uno



「リゾット……さん?」


「……名前……」


一番恐れていたことが、起きてしまった。



自分の足元に転がるいくつもの死体と、こちらをただただ見つめる少女。


リゾットは、彼女と過ごした三か月に及ぶ時間を思い出しながら、静かに≪後悔≫していた。






L'inverno di 1999
年は明け、1999年の冬――



「あ、こんばんは!」


「……すまない、また来てしまった」



名前と出会って数週間後、男は一週間に二、三回のペースで、彼女のいる教会へと赴いていた。



「ふふ、謝らないでください。私は、貴方と話せて嬉しいんですから」


「……」


ふわりと微笑む彼女に、自然と頬も緩む。



彼らが逢瀬を交わすのは、ほぼ夜である。



最初は、仲間に怪しまれながらも昼間に私服で訪れていたのだが――


「こんにちは」


「……こんにちは」



現れたのは優しそうな司教。


――名前は……留守か?



「もしや、名前を探しておいでですか?」


「!」


なぜそれを――驚きで目を見開く彼に対して、司教が苦笑気味で口を開く。


「すみません、おこがましいことを。ですが、先程から周りを見渡されているのでそうかと」


「……」



苦虫を噛み潰したような顔をするリゾット。


それを微笑ましげに見守っていた司教は、おもむろに手をある扉へ向かって指し示した。



「どうぞ……おそらく、眠っていると思われますが」


「……ありがとうございます」



そこは、以前自分が介抱されていた彼女の部屋だった。


本人の許可を取ることなく、鍵を差し込む司教に思わず口を出しそうになったが、ここでは普通のことなのかもしれない。


もちろん、自分の住むアジトでもやむを得ないときは強行突破という手段をとる。



どのようなときか――ということは聞かないでほしい。




「さあ、中へどうぞ」


足を踏み入れれば、後ろで静かに閉められるドア。





唯一の光は蝋燭だけという世界で、名前は眠っていた。


「……名前?」


「すー……すー……」


よほど眠り込んでいるらしい。


腹部に組んだ両手を置き、瞼を閉じている彼女はまるで――


――……キスをすれば、起きるだろうか。



とんでもない発想だ、と自分でもわかっている。


しかし、昔読み聞かされた童話に出てくる眠り姫は、それで目を覚ましたのだ。



――いいかもしれない。


簡素なベッドへ近づき、そっと腰を下ろす。


ギシッという音が、よりリゾットの心を高ぶらせた。


――白い、な。

そして、ゆっくりと右手を名前の頬へ添えれば――


――冷たい。

冷え性にもほどがあるだろう。


そんな文句を心うちで呟きつつも、彼の口元はかなり緩んでいる。


「名前、名前……」


彼女の名を呼び、そのまま引き寄せられるように顔を近づけていくと――



「ん……」


「!」


唇が触れ合う直前に聞こえた小さな声。


――な、何をしているんだ、オレは。


バッと顔を上げた彼は、すぐさま立ち上がり、何事もなかったかのように部屋を抜け出していた。



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