※ヒロインの髪事情(イルーゾォ・プロシュート寄り)
ある日の朝。
「おはようございます」
「ああ、名前。おはよう……」
新聞を片手に、コーヒーの入ったカップへ口を付けていたリゾットは、ひょこりと現れた名前を見てギョッと目を見開く。
「おっはよー、名前! その修道服に隠れた腰の細さと言い、黒から垣間見える白い首筋と言い、ディモールト・ベネ……って、え?」
「名前!? い、いったいどうしたんですか?」
料理をしていたペッシや彼女へ飛びつこうとしたメローネでさえも、動きを停止してしまうほどの衝撃。
その正体は――
「どう? 名前の髪型」
「やはりお前か、イルーゾォ!」
少女の黒髪は、後ろから出てきたイルーゾォの髪型と同じ結び方になっていた。
いわゆるおそろい。
口を開けたままの彼らに対して、黒髪ーズは嬉々とした表情で盛り上がる。
「実は、洗面所へ行ったら、偶然鏡の中のイルーゾォさんとお会いしたんです」
「で、せっかくだから結んでみたんだよね」
「はい!」
にこにこ。眩しい笑顔で頷く名前に癒されながら、男はそっと彼女の髪へ触れた。
「うん……名前の髪って、やっぱり触り心地がいいなあ」
「そうですか? イルーゾォさんだって、ほら」
彼の髪は相当手入れされているのがわかる。
するりと抜けていく黒髪に、少女が夢中になっていると――
「〜〜っそろそろ離れろ!」
「うわッ」
「きゃっ!」
我慢のならなくなったリゾットによって、二人はいとも簡単に引き離された。
彼の腕に抱き込まれた名前は、困惑したように男を見上げる。
「り、リゾットさん……?」
「名前……」
ぎゅううう。
不満げに唇を尖らせるイルーゾォのそばで、強く強く抱きしめられる。
――どうしたんだろう……でも、リゾットさんの腕は安心するなあ。
自分を包む引き締まった腕に、口元を緩めた彼女が静かに手を置くと――
「ちょっと、名前借りんぞー」
「グッ……!」
「え? ひゃっ!」
突如解放される身体。
背後でしゃがむリゾットに近付こうとすれば、何か――ザ・グレイトフル・デッドに抱えられていた。
そして、状況を掴めていない名前を待っていたのは――
「……プロシュートさん?」
「待ってたぜ、名前」
ソファへ優雅に座り、ブラシを手に持つプロシュートの姿。
「? あの、何かお待たせしてしまったのでしょうか?」
「ああ、名前の髪をオレも弄りたくてな(うずうず)」
笑みを深める彼が頷くと、がっしりとした腕から優しく下ろされる少女。
「え? 私の髪ですか? 構わないんですけど、どうしてそんなに楽しそう――」
なんですか?
質問を口にしようとした瞬間、彼女はプロシュートの足の間に座らされていた。
「あ、れ?」
「……なるほどな、イルーゾォの言う通り、触り心地抜群だな」
「っ!? ぷ、プロシュートさん、なんだかくすぐったいです……!」
「すぐ終わる。いい子だから、我慢しろ」
いつの間にか六つのゴムを外され、普段通りの髪型に戻る。
艶やかなそれをブラシで梳かしながら、男はやけに近い距離で真っ赤な顔の名前へと話しかけていた。
耳たぶを掠める唇。
時折通り抜けていく吐息。
もはやセクハラである。
「さてと、どんな髪型にしてやろうかな……」
「あ、あの! 息っ、息が――」
「ん? なに、気にすんじゃねえ……にしても、名前のうなじは白くて美味そうだな」
「え……ひぁっ!?」
ふう――と髪を上げられたかと思えば、突如うなじへ感じた温かな息に少女がびくりと肩を震わせていると――
「プロシュートだけを許可する!!」
「おわッ!?」
背後から消えた、人の感触。
驚いた名前が後ろを振り向くと、手鏡を持ったイルーゾォが笑みを浮かべていた。
「安心して。しばらく閉じ込めとくから」
「……は、はい(でも、イルーゾォさんの今後が心配です)」
数十分後、彼女の頭に過った不安通り、さまざまな思惑が交錯したことでアジトはかなり大荒れ模様だったとか。
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