※ますます過保護になるリーダー
「名前、夕飯を持ってきた」
「あ……ありがとうございます。今日はスープなんですね」
「オレが作ったんだ」
ベッドの上で座る名前に、そっと歩み寄るリゾット。
トレイを持つ彼は、白シャツの上に黒いエプロンを身に纏っていた。
「……(ボーッ)」
「名前?」
「っ! ごめんなさい!」
「どうした、どこか痛むのか?」
心配そうに眉をひそめ、すかさず熱を測ろうとしたのか額を近づける彼に、少女は慌てて首を横へ振る。
「い、いえっ、そうじゃなくて……リゾットさん、エプロン姿が似合うなあって思って///」
「……オレは名前のエプロン姿が見たい(できれば白いフリフリの)」
「え?」
「いや、なんでもない。ほら、スープが冷めてしまうぞ」
誤魔化すように頭をなでられ、首をかしげつつも彼女は器を受け取ろうとした、が。
「……あの、リゾットさん?」
「ん?」
「器とスプーン、いただけませんか?」
「断る」
「えっ!?」
これでは食べられるものも食べられない――困惑した表情でトレイと彼を交互に見つめれば、なぜかスプーンを手にしたリゾットと目が合った。
「……?」
「熱いからな……気を付けて食べるんだぞ」
そう呟くと、おもむろにスープを掬い、ふうふうと息をかけ始める男。
彼のその行動に、名前が嫌な予感を覚えつつ見守っていると――
「あ、あの……一人で食べられますからっ」
「用心のためだ。名前、口を開けろ」
リゾットは、彼女の前にスプーンを差し出し、いわゆる≪あーん≫をさせようとしていた。
真顔で食べることを迫る男に対し、少女はただただ困惑するばかり。
食べさせてもらうことなど、数十年ぶり――もはや記憶にないと言っても過言ではない。
「〜〜っ!?」
ブンブン。動揺や羞恥などが織り交じって、大きく首を振ってしまう名前。
多少クラクラしてしまうが、気にしていられない。
スプーンを渡してもらうのが先だ。
「名前」
「っ」
「……最終手段として、オレが口移しをする方法も――」
「!? い、いただきます!」
刹那、顔を真っ赤にしながら少女がスープを口にする。
もちろん、その最終手段を取れずに、リゾットが残念そうにしていたのは言うまでもない。
一方、そんな男の思惑を知ることなく、口内に広がる味を必死に堪能する名前。
「美味い、か?」
「……すごく、美味しいです」
「! そうか」
「リゾットさん、お料理上手なんですね」
「自炊が基本だからな」
彼女が向ける尊敬のまなざしに内心どぎまぎしつつ、ぽつりと彼が呟く。
すると、少女の瞳はさらに輝いた。
「そっかあ……リゾットさんのお嫁さんになる人は、きっと幸せ者ですね」
「!?」
その何気ない言葉に、リゾットは持っていたトレイを落としかけてしまう。
――名前……!
そして、感情に導かれるまま――
「っ、え?」
「……オレは暗殺者だ。ソルベやジェラート、そして名前を傷つけた組織とのこともある。だからこそ、これからどうなるのか、オレたちがどうするつもりなのかはまだわからない。だが……後悔をさせるつもりもない。……幸せにしてみせる」
自分の幸せは、今更願えない――願うことも忘れた。
だが、彼女の≪幸せ≫の中に自分の居場所を望むことは、してもいいだろうか。
その秘めた想いに、自然と名前の手を握る両手の力は強くなる。
「……え? あの、リゾットさん、なんだか目が怖――」
「名前、返事は?」
「え……え?」
「返事を、聞かせてくれ」
そうでなければ強引にでもキスをしてしまいそうだ――いや、もうしてしまおう。
動揺を瞳に浮かべている少女の唇を目で捉え、リゾットがおもむろに顔を近づけると――
「全力で……阻止だッ!!」
「グフッ!?」
ドアが大きな音を立てて開いたかと思えば、飛んできた長い脚。
その正体はいわずもがな、我らが兄貴ことプロシュートである。
「名前を嫁にくれ、だァ? ハン、オレの目が蒼いうちは、絶対にやらねえッ!」
「兄貴! かっけーや!」
鼻を鳴らす彼の後ろで、嬉しそうに叫ぶペッシ。
部屋の外が歓喜で充満する中、うつぶせに倒れたリゾットを心配していたのは、ベッドの上で混乱する名前だけだった。
しかし、その後すぐさま復活した彼の過保護が、プロシュートの飛び蹴りで治るはずもなく――
「名前、修道服に着替えづらいだろう。オレが――」
「名前、無理して歩くんじゃあない。オレが運んで――」
「名前、これからシャワーだな? よし、オレが一緒に――」
「……リゾットさん」
「ん?」
「一人でできますから……っ!」
こんな会話がしばらくの間続いたとか。
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