somma 〜30〜

※アルバイトの行方(イルーゾォ)



アルバイトが発覚した、翌日の夕暮れ時。

名前は、イルーゾォと二人で店へと向かっていた。





話は数十分前に遡る。



「名前? どこ行くの?」


「あ、イルーゾォさん……あの、店長さんへ謝りにお店へ行くんです」


「ああ……服も返しに?」



今にも玄関から出ていきそうだった少女を引き留め、イルーゾォがその腕の中を覗けば、昨夜皆の心をときめかせたあのメイド服が。


──もらっちゃえばいいのに。名前、すごく似合ってたし。


喉から出かけたそんな言葉を飲み込んで、コクンと小さく頷いた彼女に、本題を持ちかける。

「で? まさか一人で行くつもり?」


「え? は、はい……道はよく知っているので」


「……そういう意味じゃないんだけど」


「?」



本当にわからないらしい。

困ったように考え込む名前を見て、静かにため息をついたイルーゾォはおもむろに彼女の隣に立った。



「ほら、行くよ」


「え!? ちょ、イルーゾォさん……!」




そして、現在に至る。


「リーダーやプロシュートじゃあ店長に何しだすかわかんないし、ホルマジオとペッシは精神的にリタイア。ギアッチョは損害賠償求められる可能性があるし、メローネは(名前と二人きりにさせるなんて)論外。つまり、適任はオレでしょ?」


「そう、かもしれませんけど……イルーゾォさんだって忙しいのに」


「バカ。名前が心配だからやってんの……気にするんじゃねえよ」



ガシガシ。

少し乱暴だが優しい手つきで頭をなでる彼に、少女はやっといつも通りの微笑みで頷くことができた。








「なるほど、ねえ」


「ごめんなさい……本当はもっと働きたいんですけど……」


「うーん、可愛い名前ちゃんがいてくれたからおじさんも頑張れたんだけど……ま、家の事情なら仕方ないな!」


「店長さん……!」



喫茶店にて。

周りを観察しているイルーゾォの側で、名前はしばらくの間お世話になった店長と話していた。


「店員としては無理でも、ぜひ客として来てくれ!」


「はい!」


「それと、制服は名前ちゃんにあげるよ」




「「え!?」」


驚きに声を上げる男女。

店に入って以来、初めて見た男のあからさまな反応に目を見張りつつ、店長はにこにこと笑う。


「名前ちゃんの制服姿、すごく可愛かったからね……おじさんからの餞別だと思って受け取ってくれ」


「あ……ありがとうございます!」


「はは、いいんだよ…………ところで、二人は兄妹かい?」






「「え!?」」


本日二度目の驚愕。

互いに顔を見合わせて思うことは一つ。



――似てない、と思うんだけど……。



「いや、顔形は似てないけど……黒髪なのもあるし、雰囲気とかよかったから……そうか! 恋人、なんだね?」


「!?」


「こッ……(名前とオレが……?)」



顔を真っ赤にして口をパクパクさせている名前と、ありとあらゆる妄想をして固まるイルーゾォ。

そんな二人を気にすることなく、店長は豪快に笑いながら口を開き続ける。



「ははは! 昨日の二人もかなり男前だったけど、名前ちゃんも隅に置けないねえ!」


「!?!? そ、そうじゃないんですってばーーっ!」










「はあ……店長、いつもあんなテンションなの? 名前、よく付き合えたね」


「いえ、普段はもっと……穏やかな方なんですけど……」



賑やかな店とは正反対な、静かな街中。

闇色に染まる道を進みながら、喧騒から解放された二人はのんびりと帰路に着こうとしていた。



「でも、店長さんとちゃんとお話ができてよかった……イルーゾォさん、ありがとうございます」


「……いいよ、別に。それにしても、まさか兄妹なんて言われるとは思わなかった」


「そうですよね……」


「まあ、オレは≪恋人≫の方がびっくりしたんだけど」


「!」



そう呟きふっと笑ってみせれば、からかわれたときのことを思い出したのか、少女の顔はまた赤くなってしまう。

可愛いな――ますます笑みを深めた彼は、おもむろに彼女へ手を伸ばし、その小さな頭をなで始めた。




「? イルーゾォさん?」


「……暇があれば、また寄ってみようぜ、あの喫茶店」


「! はい!」



できれば二人で。

この、ひそかな計画が仲間に悟られないことを願いながら、嬉しそうに歩く名前の隣でイルーゾォは大きく伸びをするのだった。



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