uno





「リゾットさん……≪これ≫、どういうことですか……?」



ゴゴゴゴゴ

その静かな呟きに、一瞬にしてリビング全体が凍り付いた。





La primavera di 2000
すなわち、嵐の予感。








「ねえ、リーダー! これ……って、何この雰囲気!? 超寒い! 氷河期!?」


「ちげーって。強いて言うなら、倦怠期か?」


「ちょ、メローネとホルマジオは黙ってろ! たぶん、リーダーの心抉ってるから!」



いつになく寒いリビング。

原因はギアッチョかと思えば、どうやら違うらしい。


慌てて二人の頭をはたいたイルーゾォの視界には、リーダーから距離を取ってソファに座る名前がいた。

端と端。

抱き寄せることも許されず、真顔のまま焦燥しているであろうリゾットに、同情してしまいそうになるが、今回ばかりはフォローのしようがない。



「いてッ! 何するんだよ、イルーゾォ! オレの脳細胞が死んだら……それは?」


「元々、かなりのネジがぶっ飛んでるだろうが、テメーの頭は。……アレの原因」



己の頭を優しく擦りながら唇を尖らせるメローネに、的確なツッコミを入れてあるノートを差し出すギアッチョ。

そのノートは、リゾットが毎日にらめっこをしている家計簿だった。



「ふーん、原因って何が…………」


「ハン、ようやくわかったか」



家計簿の≪ある数字≫を目にして、顔から笑みを消した男に、煙草を咥えつつプロシュートが鼻で笑う。

そんな彼の額にも、うっすらと青筋が浮かんでいた。



「あはははは……オレ、もしかしなくても視力下がった?」


「バカ野郎。現実を見やがれ……認めたくはねえが、ソレが事実だ」


「……えええ!? だってこれ! 0が4つしかないじゃん!?」



組織からの容赦ない勧告。

それを受けて以来、彼らの給料は前以上に下がっていた。


しかし、名前の怒りの発端はそこにはなく。





「俺らにさえも相談してなかった。それが、どうやら名前の逆鱗に触れちまったらしいぜ?」


「すぐに抱え込んじゃいますもんね、リーダー」


「確かに。それ、リーダーのベリッシモ悪い癖だねえ」



腕を組んだホルマジオがうんうんと頷き、ペッシがしゅんと項垂れる。

そして、変わり映えのしない――強いて言えば嫌な意味で変わっている家計簿を掲げ、メローネが深いため息をついていると――





「……私、部屋に戻っていますね」


「!」



おもむろにソファから立ち上がり、名前がたったっと走って行ってしまう。

リビングには振り向きもしない彼女に手を伸ばすリゾットと、それを憐れむ男たちだけが残った。



「名前……」


「あーあ。名前、行っちゃった」


「チッ、さっさと仲直りして来いよ! テメーらが一緒に居ねえなんて、気色悪くて仕方がねエエエエ……ッ!」


「おい、リゾット。まさか、このままにしておくつもりか? え?」



遠くから響く扉の閉まる音を耳にしながら、絶望を滲ませた男に対して、皆が口々に励ましや文句を言う。

もちろん、かなりの確率で不平の方が多いのだが。



「……お前たち」


「ったく、しょーがねェな〜〜! 俺らからの説教は後にしてやるからさ」


「リーダー、行ってください!」


「そうそう。リーダーが行かないなら、オレが名前を慰めに――」



「「「「お前(テメー)は黙ってろ」」」」




本当にいい仲間を持ったと思う。

カビが生えてしまいそうなほど沈んでいたリゾットは、朗らかに笑う彼らに小さく頷き、リビングを後にした。



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