somma 〜19〜

※ドライブ1(メローネ)




トントン



「ねえ名前、ちょっと時間ある?」


「? はい」



夕飯も食し、部屋へ戻ろうかと考えていた名前の肩を、満面の笑みでメローネが叩く。


その問いの真意が理解できぬまま、とりあえず正直に答えれば――



「ベネ! じゃあ、行こうぜ!」


「え? どこに――」


「ほら、早く!」



グイッと腕を引かれ、あっという間に少女はアジトから飛び出していた。



「あ、あの! メローネさん……誰かに伝えとかないとっ」


「んー? ああ、心配しないで! ちゃあんとリーダーに言っといたからさ」



星の散らばる夜の下で、にっと笑って見せるメローネ。


――リゾットさんに……なら、大丈夫かな。

彼の言葉に、ホッと安心した彼女は笑顔でついていくことにした。



「はい、名前。オレの腰にその舐め回したくなるほど美しい腕を回して!」


「え? えっと……バイクで、おでかけですか?」


「そうだよ? ほらほら、早く〜」


メローネの表現に多少なりとも引きつつ、目の前のバイクに戸惑う名前。

だが、彼に急かされたこともあり、少女は慌てた様子で座席へ腰を下ろした。



「あの……私、バイクって初めてで……」


「ディモールト・ベネ! 名前の初めてをオレがいただけるなんて、今日はなんて最高――」


「め、メローネさんっ!」


「おっと、ごめんごめん。つい興奮しちゃった……じゃあ、行こうか」


刹那、動き始める身体。


直接感じる風にどぎまぎしながら、彼女はただ目の前でふわりと漂うブロンドを見つめていた。








「名前、名前……着いたよ」


「……え?」


いつの間にか眠りかけていたらしい。


男の背に頬を預けていた名前は、ハッとして周りを見渡す。


しかし、そこには何もない。



「ここは、いったい……」


「さて、と! 名前が降りたら、バイクの明かりも消すからね!」


嬉々として少女の手を取り、エンジンを切るメローネ。


その瞬間だった。



「きゃっ!? め、メローネさん……?」


真っ暗になる視界。

いくら闇に慣れていると言えど、突然のことにはさすがに驚いてしまう。


一方、隣で慌てているであろう彼女に対し、メローネは自分の存在を示すように手を強く握る。


「だいじょーぶ! ほら、上見て」


「う、上? いったい――」


促されるまま顔を上げて、名前は言葉を失った。






「……綺麗」


「でしょでしょ?」



明かりの一切ない世界に広がる、星々。


我ながらロマンチックだな――と、男は内心苦笑しながら、にへらと笑う。



「名前」


「……はい」


「オレさ、君が無事でいてくれて、本当に良かったって思ってる」


「!」


「こんな執着、したことねえんだけどなあ」




不思議だ。名前の隣なら、いつまで経っても飽きない。


「ねえ、どうしてだろ」


「ッ、メローネ、さん?」


「名前、知ってるなら教えてくれよ」



おそらく目を丸くしている彼女を、おもむろに抱き寄せる。


そして、右手で優しく頬をなでれば――






「「!」」



突如鳴り響いた、着信音。


携帯を持っているのは、メローネだ。



「……もしもし?」


なんでこんなときに――不満げに唇を尖らせつつ、左の親指で発信ボタンを押す。


すると――



『もしもしッ!?』


「あれ? その声はイルーゾォ? どうし――」


『名前! 名前知らない!?』


怒声に似たイルーゾォの叫びとその後ろから聞こえる悲鳴に、二人は顔を見合わせる。



「え? 名前ならオレの横にいるけど」


『……はい?』


「だーかーらー! 名前はオレの横で寝て――」


『す、すすすぐ! すぐに、帰ってこいィィ!』



どうやら、いい意味の誤解を招いたらしい。

少女も私寝ていませんよ――と言いたげに自分を見ている。


しかし、ほくそ笑んでいたメローネも、耳に飛んできた次の言葉に笑みを消さざるを得なくなる。



『リーダーがッ! リーダーが、名前がいないって、混乱のあまりメタリカ発動させ……グエェッ』


ブチッ、ツーツー





「……」


「……今日は、帰った方がよさそうだね」


「はい。でも、メローネさん」


「ん?」






「リゾットさんに伝えたって言ってませんでしたっけ?」


「……あはっ! 出かけるとは言ったけど、名前と一緒とは言ってないや」


だって、言った瞬間メタリカ食らいそうだし。


その言葉を出る寸前で飲み込んだメローネは、青ざめる名前の頭をなでて、バイクへと跨った。



「……でも」


「んー?」


「星、すごく綺麗でした」



ありがとうございます。


本当に嬉しそうな彼女の笑顔が、サイドミラー越しに見える。



「ははっ、気に入ってくれたなら、また連れてってあげるよ」


「……はい!」


だからこそ、叶う保障のない≪約束≫も、こうやってしてしまうのかもしれない。


だが、できれば叶えたい――そんな気持ちが男の心を包んでいた。










十数分後、アジトへ辿り着いた二人。


「……ずいぶん楽しそうだな」


「「!」」



もちろん、玄関の前で仁王立ちをしたリゾットが待っていたのは、言うまでもない。




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