somma 〜17〜

※ますます過保護になるリーダー



「名前、夕飯を持ってきた」


「あ……ありがとうございます。今日はスープなんですね」


「オレが作ったんだ」




ベッドの上で座る名前に、そっと歩み寄るリゾット。


トレイを持つ彼は、白シャツの上に黒いエプロンを身に纏っていた。


「……(ボーッ)」


「名前?」


「っ! ごめんなさい!」


「どうした、どこか痛むのか?」


心配そうに眉をひそめ、すかさず熱を測ろうとしたのか額を近づける彼に、少女は慌てて首を横へ振る。



「い、いえっ、そうじゃなくて……リゾットさん、エプロン姿が似合うなあって思って///」


「……オレは名前のエプロン姿が見たい(できれば白いフリフリの)」


「え?」


「いや、なんでもない。ほら、スープが冷めてしまうぞ」


誤魔化すように頭をなでられ、首をかしげつつも彼女は器を受け取ろうとした、が。



「……あの、リゾットさん?」


「ん?」


「器とスプーン、いただけませんか?」


「断る」


「えっ!?」



これでは食べられるものも食べられない――困惑した表情でトレイと彼を交互に見つめれば、なぜかスプーンを手にしたリゾットと目が合った。



「……?」


「熱いからな……気を付けて食べるんだぞ」



そう呟くと、おもむろにスープを掬い、ふうふうと息をかけ始める男。


彼のその行動に、名前が嫌な予感を覚えつつ見守っていると――



「あ、あの……一人で食べられますからっ」


「用心のためだ。名前、口を開けろ」



リゾットは、彼女の前にスプーンを差し出し、いわゆる≪あーん≫をさせようとしていた。


真顔で食べることを迫る男に対し、少女はただただ困惑するばかり。


食べさせてもらうことなど、数十年ぶり――もはや記憶にないと言っても過言ではない。



「〜〜っ!?」


ブンブン。動揺や羞恥などが織り交じって、大きく首を振ってしまう名前。


多少クラクラしてしまうが、気にしていられない。


スプーンを渡してもらうのが先だ。



「名前」


「っ」


「……最終手段として、オレが口移しをする方法も――」


「!? い、いただきます!」



刹那、顔を真っ赤にしながら少女がスープを口にする。


もちろん、その最終手段を取れずに、リゾットが残念そうにしていたのは言うまでもない。


一方、そんな男の思惑を知ることなく、口内に広がる味を必死に堪能する名前。



「美味い、か?」


「……すごく、美味しいです」


「! そうか」


「リゾットさん、お料理上手なんですね」


「自炊が基本だからな」



彼女が向ける尊敬のまなざしに内心どぎまぎしつつ、ぽつりと彼が呟く。


すると、少女の瞳はさらに輝いた。



「そっかあ……リゾットさんのお嫁さんになる人は、きっと幸せ者ですね」


「!?」


その何気ない言葉に、リゾットは持っていたトレイを落としかけてしまう。


――名前……!



そして、感情に導かれるまま――



「っ、え?」


「……オレは暗殺者だ。ソルベやジェラート、そして名前を傷つけた組織とのこともある。だからこそ、これからどうなるのか、オレたちがどうするつもりなのかはまだわからない。だが……後悔をさせるつもりもない。……幸せにしてみせる」



自分の幸せは、今更願えない――願うことも忘れた。


だが、彼女の≪幸せ≫の中に自分の居場所を望むことは、してもいいだろうか。


その秘めた想いに、自然と名前の手を握る両手の力は強くなる。



「……え? あの、リゾットさん、なんだか目が怖――」


「名前、返事は?」


「え……え?」


「返事を、聞かせてくれ」



そうでなければ強引にでもキスをしてしまいそうだ――いや、もうしてしまおう。


動揺を瞳に浮かべている少女の唇を目で捉え、リゾットがおもむろに顔を近づけると――





「全力で……阻止だッ!!」


「グフッ!?」



ドアが大きな音を立てて開いたかと思えば、飛んできた長い脚。


その正体はいわずもがな、我らが兄貴ことプロシュートである。



「名前を嫁にくれ、だァ? ハン、オレの目が蒼いうちは、絶対にやらねえッ!」


「兄貴! かっけーや!」



鼻を鳴らす彼の後ろで、嬉しそうに叫ぶペッシ。


部屋の外が歓喜で充満する中、うつぶせに倒れたリゾットを心配していたのは、ベッドの上で混乱する名前だけだった。






しかし、その後すぐさま復活した彼の過保護が、プロシュートの飛び蹴りで治るはずもなく――




「名前、修道服に着替えづらいだろう。オレが――」


「名前、無理して歩くんじゃあない。オレが運んで――」


「名前、これからシャワーだな? よし、オレが一緒に――」




「……リゾットさん」


「ん?」



「一人でできますから……っ!」



こんな会話がしばらくの間続いたとか。




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