somma 〜22〜

※ヒロイン、相談する(ホルマジオ・ペッシ寄り)



「あの、ホルマジオさん」


大半がアジトを空けていた昼。


留守番のペッシとともにテレビを見ていたホルマジオは、神妙な表情を浮かべた名前に驚く。



「名前? どうしたんだよ」


「実は、相談があって……」



ソファをトントンと叩き座ることを促せば、そっと腰をかける少女。


一体どうしたというのだろうか――よほどのことだと察したのか、その場を離れようとペッシは立ち上がった、が。


「ぺ、ペッシさんにもできれば聞いてほしいんです……!」


「え? オレも、っすか?」


「だってよ。ほら、ペッシも座れ」



リビングに三人。


男が再び座りなおしたのを見計らって、名前は静かに口を開いた。



「相談というのは……私、今アルバイトをしようか迷っていて」


「あ……アルバイトォッ!?」


「っ! ホルマジオさん!」


できれば内密にしてほしいらしい。

慌てたように彼女が「静かに」のポーズをしたので、ホルマジオもすぐさま押し黙る。


ちなみに、少女のその動きを見て、可愛い――とペッシはひそかに心打たれていた。



「わ、悪ィ……でも、なんでまた」


「…………自立のためです」


「なるほど、自立……ね(リーダーが聞いたらぜってェ泣くだろうな……ん?)」


「ねえ、名前。リーダーに、その話はしたんですかい?」



男の胸の内を代弁するかのように、ペッシが小声で話を切り出す。


そうだ。過保護の域を常に超えていると言ってもいい我らがチームリーダーが、名前のこの相談を聞いて大人しくしているはずがない。


二人がおもむろに視線を向ければ、苦笑気味の少女がそこにいた。



「やんわりと、切り出してはみたんですけど……その瞬間、リゾットさんの背に纏うオーラが変わってしまって、言えなかったんです」


「「……あー」」



予想通り過ぎる。


しかし、リゾットが彼女を心配する気持ちも、わからなくはなかった。


「まあ、名前の気持ちもわかるけどよォ……俺も心配ではある」


「ホルマジオさん……」


「それに、行くとしたら夜のバイトだろ? 危ねェって感じるのは、リーダーや俺だけじゃないと思うぜ」



な、ペッシ。

隣に問いかければ、彼が首を縦に振り肯定する。


しかし、名前にも譲れない≪理由≫と想いがあった。


「……候補に入れているのは、喫茶店なんですけど……ダメ、ですかね?」


「喫茶店?」


「はい。夕方から二時間だけなんです」



真摯なまなざし。

彼女の紅い瞳から見えるそれに、ホルマジオは困ったように頭を掻く。


――喫茶店、か……別のモンだったらやべェかもしれねェけど……。


できれば応援してやりたい。

だが、同時に感じるのは、≪なぜそこまで≫という疑問。



「うーん」


「ホルマジオさん、ペッシさん……」


「……まあ、喫茶店ならいいか」


「!」


「ただし、怪しいと思ったらすぐ言えよ?」



はい!

大きく頷いて、名前はふっと顔を綻ばせた。


アルバイトへ行く最大の目的――それは、彼らへ何かお礼をしたいと思ったゆえなのである。



「名前、頑張ってくださいね!」


「ペッシさんも……二人ともありがとうございます! どの候補のお店も、スカートが≪少し≫短いんですけど、一生懸命やります!」




「「……え」」


満面の笑みでリビングを出て行った名前。



その瞬間、思った。



自分たちはとんでもないことに対して、≪許可≫をしてしまったのではないか、と。








「……お前たち、どうした」


「!? り、リーダー! オレ……へ、部屋に戻ります!」


「ッ俺も! 猫にエサやんねェと……!」


「?」



買い物から帰ってきたのだろう。


カゴを手に首をかしげるリゾットを見た瞬間、二人は脱兎のごとく駆け出していた。





「……ペッシ」


「はい」


「名前のバイトのことは、心に秘めとけよ。お前の兄貴にもぜってェ言うな」


「……わ、わかりやした」


「それと」


「?」


「……ほうれん草とかレバーとか……鉄分、摂っとけよ」



バレたら、喉からカミソリでは済まない。


遠い目をしたホルマジオは、恐れおののくペッシの肩にそっと手を置いたのだった。




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