「どっじゃーん! これを見ろッ!」
立ち上がりポーズを決めたかと思えば、右手に何かを掲げるメローネ。
その、何かとは――
「あの、それは……?」
「名前知らない? メイド服にはこれ……ホワイトブリムが付き物なんだッ!」
白いフリルのようなものが付いた細長いもの。
それはどうやら、ヘッドレス――頭に装着するものらしい。
「え? でも、それがリゾットさんとどう関係して……?」
きょとん。
このタイミングで語られた理由がわからず、名前が首をかしげたそのとき。
「ディモールト・ベネッ!」
「……へ?」
すかさず近付いたメローネは、ホワイトブリムを彼女の頭に着けてしまった。
「グハッ……!」
まさにメイド。
そんな少女の姿を視界に入れた途端、なぜか倒れ行くプロシュート。
だが、当事者である名前は目を丸くするばかり。
「え、っと……」
「いいか、名前! そのまま、リーダーの部屋へ行ってくれ」
そして――ゴニョゴニョ。
「……あーあ、メローネの奴、すげえ下衆い顔してるよ」
「予想はつくけどなアア……チッ! 名前もさっさと着替えて来いよッ! 目について仕方がねエエエエエ」
「……(つまり可愛いんだな)」
にやにやしているメローネと、時折顔を赤くする少女。
彼らの声が届かない場所に立っているイルーゾォとギアッチョは、鼻から血を流すプロシュートの介護に専念することにした。
「そ、それでは行ってきますっ」
「ベネ! 健闘を祈ってるよ!」
「はい……!」
数分後、リビングを飛び出していった名前。
「……なあ」
それを見計らって、イルーゾォは満足げに笑うメローネへ問いかける。
「んー?」
「名前とリーダーに、何させるつもりなんだよ」
「……あはっ。それはねえ――」
コンコンコン
「開いているぞ」
「っ……失礼します」
ドア越しに届く、淡々とした声。
できるだけゆっくりと、静かに扉を開ければ――机に向かうリゾットの背が視界に映る。
そのオーラは、いまだ黒い。
「……どうした」
「あ、あの、少し用事が……」
「そうか」
いつもより少ない言葉数。
一度も振り向かない彼。
「ッ……!」
キュウと苦しくなる胸。
それをグッと両手で押さえた名前は、小走りで駆け寄り――
「……名前?」
リゾットの大きな背に抱きついた。
一方、黙々と仕事を進めていた男は、その温かい感触にようやく振り返り――
「ゆ、許して……もらえませんか? ……ご主人様」
すべてに、息をのんだ。
「……」
変な気を起こさないよう、見ることを避けていたメイド服。
黒髪によく映える可愛いヘッドレス。
涙で潤む深紅の瞳。
そして、少女の口から紡がれたその≪言葉≫。
何かの、切れる音がした。
「あっ、あの……何か言っていただけると嬉しいんですが……リゾットさんッ!?」
「……」
鼻から大量のメタリカ。
こちらを凝視したまま、鼻血をだらだらと流すリゾットに、名前が悲鳴を上げたのは言うまでもない。
その頃。
「はあ? メイドプレイってお前なあ……」
「いいじゃん! リーダー、コスプレだけじゃなくメイド喫茶にも目覚めるかもしれないし」
「……そもそもよオオ、リゾットってメイド喫茶が何か知ってんのか?」
嬉々として話す男に、ギアッチョがイライラした様子で質問を繰り出す。
すると、メローネはグッと親指を立て、いい笑顔を見せた。
「ははっ、大丈夫! ちゃんとオレが簡単にだけど教えといてあげたから!」
「……ちなみになんて言ったわけ」
刹那、遠くから――正しく言えばリゾットの部屋から届いた、鍵の閉められた音。
「「……」」
「え? ≪ご主人様≫って言われたら、ナニしてもいいんだぜって」
「明らかにそれ、違うから……!」
きっと、二人ともしばらくはあの部屋から出てこないだろう。
リゾットがどんな誤解を抱いているかも知らず、数分前に笑顔でリビングを去った名前に同情しながら、彼らは夕食の用意を始めるのだった。
to be continued...
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