「失礼します……っん」
グラつく理性。
血の滲む彼の舌をチロと舐めながら、名前は必死に自分の心を抑え付けていた。
「ん、……ふ、っ」
飲みたくない、飲みたい。
彼女の中にあるその葛藤を悟ったのだろう。
舌と舌が重なる感触を確かに覚えながら、リゾットは膝立ちになっている少女の腰を両手で引き寄せた。
「! ぁ、リゾットさ……っ」
「オレはこの程度じゃ死なない。名前、もっと飲んでいいんだ」
ツーとシャツ越しの細い背に手を這わす。
それにビクリと体を震わせた名前は、慌てた様子で吸血を再開した。
「ふ、ぅ……ん、んんっ」
口内に広がる、鉄の味。
しかし、なぜか嫌な気はしなかった。
いや、理由はわかっているのだ。
――私、リゾットさんのじゃなきゃ……美味しくないって思っちゃってる……。
自然と、男の両肩に置いてあった手に力がこもる。
喉が潤っていく感覚。
他の人ならば決して感じることのない、甘さ。
「っ、ん……んん、ッふ」
「……、名前」
「!」
霞み始める視界と脳。
そこへはっきりと届いた少し疲労の交るリゾットの声に、ハッと我に返った名前はすぐさま唇を離した。
「は、ぁっ……は、っ……ん!?」
だが、それを許さないとでも言うかのように、男は彼女の後頭部を己の手で捕まえる。
そして、そのまま距離を縮め、吐息の漏れる唇を奪ってしまった。
「ん、っぁ、リゾッ、トさ……ダメ、っんん!」
すでに舌の血は渇き始めている。
だからと言って、それがリゾットを止める理由にはならない。
「名前……名前、っ」
「ぁ、んっ……ふ、んん……っは」
気が付けば、名前の舌を吸い上げ、激しく貪りながら――彼は少女をベッドへと押し倒していた。
「!」
思いきり瞑っていた目を開く。
白んでいく視界には欲情を秘めたリゾットの顔と、よく見知った天井。
「ん、っぁ……はっ、はぁっ……!」
性急に外されていくシャツのボタン。
この状況で、何が起ころうとしているのかがわからないほど、彼女も幼くない。
しかし、昨日その行為を覚えたばかりの身体は、あまりにも正直で――
「――!?」
快感ではなく、明らかに≪恐怖≫で小さく震える肩に、リゾットはハッとして名前を見下ろした。
ひどくトロンとした瞳。
口端から首に伝う、どちらのものかもわからない唾液。
肌蹴た白い胸元。
そこで、彼は自分がある≪勘違い≫をしていたことに気が付く。
――止めなければならないのは、名前じゃあない。
オレ自身だ。
「……すまない」
本能の≪箍≫が、これほどまでに外れやすくなっている。
傷つけたいわけじゃない――なのに、自分の手はいろいろなものを傷つけすぎた。
「少し、頭を冷やしてくる」
いつの間にか名前の上に跨っていた身体をずらし、リゾットはベッドから降りようとした、が。
クイッ
「! 名前……?」
何を――控えめに掴まれた袖に、いぶかしがりつつ振り返れば、彼女は小さく微笑んでいた。
「はぁっ、は……大丈夫、ですから」
「!? 君は意味をわかって――」
「リゾットさんとなら、今ある怖さも……消える気がするんです」
「……だから、このまま私を――」
刹那、リゾットは再び名前と唇を重ねていた。
今度は、できる限り優しく――甘いキスを贈ることができるように。
「ん……っリゾット、さん」
「は、っ名前……」
「ひゃっ!?」
キスを交わしながら、するりするりと取られていく上半身を覆う布。
自分の白シャツに混じった何か――彼女の優しい香りに、思わず頬も緩む。
一方、下着のホックを外された感触に、さらに顔を赤らめる少女。
「ぁ、っ恥ずかし……!」
「恥ずかしがる必要はない。……とても綺麗だ」
「!」
ぽつりと吐き出された言葉。
耳に届いた男のテノールに驚いていると、リゾットはふっと笑って露わになった乳房へ手を伸ばした。
「ひぁっ……や、こしょばい……です、んっ」
昨晩とは違った、その優しい手のひらに、名前はくすぐったそうに身を捩る。
そんな彼女を愛おしげに見つめた彼は、己の唇を首筋へと移し、黙々と≪証≫をつけ始めた。
「! ぁっ、リゾットさん、何を……んん!」
「……他の男が名前を狙わないよう、印をつけているんだ」
「ぇ? よく聞こえな……やああっ!」
あまりにも小さく呟かれたそれに首をかしげていれば、こちらに集中しろとでも言うかのようにグニグニと胸を揉まれ、悲鳴を上げてしまう名前。
そして、時折彼の指が突起を掠め、息が荒くなる自分に彼女はただ動揺するばかり。
「んっ、ん……リゾットさ、ソコ触っちゃ……あっ」
「……ここを触ってほしいのか?」
「ひっ、ちが……っ」
「すまない、気付かなかったな」
「ひぁああ!?」
両胸から全身を走り抜ける痺れ。
自然と少女の目尻に浮かぶ涙を、リゾットはペロリと舐めとり、色づいた乳首を擦る指を動かす。
「ぁっ、やっ……ダメ、ダメぇっ!」
「何がダメなんだ?」
「はぁっ、ん……え……っそれ、は……」
先程から疼いてたまらない下半身。
しかし、そんなことを口にできるはずもなく――名前は内腿をすり合わせ、楽しげな彼の視線から顔をそらすことしかできない。
その可愛らしい反応が、リゾットを喜ばせているとは知らずに――
「……名前、胸だけでいいのか?」
「! ぁ、そんなこと、言えな……っ」
「言わなければわからないぞ」
赤く染まった少女の耳に囁き、安心させるように頬をなでる。
そして、堪えているためか噛んでしまっている下唇を、彼は親指でそっとなぞった。
「っ」
「名前、我慢する必要はない。どこを触ってほしい?」
「…………も」
「ん?」
「下も、触ってください……!」
羞恥を含んだ名前の声が己の脳にたどり着いた瞬間、リゾットの行動は早かった。
「ぁ……っ」
唯一、彼女の身体に残っていた下着を足元にひっかける。
それから、白く滑らかな太腿を両手で掴み上げれば、潤った秘部が露わになる。
いまだ自分しか受け入れていない花弁。
そう思うと、リゾットの心はますます高ぶってしまう。
「グショグショだな。触ってほしくてたまらないということが、よくわかる」
「んっ、あ、指が入って……ひゃん!」
しかし同時に、こんなときでしか饒舌になれない自分を、恨めしく思った。
肢体を震わせて自分の名を呼ぶ少女が、愛しくてたまらないはずなのに――
「……ナカは熱いな」
「やぁっ、はっ……お、と……っ音、いやあ」
「これか? 名前の秘部から出ている音だな」
「ぁ、ああっ」
≪怖い≫のだ。
確かな存在が、ふと突然消えてしまうのが。
――守りたい。
「んん、っぁ、リゾットさ……!」
「……ココも弄ってやらないとな」
「ぇ? ……っ、やあっ!?」
花弁を左右に開き、赤く腫れた突起を舌で転がしながら、感じるのは興奮と――
――守りたいんだ。
仕事を完遂させていくことで忘れていった≪恐怖≫。
「ふあっ、やら……っ掻き混ぜるのも、つつくのもダメ……!」
「……名前」
教えてくれ。
オレは、どうすれば君を失わずに済む?
「っは、ぁ……はぁ、リゾット……さん?」
「……ッ、名前」
「あっ」
布と肌が擦れる音。
それが響いたかと思えば、名前の敏感な場所に感じる熱。
静かに顔を上げて、彼女は思わず息をのんだ。
「っ……リゾットさん?」
――どうして。
ふわり。
自分の両頬を包む温かさに、リゾットは目を見開く。
そして、おもむろに視線を落とせば、こちらに両腕を伸ばす彼女が自分を見ている。
「な、にを……」
「リゾットさん……お願い」
「泣かないで」
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