!?」


「ふふ、皆さん気が早すぎですよ?」



自分の知らないところで何かが回っている。

にこにこと微笑んで言葉を紡ぐ名前に、今一度尋ねようとする、が。



「ハン、全員待ち遠しくて仕方ねえんだろうよ……≪オレたちの子≫がな」


「は?」


「え!?」



まさかの爆弾発言。

リゾットはもちろん、≪シナリオ≫にない――と目を丸くする仲間に、少女を抱き寄せながらほくそ笑むプロシュート。


しかし、問題はそれだけではなかった。



「はは、プロシュート。ついに妄想まで抱くようになっちゃったわけ? この子のパードレはオレだぜ?」


「!?!?」


「え!?」


「プロシュートさん? それにメローネさんまで何を……」



バチバチと火花を散らす二人に挟まれ、これでもかと言うほど困惑する名前。



衝撃の上に重なる衝撃。


嫌な意味でクラリとする脳髄。


――まさか……オレじゃあ、ない……のか……?



バタン



「ぎゃー!?」


雄々しい悲鳴を遠くで聞きながら、リゾットは意識を闇へと葬った。










「……ん……?」


「! リゾットさんっ」


「はあ、安心したぜ。ショックを受けんのはいいが、ぶっ倒れんのはやめてくれよな……リーダーみてェなでっかい男、ソファに運ぶのも大変だったんだからよォ」



安堵の表情を浮かべる少女と、苦笑気味の仲間たち。

とは言っても、彼らの嘘が原因なので、自業自得と言えば自業自得なのだろう。



「……」


「あの、ごめんなさい! 私……」


「名前……オレこそ、疑ってすまない」


「え?」





「ほぼ毎晩シているんだ……プロシュートやメローネの入り込める隙はない。少し考えればわかるはずなのだが……どうやら動揺していたらしい。許してくれないか?」


「……あ、えっと」


「ぶっ! も、もうダメ……!」


「お前、せめてここでは堪えろ……クッ」



天然にもほどがある。

爆笑し始める外野に、何事だと首をかしげるリゾット。


そんな彼に対し、名前は本当に申し訳なさそうにカレンダーを指差した。



「ん? 今日は4月1日だな…………あ」


「エイプリルフール、です……」



沈黙と喧騒。

広がる雰囲気の差。



「つまり……すべて、嘘なのか……?」


「っ……はい」


「……」


「ほ、本当にごめんなさい!」


「…………名前、顔を上げてくれ」



そっと彼に握られる両手。

恐る恐る少女が顔を上げれば――ギラリと光る赤い瞳と目が合った。

背中を駆け上がる嫌な予感。



「! ひっ」


「まったく、嘘をつくような悪い子になって……名前は≪お仕置き≫が欲しいんだな?」


「おしっ……きゃあ!?」



そして、立ち上がったリゾットによって、片手で俵のように抱き上げられてしまう。

当然だが、突然の出来事にこれまで騒いでいた面々も一瞬で黙り込む。



「え? まさか、被害者は名前……?」




なんてことだ。

リビングを出ていく二人をただただ見守ることしかできないでいると、不意に男が振り返った。



「お前たちも……≪鉄補給サプリ≫を自費で購入しておくように」


「「「「「「……」」」」」」



ああ、人生最期に何をしよう。


そんな現実逃避をしながら、男六人はエイプリルフールはもう大人しくしていよう、と決意するのだった。



続く



これは本当に続きます。



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