※消えた修道服の謎
情事からしばらくした後、リビングへやってきた名前は、ソファに置かれた≪あるもの≫に目を丸くした。
「え!? これって……!」
「あ。それ、ちゃんとクリーニングに出しといたよ」
いつの間にか帰っていたらしいイルーゾォが、髪を弄りながら呟く。
彼曰くクリーニングに出されていた自分の修道服を見つめて、少女は思わず首をかしげてしまう。
「クリーニング……」
「あ、俺もちゃんとしといたぜ!」
「ホルマジオさんも、ですか?」
笑顔で現れたホルマジオによってさらに重ねられる、黒い修道服。
その数を数えてみれば、クローゼットになかった理由も理解できる。
――……でも、どうしてクリーニングに……?
聞いてみてもいいだろうか――と名前が恐る恐る口を開いたそのとき。
「チャオ、名前!」
「! メローネさん!」
自分の肩へそっと置かれた手に驚けば、にっと笑みを浮かべたメローネが後ろに立っていた。
そして、そんな彼の手にはなぜかビデオカメラが。
「あの、それは……?」
「ん? ああ、これはね……十分な成果を出してくれたであろう優秀な子なんだ」
「? そう、なんですか」
一体何を撮っていたのだろう。
知りたいような知りたくないような――自分の気持ちに戸惑っていると、メローネの元へイルーゾォとホルマジオが集まってきた。
「メローネ! ほんとにちゃんと撮れたの?」
「もちろんだッ! 盗撮なら、オレに任せてくれ!」
「ならいいけどよォ……まさか、実はテープが入ってませんでした、とかやめてくれよ?」
「ははっ、そんなわけないさ! ちゃんとここに、名前の彼シャツ姿を映したテープが…………ないッ!?」
パカリとビデオカメラを開ければ、あったはずのものが消えている。
「はあ? オレたちの努力が水の泡になるってこと?」
「そうだぜ! 雀の涙にもならねえ給料を、名前の彼シャツを拝むためだけに、たっけークリーニング屋で費やしたのによォ……!」
「……やはりそういうことだったんだな」
「「「……あ」」」
聞きなれた低音ボイス。だが、それは彼らにとって絶対に聞きたくないものだった。
「り……リーダー……」
「よ、よォ! ど……どうしたんだよ、こんなさみー中、上半身裸で!」
「……ハッ! まさか、彼シャツのやらしさに堪えきれず、さっきまで名前を余すことなく召し上がっていたんじゃ……グエッ!」
床に響く金属音。
左手でビデオカメラのテープを潰してしまいそうなほど握りしめたリゾットは、真顔のまま仲間三人へと容赦ない制裁を贈るのだった。
「ったく、あいつら……そういうのはリビングで言うなよ(オレは拝めたからいいけど)」
リビングが赤に染まるころ、いつの間にか煙草を手に隣へやってきていたプロシュート。
修道服を膝へ引き寄せながら、自分を勇気づけてくれた彼にお礼を言おうと、名前は静かに口を開く。
「あ、プロシュートさん……」
「よ、名前。……どうやら、上手く行ったみてえだな」
「はい……ありがとうございます!」
「で? そのままリゾットにまた美味しくいただかれたのか?」
「!?」
からかうように言葉を紡ぐ男。
事実を言い当てられ、己の頬が紅潮していくのを認識していると、ふと頭に感じる温かいもの。
「……プロシュートさん?」
俯いていた顔を上げれば、わしゃわしゃと手を動かすプロシュートが目の前に立っている。
髪が捉えるその心地よさに、ただただ彼を見上げていると――
「よかったな」
優しい声が耳に届いた。
「! ……っ(コクン)」
「プロシュート……! お前は、何どさくさに紛れて名前の頭をなでているんだッ!」
「ハン、なでてえからなでる。それでいいじゃあねえか……な? 名前」
「えっ? あ、えっと……はい……?」
「〜〜ッダメに決まっているだろう! 名前、オレのところに来るんだ」
「リゾット……そういう誘い文句は、まず付着した血をどうにかしてから言えよ」
「……確かにそうだな。なら、名前……オレと一緒に浴室へ行こうか」
「へ!? どうして私も……っきゃあああ!?」
その後、二人は浴室から二時間は出てこなかったとか。
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