uno




夕日で赤く染まり始めた街中を、やけに顔が整った男が七人。



「……三時間ほど、アジトを占拠させてもらえませんか?」


懇願するように胸の前で手を組み、ゆっくりと放った名前の言葉が、すべての始まりだった。







Gratitudine quotidiana
何が起こるかはお楽しみ。








「……」


「あのさ、リーダー。名前を心配する気持ちもわかるけど、その視線だけで人を殺しそうな目はやめてほしいな」



眉をこれでもかと言うほど寄せて、無言で歩き続ける男にイルーゾォが苦笑気味に告げる。


彼のその表情のおかげで、先程から子どもだけでなく通りかかる大人まで泣きそうになっているのだ。


しかし、有無を言わさずアジトから追い出されてしまったリゾットが、そう言われて簡単に引き下がるわけもなく。



「なぜだ……なぜだ、名前……なぜ君はオレたちを外へ……」


「いや、あの人畜無害な名前のことだ、ぜってェ悪いことじゃあねェよ! だから、元気出――」


「当然だろう! 名前がアジトを荒らしたり、爆破したりするはずがないッ!」


「……えらく大げさだな」



元気づけようと口を開いたホルマジオに対し、鋭い剣幕で食って掛かるリゾット。

そんな彼に今日は珍しく冷静なギアッチョが、ポケットに両手を入れたまま落ち着けよ――と呟いたのは言うまでもない。



「はあ……心配だ。もし、こんなときに限ってしつこいセールスが来たらどうする? そのセールスが名前の可愛らしさに魅了されて押し入ったらどうする? そして、名前を(性的に)食べようとしたら…………メタリ――グッ!?」


「……リーダーの頭が一番心配だよ」


「ったく、しょーがねェなあ〜」



息継ぎをすることなく話し終え、メタリカを発動しようとした男をなんとか引き留めながら、イルーゾォとホルマジオはそれぞれため息を吐いた。


だが、スタンドは止められても、リゾットの中で募っていく少女への心配は阻みようがない。



「……やはり戻ろう。今すぐ戻ろう」


「え? ちょ、リーダー! まだ一時間しか経ってないっすよ!?」



街中の時計を一瞥して、ペッシが慌てたように声を上げる。

それに対し、暗殺チームリーダーは首を横に振るばかり。



「いいや。オレの中では、もう約束の三時間後だ……ッ!」


「え、えええッ!?」



真顔で話す彼に、頬を引きつらせる仲間たち。

しかし、もはや頭の中ははにかみながら微笑む名前でいっぱいなリゾットは、周りの反応を歯牙にもかけず、人もまばらな道を駆け出そうとした、が。







「あーあ。名前、絶対にショックだろうなあ……三時間待つって言う約束を守ってもらえないなんて」


「!」



ふと、届いたメローネの声。

その内容に今にも進もうとしていた足はピタリと止まる。


「ショック……?」


「だってそうじゃない? 名前には名前の考えがあって、オレたちに頼んだんだからさ」


「ハン、確かにそうだな。約束を破ったら言われるんじゃねえか? ≪嫌い≫って」



嫌い。


きらい。


キライ。




「名前! 違うんだッ、これは……」


「……知りません、リゾットさんのことなんか!」


「名前……ッ!」


「さよなら、リゾットさん」








ピッシャーンッ





「……」


「おーい、リーダー……ダメだ。今度は全然動かなくなった」


「よっぽどプロシュートの言葉が効いたみてーだな」



クラウチングスタートの構えのまま、固まってしまったリゾットに仲間から別の苦笑が漏れる。


もちろん、名前がそんなことで彼を嫌うはずがない。

むしろ、今もきっと自分たちを外出させたことを申し訳なく思っているだろう。



だが、正常な判断ができないほど、この男は冷静さを失っていた。




「イルーゾォ、ギアッチョ! リゾットはそこのベンチにでも座らせとけ。まったく、暗殺チームのリーダーが一時間程度で慌てるとは、聞いて呆れるぜ……おい、ペッシ! タバコ買いに行くぞ」


「はい、兄貴!(……一時間でタバコ一箱……)」


最後のタバコの火を消し、おもむろに歩き始めるプロシュート。


おそらく彼も人のことを言えない、つまり心配でたまらないのだろう――灰皿に残る大量の吸い殻をちらりと見たペッシは、早く時が過ぎるのを願うことにした。



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