「ど、どうしよう……」
名前はこれでもかと言うほど困惑していた。
太陽の光は苦手だ。
そのため、昼は部屋から出られない。
朝方から深い眠りについていた彼女は、教会の掃除などをしてしまおうと深夜に起きたのだ、が。
「この人……ケガしてる」
蝋燭がなければいるかすらわからないほど、全身を覆う黒。
そっと灯を近づければ、突然見えた端整な顔に名前はどきりとした。
――きれいな人……。
しばらく見とれてしまっていたらしい。
――い、いけない! 初めて会った人にそんな。
ハッと我に返った彼女が、慌てて周りを見渡す。
そのときだった。
「ロオオオオド」
「え?」
ふと聞こえた声。
それを辿れば――
「もしかして……メタリカ……?」
腹部で自身を主張するように手を伸ばすスタンドたち。
その可愛さに再び頬を緩ませかけた名前は、すぐさま首を横に振る。
「違う違う! そうじゃなくて……この人はつまり」
よくよく見てみると、黒い頭巾が床に落ちていたらしい。
――そっか……リゾットさんは銀髪なんだね。
それを静かに拾い上げ、赤い瞳を細める。
――まさか、二年前のこの人に会ってしまうなんて。
運命、と言うにはあまりにも呆気ない出逢い。
しかし、名前にとってはこれが重要だった。
「……ジェントル・クロス」
小さな呟き。
それに呼応するように、胸元に掲げていた十字架が光を灯す。
「いつもありがとう……お願いします」
そして、彼女は両手を組み、≪祈った≫。
見る見るうちに塞がっていく彼の傷。
いまだに目に映る赤は、おそらく男のものではないのだろう。
「ふう……よかった」
胸をなでおろす名前。
しかし、リゾットが目を覚ますことはない。
「睡眠は、ちゃんと取らなきゃダメですよ?」
柔らかいその髪を少しだけ梳いた彼女は、ふわりと微笑んだ。
「……よし」
おもむろに腕をまくったかと思えば、男の脇へ手を差し込む。
――わ……自分のものとは比べ物にならない……ってそうじゃなくて!
久々にキャラクターと会ってしまったゆえか、いささか興奮しているようだ。
もう一度、いや、先程より大きく首を振った名前は腕に力を入れた。
「お……ッ重い……!」
しかし、ここに置いておくわけにもいかないのだ。
地面を擦っていく彼の踵に、申し訳なさを感じつつ、彼女は懸命に自分の部屋へと運んだ。
ちなみに、途中で腕力の限界を迎えてしまい、男の頭にできたたんこぶを治す羽目になったのは言うまでもない。
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