※メローネの妄想
※今のところは、妄想止まり。
カーテンの隙間から射す月明かり。
青白さを纏うベッド。
だが、その上に映るのは――黒と鮮やかな≪金≫。
「ッ、どうして……」
「……理由はわかってたはずだぜ、名前」
シーツに身体を縫い付けられた少女は、ただただ男――プロシュートを見上げることしかできなかった。
今日は、この部屋の主であるリゾットは仕事で帰ってこない。
そのときを狙っていた、と言えば彼女は目尻に浮かぶ涙を流してしまうだろうか。
「……泣くなよ」
「っお願いです、プロシュートさん。退いてくださ……ん!」
「……悪い、それは聞いてやれねえ。ずっと……こうしたかったんだからな」
彼とは違う――少し繊細な手つきで目元を拭われる。
静かにその指を掴み、名前が懇願するように顔を上げれば、切なげに歪む男の顔に何も言えなくなってしまう。
「好き、なんだよ。お前のこと」
「!」
その声色、瞳、言葉に身体だけでなく心まで囚われてしまいそうになる。
しかし、少女の頭に真っ先に浮かぶのは、不器用で優しい笑みを向けてくれる彼。
――ダメ、だよ。私はリゾットさんのことが……っ。
そんな葛藤に気付いたのだろう。
下唇を強く噛み、顔をそらそうとする彼女の顎をすばやく取り、少々強引だがこちらを向かせる。
ああ、自分が見たいのはそんな――悲しみを帯びた表情じゃないのに。
「大丈夫だ」
「……、え?」
「すぐに、とは言わねえ。だが――」
「オレが……リゾットのことをちゃんと忘れさせてやる」
「ッ! ぁ……っ」
グッと上半身に体重を傾けて、名前のうっすらと脈の通う首筋に容赦なく食らいつく。
ふわりと鼻腔を擽る甘い香り。
それを堪能してきたであろう男を思い浮かべれば、ちりちりと己の心に燃え上がるのは、嫉妬か――それとも羨望か。
「はッ、名前……名前、好きだ、っ」
「や、ぁっ……プロ、シュートさ……ッひあ!」
「――で、最初は懸命に拒絶を示していた名前も、プロシュートの全身を蕩かすようなテクニックや甘い甘いセックスに夢中になって、身も心もあいつのモノに……って、あれ?」
ぺらぺらと言葉を紡ぎ出していたメローネは、そこでようやく隣にあった気配が消えていることに気が付く。
いつの間に――だが、少女の行方を考える前に視界を埋め尽くしたのは、怪しい紫煙。
頬を伝う、冷や汗。
「あっれー……これってどこかで見たような……」
「ほう。お前の熟れすぎたメロンみてえな脳みそにしては、ずいぶん勘がいいじゃあねえか……メローネよお」
「……ははは。やあ、プロシュート」
にこにこ。平常心をできるだけ保ちながら、笑みを作る。
だが、上辺だけのそれにプロシュートの怒りが収まるはずもなく――
「グレイトフル・デッドッ!」
リビングは、一瞬にして地獄絵と化していた。
「あ、あの……ホルマジオさん」
「んー?」
「私はどうして、ホルマジオさんに耳を塞がれたまま、イルーゾォさんの鏡の中にいるのでしょうか?」
その頃、メローネが清々しい笑顔で話を始めたときから怪しいと踏んでいたホルマジオは、≪あの内容≫を聞かせることなく名前を避難させることができ、ホッと息をついていた。
一方、なぜこの状況に自分が立たされているのかわからず、首をかしげるばかりの少女。
そんな二人の様子を見て、避難場所を提供した男は小さく肩を竦める。
「……まあ、名前は知らない方が……聞かない方がいいこともあるよ」
「?」
引きつり笑いを浮かべるイルーゾォの瞳には、こちらからすれば反転した世界の――プロシュートの鬼のような形相が、しっかりと映っていた。
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