due


「失礼します……っん」


グラつく理性。

血の滲む彼の舌をチロと舐めながら、名前は必死に自分の心を抑え付けていた。



「ん、……ふ、っ」


飲みたくない、飲みたい。


彼女の中にあるその葛藤を悟ったのだろう。

舌と舌が重なる感触を確かに覚えながら、リゾットは膝立ちになっている少女の腰を両手で引き寄せた。



「! ぁ、リゾットさ……っ」


「オレはこの程度じゃ死なない。名前、もっと飲んでいいんだ」



ツーとシャツ越しの細い背に手を這わす。

それにビクリと体を震わせた名前は、慌てた様子で吸血を再開した。


「ふ、ぅ……ん、んんっ」


口内に広がる、鉄の味。

しかし、なぜか嫌な気はしなかった。


いや、理由はわかっているのだ。



――私、リゾットさんのじゃなきゃ……美味しくないって思っちゃってる……。


自然と、男の両肩に置いてあった手に力がこもる。


喉が潤っていく感覚。

他の人ならば決して感じることのない、甘さ。



「っ、ん……んん、ッふ」


「……、名前」


「!」



霞み始める視界と脳。

そこへはっきりと届いた少し疲労の交るリゾットの声に、ハッと我に返った名前はすぐさま唇を離した。


「は、ぁっ……は、っ……ん!?」


だが、それを許さないとでも言うかのように、男は彼女の後頭部を己の手で捕まえる。

そして、そのまま距離を縮め、吐息の漏れる唇を奪ってしまった。


「ん、っぁ、リゾッ、トさ……ダメ、っんん!」


すでに舌の血は渇き始めている。

だからと言って、それがリゾットを止める理由にはならない。


「名前……名前、っ」


「ぁ、んっ……ふ、んん……っは」



気が付けば、名前の舌を吸い上げ、激しく貪りながら――彼は少女をベッドへと押し倒していた。


「!」

思いきり瞑っていた目を開く。


白んでいく視界には欲情を秘めたリゾットの顔と、よく見知った天井。


「ん、っぁ……はっ、はぁっ……!」


性急に外されていくシャツのボタン。

この状況で、何が起ころうとしているのかがわからないほど、彼女も幼くない。



しかし、昨日その行為を覚えたばかりの身体は、あまりにも正直で――



「――!?」




快感ではなく、明らかに≪恐怖≫で小さく震える肩に、リゾットはハッとして名前を見下ろした。


ひどくトロンとした瞳。

口端から首に伝う、どちらのものかもわからない唾液。

肌蹴た白い胸元。



そこで、彼は自分がある≪勘違い≫をしていたことに気が付く。



――止めなければならないのは、名前じゃあない。





オレ自身だ。



「……すまない」



本能の≪箍≫が、これほどまでに外れやすくなっている。

傷つけたいわけじゃない――なのに、自分の手はいろいろなものを傷つけすぎた。



「少し、頭を冷やしてくる」


いつの間にか名前の上に跨っていた身体をずらし、リゾットはベッドから降りようとした、が。




クイッ



「! 名前……?」


何を――控えめに掴まれた袖に、いぶかしがりつつ振り返れば、彼女は小さく微笑んでいた。



「はぁっ、は……大丈夫、ですから」


「!? 君は意味をわかって――」


「リゾットさんとなら、今ある怖さも……消える気がするんです」








「……だから、このまま私を――」



刹那、リゾットは再び名前と唇を重ねていた。


今度は、できる限り優しく――甘いキスを贈ることができるように。



「ん……っリゾット、さん」


「は、っ名前……」


「ひゃっ!?」



キスを交わしながら、するりするりと取られていく上半身を覆う布。

自分の白シャツに混じった何か――彼女の優しい香りに、思わず頬も緩む。


一方、下着のホックを外された感触に、さらに顔を赤らめる少女。

「ぁ、っ恥ずかし……!」


「恥ずかしがる必要はない。……とても綺麗だ」


「!」



ぽつりと吐き出された言葉。


耳に届いた男のテノールに驚いていると、リゾットはふっと笑って露わになった乳房へ手を伸ばした。


「ひぁっ……や、こしょばい……です、んっ」


昨晩とは違った、その優しい手のひらに、名前はくすぐったそうに身を捩る。

そんな彼女を愛おしげに見つめた彼は、己の唇を首筋へと移し、黙々と≪証≫をつけ始めた。



「! ぁっ、リゾットさん、何を……んん!」


「……他の男が名前を狙わないよう、印をつけているんだ」


「ぇ? よく聞こえな……やああっ!」



あまりにも小さく呟かれたそれに首をかしげていれば、こちらに集中しろとでも言うかのようにグニグニと胸を揉まれ、悲鳴を上げてしまう名前。


そして、時折彼の指が突起を掠め、息が荒くなる自分に彼女はただ動揺するばかり。


「んっ、ん……リゾットさ、ソコ触っちゃ……あっ」


「……ここを触ってほしいのか?」


「ひっ、ちが……っ」


「すまない、気付かなかったな」


「ひぁああ!?」



両胸から全身を走り抜ける痺れ。

自然と少女の目尻に浮かぶ涙を、リゾットはペロリと舐めとり、色づいた乳首を擦る指を動かす。


「ぁっ、やっ……ダメ、ダメぇっ!」


「何がダメなんだ?」


「はぁっ、ん……え……っそれ、は……」



先程から疼いてたまらない下半身。

しかし、そんなことを口にできるはずもなく――名前は内腿をすり合わせ、楽しげな彼の視線から顔をそらすことしかできない。


その可愛らしい反応が、リゾットを喜ばせているとは知らずに――




「……名前、胸だけでいいのか?」


「! ぁ、そんなこと、言えな……っ」


「言わなければわからないぞ」



赤く染まった少女の耳に囁き、安心させるように頬をなでる。

そして、堪えているためか噛んでしまっている下唇を、彼は親指でそっとなぞった。


「っ」


「名前、我慢する必要はない。どこを触ってほしい?」


「…………も」


「ん?」








「下も、触ってください……!」


羞恥を含んだ名前の声が己の脳にたどり着いた瞬間、リゾットの行動は早かった。



「ぁ……っ」


唯一、彼女の身体に残っていた下着を足元にひっかける。

それから、白く滑らかな太腿を両手で掴み上げれば、潤った秘部が露わになる。


いまだ自分しか受け入れていない花弁。


そう思うと、リゾットの心はますます高ぶってしまう。



「グショグショだな。触ってほしくてたまらないということが、よくわかる」


「んっ、あ、指が入って……ひゃん!」



しかし同時に、こんなときでしか饒舌になれない自分を、恨めしく思った。


肢体を震わせて自分の名を呼ぶ少女が、愛しくてたまらないはずなのに――





「……ナカは熱いな」


「やぁっ、はっ……お、と……っ音、いやあ」


「これか? 名前の秘部から出ている音だな」


「ぁ、ああっ」



≪怖い≫のだ。

確かな存在が、ふと突然消えてしまうのが。


――守りたい。



「んん、っぁ、リゾットさ……!」


「……ココも弄ってやらないとな」


「ぇ? ……っ、やあっ!?」



花弁を左右に開き、赤く腫れた突起を舌で転がしながら、感じるのは興奮と――


――守りたいんだ。



仕事を完遂させていくことで忘れていった≪恐怖≫。


「ふあっ、やら……っ掻き混ぜるのも、つつくのもダメ……!」


「……名前」



教えてくれ。

オレは、どうすれば君を失わずに済む?



「っは、ぁ……はぁ、リゾット……さん?」


「……ッ、名前」


「あっ」



布と肌が擦れる音。

それが響いたかと思えば、名前の敏感な場所に感じる熱。


静かに顔を上げて、彼女は思わず息をのんだ。



「っ……リゾットさん?」



――どうして。





ふわり。

自分の両頬を包む温かさに、リゾットは目を見開く。


そして、おもむろに視線を落とせば、こちらに両腕を伸ばす彼女が自分を見ている。



「な、にを……」


「リゾットさん……お願い」







「泣かないで」




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