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※輪切りとまではいきませんが、注意








「ん……ッ、?」



背中を覆う固い感触。


再び目を覚ました名前の視界に広がるのは、太陽の光ではなく、人工的な六つの明かり。


実際見たことはなかったが、テレビでよく知っていた。




自分が今、寝かしつけられているのは――手術台の上であることを。




「起きたか」


「! 貴方、は……?」



こちらを、にやにやと笑いながら見下ろす男。


その原作で見た顔に、彼女は小さく息をのんだ。



「私はチョコラータ。以前まで医者をしていたが、最近少し事情が変わったんだ」



淡々と自己紹介を始めたかと思えば、チョコラータが不意に視線を別の方向へ向ける。


それに釣られて、少女もそちらを見つめると――








「あ……」


「うおおッ、うお!」





もう一人目にした人物が、そこにいた。



「あれは、セッコ。お前の姿をカメラに収めるぞ!」


「っ……」



悪趣味――そう思いながらも、彼を見上げるだけにとどめる名前。



過剰な反応は、彼を喜ばすだけだ。



少女のその姿に一瞬意外そうにしたが、より興味を持ったらしい。


口角を上げたチョコラータはおもむろに≪刃のついた類のもの≫を取り出した。




「私も吸血鬼を調べるのは初めてでね……どれを≪一番≫に味わいたいか選ばせてあげよう。日本刀、サーベル、チェーンソー……etc.」


「……どれでも、どうぞ。きっと……驚きます」


「驚くとは、どういう意味だ?」



ギラリと光る刃先に内心たじろぎつつ、彼女はおもむろに言葉を紡ぎ出す。




「先に言っておきますが……私には、何も効きません」


「……ほう!」


「鉛の銃弾もにんにくも十字架も……本や映画にあるような弱点は、何もないんです」



このとき初めて、名前は罪悪感すら覚えない≪嘘≫をついた。


弱点がない。調べられてしまえばすぐにバレてしまう、稚拙な嘘を――









「――ッあ、ぅ、あああ……!!」


「……人間と同じ反応……いや、それ以上に痛みに敏感か?」


「っは、はぁ! く、ぁぁあああッ!」




たとえ何度身体は戻れど、痛みだけは消えてくれない。


肉へと食い込む刀の鋭さに、彼女の断末魔のような叫び声だけが室内に響き渡っていく。



「ぁ、はっ、あ……!」


名前はナミダを堪えるのに、必死だった。




「なるほど。これだけ切られても、声を出せるのか……これは驚く」



ぴちゃり、ぴちゃり――と何かが床へと滴り落ちる音だけが、耳に残る。


すべての刃が赤に染められた頃、少女の意識は朦朧とし始めていた。



しかし、ここまですれば飽きるだろう。






安堵と疲弊。その両方に従い、彼女は静かに瞼を閉じた、が。





「ああ、そうだ。これを忘れていた……この薬を」


「っ、はぁ……、え?」


目を開けば――注射器を持つチョコラータの手が見える。



――何、それは……薬、って――




「これが気になるのか? これは……患者の病気をもとにして作った、体内の鉄バランスを負に傾けさせる薬だ」


「!? 鉄……?」


「つまり――鉄分が欲しくなる。吸血鬼のお前が摂取すればどうなるのか、気になってたまらないぞ!」



右腕へと近付く針。


名前は――恐れていた。




「っ、い……や……!」



ようやく見せた≪人間らしさ≫。


これが、彼女の本来の姿なのだろう。




逃げようと拘束具の中もがく名前に、笑いが止まらない。


「どうした? 吸血鬼でありながら吸血を嫌がるのか? まさに本領発揮というものだろう!」



≪人間≫でなくなってしまう恐怖。



それだけが、今少女を支配していた。


「ちなみに……吸血鬼がいるなんて噂が広まれば、その賞金目当てに血眼で探す奴らが出てくるに違いない」


「!」




――そんな……そうなってしまったら、私……私は。








もう、≪彼≫のそばには――いられない。








声にならない声とともに、名前の意識は闇へと堕ちた。



「あとはアイツ……おっと間違えた、ボスの命令通り……ここでの記憶を抹消しよう。セッコ! カメラを回し終えたら、箱を用意するぞ! 人一人、入るほどのものを……な」



身体的な攻撃より、精神的な打撃を。


二本の注射器を空にしたチョコラータは、静かにほくそ笑んでいた。










La realtà come un incubo
悪夢のような現実――終わるのはいつ?




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