※ヒロイン、相談する(ホルマジオ・ペッシ寄り)
「あの、ホルマジオさん」
大半がアジトを空けていた昼。
留守番のペッシとともにテレビを見ていたホルマジオは、神妙な表情を浮かべた名前に驚く。
「名前? どうしたんだよ」
「実は、相談があって……」
ソファをトントンと叩き座ることを促せば、そっと腰をかける少女。
一体どうしたというのだろうか――よほどのことだと察したのか、その場を離れようとペッシは立ち上がった、が。
「ぺ、ペッシさんにもできれば聞いてほしいんです……!」
「え? オレも、っすか?」
「だってよ。ほら、ペッシも座れ」
リビングに三人。
男が再び座りなおしたのを見計らって、名前は静かに口を開いた。
「相談というのは……私、今アルバイトをしようか迷っていて」
「あ……アルバイトォッ!?」
「っ! ホルマジオさん!」
できれば内密にしてほしいらしい。
慌てたように彼女が「静かに」のポーズをしたので、ホルマジオもすぐさま押し黙る。
ちなみに、少女のその動きを見て、可愛い――とペッシはひそかに心打たれていた。
「わ、悪ィ……でも、なんでまた」
「…………自立のためです」
「なるほど、自立……ね(リーダーが聞いたらぜってェ泣くだろうな……ん?)」
「ねえ、名前。リーダーに、その話はしたんですかい?」
男の胸の内を代弁するかのように、ペッシが小声で話を切り出す。
そうだ。過保護の域を常に超えていると言ってもいい我らがチームリーダーが、名前のこの相談を聞いて大人しくしているはずがない。
二人がおもむろに視線を向ければ、苦笑気味の少女がそこにいた。
「やんわりと、切り出してはみたんですけど……その瞬間、リゾットさんの背に纏うオーラが変わってしまって、言えなかったんです」
「「……あー」」
予想通り過ぎる。
しかし、リゾットが彼女を心配する気持ちも、わからなくはなかった。
「まあ、名前の気持ちもわかるけどよォ……俺も心配ではある」
「ホルマジオさん……」
「それに、行くとしたら夜のバイトだろ? 危ねェって感じるのは、リーダーや俺だけじゃないと思うぜ」
な、ペッシ。
隣に問いかければ、彼が首を縦に振り肯定する。
しかし、名前にも譲れない≪理由≫と想いがあった。
「……候補に入れているのは、喫茶店なんですけど……ダメ、ですかね?」
「喫茶店?」
「はい。夕方から二時間だけなんです」
真摯なまなざし。
彼女の紅い瞳から見えるそれに、ホルマジオは困ったように頭を掻く。
――喫茶店、か……別のモンだったらやべェかもしれねェけど……。
できれば応援してやりたい。
だが、同時に感じるのは、≪なぜそこまで≫という疑問。
「うーん」
「ホルマジオさん、ペッシさん……」
「……まあ、喫茶店ならいいか」
「!」
「ただし、怪しいと思ったらすぐ言えよ?」
はい!
大きく頷いて、名前はふっと顔を綻ばせた。
アルバイトへ行く最大の目的――それは、彼らへ何かお礼をしたいと思ったゆえなのである。
「名前、頑張ってくださいね!」
「ペッシさんも……二人ともありがとうございます! どの候補のお店も、スカートが≪少し≫短いんですけど、一生懸命やります!」
「「……え」」
満面の笑みでリビングを出て行った名前。
その瞬間、思った。
自分たちはとんでもないことに対して、≪許可≫をしてしまったのではないか、と。
「……お前たち、どうした」
「!? り、リーダー! オレ……へ、部屋に戻ります!」
「ッ俺も! 猫にエサやんねェと……!」
「?」
買い物から帰ってきたのだろう。
カゴを手に首をかしげるリゾットを見た瞬間、二人は脱兎のごとく駆け出していた。
「……ペッシ」
「はい」
「名前のバイトのことは、心に秘めとけよ。お前の兄貴にもぜってェ言うな」
「……わ、わかりやした」
「それと」
「?」
「……ほうれん草とかレバーとか……鉄分、摂っとけよ」
バレたら、喉からカミソリでは済まない。
遠い目をしたホルマジオは、恐れおののくペッシの肩にそっと手を置いたのだった。
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